とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3章 15話『一時、セーフハウスへ』

 夜が深まる頃。

 間宮たちが見た扉の先の光景は、見知らぬ土地であった。

 

 一軒家の日本家屋、セーフハウスの門前に立つ。

 瓦屋根に和風の門構え。

 

「……泊地じゃないんですね」

 

 隣にいた伊良湖が生唾を呑む。

 鼻先に触れるのは、土と木々の香り。

 

 門の両端から暖色の照明がぼんやりと灯り、柔らかな光が敷地を包んでいた。

 その姿に間宮は思わず口元でつぶやく。

 

「こんな立派なお屋敷……芙二さんのご実家なのでしょうか」

 

「それは違いますよ、艦娘のお嬢さん」

 

 しゃり、と砂利を踏む足音が聞こえる。

 間宮が振り向くと、そこには提灯を片手に持った初老の男性がいた。

 

 男性は間宮たちを見て、柔らかな態度で接する。

 

「初めまして。私の名はヤトウ。普段は、この屋敷で庭師をしている者です。以後お見知りおきを」

 

 夜中ということもあり、ヤトウは声のトーンを落として簡単な挨拶をした。

 

「話を戻しましょう。ここは芙二さんのご実家ではなく、今住まわれているお家になります。少し前に、芙二さんは正式に主人と認められました」

 

 二人は相槌を打つ。

 庭師のヤトウの話は続く。

 

「それから……」

 

 ヤトウの話は、この屋敷の歴史まで深堀されていたとき。

 

「ヤトウ。話はここまでにしなさい。……芙二さんがそこにいる彼女たちを探しに行こうとしています」

 

 気配もなく現れた女は、紺色の甚平の裾を揺らしながら、ヤトウの背後に立っていた。彼女の名は紅雪(こうせつ)。白月組の若衆のひとり。現在は、屋敷の警備を担っている。

 

「むむっ……もうそんなに経とうとしていたか! いやぁお嬢さんたちが聞き上手だもんで、つい熱くなってしまったわ!」

 

 ヤトウは上機嫌に笑う。

 彼の態度を見て、紅雪は笑みを浮かべて、促す。

 

「芙二さんが来てしまう前に、彼女たちをお願いします」

 

 頼みを聞いたヤトウは胸に握り拳を当て、

 

「紅雪ちゃん、わしにまかせなさいって! ちゃあんと、送り届けるからな」

 

 とびきりの笑顔で言い切る。

 真っ先に間宮へ声を掛けて、先導していく。

 

 伊良湖もついて行こうとするとき、紅雪がこっそり言う。

 

「今度、時間があるときにヤトウのお話を聞いてあげてください」

 

 その言葉に頷く中で、続けて、

 

「あんなに楽しそうな彼を見るのは久しぶりなんです」

 

 紅雪は目を細めた。

 伊良湖が返事をする前に、背中を軽く押す。

 

「ささ、行ってください。艦娘の皆様が母屋でお待ちです」

 

 母屋で皆が待っている。

 その言葉を耳にした伊良湖は、急いで間宮たちを追う。

 

 鼻の奥がツン、としてきたことを隠すために。

 

 

~~

 

 

 母屋にて。

 時間も遅いのに、みんなは眠そうな顔を一切せず芙二とバニー姿の者たちをジロジロ、と見つめる。

 

「これはどういうこと?」

 

 叢雲の問いに対し、芙二は真面目に答える。

 

「どういうわけか、イヨを除く全員姿を変えられているみたいだ」

 

 頬を掻き、面倒くさそうに言う。

 

 間宮と伊良湖はヤトウと共に母屋へ到着する。

 そこには見慣れた者たちがいた。叢雲、時雨、サラトガ、ヴェールヌイ。

 

 総司令部の連合艦隊からの応援要請に応えて、散ったはずの冷葉。

 数少ない仲間。それでも、と間宮の目頭が熱くなる。

 

「冷葉さん、お久しぶりです。それに叢雲さんたちも……彼女たちの言葉を聞いて下さり、ありがとうございます」

 

 目元にハンカチを当てながら、頭を下げる。

 止まらない嗚咽の間宮に対し、伊良湖が寄り添う。

 

「……芙二。これが、本当に間宮たちだっていうのか?」

 

 冷葉は彼女たちの言葉を受け取り、そのうえで、芙二を見る。

 

「そうだ。おまえの前で涙を流すのが、間宮。彼女に寄り添うのは、伊良湖だ」

 

 叢雲たちも困惑を隠せない。

 

 今目の前にいるのは、声だけは知る人物。

 しかし、その姿はあまりにも原型を留めていない。

 

(オレ)の右側にいるのが、ヒトミ。左側にいるのが、ゴーヤ」

 

 名を呼ばれた彼女たちは、それぞれ挙手をして軽く挨拶を行う。

 

「それでゴーヤの隣にいるのが、新しく加入することになる伊8だ」

 

 伊8は一人一人見て、最後に冷葉をじっと見つめる。

 

「伊8です。こんな姿ですが、潜水艦です。以後お見知りおきを……もしよろしければ、はっちゃん、とお呼びください」

 

 目を閉じ、丁寧にお辞儀をした。

 バニー姿なためか、伊8が身体を揺らす度、ぷるん、と揺れる。

 

 冷葉は頬を少し赤くさせ、目を逸らしながら言う。

 

「お、おう。俺は冷葉。東第一泊地の提督だ。しかし、はっちゃん、はちょっとな……」

 

 芙二除く周囲の視線を察知してか、軽く咳ばらいをする。

 

「……ハチでも良いだろうか?」

 

 伊8の提案をはねる意図はない。ただ、公私で分けるのなら兎も角。公でそう呼ぶわけにもいかないのだ。

 

 伊8は、眉間に皺を寄せ、口をへの字にさせて考える。自身の呼び名について。

 

(親しみを込めて、砕けた風のあだ名でしたが、ハチも悪くありませんね)

 

 冷葉の案に納得した、伊8はニコッと笑う。

 

「OKです。ハチ、でかまいません」

 

 冷葉とハチが互いに握手をする。その中で、時雨は芙二に問う。

 

「ねえ、芙二さん。間宮さんたちのその姿――芙二さんの力なら何とかなるんじゃないの?」

 

 彼女がなんてことのないように、言う。その一言。

 

「提督にそんな力が!?」

 

 芙二の後ろにいた、イヨが声を上げる。

 食い気味で顔を出した、ボロボロな姿の少女に視線が集中した。

 

「うわ!? ちょ、ちょっと見すぎ、見すぎ!」

 

 イヨが注目を浴びている間、間宮たちは芙二の力について考える。 

 姿を変えられた自分たちが元の姿に戻る、唯一の方法という予感がした。

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