とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3章 17話『向え、目指すは!』

 

 セーフハウスにて。

 

 間宮たち、賭博場帰還組は叢雲たちや凛、紅雪といった面々と浴場へ向かおうとしていた。

 現在、艦娘は入渠で傷を癒せない。その代わりの措置である。

 

 他の使用人に迷惑をかけないこと、を約束させた。別れ際に芙二は自身が作り出した秘薬を持たせて、手を振って見送る。

 

(この光景を泊地でまた見たいな)

 

 静かな冷葉の方を見やる。彼は熱心に携帯を操作していた。聞くところによると念の為、陸翔に情報を共有をしている最中だという。

 

「冷葉、ありがとうな」

 

 この状況でも根回しを行う様子に、感謝を口にした。

 

「そんなことお互い様だろ? 早く皆を連れて帰ってこい。その後は、陸翔殿を巻き込んで宴だな!」 

 

 冷葉が一息で言う。

 親友の頼もしさに、涙腺が綻ぶ。

 

 目尻の涙を拭っているとき、

 

「ねえ」

 

 と、声を掛けられる。

 声の主は叢雲。現在は互いの魂を結びし者(運命共同体)

 

 彼女は若干、頬を桜色に染めつつ、ちらりと芙二を見た。

 

「……凌也さんも来る?」

 

 叢雲のさりげないお誘い。本来ならば、声を大にして「もちろん」と返したい。しかし今は時間が惜しい。

 

 それに、

 

(これ以上、あの場を離れるわけにはいかない)

 

 芙二は強く感じた。

 なので、叢雲を見つめて答える。

 

「すまん、今は行けない。それと……みんなが揃った時、正式に発表しよう。そうしたら、水入らずってもんだろう?」

 

 叢雲は”鳩が豆鉄砲を食ったよう”な顔で固まる。

 だが、言葉の意味を理解したのか、先ほど以上に赤く、顔全体を火照らせた。

 

「きゅ、急に何を言い出すのかしら……!」

 

 橙色の瞳を潤ませ、芙二から一歩だけ退く。

 手で顔をパタパタ、と扇ぐ叢雲を見た芙二は逆に一歩、踏み込む。

 

「なっ!? どうして、近づく必要があるの――」

 

 その姿勢に驚く。

 

(オレ)は本気だぞ。じゃなけりゃ、互いの魂で契りを交わさない」

 

 叢雲が話す前に、芙二は言葉を被せた。

 じぃっと見つめて、徐々に互いの吐息が触れる距離にまで近づく。

 

(あっ このままじゃキスをしてしまうのだけど!?)

 

 叢雲は予想外の展開に思わず、きゅっと目を閉じる。

 だが、いつまで経っても唇に温かな感触はない。

 

 ゆっくり、目を開ける。

 視線の先には、叢雲を捕食するような目つきで見る芙二がいるだけだった。

 

(あっぶねええ!! ぎりっぎりで理性が勝った!)

 

 など、と本人は思っているが、咄嗟に表情までは隠せない。

 

 叢雲は芙二の視線に怖気付き、逃げるようにその場を去った。

 彼女が去り、この場に残るのは冷葉ただ一人。 

 

「やらかしたな……」

 

 芙二の後悔が空間に散る。

 そのとき、ポン、と肩を軽く叩かれる感触が伝わる。

 

「――なんだ?」

 

 振り返ると、生温かい視線を送る冷葉と目が合う。

 

「芙二……叢雲ちゃんのフォローは任せておけ!」

 

 冷葉は得意げにウィンクする。彼の目が閉じた瞬間、星が飛ぶ幻覚を見た気がした。

 しかし芙二は、これ以上この場にいることは叶わない。

 

 そのため親友に託すことに決め、セーフハウスを後にするのだった。

 

~~

 

 アミューズメントパーク 白鳥 会員限定地下賭博場にて。

 

 最後に通った壁へ転移。

 すると、運悪く武田たちの前に出た。

 

「あ、ども」

 

 芙二は驚きのあまり、素で挨拶。

 武田と筧は会釈をするが、ジークだけは絶叫。

 

「うおおおお!? お、お前何処から出てきたんだよ!!」

 

 その悲鳴を聞いてか、ばたばたと複数の足音を耳にした。

 芙二が提案する前に武田が口を開く。

 

「……ヴェルダー、共についてこい」

 

 静かな口調で話す。

 武田の言葉に三人は頷き、場所を変える。

 

「ここならいいだろう」

 

 しばらく歩いた先で止まる。

 目の前には【廃棄ダクト】と表記された特大サイズの扉が見えた。

 背の高い武田ですら、ゆうに入ることができる扉。

 

(潜入調査っぽくなってきたな)

 

 いよいよ、といったところだろうか。

 芙二の期待は高まる。これから行く先で何が待ち構えているのか。

 

 人魚か、クローンか、機械兵か。

 あるいは――艦娘や深海棲艦のクローンか。

 

「ヴェルダー、聞きながらでいい。コレに着替えなさい」

 

 武田は芙二に折りたたまれた特注スーツを渡す。フード付きの迷彩服に見えるが、何か細工があるのだろう、と考える。

 

「こほん。それでは、これから作戦を開始する前にひとつ伝えることがある」

 

 武田が咳払い一つで場を切り替える。

 筧とジークは上着を脱ぐと、そこには迷彩服に身を包む二人がいた。

 武田は一人、黒い忍者服に身を包み、異色を放つ。

 

「先行部隊が廃棄ダクトの先の地図を共有した。黒髪に、赤い目のルナ・ケイジュという男だ。彼の部隊は中枢へ真っ先に向かっている。我々も合流するぞ」

 

 芙二が着替え終わるころ、廃棄ダクトの扉が開く。

 武田は飛び込みながら叫ぶ。

 

「足元に気をつけろ! 我々の任務はここからが本番だッ!」

 

 筧、ジークと続いて芙二も扉の奥底へ飛ぶ。

 薄暗い穴を一直線に落下していく。

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