セーフハウスにて。
間宮たち、賭博場帰還組は叢雲たちや凛、紅雪といった面々と浴場へ向かおうとしていた。
現在、艦娘は入渠で傷を癒せない。その代わりの措置である。
他の使用人に迷惑をかけないこと、を約束させた。別れ際に芙二は自身が作り出した秘薬を持たせて、手を振って見送る。
(この光景を泊地でまた見たいな)
静かな冷葉の方を見やる。彼は熱心に携帯を操作していた。聞くところによると念の為、陸翔に情報を共有をしている最中だという。
「冷葉、ありがとうな」
この状況でも根回しを行う様子に、感謝を口にした。
「そんなことお互い様だろ? 早く皆を連れて帰ってこい。その後は、陸翔殿を巻き込んで宴だな!」
冷葉が一息で言う。
親友の頼もしさに、涙腺が綻ぶ。
目尻の涙を拭っているとき、
「ねえ」
と、声を掛けられる。
声の主は叢雲。現在は
彼女は若干、頬を桜色に染めつつ、ちらりと芙二を見た。
「……凌也さんも来る?」
叢雲のさりげないお誘い。本来ならば、声を大にして「もちろん」と返したい。しかし今は時間が惜しい。
それに、
(これ以上、あの場を離れるわけにはいかない)
芙二は強く感じた。
なので、叢雲を見つめて答える。
「すまん、今は行けない。それと……みんなが揃った時、正式に発表しよう。そうしたら、水入らずってもんだろう?」
叢雲は”鳩が豆鉄砲を食ったよう”な顔で固まる。
だが、言葉の意味を理解したのか、先ほど以上に赤く、顔全体を火照らせた。
「きゅ、急に何を言い出すのかしら……!」
橙色の瞳を潤ませ、芙二から一歩だけ退く。
手で顔をパタパタ、と扇ぐ叢雲を見た芙二は逆に一歩、踏み込む。
「なっ!? どうして、近づく必要があるの――」
その姿勢に驚く。
「
叢雲が話す前に、芙二は言葉を被せた。
じぃっと見つめて、徐々に互いの吐息が触れる距離にまで近づく。
(あっ このままじゃキスをしてしまうのだけど!?)
叢雲は予想外の展開に思わず、きゅっと目を閉じる。
だが、いつまで経っても唇に温かな感触はない。
ゆっくり、目を開ける。
視線の先には、叢雲を捕食するような目つきで見る芙二がいるだけだった。
(あっぶねええ!! ぎりっぎりで理性が勝った!)
など、と本人は思っているが、咄嗟に表情までは隠せない。
叢雲は芙二の視線に怖気付き、逃げるようにその場を去った。
彼女が去り、この場に残るのは冷葉ただ一人。
「やらかしたな……」
芙二の後悔が空間に散る。
そのとき、ポン、と肩を軽く叩かれる感触が伝わる。
「――なんだ?」
振り返ると、生温かい視線を送る冷葉と目が合う。
「芙二……叢雲ちゃんのフォローは任せておけ!」
冷葉は得意げにウィンクする。彼の目が閉じた瞬間、星が飛ぶ幻覚を見た気がした。
しかし芙二は、これ以上この場にいることは叶わない。
そのため親友に託すことに決め、セーフハウスを後にするのだった。
~~
アミューズメントパーク 白鳥 会員限定地下賭博場にて。
最後に通った壁へ転移。
すると、運悪く武田たちの前に出た。
「あ、ども」
芙二は驚きのあまり、素で挨拶。
武田と筧は会釈をするが、ジークだけは絶叫。
「うおおおお!? お、お前何処から出てきたんだよ!!」
その悲鳴を聞いてか、ばたばたと複数の足音を耳にした。
芙二が提案する前に武田が口を開く。
「……ヴェルダー、共についてこい」
静かな口調で話す。
武田の言葉に三人は頷き、場所を変える。
「ここならいいだろう」
しばらく歩いた先で止まる。
目の前には【廃棄ダクト】と表記された特大サイズの扉が見えた。
背の高い武田ですら、ゆうに入ることができる扉。
(潜入調査っぽくなってきたな)
いよいよ、といったところだろうか。
芙二の期待は高まる。これから行く先で何が待ち構えているのか。
人魚か、クローンか、機械兵か。
あるいは――艦娘や深海棲艦のクローンか。
「ヴェルダー、聞きながらでいい。コレに着替えなさい」
武田は芙二に折りたたまれた特注スーツを渡す。フード付きの迷彩服に見えるが、何か細工があるのだろう、と考える。
「こほん。それでは、これから作戦を開始する前にひとつ伝えることがある」
武田が咳払い一つで場を切り替える。
筧とジークは上着を脱ぐと、そこには迷彩服に身を包む二人がいた。
武田は一人、黒い忍者服に身を包み、異色を放つ。
「先行部隊が廃棄ダクトの先の地図を共有した。黒髪に、赤い目のルナ・ケイジュという男だ。彼の部隊は中枢へ真っ先に向かっている。我々も合流するぞ」
芙二が着替え終わるころ、廃棄ダクトの扉が開く。
武田は飛び込みながら叫ぶ。
「足元に気をつけろ! 我々の任務はここからが本番だッ!」
筧、ジークと続いて芙二も扉の奥底へ飛ぶ。
薄暗い穴を一直線に落下していく。