とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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※本作では特殊部隊員を作中ではコードネームの略称で表記しています。

武田(コードネーム:ブラドオウル/作中:オウル)
筧(コードネーム:ハイラビット/作中:ラビット)
ジーク(コードネーム:キラーアント/作中:アント)
芙二(コードネーム:ストレンジ・ヴェルダー/作中:ヴェルダー)



3章 18話『廃棄ダクトの先へ』

 

 ヴェルダーたちは廃棄ダクトの下に着地する。

 ぼふり、と赤黒い粉が舞い、各々は吸い込まないよう口や鼻を覆う。

 

「すんすん……酷い臭いだな」

 

 アントが顔を引き攣らせる。

 そこには、既に死んだ客もクローンも見境なく、廃棄されていた。

 

「行くぞ」

 

 オウルは至って冷静に、廃棄物の上を歩く。

 彼らが進む度にパキパキ、と足元から音が鳴る。

 

 長年放置されていたのか、様々な種類の骨が積み重なり、踏む度に顔を出す。

 

(こりゃあすごいな)

 

 ヴェルダーは周囲に漂う怨霊たちと目が合う。

 半透明の身体、窪んだ両目、骨の露出。

 

(一体いつからあるんだ……?)

 

 鉄底海峡(アイアンボトム・サウンド)で見た量の比ではない。

 

「……深い」

 

 重苦しい口調で呟く。

 注意散漫がちに見えたのか、ラビットが注意する。

 

「ヴェルダー、私たちは観光をしに来たわけじゃないよ」

 

 ラビットの言葉に他の二人の足が止まる。

 ヴェルダーに対し、鋭い視線を送る。

 

「分かっている。それでも惨い光景なのは変わらない」

 

 静かに目を瞑る。

 ここで死に行く者たちへ黙祷を捧げた。

 ついでに後で戻ってこれるよう、自分だけにしか見えない目印を付ける。

 

「なあ……気は済んだか?」

 

 アントは威圧するような声色で言う。

 彼の顔を見つめ、ヴェルダーは何も言い返さない。

 

 二人のやり取りを見ていた、オウルが口を開く。

 

「そろそろ広い所へ出る。警戒は怠るな」

 

 ヴェルダーとアントに釘を刺す。

 互いにオウルを見て、「了解」そう声を揃えた。

 

~~

 

 薄暗い廃棄ダクトを抜けると、先には明るく広々とした通路へ出た。 

 等間隔で灯る照明を見て、

 

「本当に広いな。これを作るのに、どれだけ……」

 

 オウルが呟く。

 通路は清潔でかつ整備されていた。

 

 その中で先行部隊と思われる、複数の靴跡が目立つ。

 ラビットは靴跡の前でしゃがみ、注意深く確認するように見る。

 

「ふむ、ふむ」

 

 彼女なりに何か気が付いたのか、何度も頷いた。

 そしてリーダーのオウルへ言う。

 

「オウル、問題ないよ。このまま進もうか」

 

 ラビットの言葉に頷き、オウルは一歩前に進む。

 そのとき、けたたましいサイレンが響く。

 

『侵入者を発見しました。繰り返します。侵入者を発見しました。警備員やスタッフの方は、速やかに侵入者の駆除をお願いします』

 

 機械的な声が同じことを繰り返す。

 ビー、ビー、と別のサイレンが鳴りだし、照明も非常灯に切り替わる。

 

「ここは安全じゃないのかよ」

 

 サイレンに紛れて、アントの愚痴が聞こえる。

 ヴェルダーだけは、表情一つ変えなかった。

 

「オウルッ! このままだと挟み撃ちにされちまうよ。どっちに進むんだい!?」

 

 ラビットは、血相を変えてオウルの指示を仰ぐ。

 アントもヴェルダーも臨戦態勢を取り、いつでも戦闘が可能としていた。

 

「このまま、進む」

 

 オウルが地図を見ながら言う。

 ヴェルダーはその言葉に眉をひそめる。

 

「地図によればこの先の通路を右に曲がった先の階段へ向かう」

 

 そう言うと、オウルは駆ける。

 ラビットとアントは返事をして、後に続く。

 

(強行突破、か。嫌いじゃないぜ)

 

 オウルの姿勢を高く評価する。

 元々真っ黒黒なこの施設を調査しに来た。

 

 既に証拠は挙がっている。

 この先で更なる証拠を得ることも可能だろう、と考えた。

 

(オレ)らの邪魔をする奴らは消す」

 

 決意を言葉にして、オウルたちの後を追いかける。

 四人は非常灯の薄暗い通路を駆け抜けていく。

 

~~

 

 階段目前にて。

 

「止まれ! さもなければ――」

 

 拳銃を構える八人の警備員が立ちはだかる。

 彼らの目には、強い正義が宿っていることが伺えた。

 

「わしらの邪魔をするか……ならばッ」

 

 オウルは、その体からは想像できない身体能力を見せる。

 彼は駆けつつ、壁や天井へ飛び移り警備員たちを搔き乱す。

 

 あちらこちらへターゲットが移動する中での発砲は、かすりもしない。

 

「撃つのが遅い」

 

 アントが冷たく言う。

 鋭い目つきの彼が握る短剣のような、二対の植木挟で警備員の手から拳銃を落とす。

 

「それだけだと思うなよ!」

 

 アントの背後へ威勢のいい警備員が迫る。

 だが、当の本人は気にする素振りを見せない。

 

 この部隊の仲間は”背中を預けられる”。そう認識している。

 

「おい、ヴェルダー! 温室育ちだからって漏らすなよ!」

 

 だから、アントは背後への警戒は最低限に絞り、他をカバーする。

 

「せいッ!」

 

 ――ラビットの蹴りが警備員の顔面に炸裂した。血しぶきを上げて、壁にぶち当たる。

 相当勢いが強いのか、警備員が壁の中まで押し込まれていく。

 

「ナイスフォロー!」

 

 彼らはカメラに映ろうとも気にせず、障害物を撥ね退ける。

 

 銃声、破壊音、悲鳴が絶えず聞こえる。その中で足音も、這いずる音も増えていく。

 

 場は騒然とする中、ヴェルダーは警備員三人に囲まれた。

 

「おいおい、大丈夫か?」

「今ならまだ半殺しで済ませてやる」

 

 彼らは数的有利を自覚しているのか、下卑た笑みを浮かべる。

 ヴェルダーは、静かに様子を伺う。

 

「……」 

 

 その中で、一人の警備員が指差して叫ぶ。

 

「あっ! こいつ知ってる! バニー姿のスタッフにベロチューしてたやつだ!」

 

 その言葉を耳にした他の二人は、ヴェルダーを激しく罵る。

 

「うわ、特殊部隊の人間といえど所詮は人間か! 俺らとやってること変わんねえじゃん!!」

「お偉い人の権限で、キス魔レ〇プ魔になっても釈放ってか? この畜生めが!」

 

「んなこと、世間様が許しちゃくれねえよなあ!? おめえたちをとっ捕まえて、週刊誌に売ろうぜ!」

 

 げひゃひゃ!と声を出して、笑う。

 彼らが喋る中、ヴェルダーの視線は明後日の方を見る。

 

(話が長ぇっての)

 

 彼は特注スーツの内側から葉巻を取りだし、ジッポライターで着火させて悠長に吸う。

 

「それが遺言か?」

 

 血と硝煙の中にヴェルダーの吐いた煙が混じる。

 彼の目を見た警備員たちは嘲笑う。

 

「な~にを、かっこつけてやがるんだか」

「ニコチンで脳細胞が死滅してるんじゃない?」

 

 ジッポライターをスーツの内側へ仕舞う中で、一人の警備員が拳銃を撃つ。

 銃口からは火花が散り、弾はヴェルダーの胸を貫く。

 

「はっはぁ! 馬鹿がよぉ!! 悠長に葉巻なんか吸ってるから死ぬことになったんだ――」

 

 ドチャッ

 

 警備員の身体が一瞬、震えた。

 途端に視界が揺れ、膝から崩れ落ちる。

 

「だから、遺言が長ぇって」

 

 ヴェルダーは呆れ顔で呟く。

 

「お、おい! 大丈夫か!」

 

 動かない仲間へ呼びかける。

 答えを告げるように、斃れた警備員の身体は赤く染まっていく。

 

「あ、ああぁあああ!!」

 

 それは憎悪の咆哮。

 彼は仲間の死を受け入れられなかった。

 

 ただ、それだけ。

 涙を流し、恨みの籠った目でヴェルダーを見つめる。

 

「よくも、仲間を……よくもッ!」

 

 しかし次の瞬間には、胴体がバラバラに千切れた。

 痛みも前触れもなく――彼らは生涯を終える。

 

 血の海を眺めながら、静かに言う。

 

「戦闘終了。皆、先へ向かおう」

 

 ヴェルダーたち、特殊部隊は次の階へ足を進めていく。

 戦闘の痕をカメラに刻み付けて。

 

「ま、待て……」

 

 死に体の警備員の元へ何者かが、迫る――。

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