※本作では特殊部隊員を作中ではコードネームの略称で表記しています。
武田(コードネーム:ブラドオウル/作中:オウル)
筧(コードネーム:ハイラビット/作中:ラビット)
ジーク(コードネーム:キラーアント/作中:アント)
芙二(コードネーム:ストレンジ・ヴェルダー/作中:ヴェルダー)
ヴェルダーたちは廃棄ダクトの下に着地する。
ぼふり、と赤黒い粉が舞い、各々は吸い込まないよう口や鼻を覆う。
「すんすん……酷い臭いだな」
アントが顔を引き攣らせる。
そこには、既に死んだ客もクローンも見境なく、廃棄されていた。
「行くぞ」
オウルは至って冷静に、廃棄物の上を歩く。
彼らが進む度にパキパキ、と足元から音が鳴る。
長年放置されていたのか、様々な種類の骨が積み重なり、踏む度に顔を出す。
(こりゃあすごいな)
ヴェルダーは周囲に漂う怨霊たちと目が合う。
半透明の身体、窪んだ両目、骨の露出。
(一体いつからあるんだ……?)
「……深い」
重苦しい口調で呟く。
注意散漫がちに見えたのか、ラビットが注意する。
「ヴェルダー、私たちは観光をしに来たわけじゃないよ」
ラビットの言葉に他の二人の足が止まる。
ヴェルダーに対し、鋭い視線を送る。
「分かっている。それでも惨い光景なのは変わらない」
静かに目を瞑る。
ここで死に行く者たちへ黙祷を捧げた。
ついでに後で戻ってこれるよう、自分だけにしか見えない目印を付ける。
「なあ……気は済んだか?」
アントは威圧するような声色で言う。
彼の顔を見つめ、ヴェルダーは何も言い返さない。
二人のやり取りを見ていた、オウルが口を開く。
「そろそろ広い所へ出る。警戒は怠るな」
ヴェルダーとアントに釘を刺す。
互いにオウルを見て、「了解」そう声を揃えた。
~~
薄暗い廃棄ダクトを抜けると、先には明るく広々とした通路へ出た。
等間隔で灯る照明を見て、
「本当に広いな。これを作るのに、どれだけ……」
オウルが呟く。
通路は清潔でかつ整備されていた。
その中で先行部隊と思われる、複数の靴跡が目立つ。
ラビットは靴跡の前でしゃがみ、注意深く確認するように見る。
「ふむ、ふむ」
彼女なりに何か気が付いたのか、何度も頷いた。
そしてリーダーのオウルへ言う。
「オウル、問題ないよ。このまま進もうか」
ラビットの言葉に頷き、オウルは一歩前に進む。
そのとき、けたたましいサイレンが響く。
『侵入者を発見しました。繰り返します。侵入者を発見しました。警備員やスタッフの方は、速やかに侵入者の駆除をお願いします』
機械的な声が同じことを繰り返す。
ビー、ビー、と別のサイレンが鳴りだし、照明も非常灯に切り替わる。
「ここは安全じゃないのかよ」
サイレンに紛れて、アントの愚痴が聞こえる。
ヴェルダーだけは、表情一つ変えなかった。
「オウルッ! このままだと挟み撃ちにされちまうよ。どっちに進むんだい!?」
ラビットは、血相を変えてオウルの指示を仰ぐ。
アントもヴェルダーも臨戦態勢を取り、いつでも戦闘が可能としていた。
「このまま、進む」
オウルが地図を見ながら言う。
ヴェルダーはその言葉に眉をひそめる。
「地図によればこの先の通路を右に曲がった先の階段へ向かう」
そう言うと、オウルは駆ける。
ラビットとアントは返事をして、後に続く。
(強行突破、か。嫌いじゃないぜ)
オウルの姿勢を高く評価する。
元々真っ黒黒なこの施設を調査しに来た。
既に証拠は挙がっている。
この先で更なる証拠を得ることも可能だろう、と考えた。
「
決意を言葉にして、オウルたちの後を追いかける。
四人は非常灯の薄暗い通路を駆け抜けていく。
~~
階段目前にて。
「止まれ! さもなければ――」
拳銃を構える八人の警備員が立ちはだかる。
彼らの目には、強い正義が宿っていることが伺えた。
「わしらの邪魔をするか……ならばッ」
オウルは、その体からは想像できない身体能力を見せる。
彼は駆けつつ、壁や天井へ飛び移り警備員たちを搔き乱す。
あちらこちらへターゲットが移動する中での発砲は、かすりもしない。
「撃つのが遅い」
アントが冷たく言う。
鋭い目つきの彼が握る短剣のような、二対の植木挟で警備員の手から拳銃を落とす。
「それだけだと思うなよ!」
アントの背後へ威勢のいい警備員が迫る。
だが、当の本人は気にする素振りを見せない。
この部隊の仲間は”背中を預けられる”。そう認識している。
「おい、ヴェルダー! 温室育ちだからって漏らすなよ!」
だから、アントは背後への警戒は最低限に絞り、他をカバーする。
「せいッ!」
――ラビットの蹴りが警備員の顔面に炸裂した。血しぶきを上げて、壁にぶち当たる。
相当勢いが強いのか、警備員が壁の中まで押し込まれていく。
「ナイスフォロー!」
彼らはカメラに映ろうとも気にせず、障害物を撥ね退ける。
銃声、破壊音、悲鳴が絶えず聞こえる。その中で足音も、這いずる音も増えていく。
場は騒然とする中、ヴェルダーは警備員三人に囲まれた。
「おいおい、大丈夫か?」
「今ならまだ半殺しで済ませてやる」
彼らは数的有利を自覚しているのか、下卑た笑みを浮かべる。
ヴェルダーは、静かに様子を伺う。
「……」
その中で、一人の警備員が指差して叫ぶ。
「あっ! こいつ知ってる! バニー姿のスタッフにベロチューしてたやつだ!」
その言葉を耳にした他の二人は、ヴェルダーを激しく罵る。
「うわ、特殊部隊の人間といえど所詮は人間か! 俺らとやってること変わんねえじゃん!!」
「お偉い人の権限で、キス魔レ〇プ魔になっても釈放ってか? この畜生めが!」
「んなこと、世間様が許しちゃくれねえよなあ!? おめえたちをとっ捕まえて、週刊誌に売ろうぜ!」
げひゃひゃ!と声を出して、笑う。
彼らが喋る中、ヴェルダーの視線は明後日の方を見る。
(話が長ぇっての)
彼は特注スーツの内側から葉巻を取りだし、ジッポライターで着火させて悠長に吸う。
「それが遺言か?」
血と硝煙の中にヴェルダーの吐いた煙が混じる。
彼の目を見た警備員たちは嘲笑う。
「な~にを、かっこつけてやがるんだか」
「ニコチンで脳細胞が死滅してるんじゃない?」
ジッポライターをスーツの内側へ仕舞う中で、一人の警備員が拳銃を撃つ。
銃口からは火花が散り、弾はヴェルダーの胸を貫く。
「はっはぁ! 馬鹿がよぉ!! 悠長に葉巻なんか吸ってるから死ぬことになったんだ――」
ドチャッ
警備員の身体が一瞬、震えた。
途端に視界が揺れ、膝から崩れ落ちる。
「だから、遺言が長ぇって」
ヴェルダーは呆れ顔で呟く。
「お、おい! 大丈夫か!」
動かない仲間へ呼びかける。
答えを告げるように、斃れた警備員の身体は赤く染まっていく。
「あ、ああぁあああ!!」
それは憎悪の咆哮。
彼は仲間の死を受け入れられなかった。
ただ、それだけ。
涙を流し、恨みの籠った目でヴェルダーを見つめる。
「よくも、仲間を……よくもッ!」
しかし次の瞬間には、胴体がバラバラに千切れた。
痛みも前触れもなく――彼らは生涯を終える。
血の海を眺めながら、静かに言う。
「戦闘終了。皆、先へ向かおう」
ヴェルダーたち、特殊部隊は次の階へ足を進めていく。
戦闘の痕をカメラに刻み付けて。
「ま、待て……」
死に体の警備員の元へ何者かが、迫る――。