とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3章 21話『ルナ・ケイジュ』

 特殊部隊の面々は更に薄暗い階段を降りていくと、開けた空間に出た。

 天井がかなり高く仰いだ程度では見えない。

 壁際へは等間隔で白熱灯が並んでおり、オウルたちが立つ場は明るい。

 

「変なとこに出ちまったのか……?」

 

 アントは息を整えながら、額の汗を乱暴に拭う。彼の声色からは困惑が滲んでいた。

 心配そうにリーダーのオウルを見つめる。

 

 この期に及んで迷子になるなど洒落にならない。しかしそれでもアントの胸中には不安が押し寄せつつあった。

 

「ふむ……進むぞ。明るいとはいえ、足元に注意しろ」

 

 オウルは再び地図を開きながら、前進していく。しかし数歩進む後に静止する。一定間隔を保ち、歩く中でラビットがオウルの背にぶつかり、「ぎゃふん」と声をあげた。

 

「ちょ、ちょっとオウル!? 急に立ち止まってどうかしたの?!」

 

 彼女は自身の鼻を摩り、微動だにしないオウルを叱る。それでも沈黙を貫く様子に気になったヴェルダーとアントが前方を覗き込む。

 

「誰か、あそこで倒れているぞッ! 格好からして先行部隊の連中かもしれねえなッ」

 

 アントが真っ先に叫び、オウルを抜いて飛び出した。

 

「待ちなさいって! 罠かもしれないでしょう!!」

 

 ラビットの制止を無視して、アントは飛び出した矢の如く突っ走る。彼を追うように彼女もまた疾走していく。

 

(安全かどうか分からないだろうに。オウルに指示を仰ごう)

 

 どんどん離れていく二人の背中を見つつ、ヴェルダーはオウルの身体を揺すり、

 

「いいのか、あれ。二人して危ないんじゃないか? 首根っこ掴んだ方がいいならそうするが」

 

 と声を掛けるも反応がない。ここまで反応がない様子にヴェルダーも困惑し始めた、そのとき。

 

「――あっああ、いや問題ない。二人の元へ向かおう」

 

 オウルは我に返ったような、そんな表情を向ける。

 ヴェルダーは二人の元へ向かい始めた、オウルに対して、

 

「あまりも反応がなかったので、死んだのかと思ったぞ」

 

 と、言い返した。

 その後すぐにオウルが頬を掻きながら、誤魔化すように笑う。

 

 ヴェルダーは立ち止まり、

 

「……休憩が必要なら言え。どれくらい時間があるか不明だが、気を休めるくらいの時間は作ってやる」 

 

 誤魔化しは通じんぞ、と付け加えて静かに言う。 

 ヴェルダーとオウルの間の雰囲気が張り詰めていく。

 

 自然とオウルの足も止まる。

 ヴェルダーを見下ろし、目を細めてひと言。

 

「時々、君は可愛らしさがなくなる。なんでもお見通し、みたいなツラは止めてくれるか」

 

 彼の言葉に重い圧が宿る。

 しかしすぐに溜息を吐き、表情を和らげた。

 

「すまない、大人げないか」

「いンや。ぜんっぜん気にしてないから大丈夫だ」

 

 ヴェルダーはからから、と笑う。

 くい、くい、と顎でラビットたちの元へ促す。

 

「……行こう」

 

 もはや何も言う事はない。

 オウルはヴェルダーの態度も言葉遣いも治ることはない、と直感した。

 

~~

 

 ヴェルダーとオウルは五分ほど遅れての到着。

 ラビットとアントに応急処置をされていた人物は二名。

 

「二人して何を話していたの? とりあえず応急処置は済ませたから安心してちょうだい」

 

 彼女に膝枕をされて眠るのは、桃色髪の小柄な少女。ヴェルダーたちと同じ服を着用しているところを見るに、先行部隊のひとりだろう。

 

「あっ来たみたいですよ!」

 

 アントは黒髪の隊員と会話をしていたのか、ラビットに叱られている最中にこちらを見た。黒髪がふわり、と靡き赤い瞳と目が合う。

 

「る」

 

 一言発する前に、急に手を握られる。

 

「おお~! あなたが噂のストレンジ・ヴェルダーさんですね!? 私は先行部隊のリーダーのルナ・ケイジュと申します!」

 

 テンション高く自己紹介をし、ヴェルダーの手を力強く握る。

 

「特殊部隊の方々に助けていただけなければ、彼女と共に朽ち逝く日を待つしかなかったでしょう!」

 

 ラビットの膝元で眠る彼女を見ながら、仰々しい物言いをする。

 握った手をぶん、ぶん、と大きく振りながら感謝していた。

 

「ルナ・ケイジュ殿、無事であったか」

 

 困惑しているヴェルダーをよそに、オウルは微笑みを浮かべて近寄る。彼を一目見て、ぴたり、と静止した。

 

 すぐにオウルの方へ向き直り、目にも止まらぬ速さで二人は再会の抱擁を交わし合う。

 

「おおうっ、っと相変わらず熱烈な人だ」

 

 興奮気味のルナ・ケイジュの背を数回叩き、抱擁を止める。彼は物足りない顔をしつつも、一度咳ばらいを行い、表情を切り替えた。

 

 その後はリーダー同士で情報交換を始めていく。

 

(この男、見た感じ服装の乱れが少ない)

 

 柔和な様子で話し合う二人を観察していく中で、ラビットたちの方へ視線は流れる。

 

(対して、ラビットの元で寝ている娘の方はすごいな……よくこの傷で生きていられるものだ)

 

 服装はルナ・ケイジュ同様に乱れは少ない。少女のスーツの隙間からは生々しい赤い傷跡が何度も見える。

 

(仲間だと言うのならば、彼女の庇護下に――)

 

 などと、考えてジッと見つめる。

 それを不審に思われたのか、視線の先のラビットは顔を顰めて、

 

「ちょっと、ヴェルダー! 寝ている女の子の顔をジロジロと見るもんじゃないよ! そんな時間があるなら、周囲の警戒でもしてな!」

 

 そう言う。ヴェルダーはすぐさま頭を下げ、指示通りに周囲の散策に出た。

 ――と、言ってもだ。

 

(この限られた空間で何を警戒するというんだか)

 

 なんて内心は愚痴る。表情には一切出さず、彼らから距離を取っていく。少し離れたところで止まり、スーツの内側からタブレット端末を取りだす。

 

(まだまだ仲間は囚われたままだからな。少しでも早く奪い返すのだ)

 

 残りの仲間の状態を把握すべく、操作を行う。スムーズな手つきでスクロールを行い、一人一人の状態を視る。

 

(よかった。誰も欠けていない)

 

 電源を落としたタブレット端末を再び仕舞い込む。

 安堵の息を吐きかけたとき、

 

「ヴェルダー! こちらに戻ってこい! ルナ・ケイジュ殿と共に移動することになったからな!」

 

 オウルの言葉が空間中に響き渡るような声量でこだました。

 「了解した」と返事をして、駆け足で向かう。

 

「オウル。ヴェルダー、ただいま戻りました」

 

 オウルへ短く帰還の報告を済ませたヴェルダー。

 彼を待つのは、ラビットの傍で眠たそうに目蓋を擦る少女の姿。

 

「ヴェルダーさん、彼女が我が隊の最年少兵であるメリアだ。先輩として、仲良くしてやってほしい」

 

 ルナ・ケイジュの手が、眠たそうにしている少女――メリアを指す。当の本人は、寝ぼけているのか、ラビットの事を「まだ眠いよ、お母さん~」と甘えていた。




皆さんのGWはどうでしたか?
私は釣り三昧でした。
またよろしくお願いします。
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