特殊部隊の面々は更に薄暗い階段を降りていくと、開けた空間に出た。
天井がかなり高く仰いだ程度では見えない。
壁際へは等間隔で白熱灯が並んでおり、オウルたちが立つ場は明るい。
「変なとこに出ちまったのか……?」
アントは息を整えながら、額の汗を乱暴に拭う。彼の声色からは困惑が滲んでいた。
心配そうにリーダーのオウルを見つめる。
この期に及んで迷子になるなど洒落にならない。しかしそれでもアントの胸中には不安が押し寄せつつあった。
「ふむ……進むぞ。明るいとはいえ、足元に注意しろ」
オウルは再び地図を開きながら、前進していく。しかし数歩進む後に静止する。一定間隔を保ち、歩く中でラビットがオウルの背にぶつかり、「ぎゃふん」と声をあげた。
「ちょ、ちょっとオウル!? 急に立ち止まってどうかしたの?!」
彼女は自身の鼻を摩り、微動だにしないオウルを叱る。それでも沈黙を貫く様子に気になったヴェルダーとアントが前方を覗き込む。
「誰か、あそこで倒れているぞッ! 格好からして先行部隊の連中かもしれねえなッ」
アントが真っ先に叫び、オウルを抜いて飛び出した。
「待ちなさいって! 罠かもしれないでしょう!!」
ラビットの制止を無視して、アントは飛び出した矢の如く突っ走る。彼を追うように彼女もまた疾走していく。
(安全かどうか分からないだろうに。オウルに指示を仰ごう)
どんどん離れていく二人の背中を見つつ、ヴェルダーはオウルの身体を揺すり、
「いいのか、あれ。二人して危ないんじゃないか? 首根っこ掴んだ方がいいならそうするが」
と声を掛けるも反応がない。ここまで反応がない様子にヴェルダーも困惑し始めた、そのとき。
「――あっああ、いや問題ない。二人の元へ向かおう」
オウルは我に返ったような、そんな表情を向ける。
ヴェルダーは二人の元へ向かい始めた、オウルに対して、
「あまりも反応がなかったので、死んだのかと思ったぞ」
と、言い返した。
その後すぐにオウルが頬を掻きながら、誤魔化すように笑う。
ヴェルダーは立ち止まり、
「……休憩が必要なら言え。どれくらい時間があるか不明だが、気を休めるくらいの時間は作ってやる」
誤魔化しは通じんぞ、と付け加えて静かに言う。
ヴェルダーとオウルの間の雰囲気が張り詰めていく。
自然とオウルの足も止まる。
ヴェルダーを見下ろし、目を細めてひと言。
「時々、君は可愛らしさがなくなる。なんでもお見通し、みたいなツラは止めてくれるか」
彼の言葉に重い圧が宿る。
しかしすぐに溜息を吐き、表情を和らげた。
「すまない、大人げないか」
「いンや。ぜんっぜん気にしてないから大丈夫だ」
ヴェルダーはからから、と笑う。
くい、くい、と顎でラビットたちの元へ促す。
「……行こう」
もはや何も言う事はない。
オウルはヴェルダーの態度も言葉遣いも治ることはない、と直感した。
~~
ヴェルダーとオウルは五分ほど遅れての到着。
ラビットとアントに応急処置をされていた人物は二名。
「二人して何を話していたの? とりあえず応急処置は済ませたから安心してちょうだい」
彼女に膝枕をされて眠るのは、桃色髪の小柄な少女。ヴェルダーたちと同じ服を着用しているところを見るに、先行部隊のひとりだろう。
「あっ来たみたいですよ!」
アントは黒髪の隊員と会話をしていたのか、ラビットに叱られている最中にこちらを見た。黒髪がふわり、と靡き赤い瞳と目が合う。
「る」
一言発する前に、急に手を握られる。
「おお~! あなたが噂のストレンジ・ヴェルダーさんですね!? 私は先行部隊のリーダーのルナ・ケイジュと申します!」
テンション高く自己紹介をし、ヴェルダーの手を力強く握る。
「特殊部隊の方々に助けていただけなければ、彼女と共に朽ち逝く日を待つしかなかったでしょう!」
ラビットの膝元で眠る彼女を見ながら、仰々しい物言いをする。
握った手をぶん、ぶん、と大きく振りながら感謝していた。
「ルナ・ケイジュ殿、無事であったか」
困惑しているヴェルダーをよそに、オウルは微笑みを浮かべて近寄る。彼を一目見て、ぴたり、と静止した。
すぐにオウルの方へ向き直り、目にも止まらぬ速さで二人は再会の抱擁を交わし合う。
「おおうっ、っと相変わらず熱烈な人だ」
興奮気味のルナ・ケイジュの背を数回叩き、抱擁を止める。彼は物足りない顔をしつつも、一度咳ばらいを行い、表情を切り替えた。
その後はリーダー同士で情報交換を始めていく。
(この男、見た感じ服装の乱れが少ない)
柔和な様子で話し合う二人を観察していく中で、ラビットたちの方へ視線は流れる。
(対して、ラビットの元で寝ている娘の方はすごいな……よくこの傷で生きていられるものだ)
服装はルナ・ケイジュ同様に乱れは少ない。少女のスーツの隙間からは生々しい赤い傷跡が何度も見える。
(仲間だと言うのならば、彼女の庇護下に――)
などと、考えてジッと見つめる。
それを不審に思われたのか、視線の先のラビットは顔を顰めて、
「ちょっと、ヴェルダー! 寝ている女の子の顔をジロジロと見るもんじゃないよ! そんな時間があるなら、周囲の警戒でもしてな!」
そう言う。ヴェルダーはすぐさま頭を下げ、指示通りに周囲の散策に出た。
――と、言ってもだ。
(この限られた空間で何を警戒するというんだか)
なんて内心は愚痴る。表情には一切出さず、彼らから距離を取っていく。少し離れたところで止まり、スーツの内側からタブレット端末を取りだす。
(まだまだ仲間は囚われたままだからな。少しでも早く奪い返すのだ)
残りの仲間の状態を把握すべく、操作を行う。スムーズな手つきでスクロールを行い、一人一人の状態を視る。
(よかった。誰も欠けていない)
電源を落としたタブレット端末を再び仕舞い込む。
安堵の息を吐きかけたとき、
「ヴェルダー! こちらに戻ってこい! ルナ・ケイジュ殿と共に移動することになったからな!」
オウルの言葉が空間中に響き渡るような声量でこだました。
「了解した」と返事をして、駆け足で向かう。
「オウル。ヴェルダー、ただいま戻りました」
オウルへ短く帰還の報告を済ませたヴェルダー。
彼を待つのは、ラビットの傍で眠たそうに目蓋を擦る少女の姿。
「ヴェルダーさん、彼女が我が隊の最年少兵であるメリアだ。先輩として、仲良くしてやってほしい」
ルナ・ケイジュの手が、眠たそうにしている少女――メリアを指す。当の本人は、寝ぼけているのか、ラビットの事を「まだ眠いよ、お母さん~」と甘えていた。
皆さんのGWはどうでしたか?
私は釣り三昧でした。
またよろしくお願いします。