とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3章 22話『先行部隊』

 寝ぼけて、”お母さん”と呼ばれたラビット。

 周囲は驚きのあまり、言葉を忘れる。

 

 当の本人の頬はほんのり赤くなり、

 

「ちょ、ちょっとなに、寝ぼけてるのよ」

 

 しゃがむメリアの頭を軽く小突いた。

 小突かれた衝撃からか、彼女はハッとして勢いよく振り返る。

 

「そんなに私の膝枕がよかったの?」

 

 やれやれ、と言わんばかりに呆れるラビットから距離を取る。

 メリアは周囲を見渡す中で、自身の、部隊の隊長である、ルナ・ケイジュと目が合う。

 

「け、ケイジュ隊長……! こ、この状況はいったい…?」

 

 彼女の言葉に対し、ルナ・ケイジュは無言の笑みを貫く。

 すぐに状況を理解したのか、誰が言うまでもなく土下座の姿勢を取った。

 

 地面に額を擦り付けながら、

 

「み、皆さま! 作戦中に御無礼な姿を晒してしまい申し訳ございません!」

 

 この空間中に、響き渡るような声量で言う。

 メリアの謝罪を受けるように、ヴェルダーたち特殊部隊の人間は頷く。

 

「と、特に! 」

 

 彼女は一度立ち上がり、ラビットの方をみる。

 ヴェルダーはラビットへの言葉か、と察した。

 

「ああ、その件ならもう大丈夫。私も一瞬びっくりしちゃったけど、可愛いミスじゃないの」

 

 ふふ、と笑って受け止める。

 

「ハイラビットさん……ありがとうございます」

 

 寛容なラビットの態度に、メリアは思わず涙ぐむ。

 

「おいで」

 

 ラビットが腕を広げると、メリアが躊躇わずに飛び込んだ。

 

 二人のやり取りを見て、ヴェルダーは疑問を言葉にする。

 

「ハイラビットってラビットのフルコードネームだよな? なんで先行部隊の人間が知っているんだ?」

 

 その問いに対して、アントが欠伸をしながら答える。

 

「俺らが席を置く、特殊部隊は各部隊の中でも異質な存在だ。だから覚えておくように、と上官からの通達が来ている。良かったな、ヴェルダー」

 

 何が良かったのか、と首を傾げる。

 アントは意地悪そうな顔で、ひと言。

 

「新人のお前も少しは賢くなったな?」

 

 小ばかにするような物言いに、ヴェルダーは腹を立てかける。

 

「……」

 

 しかし怒りを発散させている場合じゃない、と割り切った。

 この出来事で部隊間の溝は無くなり、メリア、ルナ・ケイジュ共々本題へ踏み込んでいく。

 

~~

 

 こほん、とオウルが咳ばらいをする。和やかな雰囲気は一瞬で消え去り、目つきが変わる。

 メリアとルナ・ケイジュ含む全員が彼の言葉を待つ。

 

「ふむ、よろしい」

 

 静寂の中でオウルが頷く。

 

「では、先ほどケイジュ殿と話して判明した事実。それと今後の進路について、話そう」

 

 続けて淡々と事実を告げる。

 

 一つ、この先の進路は謎の振動により天井が崩落して進めない、という点。

 

 皆が驚くなか、ひとりだけヴェルダーは顔を顰める。

 

 二つ、既に中枢への到達は先行部隊が完了させた、という点。

 

 オウルの言葉にラビット、アントの両名の表情は明るくなる。しかしヴェルダーだけは、疑うような視線をルナ・ケイジュへ向けていた。

 

 その視線に気づいたのか、ルナ・ケイジュは否定する。

 

「ヴェルダー殿()、その目は極めて好くない。今は我々二人しか、この場にいないわけだが、きちんと到達と情報の確保は済ませている」

 

 彼の言葉を補強するように、メリアが口を開く。

 

「そうです! ケイジュ隊長の言うとおり、私たちは既に否定できない決定的な証拠を押さえています! それも……仲間の待つ、あの場に」

 

 勢いのある彼女の言葉は次第に尻すぼみとなり、小さく消える。

 ヴェルダーは眉を寄せて、見つめた。

 

 話を中断させた彼の頭をオウルは小突く。

 

「ヴェルダー……言いたいことは分かるが、今は最後まで聞け」

 

 注意されたヴェルダーはすみません、と一言だけ謝罪すると口を閉ざす。

 

「話が逸れたが、三つ。……中枢で応戦する先行部隊の救難要請、だ」 

 

 彼が最後に話す事実は、三人の表情を凍り付かせた。ルナ・ケイジュはその言葉に相槌を打ち、メリアは泣きそうな顔で俯く。

 

「それは本当なのか、オウル」

 

 最初に口を開いたのは、アント。

 途中で聞いた中枢に到達と決定的な証拠の確保。作戦成功を思わせる、明るい事実。

 

 希望からの転落。

 強張った様子で、オウルとルナ・ケイジュの回答を待つ。

 

「キラーアントさん。それは本当です」

 

 メリアがその問いを肯定する。

 彼女の瞳には、深い悲しみが宿っていた。

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