寝ぼけて、”お母さん”と呼ばれたラビット。
周囲は驚きのあまり、言葉を忘れる。
当の本人の頬はほんのり赤くなり、
「ちょ、ちょっとなに、寝ぼけてるのよ」
しゃがむメリアの頭を軽く小突いた。
小突かれた衝撃からか、彼女はハッとして勢いよく振り返る。
「そんなに私の膝枕がよかったの?」
やれやれ、と言わんばかりに呆れるラビットから距離を取る。
メリアは周囲を見渡す中で、自身の、部隊の隊長である、ルナ・ケイジュと目が合う。
「け、ケイジュ隊長……! こ、この状況はいったい…?」
彼女の言葉に対し、ルナ・ケイジュは無言の笑みを貫く。
すぐに状況を理解したのか、誰が言うまでもなく土下座の姿勢を取った。
地面に額を擦り付けながら、
「み、皆さま! 作戦中に御無礼な姿を晒してしまい申し訳ございません!」
この空間中に、響き渡るような声量で言う。
メリアの謝罪を受けるように、ヴェルダーたち特殊部隊の人間は頷く。
「と、特に! 」
彼女は一度立ち上がり、ラビットの方をみる。
ヴェルダーはラビットへの言葉か、と察した。
「ああ、その件ならもう大丈夫。私も一瞬びっくりしちゃったけど、可愛いミスじゃないの」
ふふ、と笑って受け止める。
「ハイラビットさん……ありがとうございます」
寛容なラビットの態度に、メリアは思わず涙ぐむ。
「おいで」
ラビットが腕を広げると、メリアが躊躇わずに飛び込んだ。
二人のやり取りを見て、ヴェルダーは疑問を言葉にする。
「ハイラビットってラビットのフルコードネームだよな? なんで先行部隊の人間が知っているんだ?」
その問いに対して、アントが欠伸をしながら答える。
「俺らが席を置く、特殊部隊は各部隊の中でも異質な存在だ。だから覚えておくように、と上官からの通達が来ている。良かったな、ヴェルダー」
何が良かったのか、と首を傾げる。
アントは意地悪そうな顔で、ひと言。
「新人のお前も少しは賢くなったな?」
小ばかにするような物言いに、ヴェルダーは腹を立てかける。
「……」
しかし怒りを発散させている場合じゃない、と割り切った。
この出来事で部隊間の溝は無くなり、メリア、ルナ・ケイジュ共々本題へ踏み込んでいく。
~~
こほん、とオウルが咳ばらいをする。和やかな雰囲気は一瞬で消え去り、目つきが変わる。
メリアとルナ・ケイジュ含む全員が彼の言葉を待つ。
「ふむ、よろしい」
静寂の中でオウルが頷く。
「では、先ほどケイジュ殿と話して判明した事実。それと今後の進路について、話そう」
続けて淡々と事実を告げる。
一つ、この先の進路は謎の振動により天井が崩落して進めない、という点。
皆が驚くなか、ひとりだけヴェルダーは顔を顰める。
二つ、既に中枢への到達は先行部隊が完了させた、という点。
オウルの言葉にラビット、アントの両名の表情は明るくなる。しかしヴェルダーだけは、疑うような視線をルナ・ケイジュへ向けていた。
その視線に気づいたのか、ルナ・ケイジュは否定する。
「ヴェルダー
彼の言葉を補強するように、メリアが口を開く。
「そうです! ケイジュ隊長の言うとおり、私たちは既に否定できない決定的な証拠を押さえています! それも……仲間の待つ、あの場に」
勢いのある彼女の言葉は次第に尻すぼみとなり、小さく消える。
ヴェルダーは眉を寄せて、見つめた。
話を中断させた彼の頭をオウルは小突く。
「ヴェルダー……言いたいことは分かるが、今は最後まで聞け」
注意されたヴェルダーはすみません、と一言だけ謝罪すると口を閉ざす。
「話が逸れたが、三つ。……中枢で応戦する先行部隊の救難要請、だ」
彼が最後に話す事実は、三人の表情を凍り付かせた。ルナ・ケイジュはその言葉に相槌を打ち、メリアは泣きそうな顔で俯く。
「それは本当なのか、オウル」
最初に口を開いたのは、アント。
途中で聞いた中枢に到達と決定的な証拠の確保。作戦成功を思わせる、明るい事実。
希望からの転落。
強張った様子で、オウルとルナ・ケイジュの回答を待つ。
「キラーアントさん。それは本当です」
メリアがその問いを肯定する。
彼女の瞳には、深い悲しみが宿っていた。