とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3章 31話『サンプル』

 意識を失い、白い床に倒れる特殊部隊の隊員をクローンたちに運ばせる。既にヴェルダー以外の者は、名前を、個としての存在を書き換え終えていた。

 

 ミライは夕立だった少女の傍らに横たわる、ヴェルダーを見つめた。先ほどとは違い、姿や服装もここへ入場したときのものと遜色ない。

 

「ん~……もう少し強いと思っていたんだけどなぁ」

 

 彼の頬を小突いても、少女の髪を乱暴に掴もうとも飛び起きる気配がない。

 言いたいことだけを伝え、対策も取らせず強制的に終わりへ導いた。

 

「あっ! こっちの二人は部屋に隔離しておいて。あと、管理権などが詳細に書かれた書簡がここにある。それを娼館のアイツに渡しておいて」

 

 無表情で作業するクローンへいくつか指示を出した。彼女らは頷き、夕立とヴェルダーを放して同じ場所へ運んでいく。

 

 政治家や変態趣味の人間たちは体よく片付けることができて、内心で満足感を得ていた。残る二人の()()()へ最後の言葉を伝える。

 

「さて、素晴らしい手腕だったよ。ルナ・ケイジュくん」

 

 コツコツ、と靴の音を鳴らしながら放心気味のルナ・ケイジュの元へ向かう。雇い主が近づいても、圧倒的な情報量の多さについていけてない。

 

 彼の喉からは掠れた声だけが漏れ、ミライは頷いた。

 

「君が、家族と呼ぶ親しい間柄の人間を贄に捧げ――百合水仙の救世主(メリシア)という作品を作り上げたことは高く評価できる。また肉親の愛を知らずとも、隊員たちの愛を知って育まれた価値観が、君というこれ以上ない存在の手で壊される、ということ」

 

 一度に話しすぎたのか、ミライは「こほん」と咳ばらいを挟む。

 

「倒錯的、官能的な味わいだった。人生一度だけしか、体験できないなんて惜しい気持ちさ」

 

「そ、れは。ありがとう、ございます」

 

 ミライの言葉に対し、ルナ・ケイジュはたどたどしく返事をする。話の途中で彼から視線を外し、茨の中で蹲るメリアの元へ歩く。

 

「メリア、いや百合水仙の救世主(メリシア)。ここを開けてくれないか? 君にプレゼントがあるんだ」

 

 固く閉ざされた茨を前に呼びかけた。”プレゼント”という言葉に反応したのか、茨の蔓の間から、覗くように顔を出す。

 

 短く切り揃えられた白髪、橙色の瞳、緑色の肌を持つ異形の娘。

 

 彼女は、

 「頑張ったわたしにご褒美があるの?」

 と無邪気な子供ような笑みを作る。

 

「そうだとも、メリシア。渡しそびれたプレゼントが、そこにいる」

 

 ミライはルナ・ケイジュを指さした。あやふやな記憶の中で傷を受け、致命傷を受けたメリシアは栄養を探していた。

 

「ありがとう! ミライ様!」

 

 ()()()()からの提案に目を輝かせ、スカートの中から青く鋭い茨の蔓を彼に向けた。殺気も音もなく、ただ一方的な蹂躙がルナ・ケイジュの運命を吸いつくした。




3章 完! 
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