3.5章 1話『日常』
パラディーゾとレイニーナのふたりが、東第三鎮守府に馴染みつつある頃。日々の業務を終え、退社していく職員に挨拶をする。
彼らの眼下で、丁寧にお辞儀をして、表情は様々に「お疲れ様でした」と交わす。
「はい。お疲れさまでした」
そう言うとレイニーナは、朗らかに笑みを作り、軽く会釈をする。そして彼女の傍で、艦娘と談笑している長身の男性の名は、パラディーゾ。
「そうそう。あの戦いは~~――」
身振り手振りを交えて、あの戦い――真なる神エヒトルジェとの終末邪神戦争について。芙二からは黄金郷の事を明かすな、と釘を刺されていた手前、あの戦いについても同様にするべきか。
レイニーナは腕を組み、目蓋を閉じて思案をする。終末邪神戦争、またの名をラグナロク・アニマ。あの戦いを話すならば、自然と黄金郷の話題に触れる。
(かくなるうえは――彼の口を物理的に塞ぐ)
レイニーナは、同僚のパラディーゾを見つつ、物騒な手段を思いつかせていた。彼女の背後に、ゆらゆらと揺らめく何かが顕現しかけた時。
「こんにちは! レイニーナさん!」
声のする方へ顔を向ける。そこには、若干煤に塗れた島風と時津風がいた。島風は、ぴょん、とレイニーナの胸へ飛び込む。彼女の突拍子もない行動に、時津風は目を白黒させる。
「ちょ、ちょっと! 島風! 急に飛び込んだら、迷惑だよ!」
島風は聞く耳を持たず。それはそれとしてレイニーナは島風の行動に驚きつつも、受け止める。
「島風ちゃんはほんとに甘えん坊さんね♪ 今日も巡回任務お疲れ様」
海水に濡れた髪を、優しく撫でる。当の本人の島風は、相手のことを気にする素振りなく、学校での出来事を親に話す娘のように、次々に話題を繰り出す。
「それでね、連装砲ちゃんがね~――」
真剣に話すあまり、いつの間にか、レイニーナの腕に座り、島風は彼女の首に腕を回す体勢になっていた。
「ええ、そうなんですね」
レイニーナが話の合間に、相槌を打つ。彼女が聞き上手な為か、島風の話しっぷりに時津風はいつの間にか、疎外感を感じ始めていた。
(うう……あんな楽しそうな島風ちゃん、久しぶりに見たな~)
自分も会話に、なんて。
混ざれないもどかしさと疎外感を前に少しいじけていた。
「おや、時津風さん。そんな廊下の隅っこで、どうかしたのですか? ……ああ、彼女に島風さんを取られてしまって拗ねているのですね」
紺のスーツに身を包み、口元が見えた仮面を被った長身の男性。パラディーゾは時津風の状況を察してか、クスリと小さく笑う。
「ちょ、そんなんじゃないってば!」
揶揄うパラディーゾに対し、ついムキになる。時津風が声を上げた時、一瞬だけ廊下はシンと静まり返り、気まずい雰囲気になりかけたとき。
「パラディーゾ~?
二人がレイニーナの方を向くと、既に島風は下ろされ、代わりに眉間へ皺を寄せた彼女がパラディーゾを睨む。
「レイニーナ!? 私はなにもしてませんよっ!」
彼女の怒気に驚いたパラディーゾは、慌てた様子で弁明をする。が、それすら必死の言い訳に見えたのか、彼と彼女の距離は一歩、また一歩と埋まる。
「ちょ、ちょっと近いですよ! お若い二人も見ている前で、そのようなことを――」
茶化すような、その場を争いを収めようとしているのか。どちらともとれる振る舞いに、レイニーナは先ほど考えていた手段を実行に移すだけだった。
~~
最初は、二メートル越えの人物を警戒するかと思っていた。
なんせ人間と艦娘でも身長は二メートルを越さない。パラディーゾとレイニーナ、両名の自己紹介は講堂で行われ、まばらな拍手を耳にする。
だが、それは杞憂で終わる。二人はあっさりと受け入れられた。異界出身の彼らは、今訪れている世界について、無知である。
足りない知識を補完するように、情報を記憶していく。
そして