とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

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3.5章 PV風

 信託の園。真っ白で無機質な部屋。白い外套を身に纏う、長身の女神がひとり。彼女の目の前には、信者の山。

 

「……」

 

 無貌の女神は何か思うことがあるのか、天井を見つめる。

 

「貴方様、どうかされましたか?」

 

 無貌の女神の、従者の一人である男が問う。

 

「何やら、上が騒がしい。ネズミが迷い込んだのか……」

 

 無貌の女神は見上げたまま、答えた。

 声色は、どこか落ち着きがない。

 

「ネズミは多いでしょうね、今年は特に。あの傲慢な小娘にも手を焼かされていますから。貴方様の前で、神を自称するなど愚かにも程があるというもの」

 

 彼の脳裏に、ひとつの光景が過る。だが、すぐに消えた。

 

「神を自称する小娘、か。それにしても……」

 

 無貌の女神は視線を、従者の男へ合わせる。

 

 ”あの傲慢な小娘”。

 

 かつては、神仏を敬う女だった。

 過干渉を嫌う、静かな存在。

 

「何か気になることでもおありですか? 貴方様が、そこまで気に掛けるのでしたら、それは脅威となり得るのです。すぐに手配を」

 

 従者の男は傲慢な小娘よりも、彼女が気にする程の存在に意識が向かったように、頷く。無貌の女神が理解できない、珍妙な機械を扱おうとした手を、止めさせる。

 

「いやそこまでじゃない。たった今、その気配は消失した。おまえも、我の傍で世話を焼くのは良いが、もう少し己を顧みよ」

 

 ロウソクが揺れている。

 今にも消えそうだった。

 

 目の下に、深い影を落とした男。

 

「なっ……気づいておいでしたか。貴方様の前で嘘をついたこと、お許しください」

 

 従者の男は一度、大きく口を開くが、すぐに冷静さを取り戻し、そのうえで非礼を詫びる。

 

「うむ、赦そう。また朝に遣いを寄越せ」

 

 無貌の女神は頷き、男の非礼を受け入れた。男の表情は、どこか明るく、彼女の懐の深さに感謝をしているように見えた。

 

 朝に、という言葉を聞いたとき、男の表情がより明るくなったのを無貌の女神が見逃さない。

 

「おまえが来てはならない。他の者へ示しがつかんからな」

 

 彼女は男に釘を刺した。最近、園の中で無貌の女神の寵愛を受けている、と好からぬ噂が立っている所為でもあった。

 

「御意にございます」

 

 従者の男の中で、無貌の女神の御言葉は絶対。

 信心深い彼は、その言葉通りに行動を心がけた。

 

 一礼し、男は無貌の女神の前を去る。

 

~~

 

 無貌の女神は、信者の山を前に呟く。

 

「神託者のあやつも、所詮は人の身」

 

 二度と動かぬ肉の果てを、慈しむような手つきで撫でる。

 

「このような我を畏れ敬いながらも、使えてくれるのは嬉しく思う」

 

 このような、地で信仰を作るのは抵抗があった。それでも彼女は、受け入れ、共にあらんと。

 

「しかし、我の身は、我自身が知る、か」

 

 従者の男の、ロウソクを思い出す。

 チリチリ、と焦がす熱の在りかを失わないよう、願う。

 

「それにしても、あの傲慢な小娘と対になる存在。生きておれば、我と対話出来たかも知れぬな」

 

 静寂の中で、寂しげな呟きが霧散していく。

 

――次章 異の溶け込む日常。




3.5章pv風を投稿するのを忘れてしまいました。
申し訳ございません。
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