地下楽園 中層 【繁栄実験室】にて。
【繁栄実験室】に送り込まれた、異形と少女を一瞥。
「……これが例の」
白金色の髪の、壮年の男が呟く。
銀のスーツに身を包み、
「あまりにも醜い。まるで虫とタコを合わせたような見た目だな」
壮年の男は、軽蔑の眼で見つめた。
あれが今度の品評会で選別される。
「そう言ってくれるなよ。
声は壮年の男の、真後ろから聞こえ、ガラス越しの存在に目を大きく見開いた。
そこには男が揶揄した異形が見下ろしている。
「イヒッ……おまえには、そう見えているみたいだな」
異形はガラス越しに映る姿と壮年の、男の発言の食い違いに頷く。
「そのようだな」
壮年の男は、異形の顔を見るなり、目を細める。
「……異常性癖者共め」
内心で悪態をつく。
異形から視線を外し、実験室の中を見渡す。
四つ角には、黒い監視カメラが見え、時折、赤い点滅を繰り返していた。
「おおむね、検討はついている」
異形も同様に室内のカメラを見て、頷いた。
異形と少女の交配の記録。
その先に生まれるのは、人間か――それとも。
「それがどうした。おまえは、ただ言われたとおりにしていればいい」
ガラス張りの窓に向けて、話す。
「いやだね」
異形は首を横に振る。
「
触手に埋もれ、表情は見えない。
「だが、いつまでもそうはいってられまい」
壮年の男は、静かに言い残し、【繫栄実験室】を後にする。
「それは理解できる。が、今は――」
男の後ろ姿を見つめ、吐き捨てた。
「う、うぅ、ん」
ガラスの向こうから、眠たげな声を耳にした。
異形は、向き合うために、自ら進んで【繫栄実験室】の中へ収まった。
~~
壮年の男は、白苑内の執務室へ向かう。
命令に従わない、異形の存在が過るが、すぐに切り替えた。
(今すぐか? ……いいや、ここへ送り込まれた者は、いずれ自らの価値を理解する)
誰であろうと、七日も経てば自分の立場を理解せざるを得ない。
身分などここ、地下楽園の中では意味を成さない。
(それに七日もあれば、分を弁えるだろうな。さて、と)
壮年の男は、鼓膜に残る異形の声を忘れるように、
「まずは報告をしなければ、な」
足早に業務へ取り掛かる。
同じ空間で存在したくない、そんなレベルで嫌う相手。
名を、カブラギ。
「おはようございます。カブラギ様。早速ですが、ご報告がございまして――」
地上の、施設長を務める老人。いや老獪と言うべきか。
彼が掲げる理想は、まさに机上の空論。
その中核を成すのが、『クローン兵』だった。
「――以上がご報告となります。何か、気になる点はございましたか?」
伝えるべき内容は、全て話した。【繫栄実験室】にいる、異形と少女のこと。
電話向こうの相手は沈黙を貫くばかりで、切るに切れない。
「ごほん。カブラギ様、なければこれで定期報告は終了させていただきます――」
「その異形は、どういう姿をしている?」
ぼそぼそ、としわがれた声で問う。
(そんなことが気になるのか? 醜悪であろうとも遺伝子は優秀かもしれない、と心配しているのか)
など、と内心を漏らすわけにもいかず、答えに詰まる。
「人間の形はしていたのだろうな?」
壮年の男が答えないからか、カブラギは問い詰めるような口調で言う。
「っええ、もちろん。見た目は醜悪そのものですが遺伝子は優秀だと思いますよ」
一瞬の戸惑い。
先ほど会ったばかりだと言うのに、ぼんやりとしか思い出せない。
「ふむ。では、子を楽しみにしている。その時はオスとメスの番と共に、私の研究室まで来るといい。状態は然程、気にはならん。最悪、胎児でも構わない」
そう言い残し、通話は終了する。
壮年の男は、携帯電話を静かに執務机の上に置く。
「餌に……いや、同室のクローンに組み込まれている情動制御ユニットを起動させた方が怪しまれないか」
脳内に出力される情報を基に、秘書へ伝える。
彼女は、一度だけ頷く。すぐに執務室を後にしていく。
「念には念を、か」
――4章 上 白苑編 開幕