―続き
執務も終わり、芙二は執務室を後にしようとした。芙二が書類仕事をしてる間、一度も端末には反応がなかった。元帥閣下の秘書は大変なのだなと勝手に思った。が、思いが通じてしまったのか端末から着信音が鳴った。端末を手に取り、出ようと画面を見た時固まった。
それは大鳳ではなく『非通知』と表示されていた。この時、いたずら電話か間違い電話を想像した。ここが軍と知っていていたずらに電話を掛けるバカなどおらぬだろうと思った。
であれば、後者か。間違い電話ならあり得えないわけではないが……一度出て人違いと伝えようと通話を開始した。開口一番、聞かされたのは驚くべきことだった。
芙二「こちら、東第一泊地 芙二です。どちら様……」
??『こちら、東第二鎮守府 音宮です。芙二提督殿の端末で間違いはないでしょうか?』
『え』と声が漏れる。相手はついこの間会った東第二の提督、音宮だったのだ。芙二からの返答がないので聞こえていないのかと思い、もう一度聞いてきた。
音宮『芙二提督殿の端「えぇ、そうです。えっと、初めまして音宮提督殿」……そうですか。初めまして、芙二提督殿。突然の連絡、失礼しました。今回は芙二提督殿に自己紹介をと思いまして……』
芙二「えっと、音宮 陽菜さんであってますか? 秘書艦は漣で『えぇ合ってます。一つ、聞きますがどこかで会いましたか?』え?」
バレたか? 最近あったし、しかも名前が同じという事で聞いてきてるのだろうとすぐに分かった。ここはシラを切ろうと思い『いいえ、会ってないです。これが初めてです』と音宮に言い聞かせた。
音宮『なるほど……すみません。こちらの勘違いのようでした』
芙二「いえ、お気になさらず。こちらこそ、自己紹介が遅れてしまい申し訳ございません。何分、現在もそうですが少々立ちこんでまして」
音宮『ふむ。……そういえば着任七日で未知の姫級を倒した、と報告されたようですね。戦力も資材もほとんどない状態で良く被害をあまり出さず、勝利まで持って行った手腕は称賛に値します』
芙二「ははは、ありがとうございます。自分だけの力ではなくそれこそ艦娘達の力があってこそですよ。それと運が良かったのもあります」
音宮『それもあるでしょうけど、轟沈を出さなかったのは素晴らしい事ですよ。そんな謙遜しないでもっと自分を褒めてもいいのではないでしょうか?』
芙二「ありがとうございます。えっと用事はそれだけでしょうか?」
音宮『……そういえば、東第三の提督が鎮守府の活動を最低限にするらしいですね。なんでも神城提督と艦娘の身に何かあったのだとか。芙二提督殿は知ってましたか?』
芙二「いえ、知りませんでした。(良かった。上は許可してくれたのかな? 向こうも向こうで忙しそうだけど……今は休んでほしいな)」
音宮『そう。まぁ神城提督も命を削ってまでやっていたらしいですので、こうなる事は必然ですね。芙二提督殿も体調の管理はしっかりと。我々が倒れてはいざという時に大変ですから』
芙二「ご忠告ありがとうございます。私と冷葉共々気をつけていきます」
音宮『そうしてもらえるとって言い方変だけど……え? 漣ちゃんと潮ちゃん? 今誰と話してるかって? それは東第一泊地の提督よ……ゴホン。会話中に失礼しました』
芙二「いえ、お気になさらず。では音宮提督殿、失礼します。これから工廠へ用事がありますので」
音宮『そうですか。では、今度
芙二「何ででしょうか。私達、東第一泊地は現在緊急の依頼で立て込んでおりますので」
音宮『いつでもいいですよ。演習の打ち合わせをしましょうよ。それでは失礼します』
ガチャと切れる音と共に通話は終了した。芙二は『はぁぁぁ』と溜息を漏らした。どこの誰が教えたか分からないが……まぁ大鳳さん辺りだろうな―……なんて思いながら部屋を出て厨房へ向かった。冷葉は今日、何を作るんだろうかなんて考えていた。
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夜になり、食堂には泊地内の艦娘が殆ど集まっていた。テーブルには夕飯が並べられており艦娘らは好きな席について駄弁っていた。
明石と大淀の姿が見えないなと思っているところに大淀が来て、芙二に『明石は医務室にて夕張さんを診ているので後で食事を二人分お願いします』と言った。芙二は頷く。
次に冷葉が『それじゃあ八崎さんは?』と聞くと霞が冷葉の方を見て口を開く。
霞「八崎さんからは“いつものように巡回するので皆さんは先にどうぞ”だって。私は伝えたわよ」
冷葉は“了解”と頷いた。それからして夕食は『いただきます』の挨拶で始まった。冷葉も食べ始めた時、芙二はあることを思い出したので食事をしてる皆に食べながらでいいから聞いてくれと言った。食事に夢中になる者は居たが駄弁っていた艦娘は中断し、芙二を見つめる。
芙二「明日からの予定が変わった。一週間ほど海域攻略はやらない。今日出撃した者は知ってるかもしれないが現在、南西諸島海域の一部にて海域異常が発見された。対処方は現在、究明中とのこと。それと現在ドロップ艦娘と思われる者を保護している。見かけたら良くしてやってほしい。出撃は近海哨戒のみとする。あと遠征はやらず、演習のみとする」
“予定変更”という言葉を耳にした艦娘らはざわざわしだす。艦娘らに伝えたいことはまだあったが芙二は話を一旦区切るが間髪いれずに川内が質問した。
川内「提督! 演習は夜戦行っていいの?」
芙二「川内。それは構わないが限度を考えてくれ」
川内「やったぁ! 叢雲ちゃん! 明日はよろしくね!」
叢雲「いいけれど……時間が合うかしら?」
なにやら川内と叢雲が話合ってるが、手を上げてる艦娘がいたので指名する。
指名された艦娘は立ち上がって話し出した。
陸奥「提督……その海域異常ってどんな? 提督が言うほどだから余程よね?」
芙二「今日、神通達が感じたことだが肌がピリピリするそうだ。それに集中力が削がれるらしい」
陸奥「肌がピリピリする? それはお肌のケア不足なのでは?」
芙二「バシー海峡の入口でそれだ。後は先ほど報告が上がったのだが、南西諸島海域 深部へ到達すると艤装になんらかの不調が生じていくらしい」
陸奥「不調? それはどんな?」
芙二「深部付近の海域は水の色が赤々としてるらしい。それでも不気味なのだが、進むと艤装が扱えなくなるとの事だ。深部以外だと身体的に不調をきたすが艤装までではないらしい」
報告など貰っていないが皆が納得するよう、事実をでっちあげる。嘘を真に受けた陸奥は深刻な顔つきで呟いた。
陸奥「つまり今の状態で付近へ近づくと艤装が使えなくなるのね。その状態で深海棲艦と遭遇したら……」
芙二「間違いなく中破、大破はする。最悪、轟沈は逃れられないだろうな。俺なしに考えるとだけどな。だから俺がいるからと安心して任せていいわけじゃないからな。……俺はあくまで最終手段」
陸奥と芙二の会話は一度終わる。食事をしてる者は箸をおき、芙二という手段はいつも使えないという事を知らされた。確かに自分ら以上の化け物でもあるが芙二の手がなんらかで塞がっていたら頼れないのだと当たり前を再認識させられた。
今はあまり深く考えないでほしいと伝えると所々夕食を再開させていった。
また別のテーブルから手が上がったので指名する。今度は朝潮のようだ。
朝潮「司令官。一ついいでしょうか」
芙二「あぁ構わん」
朝潮「明日の哨戒の開始時間を聞いてもいいでしょうか?」
芙二「そうさなぁ……冷葉。昼前の十一時くらいでいいか?」
冷葉「ズズ――(緑茶を啜る)……ん? あぁいいんじゃね? だとすると朝飯の時間は八時くらいでオッケー?」
芙二「という事だ。メンバーは後で練度を見て冷葉と決める。明日の朝、そこのホワイトボードに書いておくのでそれを確認してほしい」
朝潮「了解です! 答えてくれてありがとうございます」
ビシっ!と効果音が付きそうなほどの礼をする朝潮。席に座り夕食を再開させていった。
伝える事をほとんど言ったので芙二は冷葉に『後は任せるわ。皆のタイミング見て解散させて』と言い、一旦厨房へ戻る。自分と八崎の分はいいとして。明石と夕張の夕食を小皿に盛り付けてトレーに乗せる。
それらを見た冷葉が『医務室へ行くのか?』と聞く。
芙二「そりゃな。一応、俺と八崎さんの分は別に取ってあるからおかわりとか大丈夫だから」
冷葉「分かった。洗い物とかも俺に任せておけ。もし八崎さんが来たら、普通に夕食出しとくからな」
『その辺も任せた』といい、芙二は二人分の夕食が入ったトレーを持ち食堂を後にした。
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医務室にて
芙二はトレーを持ったまま室内にいるであろう明石に声を掛ける。
芙二「明石――いるか? 飯持ってきたんだけど、両手塞がってるから開けて―」
そう伝えたが『分かりました』といったやり取りもなく扉がガチャリと音を立てて開く。芙二は『ありがとうー』といいながら部屋に入る前に気がつく。扉を開けたのは明石ではなく現在、保護をしている夕張だった。
夕張は芙二を見るや否や無言で会釈をし、自分が寝ているだろうベッドに戻った。明石ではなく夕張が開けてくれたということに驚いたが平静を装いつつトレー机に置き夕張に話しかけた。
芙二「えっと、こんばんは。夕張。怪我は大丈夫?」
夕張「あ、はい。えっとあなたがここの提督で間違いないですか……?」
芙二「あぁうん。間違いない。改めて自己紹介を。俺は東第一泊地の現提督である芙二だ。短い間だがよろしく頼むよ」
夕張「えっと私は軽巡洋艦の夕張です。こちらこそ、よろしくお願いします」
改めて自己紹介をする二人は軽く礼をし合っているところに明石と妖精さんが訪れる。
夕張と妖精さんは目が合うと吃驚した顔をし、固まる。明石は妖精さんに『行っておいで』といい、夕張の元へ行かせる。芙二はそれを避けながら明石の方へ。
二人は互いに何か言ったきり、泣き始めた。あんな体験をして、尚無事に再開できたら嬉しいのだろうと芙二は思った。最近あった出来事の一つである、時雨と夕立のようだと思っていた。わんわんと泣きながら互いの再開を喜ぶ二人。
二人を見ているとき、隣の明石が小さな声で話しかける。
明石「昼間から何も食べてないので、二人には悪いけど頂いてもいいですか?」
芙二「あぁ構わないさ。あの空間を維持したいからお前さんの気配を薄くしておくよ」
明石「ありがとうございます、提督。おや? 今日は煮物なんですね」
芙二「まぁね。……っと。これで二人には気づかれないと思うから数時間振りの食事をどうぞ」
そういったら最後、明石はトレーの上の夕食を嬉しそうに食べ始めた。
未だ、互いの再開に泣きあってる二人を見ながら静かに考える。
芙二「(二人が出会った未知の存在について聞かないとな。トラウマを思い起こさせるかも知れないが……知ることが出来ればほぼ核心に近づける。サラの言う存在と合致するかは夕張にかかってる)」
響がかつて深海棲艦であった時に遭遇した存在についてはまだ保留だ。よくよく考えてみれば恐怖が形を作ったのかもしれないからだが……まぁサラの情報と会わせ、七割で同郷人の仕業だろうけど。バシー海峡での異常もそれの残滓みたいだと分かったし。いずれ対峙する存在についてもっと知っておかないと負ける可能性があることを否定できない。
(今現在の怨念結晶の数は9個。狂獄龍忌呪をフルに使うという事を念頭に入れると全然足りないが……今の状態で遭遇しないことを祈るばかり、か)
そんなことを考えている時、端末が着信音を奏でる。その音に芙二はドキッとした。流石に夕張も妖精さんも気がついたらしく芙二の方を見ていた。
芙二は『すまない』と短く言い、一度医務室をから廊下へ出る。まだ鳴り響く着信音に応答すると聞こえてきたのは大鳳の声だった。
大鳳『芙二提督殿。こんばんは。昼間、何か用でもありましたか? 今日は珍しく出撃していたので気がつきませんでした』
芙二「それはすみません。昼間、緊急の用事が出来たので一応報告しておきたかったのですが……今は大丈夫でしょうか?」
大鳳『えぇっと……はい。今は大丈夫です。それで緊急の用事とは何でしょうか?』
芙二「本日、昼過ぎ。バシー海峡攻略後、行方不明になっていた憲兵及びドロップ艦と思われる艦娘を保護しました」
大鳳『!! そのあとどうしましたか? その憲兵と艦娘はまだそちらに居ますか?』
芙二「いえ、憲兵は憲兵隊に大本営まで護送されました。艦娘の方は損傷が見られたので現在、うちで療養中です」
大鳳『分かりました。憲兵隊の方へは連絡感謝致します。その艦娘の名前を教えてくれませんか?』
芙二「艦娘名は軽巡洋艦 夕張です。後日、傷が癒え次第私と共にそちらへ向かおうかと考えています」
大鳳『分かりました。提督には伝えておきます。それ以外に何かありますか?』
芙二「はい。もう一つあります」
大鳳『それは何でしょう?』
芙二「今回、出撃させて分かったのですが……バシー海峡及びその付近で異常が見られました。異常の内容はやや深刻でして艦娘の航行が不可となる事態と一部の艤装が使えなくなる事態です」
大鳳『!! それは“やや“どころではないのでは? そんな状態では戦えないではないですか……少し待ってください。メモを取ります。これは早急に原因の究明をした方が……』
芙二「分かりました。準備が出来たら言ってください。続きを話しますので」
流石の情報量の多さに大鳳も驚いたように思った。芙二は嘘も混ぜつつ伝える。
一分ほどしてから再び大鳳の声が聞こえた。
大鳳『……準備が整いました。続きをお願いします』
芙二「了解しました。続きを話させて頂きます。これは出撃した艦娘から聞いた話なのですが、海域の異常によるものなのかは現段階では分かりませんが深海棲艦も適用されるそうですが……艦娘よりも影響を受けていたとのことです」
大鳳『? どういった感じに見えましたか?』
芙二「とても苦しそうな表情のまま動かなくなったそうです。そしてそのまま絶命したそうでその異常を目にした艦娘は戸惑いを隠せなかったと言ってました。絶命した深海棲艦らはそのまま沈んだという事です」
大鳳『……それがずっと続いてほし……いえ失礼しました。少なからず私達にも影響あるという事実だけでも見過ごせないですね。それだけですか?』
これ以上の事はないと思いたい大鳳であった。原因不明の現象は深海棲艦のみならず私達にも影響をもたらすのだ。早めに解決へ向かわないとどんどん広がっていくかもしれない。
大鳳はこの通話が終わったら即、提督の元へ行こうと思っていた。
芙二「はい。それだけです。夜分遅くに申し訳ありません。では、後日夕張と共に参りますので。それでは失礼します」
大鳳『はい。芙二提督殿も海域の異常がわかったらすぐに教えてください。ではおやすみなさい』
芙二は大鳳との通話を終えた。緊急性のあるものだけを伝えたのでホッと息を吐く。
そしてすぐに切り替えて次は夕張に聞こうと思い、医務室の扉をノックするのだった。
―続く