とある泊地に着任した提督のお話   作:ふじこれ

94 / 387
お気に入り増えたので投稿速度を上げました。
評価してくださいった方々ありがとうございます。


二章 56話『トラウマ』

 

―続き

 

 

 

 大鳳との話を終えた芙二は再び医務室内へ戻る。明石と夕張は持ってきた夕食を完食させていた。明石はともかく夕張に食欲があってよかったと思った芙二であった。

 

 二人から夕食の礼を言われたが、芙二は『当然のこと』をやったまで、と言ったが内心は嬉しく思っていた。彼女が遭難中にどんな食生活を送っていたかは想像に難くなかったのであの時の響に食べさせた物と似たような物を夕食に選んだのが良かったようだ。

 

芙二「さてと……」

 

 

 そう言って夕張の顔を見る。急に見られた夕張はドキリとさせ、自分が不安を募らせた。

 芙二が聞きたかったのは彼女を襲った未知の存在のことだった。断片的でいいから情報が欲しかった。七割済んでいるので残りの二割、いや一割ほど情報が必要だったからだ。

 

 この海域の何処かにいるのはすでに分かっているので肝心なのは姿、形だけだ。

 サラの話だと同郷人だと思うしかつて深海棲艦だった響を襲った存在も夕張を襲った存在も同じだと確信したいがためだった。あわよくば名前も知りたい。名前が判明したら葉月たちに聞けるからだ。

 

 

芙二「……」

 

 

 いざ、聞こうと思った時だった。今、ようやく落ち着いて来てる所にトラウマを思い起こさせるような真似をしてもいいのかどうか。まぁ最悪は彼女の記憶に干渉して直接覗けばいい話だが。今日聞いてしまうか、明日以降聞くかどうか悩んでいる時だった。さっきまで夕張と共に再会を喜んでいた妖精さんが芙二の頬を突く。

 

 芙二の表情は『(はてな)』となった時、妖精さんが口を開く。

 

 妖精さん『今日は辞めておいてあげてください。環境が変わって精神状態もあまりよろしくないですので。明日でも厳しいかもしれません……それと提督殿。彼女の前で正体を明かさないでいただけますか……彼女の眼にはあなたは“人間”として映っていますから』

 

 釘を刺された芙二は分かった、と頷いた。

 芙二が妖精さんと話しているところを見た夕張は明石に話しかける。

 

夕張「ねぇ芙二提督って妖精さんと話せるの?! 私達でも完全な意志疎通は難しいのに?!」

明石「えぇまぁ……提督も補佐も話せる方ですよ。おかげでまぁ指示が滞りなく行きますし。賑やかですよ。えぇ」

 

 提督だけではなく補佐も話せるという前代未聞の事実に驚きを隠せない夕張。

 

夕張「えぇ!! いいなぁ……ここって【夕張】はもう着任してるの?」

明石「いえ、まだですよ。ここは二週間前に出来たばっかなんですよ……」

 

夕張「出来たばっか!? じゃぁ私、配属先ここがいい! ……なんて難しいわよね」

明石「さぁ? 通るんじゃないですかね? 夕張さんみたいな艦娘はちらほらいますから。きっと皆さん良くしてくれますよ」

 

夕張「それに芙二提督が乗っている船なんて凄いじゃない!! あれはどういう原理で動いてるの? 一応()()()()ぜんっぜん分からなかったの!」

明石「あぁそれは――「明石、それはダメだ」すみません。そうでしたね」

 

 つい、明石が秘密を漏らしそうになったので芙二が制する。明石はすみません、と

 申し訳なさそうな顔をするが反対に夕張は食いついてくる。その様子を見て妖精さんは『この調子なら三日もすれば大丈夫なんじゃないでしょうかね?』と言ったまま何処かへ行った。確かに芙二もこの調子なら……なんて考えていた。

 

 

夕張「えぇなによぉ! 勿体ぶらず教えてよね~~!!」

芙二「悪いね、夕張。それは企業秘密なんだ。まぁここに配属が決まったら教えてあげてもいいかもね」

 

 

 左手の人差し指を立てて口元で『しぃ~~』とやったらベッドの上に起き上がってる夕張は目を輝かせて言った。

 

 

夕張「言ったわね!? 言質とったわよ!! ぜぇ~~ったいここを配属先に選ぶからね!」

明石「提督~~? いいんですか?」

 

 夜なのに元気な夕張を見て明石は呆れた眼差しを芙二に送る。芙二は『大丈夫だろ。その頃には』とのんきに返した。

 

明石「あ、ところで提督。夕張さんに話しがあるのでは?」

 

 

 

 そう明石が言ったが『いや今日は辞めようと思う』といい夕張にはまた明日朝飯を持ってくるからと伝える。もう一つ、『それと……』と言いかけるも何も言わず、明石と夕張に別れを告げて芙二は一人食堂へ戻った。

 

 

 明石は芙二の言いたいことに察しがつくが、夕張は分からないままであった。

 

 (提督……夕張さんの状態を分かってて聞くのなら覚悟をしてくださいね)

 

 

夕張「明石さん? どうしたの?」

明石「あぁ、いや明日は仕事が多そうだなって思ってただけですよ」

 

夕張「そうなの? あ、私も見学してもいい?」

明石「えぇ構いませんよ。でもその前に提督と話をしないとですね」

 

夕張「そうよね。(一応、施設中を出歩くもの。必要よね)」

明石「私は一度、工廠へ戻りますね。何かあったらこの妖精さんに声を掛けてください」

 

主砲妖精『私は主砲妖精! 夕張! よろしく!』

夕張「えぇ! 主砲妖精さん、よろしくね!」

 

 二人の様子を尻目にしながら明石は工廠へ戻った。しかし誤算は既に生じていたが気がつかないのだった。

 

 

 ========== 

 

 

 夕張が来てから二日目になった。昨夜、芙二と冷葉は日付が変わるギリギリまでローテーションの中身を話し合っていた。そして朝食をほとんど作り終え、各々で作業をしているとき冷葉はローテーションのメンバーをホワイト ボードに書いた。午前と午後で分けたのでまぁ大丈夫だろう。芙二は洗い物を済ませ、あとは配膳するだけとなった。

 

 冷葉に声を掛け、夕張用に朝食を別に作りまたトレーに置いた。それを届けに行ってくるのでしばらく任せると言って食堂を後にした。任された冷葉は手伝ってくれると言い出した妖精さんたちと共に配膳していくのだった。

 

 

 芙二は昨夜と同じく夕張のいる医務室へ行った。扉は既に開いてたので『失礼します~~』と言った緩い口調で入ったらそこには夕張だけがいた。聞いたところ明石はまだ来ていないのだという。芙二が声を掛けるまえに夕張が声を掛けた。

 

 

夕張「今日、明石さんの仕事の見学をしてもいい?」

芙二「構わないよ。でも危ないことはしないで」

 

夕張「ありがとうございます! それと――」

 

 許可を出してくれた芙二にもう一つ別のことを聞こうとしたのだが言葉が続かない。

 それは昨夜、明石が置いて行った主砲妖精が自慢するかのように言った事の真実を知りたかったのだ。

 

芙二「それと? なにかな、夕張」

夕張「ッ……! い、いえなんでもないです」

 

 芙二にはなんでもないと言い張った。が、夕張はこの疑問を吐き出したくて、吐き出したくて堪らなかった。なぜなら芙二は『人間ではない』という事を昨夜、聞いていたからだ。

 流石の夕張も最初は妖精さんが作った話の設定だと思ったが話を聞いて行くうちに自分が遭遇してしまった存在と何処か酷似していたからだ。

 

 目の前にいる好青年がまさかあの未知の存在と同じだとは思えなかった。だからさっき聞こうとしたが、もしもその話が真実だったら――と思うと聞けなかった。

 

芙二「まぁここに朝食置いて行くからさ。食べてね。それじゃ「私が食べ終わるまで居てくれませんか?」 ……え? まぁいいけどさ」

 

 食堂に戻ろうとする芙二を止める夕張。まぁ戻る時トレーを回収する手間が省けるかとのんきに考える芙二。夕張は芙二の持ってきた朝食に手を付け始める。

 

 

 もぐもぐと食べる夕張。たまに『なにこれ、なにこれ!』と初めての味に驚きながら食べ進めていく様を聞いていると作った甲斐があったというものだ。

 端末を弄りながら耳にした言葉はどれも“芙二特製の朝食”が絶賛されたのを確認したので内心は昨夜よりも喜んでいた。が、表情筋の一つも動かさずに黙々としていた。

 

 十五分ほどしたら、夕張も完食し芙二に礼を言った。芙二の表情筋は喜びのため崩壊寸前であったがなんとか持ちこたえる。ちょうど明石も来たので芙二は夕張を明石に丸投げして空になったトレーを持って食堂に戻った。

 

 丸投げされた明石は夕張の方を向いて一言。

 

明石「えっと、これから工廠へ行く?」

夕張「うん! 今日は一日よろしくね!」

 

 

 『こちらこそ、よろしく』と明石は言い、二人は工廠へ行った。

 

 ========

 

 工廠にて

 

 

 いつもの作業場についた明石は夕張に少し待つように言い作業場を後にする。

 明石が戻ってくるまで待機しているのだが出来てから二週間とは思えないほど作業に当たっている妖精たちの数の多さに驚く。

 

 夕張はドロップ艦であり、どこにも配属したことがないのだがこの多さは異常だという事はすぐに分かった。作業にひと段落ついたのか夕張を見てか妖精たちが集まってきた。

 

 次々に集まってくる妖精たちにどう対応していいか分からずにいると中から一際目立つ妖精が夕張に集まる妖精たちに何かを言い聞かせている様だった。何を話しているのかは分からないが、表情と所作で怒っていることが分かった。

 

 

 『作業の邪魔をしちゃったのかな』などと思っていると明石が戻ってきたようだ。明石の手には手すりが見えた。視線をやるとここの艦娘が使ったと思われる装備が入ったカートを引っ張りながら。ガラガラ、ガラガラと音を立てて自分の方へ歩いてくる。

 

 

 音に気がついた妖精たちは明石の方へ寄って行った。そしてまたなにか話しているようだった。明石の声しか聞こえない夕張であったが会話の所々に雑音が入っているような気がした。何か自分には聞かせてはいけない単語(モノ)でもあるのか、と疑問に思った。

 

 昨夜、芙二提督と話したことを思い出しながら考えていると『企業秘密』という単語に引っ掛かりを覚えた。夕張の中で合点がいった。

 

 (秘密の部分を濁して言ってるだけなんだ。そりゃ私は部外者だろうけど……そこまで楽しそうな表情をしなくてもいいじゃない)

 

 会話に入れない自分だけが仲間外れにされたような感じで寂しいと思っていた。明石と妖精さんの会話が終わるまで待っているのだった。

 

 

 =======

 

 

明石「夕張さん、お待たせって……何かあった? 拗ねてるように見えるけど」

夕張「私だけ会話に入れなくて寂しかったわけではないんですよ……!」

 

 明石が何かあった?と聞くほど表情に出ていたのだ。妖精たちとの会話が意外に盛り上がってしまったため夕張は十五分ほど置いてきぼりになっていた。表情は不満一色で、口を尖らせながら言った。見てくれは完全に拗ねてしまった少女と言ったところだ。

 

明石「あぁ……ごめんなさいね。ま、まぁ夕張さんもうち配属になったら少しは会話に入れますって!」

 

 拗ねている夕張にフォローを入れる明石。夕張は半信半疑の眼差しを明石へ送る。

 

夕張「本当ですか……? ここ配属になったら所々消えていた雑音も取れて聞き取りやすくなります?」

 

明石「!(提督が言っていたことは無事作用しているみたいですね。夕張さんがそれを聞けるようになるにはまだ当分先かもしれませんが――いや提督がうっかり話してしまうかもしれませんね)」

 

夕張「明石さん? 何かありました?」

明石「いぇ大したことでは……今日はやる事が多いなと思い出しただけです。夕張さんは兵装実験軽巡でもありますよね?」

 

夕張「え! ま、まぁ実際に扱ったことがないので分かりませんが……」

明石「でしたら私と共に試しにやってみませんか。昨日の出撃した皆さんの艤装でもいいですし、開発で出た艤装でもいいですよ」

 

夕張「それじゃあ……いくつかいいですか? と言っても私が出来る事なんて……明石さんはこれから何をするんですか?」

 

明石「あぁそれは艤装の修理ですよ。これから皆さんの艤装の耐久値を元に戻すんです。提督の能――いえおかげで結構早く済ませられるんですよ。といっても数時間はかかりますけど」

 

夕張「それでも凄い事じゃないですか……」

明石「私なんてそれくらいしか出来ないんですけどね。さて、とっととやってしまいましょ。私が手取り足取り教えますから」

 

 艤装の修理と兼用し、夕張にも艤装修理をレクチャーさせるという取り組みが開始された。明石は芙二の秘密を話しそうになった自分をしゃんとさせるのだった。

 

 

 ======

 

 

 時刻は午後六時。二人は作業に従事するあまり時間の感覚を忘れるほどだった。妖精たちも自分たちの仕事をしていたので声を掛けるという事はしてなかった。もし後一時間程で夕飯だと大淀が伝えに来なかったら夕飯の時間を過ごしていたかもしれない。

 

 明石は大淀に『ありがとう』と伝えると大淀は工廠を後にした。自分の作業に区切りをつけ、夕張の方を向いて声を掛ける。

 『今日はこの辺で切り上げよう』と言ったが余程、作業に集中しているのか全く聞こえない様だった。

 

明石『――!』

 

(何か聞こえる。次はここをこうして――……)

 

明石『……――りさ……!』

 

 (誰よ、一体……あ、出来た!」

 

明石「夕張さん! 終わりですよ!」

夕張「っ! あ、明石さん……? 終わり? 何がです?」

 

明石「今日の作業は終わりです。見た感じキリがいいようですし。一緒に上がりましょ?」

夕張「あ、時間は……「午後六時です」あっ……分かりました」

 

 片付けをしながら明石は夕張の出来を褒めていた。褒められた夕張はやや照れ臭そうにしながら軍手をつけたまま頬を掻いた。

 

 

 

 

 工廠を後にして先に明石の着替えを取りに行く。夕張の着替えはないので明石が貸し、その足で入渠施設へ向かった。夕飯前であるこの時間だったら誰かしらいるだろうと思った。

 

 汗も汚れも洗い流し、きれいさっぱりした二人はそのまま食堂へ向かい既に食べ始めていた艦娘らに自己紹介をし、共にした。その際にも芙二提督の話題が出たのだがどうも雑音が入っていて聞き取れない部分もあったが話に合わせていた。

 

 楽しい夕食の時間を終え冷葉が明日の予定を話し解散となった。夕張の頭の中にはどうも芙二が昨夜の妖精が話した通り、“人間ではなく別の存在である”という事がぐるぐると回っていた。もやもやしたまま、床について寝ようとするも寝れなかった。

 

 そのまま時間だけが経ち、深夜となった。うとうとしだしていた夕張は明日の朝、芙二に聞こうと思いそのまま就寝した。

 

 しかし夕張は心地よい眠りに就くことは出来なかった。芙二の秘密に触れようとした所為か、あるいはあの時の恐怖が蘇ったのか。彼女は悪夢を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 あの日の天気は普通だった。深海棲艦もおらず、穏やかな海だった。

 しかし穏やかな海は一変した。まるで嵐が来る直前みたいになり雨が降り出し、風も吹き荒れ始めた。夕張は危険を感じた為、必死になり何処か休めれる陸を探す間、次第に波が荒れ狂う海へと変わっていった。

 

 荒れ狂う波に対して航行を続けるのがやっとと言った感じになっていた時……それは現れた。

 

 空は暗くなっていくなかでもくっきりと分かるほどの存在感を以てして夕張の目の前に降臨した。夕張から見てとてつもなく巨大に見えるソレはスラリとした頭に山羊の角が二本生えており、手足は二本ずつあり胴は白銀の鱗に覆われていた。背には蝙蝠のような羽が白い羽が二対、計四枚生えていた。尾は長かった。

 

 芙二がもしその場にいたらそれなんてモン〇ンのモンスター?などと場違いな発言をしただろう。日本や中国の伝説に出てくる蛇に手足が生えた様な物ではなく、西洋に出てくる火を吹くドラゴンそのものだった。

 

 夕張の肩に乗っていた妖精は声を荒げて『逃げろ! あいつには敵わない!!』と言い出した。

 

 気圧されてしまった夕張は動けずにいた。深海棲艦とまともに遭遇したことがない身で未知の存在(怪物)には初めて遭った。

 圧倒的な存在感を放つそれに夕張は畏敬の念を持たざるを得なかった。が諦めて崇拝してしまうと囚われるような気がしたので主砲を構えた。

 

 耳元で妖精さんが煩い。『逃げろ! 逃げろ! 死ぬぞ!』と警告をし続ける。

 夕張は一か八かで倒そうとして目の前の巨大な怪物の胴体目掛けて中口径主砲を放つ。砲弾は直撃し、爆発音と煙を上げる。

 

 

 

怪物『グガァァ……ッガァ!!』

 

 目の前の怪物は悲鳴を上げる。夕張は効いてると思い、限界まで攻撃をしていたが初撃以降悲鳴を上げていないことに気付くのは限界寸前まで攻撃した後だった。

 

夕張「(カチン!) ……え? 弾切れ……!?」

 

 主砲のトリガーを何度も何度も引くもカチンカチンとしか音が鳴り、砲弾が出る事はなかった。

 自身への攻撃が止んだのか目の前の怪物は夕張の方を睨みつける。

 

夕張「!」

 

 睨みつけられた夕張は金縛りにあったような状態に遭い動けなくなった。そして一言、放った。

 

怪物『おかげで……目が覚めた。感謝するぞ、名もなき人間よ。しかし我の肉体に傷をつける事は許さぬ。……赦さぬ故、一撃で逝かせてやろう』

 

夕張「! な、しゃ、喋った……!?」

怪物『死ぬことが出来なければ、恐怖と共に我が名を世に知らしめよ。――我が名は■■■』

 

 言い終えると怪物から突如溢れる殺意の奔流に夕張は息をすることすらできなくなった。

 意識が飛びそうになるのを抑えていると、怪物は耳を塞ぎたくなるような空気を震わす咆哮を轟かせた。

 

 

(………………)

 

 

 そこで夕張の意識は途絶え――海に引きずり込まれるような感覚に陥った。必死に手を伸ばしていると誰かに捕まれた感触がしたので夕張は目を覚ます。

 

 夕張が療養していた医務室の明かりはついており、大量の汗を掻いたのか服は色が濃くなっていた。しかし誰も手を掴んではおらず、彼女の腕は宙へ向けて伸びているだけだった。 

 宙へ伸ばした腕を引っ込めつつ起き上がる時、横から声が聞こえた。顔を向けるとそこには妖精さんと明石、芙二が視界に入った。

 

 

 明石と妖精の表情は心配している感じであった。が、芙二の表情は心配している風でもなく夕張をじっと見て何か考えているように見えた。

 

 

明石「夕張さん! 大丈夫ですか!? まずは深呼吸して息を整え……? どうかしたんですか?」

妖精さん「明石! きっと()()()()()()を……」

 

 明石は心配そうに声を掛ける。しかし妖精さんの言葉でさっきまで見ていた夢がフラバする。

 呼吸が穏やかになり、落ち着いてきた夕張の表情は青褪め、がちがちと奥歯を鳴らせる。それらを見ていた芙二は直接聞くのではなく、記憶に干渉しようと思うのだった。

 そうすればきっと夕張の心へさらに傷を負わせることはない、と確信したからだ。

 

 芙二は一度席を外し、明石と妖精さんに任せようとした時だ。夕張が大声を上げ芙二を呼び止めた。

 

夕張「芙二提督ッ!! お願い、行かないでッ!!………お願い、だから……

 

 その声を聞いた明石も妖精さんもびっくりする。芙二は『分かった』と短く頷き、室内に留まった。夕張は質問するか、否かを決めあぐねていた。

 

夕張「…………」

 

 芙二と明石は脳内で会話をしだす。妖精さんは夕張の傍へ行きずっと声を掛けていた。

 

明石『……夕張さん、どうかしたんですかね?』

芙二『さぁね。叫んでいた内容から察するにフラバでもしたんでしょうよ。直接聞くんじゃなくて記憶に干渉してしまうけど大丈夫? 大丈夫よね?』 

 

明石『どうでしょうね。ただ直接聞かないのはいい案だと思います』

芙二『夕張には悪いけども……お詫びと言ってもあれだけど能力使ってトラウマを一時的に消してしまってもいいと思う?』

 

明石『それはダメだと思います。断言できませんが』

芙二『向き合わなければいけないって? 発狂しそうだったら確実に止めるよ』

 

明石『その辺は任せますよ。提督』

芙二『そだな。直接、奪ってもいいかもしれないけど……』

 

 後で芙二は夕張の記憶に干渉することを決めた。明石には夕張を見守っていてくれと言おうとした時だった。黙っていた夕張が芙二を呼んだ。

 

 

夕張「……芙二提督……今、聞きたいことがあるんだけど………いい?」

芙二「いい、が大丈夫なのか?」

 

 まさか、と思った。このタイミングで芙二が避けようとしたことを自らで行うのかと。だから『気持ち的に』大丈夫なのかを聞いた。その意図を汲み取ったのか分からないが彼女の答えはこうだった。

 

夕張「あんまり大丈夫じゃないけど……今しかないと思うの、だから正直に答え、て」

 

 

 

 

 さっきまでとは違った表情で、違った眼つきで芙二に問う。これは言い逃れ出来ない感じだと悟った。同時にある意味で詰みだとも。

 

 

 

夕張「芙二提督は……――人間じゃないんでしょ?」

 

 

―続く

 




 南西諸島海域 のどこかに棲まうと思われてる 怪物

 一応具体的なイメージは説明したが元ネタは シャガルマガラ 遷悠種(当時)

真・狂竜化は多分しない……クロスオーバーとあるけどそこまで盛り込むかは不明
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。