中二病の魔法使い 作:休も
中二病…それは思春期の過ち。14歳頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを指す。
ルークスが、中二病になるきっかけ。それは、時折夢に出てくる老人だった。老人は、自身の名前をゲラートと名乗った。ゲラートは、彼と目を合わせると口元をゆがめ、不気味に嗤った。
「お前、自分が何者かわかっているのか?」
「さあな。大した興味はない」
「くはははは、これだけ大層なプロテクトがかかっていればそうか。まあ、いい。私が解いてやってもいいが、その内、忘却の呪文を打ち破れるようになればいいのだからな。」
「っていうか、あんたは誰だ?」
「人の夢に入り込んできたくせに、ふてぶてしいガキだな。………まあ、いい。久方ぶりに、退屈がまぎれそうだからな」
老人は、再びルークスに目を向ける。
「お前、魔法使いの存在を信じているか?」
これが、ルークスと偉大な魔法使いに負けた邪悪な魔法使いとのファーストコンタクトであり、ルークスが中二病が加速した最初のきっかけでもあった。
ルークスは人混みは嫌いだ。というか人が嫌いだった。欲深くあさましく、他人の感情を理解していない人間が嫌いだ。そして何より、自身の行いが理解できていないやつが何よりも許せなかった。
いっそ、この駅にいる人間全員金貨に変えてしまいたいくらいだとルークスは考えていた。
久々に来た駅の構内は、まさに迷宮だった。そしてその迷宮は人の海であふれていた。乗り換えのために移動する人々の流れがあちこちで錯綜し、そこに危険な渦が生まれる。どんな偉大な預言者をもってしても、そのような荒々しく逆巻く海を二つに分かつことは不可能だろうと感じるほどに。
しばらく流れ流されるままに漂っていると、ルークスはようやく、お目当ての9番線の表示を見つける。
「9と4分の3番線って………今どき帯分数なんて使わないぞ」
ルークスは、そう言いつつ手元の紙に目をやる。書かれているのは学校に行くための汽車までの案内図だ。キングス・クロス駅の9番線は存在しているが、4分の3番線なんて見当たらない。
「……煉瓦の壁に入れとか言ってたな………」
ルークスは、孤児院まで俺を迎えに来た先生が確かそんなことを言っていたなと思いだした。片っ端から煉瓦の壁を触っていく。近づいてなんとなく違和感を覚えた9番線と10番線の間にある煉瓦の壁の前で立ち止まる。
「ここくさいな」
ルークスが一歩踏み出すと案の定、体は煉瓦の壁をすり抜けた。思わずたたらを踏んで目を上げる。
ルークスの目の前には煙を吐く紅色の汽車が堂々たる姿で鎮座している。煙の下のホームでは魔法使いや魔女達が子供との別れを惜しみつつ汽車に乗せる姿がちらほら見えた。
「さて、俺は………いや、僕はルークス・クロックベルだ。よし、汽車に乗ろうか」
ルークスが口調を変えているのは
2両目も3両目も4両目もすでに満員で、窓から身を乗り出した子どもたちは親と別れの言葉を交わしている。ルークスは、やっと空いているコンパートメントを見つけたそこに腰を落ち着けた。手持ち無沙汰に窓の外を眺めると、楽しそうに会話をしている親子が見えて少し………羨ましいと感じていた。
「アデレッジ くっ付け」
ルークスは、誰かが入ってくるのは面倒だったので無理やり扉と壁をくっ付けた。これで誰も入ってこれはしないだろう。ルークスは、視線も鬱陶しいので窓ガラスを変身術でマジックミラーに変える。
「ここ、いいですかー?どこも一杯なんですよー」
その数分後、さも当たり前のように魔法を解きコンパートメントの扉を開けた二人の少女が現れた。セミロングの銀色の髪にアメジスト色の瞳。すらっと伸びた手足は魅惑的だと思われるのだろう。それは、銀色の少女だった。顔立ちは綺麗というよりも、可愛らしいと言った方がいいだろう。
もう一人は、ブロンドの髪にエメラルドの瞳を携えた少女だ。こちらも、銀髪の少女に負けず劣らず容姿が整っている。
「参考までにどうやって入ってきたか聞いてもいいかな?」
ルークスは、驚いたものの表情を動かさず問いかけた。
「?ああ、あの子供の遊びみたいな魔法ですか?誰かのいたずらかと思って解いちゃいました」
ルークスは唖然とした。
(こいつ、何の悪意もなく言い切りやがった。そりゃ、一部の魔法を除いてポンコツとは言われたけど、
グリンデルバルトと共に決して簡単ではない修練を積んだという自負があったからこそ、ルークスは余計に悔しく感じた。
いや、今の俺はミステリアスキャラ。映画の中の彼はこんなときどうしていた?冷静だったはずだ。そうだ、僕はこんなことでは動じない。自分に言い聞かせるルークス。
「………………どうぞ」
「ありがと」
「ありがとうございまーす」
そう言って二人は杖を使い、荷物を棚に運び席に着いた。浮遊の呪文は難易度が低いものの、入学前の生徒が使えるようなものではないと聞かされていたのだが、どうやら間違いだったらしい。
「僕の名前はルークス・クロックベル。君たちの名前を聞いてもいいかな?」
「私はアイリス。アイリス・オリバンダーです。よろしくです」
「シア・シャフィク。よろしく」
アイリスが銀髪を揺らしながら自己紹介をすると同時に、シアも名前を名乗った。ルークスは、二人の立ち振る舞いを見て、いいとこお嬢様のような気品を感じた。
そして、アイリスのファミリーネームを聞き違和感を覚えた。オリバンダー?杖を買った店と同じ名だ。もしかして、あそこの店主の娘なのだろうか?そういったルークスの疑問は、意外な形で解決する。
「想像通り、アイリスはオリバンダーの孫…だよ?」
今まで名前以外一言もしゃべらなかったシアが初めて言葉を紡いだ。ルークスは少し面食らったように、眉を動かした後いつものポーカーフェイスに戻る。意志が強そうなアイリスとは違い口数が少なく無害そうな印象を受けたが、どうやらそうでもないらしい。そう認識を改めるルークスのことを気にすることなく、シアは
「ナチュラルに人の心を読まないでほしいな」
「読んでないよ。あなたは閉心術使えるみたいだし」
「………」
おかしい。開心術が使われている感じもないのに、なんで閉心術のことが知られてるんだ。ルークスは疑問に悩まされていた。
そんなやり取りをしているとちょうど時計の針が12を示し、車内販売のおばさんがコンパートメントの戸をあけて顔を出した。魔法界のお菓子というものを初めて見たルークスは興奮をわずかに隠しきれていなかった。何種類ものお菓子を少しずつ買うという子供らしいのか大人らしいのかよく分からない買い物の仕方をしていた。
購入したものの中からチョコレートを取り出すルークスにシアは熱い視線を送っていた。正確に言えば、ルークスの持っているチョコにだが。
「チョコレート、おいしそう…だね」
「………………………」
ルークスは、あまりの脈絡のない会話に思考が飛びかける。え?なに?この子。チョコが欲しいのか?という思考がルークスの中を駆け巡る。同世代と友好的な付き合い方を全くしてこれなかったため、彼女の仕草が普通なのかそうではないのかルークスには判断できなかった。
「チョコレートが好きなのか?」
「うん、甘くて優しくてとっても美味しい」
「………欲しいのか?」
「え?くれるの?」
「ああ、気分じゃない」
ルークスは戦々恐々と蛙チョコをシアに渡した。シアは、持っていた本を膝の上に置き、袋を開封し同封されていたカードに見向きもせず、幸せそうにチョコをかじっている。
「あ!じゃあ、私ももらいますねー」
「いや、君にあげるとは言ってないけど」
「えー!?誰もが振り返り、ため息をこぼしてしまうほどの美貌を持つ私のお願いを聞いてくれないんですかー?美少女を餌付けするまたとない機会ですよ!」
自分で自分のことを美少女とかいうなとか餌付けって生々しい表現だなとかいろいろ言いたいことはあったが、これ以上キャラを崩すわけにはいかなかったルークスは言葉を飲み込み、ため息をついた。
「冗談だよ。どうぞ」
「やったー。ありがとうございまーす。あ、お返しにこれあげます!」
そう言って、アイリスは百味ビーンズを差し出した。カラフルすぎる彩りのビーンズ達。普通のキャンディーから、明らかに毒々しい色のものまであり、見たこともないそれらはルークスの好奇心を誘った。
ルークスは、その中の一つをとって口に放り込む。自己主張しすぎないおとなし目な香りながらも、噛んだ後は嫌悪感ある甘苦い風味を放つ。加齢臭、汗、夏の湿気などを連想させる複雑な味わい。
「まっず!?」
仮面が一瞬で剥がれ、ミステリアスキャラとして必要な余裕そうな雰囲気が掻き消えた。そんな、ルークスを見てアイリスはお腹を抱えて笑い出した。
「アハハハッ!それ!耳垢味ですね!最初からハズレを引くなんて付いてないですねー!まあ、なるべく変な味の奴を表面に並べておいたんですけど」
悶絶するルークスは、先ほど購入した飲み物を口に含みようやく復活した。
「なあ、もう一回チャレンジしたいんだけど貰ってもいいか?」
ニッコリとさわやかな笑みを浮かべるルークス。
「ええ、いいですよ。それにしても酔狂ですねって!おわぁ!待ってください!何をッ!?」
ルークスは百味ビーンズひと掴みして、アイリスの口に突っ込んだ。アイリスの顔色が百面相のように変わっていく。コンパートメントの中で、ドッタンバッタンと黒髪の少年と銀髪の少女が取っ組み合いを始める。二人とも、出会った当初の面影はなく、完全11歳らしい子供の側面をさらけ出していた。
ルークスが、アイリスに恨み言を吐いてその口に百味ビーンズを袋ごと突っ込もうとしていると、シアが唐突に二人の間に何かを差し出した。
「?なんだ、これ?」
仮面が完璧にはがれたルークスは、素の反応をさらけ出していた。
「この人がダンブルドアなんだよ。これから行くところの校長先生。見たことある?」
そう言って、アイリスはルークスにカードを差し出し笑った。それは、先ほどシアが開封していた蛙チョコに同封されていたカードだった。
ルークスは、この魔法使いのことをよく知っていた。そして説明文に出てくる人物のこともよく知っていた。
「グリンデルバルド………」
「おや?ってきり、反応からマグル生まれだと思っていたんですけど、知ってるんですか?っていうかそっちが気になるんですか?」
「ああ、よく知ってる」
そう話すルークスの表情は、二人に出会う前の様に冷たい演じられた仮面をかぶっていた。
列車を降りると時間と天候の関係で薄暗くなっているホームに、大きなカンテラで照らされた巨体の男がいるのが見て取れた。他の生徒の様子を見るに、あの男についていけばいいのだろう。ルークス達ははそう判断して、生徒の流れに乗った。
ボートに乗ってしばらくするとホグワーツの全貌が見え始めた。ルークスを含めた新入生たちが一斉に歓声をあげる。夜の闇の中に建つ壮大な城は、この場にいる全ての新入生たちが待ち望んだ学校だ。ホグワーツ城は圧倒的な迫力で、新入生たちを魅了していた。
ホグワーツ城の玄関ホールに辿りつくと、そこには歳のいった魔女がいた。
「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」
「ご苦労様です、ハグリッド。ここからは私が預かりましょう」
ルークス達は、マクゴナガルと呼ばれた魔女に案内され、ホールの隅にある、小さな空き部屋に連れて行かれた。辺りを見回すと、生徒たちは不安と緊張でそわそわしていた。
「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」
マクゴナガルが挨拶を始め、室内が静かになった。
「新入生の歓迎会が間もなく始まります。ですがその前に、皆さんが入る寮を決めなければなりません。組分けはとても大事な儀式です。ホグワーツにいる間、同じ寮生は家族も同然のものになります。寮生と共に学び、眠るのです。自由時間も、寮の談話室で過ごすことになります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン。これらの4つの寮のうち、1つに所属してもらいます。どの寮に入るにせよ、皆さん一人ひとりが、寮にとって誇りとなるよう望みます」
マクゴナガルはいったん演説を区切り、辺りを見回す。
「まもなく、全校列席の前で組分けの儀式が始まります。待っている間、出来るだけ身なりを整えておきなさい。準備ができ次第戻ってきます」
マクゴナガルが部屋を出ていくと、部屋全体がまたそわそわし始める。
「ルークスは、どこの寮に入りたいですか?」
アイリスは、ルークスに問いかける。
「今のところ寮の特色がわからに事には何とも言えないな」
「うーん………私もよく分かってはいないんですけど、正義を重んじるのがグリフィンドールで、誠実なのがパッフルパフ、勤勉なのがレイブンクローで、狡猾で手段を選ばないのがスリザリンらしいですよ?闇の魔法使いを大量に排出しているのが、スリザリンらしいですよ」
アイリスの言葉を聞き、ルークスは考える。結果、どこの寮も自分と合っているとは思わなかった。ただ、グリンデルバルトの弟子という立場でいえば、スリザリンが一番似合っているだろう。ルークスがそう考えていると、マクゴナガルが戻ってくる。
マクゴナガルは新入生諸君を1列に並ばせ、大広間に連れていく。そこは壮大な場所で、孤児院で育ったルークスだけでなく、新入生全体を感嘆させた。何千という蝋燭が空中に浮かび、広大な室内を照らす。4つの長テーブルには寮別に在校生が座り、拍手で新入生を歓迎した。上座にはもう1つテーブルがあり、教師の面々が座っている。ルークスが、天井を見上げると、そこには一面に広がる夜空が映し出されていた。マクゴナガルは新入生の前に4本足のスツールを置き、その上にみすぼらしい帽子を置いた。
その帽子はピクピクと動きだし、つばの縁の裂け目がまるで口のように開いて歌い出した。その内容は、4つの寮の特色を示したものだった。
『私はきれいじゃないけれど人は見かけによらぬもの。私をしのぐ賢い帽子。あるなら私は身を引こう。山高帽子は真っ黒だ。シルクハットはすらりと高い。私はホグワーツ組み分け帽子。私は彼らの上をいく。君の頭に隠れたものを。組み分け帽子はお見通し。かぶれば君に教えよう。君が行くべき寮の名を
グリフィンドールに行くならば
優希ある者住まう寮
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール
ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない
古き賢きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るだろう
スリザリンではもしかして
君はまことの友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ
かぶってごらん!恐れずに!興奮せずに、お任せを!君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)だって私は考える帽子!』
歌い終わると順番に名前を呼ばれる。ちょうど中盤ぐらいで、ルークスは名前を呼ばれた。
「ルークス・クロックベル!」
ルークスは、前に足を向ける。その瞬間、あれほどの喧騒が嘘のように収まり広間が静まり返った。ゆっくりとした足取りで椅子に向かうその少年から、何故か誰もが目を離せないのだ。コツン、コツン、と歩くその音がやけにハッキリと響き、その洗練された動作の一つ一つが見る者を釘付けにする。ルークスの被る仮面は、限りなく完璧に近いものだ。やや、方向性がねじ曲がり中二病というフレーバーが加わっているものの、仮面をかぶり誰かを演じるという行為は、ルークスの処世術だったからだ。仮面をかぶりなおしたルークスは、圧倒的なオーラを醸し出していた。全員がルークスの発する異様な雰囲気に呑まれてしまっている。
椅子に置いてある帽子を手に取り、ルークスはそっと腰を下ろす。帽子が大きすぎて目に被りそうになったため、位置を調整し、まともに被れるようにする。すると、頭に声が響いてきた。
《閉心術を解除してもらえんか?》
(断る。ある人物との約束なんだ)
《私は君を組み分ける帽子だ。閉心術を解いてもらえなければどうすることもできない》
(こじ開けてみればいいじゃないか)
《………信じられないことだが、私では到底解くことのできない閉心術の強度なのだ。それこそ、私を創ったゴドリック様でさえ》
(………僕…いや、俺は目的のためなら手段を選ばないだろう。そして、自分の理念を捻じ曲げることは決してない。誰が相手でもだ)
《…どんな手を使ってでも勝利という唯一を叩き出せればそれでいいというその狡猾さは、スリザリン寄りだ。そして自分より強大な者へ媚びず立ち向かうという気高さはグリフィンドール向きでもあるのだ。であるなら、スリザリンかグリフィンドールを勧めよう》
(だが、傲慢な愚か者は好きじゃないし、自身の正義感を信じ切っているやつも嫌いだ)
《フム、ではレイブンクローはどうかね?》
(知識のみを盲信し他者を見下すやつは足元をすくわれる)
《では………》
(ああ、消去法でハッフルパフだ)
《ハッフルパフ!》
ルークスは、帽子を脱いでハッフルパフのテーブルへ向かうと、他の生徒に送られたのと同じくらいの拍手で迎えられる。しかし、一部の生徒は顔が強張っており、警戒心が見える。
「ようこそ!ハッフルパフへ」
監督性を名乗る生徒に出迎えられ、ルークスは腰を下ろす。
「ああ、ありがとう。先輩。ただ、僕にはあまり関わらない方が良い。長く生きたいのならね」
そう言って、ルークスは監督生との会話を打ち切る。
ルークスが組み分け帽子に視線を向けると、ちょうど知っている名前が呼ばれたところだった。
「アイリス・オリバンダー!」
アイリスの上品な歩き方と、品格ある美しさに、男子生徒たちは見惚れていた。
《ハッフルパフ!》
ルークスはその組み分けに驚いていた。てっきり、グリフィンドールかスリザリンに行くのかと思っていたのだ。
「シア・シャフィク!」
《レイブンクロー!》
その言葉を聞き、ルークスはわずかに頭を痛めた。アイリスとはどうやら、何かと縁があるようだ。できればシアの方がよかった………。ルークスには素を見せてしまったアイリスに対して仮面をかぶって接する自信がなかった。こちらに笑顔で歩いてくるアイリスを見ながら、そんな予感に苛まれていた。
ダンブルドアは頭を痛めていた。その原因は、今年入学してきたルークス・クロックベルという一人の生徒だった。組み分け帽子が組み分けを行うのに20分を要した時点で嫌な予感はしていたものの、ダンブルドアは杞憂だと思いその場では流した。
しかし、驚いたことにルークスは入学したその日に校長室に忍び込んだのだ。ダンブルドアは杖を一振りして椅子と、湯気の立つココアの入ったマグカップを出した。ルークスは遠慮なく腰掛け、マグカップを両手で抱え込んだ。肖像画の魔法使いたちは再び寝入ったが、彼らの耳は遠慮なく会話を聞くつもりであった。
「入学初日の深夜に、寮から校長室まで誰にも見つからずに来れた生徒は、わしの校長人生で初めてじゃよ」
「あの人と因縁があるあなたにはご挨拶しておこうと思いまして。僕の名前は、ルークス・クロックベル。以後お見知りおきを」
ニッコリとそしてゆっくりとお辞儀をするルークス。その仕草と雰囲気はかつての生徒を彷彿とさせた。
「何のことを言っているかわからないでしょう?ですから、簡潔に言いましょう。僕はより
「ッ!」
ダンブルドアは、僅かな躊躇いも抱かず開心術を掛けた。杖を使わない開心術。不意打ちかつ偉大な魔法使いの開心術だ。しかし、ルークスは一瞬でそれを弾いてみせた。ダンブルドアは驚かなかった。予感していた。
「乱暴ですね。1年生に開心術とは」
「わしの開心術を弾くことのできる閉心術の使い手は稀なはずなのじゃがな」
「では僕は優秀ということでしょう」
若かりし頃の過ち。死の秘宝。親友との決別。それらがいっぺんに脳裏を掠め、胸いっぱいになる。若き魔法使いたちの傲慢に対する代償はあまりにも大きかった。
「君は、ゲラード・グリンデルバルドを知っておるかね?」
「ええ、校長が叩き潰した魔法使いですね」
「…そうじゃ。わしがあやつを………」
視線を下げるダンブルドアを見て、ルークスはその場に居づらくなったため早々に立ち上がった。元々、師匠に言われなければこんな意地悪なことを言うつもりもなかったのだ。当事者の口から昔のことを聞いてみたいという好奇心はあるが、こんな顔をしている老人に聞くつもりはなかった。
「今日はご挨拶だけのつもりでしたので、僕は寮に戻ります。それでは」
ルークスは、そう言って足早に校長室を出る。しかしローブを翻すしぐさだけは忘れなかった。