中二病の魔法使い 作:休も
ルークスは校長室に呼び出されていた。部屋にはダンブルドア、スネイプ、マクゴナガル、スプラウト、フィリウス・フリットウィックとそうそうたる面々がそろっていた。
ルークスはダンブルドアから目を離して、後ろの肖像画達を見た。今日の肖像画達はルークスとダンブルドアの方を向いたり、寝ていたり、隣の肖像画と喋ったりと様々だった。ただ一人、ルークスに視線を注ぎ続ける肖像画がいる。マグル出身であるルークスにはそれが誰なのか見当もつかなかった。
「して、ルークス。君は、スリザリン生から集団で暴行を受けていたレイブンクローの一年生ミス・レーセルを発見し、助けに入った。その結果、スリザリン生から攻撃を受けたため自衛の一環として反撃を行った。そういうことなんじゃな?」
探るようなダンブルドアとスネイプの目線がルークスを捉えたが、ルークスの閉心術を破ることはかなわず何も読み取ることはできなかったようだった。
感受の呪いは、相手が自身に向ける敵意や憎悪、殺意などの負の感情のみを感知するという魔法だ。故に、ルークスにはこの場で自分に負の感情を向けていいないのはスプラウトとフィリウスだけだと理解していた。他の人間は大なり小なりルークスに対していい感情を持っていなかった。
ダンブルドアは疑念と警戒を。マクゴナガルも疑念を。スネイプはわずかな恐怖と疑念と形容しがたいもやもやした何かを向けている。
しかしルークスにはダンブルドアがどの程度自分を警戒しているかわからなかった。間違いなく、自分に警戒心を持っていることは感じているのだが度合いがよく分からなかった。
正直、ルークスとしてはあの日の夜の言動はグリンデルバルトへの義理立てでしかないため、忘れてほしいのだが、それは困難であることはわかりきっている。テンションといたずら心に負けた自分も悪いため諦めている。
「はい、もし信じられないのでしたら真実薬でも飲みましょうか?」
「滅多なことをいうものではありません!」
「そうじゃな。真実薬を生徒に使うことは許されざることじゃ」
真実薬は3滴ほど飲ませるだけで、その人物が持っている秘密をすべて話させることができる、一種の自白薬である。しかしその効力の強さゆえか生徒への使用は厳禁らしい。ダンブルドアとマクゴナガルの言動から推測した。ルークスは、事前に聞いていたダンブルドアと言う人物の性格的乖離に違和感を覚えた。
「マダム・ボンフリーに確認は取れておる。ミス・レーセルが怪我を負っていたことは事実じゃった。加えて、彼女の証言と君の証言に乖離はない。わしも君が彼女を助けたということは疑ってはおらん。本来であれば、ハッフルパフに点数を上げるところじゃ。しかし―――」
「しかし、我輩はしかとこの眼で見ていたぞ。ミスター・クロックベル。君が我が寮の生徒を魔法で焼いているのを」
ダンブルドアの言葉を引き継ぐようにスネイプはルークスに詰め寄った。
「呪文の発音ミスですよ。本当は失神呪文の反対呪文を掛けようとしていました」
「ほう。なるほど一年生であれば呪文の発音ミスはあり得るであろう。だが、君に限って言えばあまりにも不自然だ。我輩の認識が正しければ君はすでに一年生レベルではない。失神呪文を使いこなし、上級生数人を一人で制圧してしまえるような人間が基礎的な呪文の発音ミスを犯すとは到底考えられぬことだと思うのだがね?それを抜いても君の行動は明らかに過剰防衛だ」
また視線がかち合って、スネイプとルークスはお互いの顔を見た。スネイプはしきりに左腕を右手で触っていた。
ルークスは最後以外の自分の行動を悪いと思っていなかった。むしろ、あの程度で済ませてあげただけ感謝してほしいとまで思っている。
「発音ミスも
腕を大きく広げて演説するように理路整然と反論を繰り返すルークス。
ホグワーツの教授たちを前にしてもルークスは一瞬も怯むことはなかった。それは、あまりにもスネイプにとって非常に不気味に写った。何よりもその闇を孕んだ眼がかつての記憶を呼び起こさせていた。
「わしも証拠のために彼らの杖を調べることは考えておった。君自身がそう申し出てくれるのであれば、それでいいじゃろう。それで証言との乖離が出てこなければこの件に関してはスリザリン生の暴行事件として扱う。よいなセブルス」
「…………わかりました」
「では、ルークスよ。君は寮に戻りなさい。何かあればまた連絡する」
「そうですか。わかりました。失礼します」
次の日にはルークスの噂はホグワーツ中に知れ渡っていた。どうやら一連の騒動の目撃者がいたらしい。半信半疑といったものもいれば信じているものもいる。
朝ルークスが大広間に入ると一斉に視線を向けられた。スリザリン生が数人いなくなっており、騒いでいるため何かあったのは確実であるとみんな思っているらしかった。
「やあやあ、朝から人気者ですね!」
誰もが遠巻きに見ている中アイリスだけはルークスに話しかけに否、煽りに行った。
「ああ、そうだな。人気者になれてとてもうれしいよ」
自暴自棄に答えるルークスは椅子の座りテーブル上に並べられた各料理を、取り皿に取っていく。といっても、ホグワーツの朝食はパン、コーンフレーク、オートミール、卵料理、かぼちゃジュース、ベーコン、キッパーくらいしかない。
素早く取り終えたルークスは口調を戻してアイリスに質問を投げかける。
「それで?どういううわさが広まっているんですか?」
ルークスは正直うんざりしていた。周りから向けられる警戒と好奇心の視線を敏感に感じ取れるルークスにとって大広間は不愉快な場所でしかない。ルークスは、偏った才能と偏った環境、そしてネジくれた師のせいで凄まじいほど曲がった人格をしている。しかし、本質的には年相応なのだ。彼にとってこの場所はあまり良い場所ではなかった。
「そうですねー。色々ですけど………」
アイリスの話を聞く限り噂はだいたいは事実ではあったが、やはり脚色されておりルークスがスリザリン生を一方的に拷問していただの許されざる呪文を使っていただの根も葉もない話が出回っていた。上級生の間で主流なのはグリフィンドール生とスリザリン生の諍いに下級生が巻き込まれたというものだ。ルークスと接した時間が短かった生徒はルークスが一人で上級生を倒してしまったなどと思わなかった。
「って感じですかね。いや~魔法使いといえども人間ですからね。噂は好きなんでしょうね。………大丈夫そうですか?」
からかうような口調をやめてアイリスは少しトーンを変えて囁いた。
「大丈夫も何もただの噂だ。意気揚々と集団暴行をしていたバカを止めただけだ。俺は間違ったことなどしていない」
「…そーですか。まあいいですけど」
「おい!」
後ろを振り向くとスリザリン生が立っていた。ルークスは自身に放たれる強烈な敵意と嫉妬に思わず顔をしかめた。
「これはこれはスリザリン生がハッフルパフのテーブルに何の御用件ですか?」
「ッ!僕の名前はマーカス・フリント!クロックベル、お前に謝罪を要求しに来た」
「謝罪ですか?おかしなことを言いますね?どちらかといえば僕は被害者ですが?」
「なんだと!僕の後輩や先輩は君に手ひどい傷を受けている!それに呪われているものさえいるんだぞ!」
「だから?」
「は?」
「彼らの集団暴行の仲裁に入った僕は彼らから杖を向けられました。どれも一年生に使うには行き過ぎた魔法。ですが、僕は少しだけ自衛の術を知っていた。先輩は一年生に上級生相手に自衛をするのに加減するべきだと仰りたいのですか?」
ルークスは昨日の件でスリザリン生が嫌いになっていた。本人に聞けば、スリザリン事態を嫌ってはいないというだろうが、間違いなくいい印象を持っていない。だからこそ、大衆の目を引き演説するように声を上げる。これには事情説明も兼ねていた。しかし、それは裏目に出たと言っても過言ではないだろう。
「ッ!………フッ、それだけではないぞ!クロックベル。今朝、我らの仲間は病室から走り去る貴様を見たと言っていた。僕も見た。そして病室では!貴様にやられた我が寮の生徒たちが苦悶の表情を浮かべて倒れていたぞ!!!!貴様が呪ったんだろう!」
ルークスから見れば明らかに嘘であるとわかる。自分は先ほど起きてギリギリの準備を経てこの大広間に来ていたからだ。ルークスが夢遊病でもない限りあり得ないだろう。
「あ、私も見た」
「お、俺も」
「血相を変えて走るクロックベルを確かに見たな」
しかし、他の寮の生徒からそんな発言が出てくる。それはざわめきの中に。漂っているだけだったが、ルークスの耳には届いていた。
「杖を見れば僕が呪いなど掛けていないことがわかるだろう?」
「いや、使用されたのは魔法ではない。魔法薬の瓶が転がっていた。スネイプ先生から聞いたが、アレはお前が考案したものらしいな」
ルークスはこの流れを危険視していた。まず間違いなく濡れ衣であるが、証明してくれるのは同室にいるセドリックや他のルームメイトだけだ。証言としては弱いだろう。
「僕が寮の部屋で寝ていたことは同室の人間が証言してくれる。僕はやっていないと断言しよう」
「貴様を庇っていないという証拠がないだろう?」
「………」
「不思議なんですけど何で先生たちは事情を聴きに来ないのでしょうか?」
「は?」
すんでのところで助け船を出したのはアイリスだった。
「いえ、ですから先生たちが事情を聴きに来ない理由ですよ。先ほどの発言からフリントさんはスネイプ先生に事情を説明したのですよね?そうしたら、他の先生にも伝わる気がするんですけど。ほんとにスネイプ先生に確認を取ったのですか?」
アイリスの発言でフリントは言葉を失った。そしてルークスには冷静な思考力を取り戻させていた。
確かに、おかしい。先生たちが事情を知っていたのなら大広間で待っている成り誰かに伝言を頼むなりするはずだった。
「いや、間違いなくスネイプ先生には報告している。なんだったら、マダム・ボンフリーに聞いてくればいいだろ!?」
身に覚えのない目撃証言。持ち出された魔法薬。教師の不自然な動き。確認すべきことは多かった。
ルークスは結論を出す。
「ではとりあえず、事実確認も含めてスネイプ先生のところに行きましょう。僕には何の覚えもないので」
そう言ってルークスは椅子から立ち上がりテーブルから離れる。そして、逃げるように大広間から出ていった。
「あ、開心術を使えばよかった」
ルークスは深く後悔した。