中二病の魔法使い 作:休も
ルークスはマダム・ボンフリーから軽い治療を受けた後に、校長室に来ていた。ただし、今回はダンブルドアはおらずルークスとトンクスだけがいた。
「校長先生はスリザリンに事情聴取をしてから戻ってくるらしいわ」
「………」
トンクスの言葉はほぼルークスには届いていなかった。床に倒れているアイリスの姿と心配そうな表情をしているシアの姿がルークスを苛んでいた。普段表情をほぼ変えないシアの顔はかなり衝撃的だった。それは自分の愚かさと弱さの証明だった。
「あんたとスリザリン生、オリバンダーを遠ざけておきたかったのでしょうね。で、あんたと私がここに呼ばれたのも事情聴取のため」
「………」
「ハァ………あんたの考えてることを当ててあげましょか?『何でこうなったのか?』でしょ?」
「………」
呆れ顔で言い放ったトンクスにようやくルークスは聞く耳を持った。
「後悔したって結果は変わらないわよ。幸い、あの子は軽い脳震盪だったらしいし、6年生相手にあんたはよくやったわよ」
その慰めは痛いだけだった。ルークスは孤児院での日々を思い出していた。無力だった自分自身を。力を手に入れた後の自分の行動を。甘さは捨てなければならなかった。情けなど掛けてはいけない。敵を前にしたら油断などしてはいけない。そう簡単に気を許してはいけない。
何故ここまで自分が後悔しているのかわからない。だが、そんなことは関係なかった。やるべきことは変わらない。
(合理的に、自分の感情も駒の一つとして利用して見せろ。俺にはそれができる。そうでなければならない )
ルークスは顔を上げる。そして、射貫くような視線をトンクスに向けた。
「トンクス先輩」
「何かしら?」
「頼まれごとをしてくれませんか?」
その眼に何を見たのかはわからない。しかし、トンクスはルークスに歩み寄った。
「後輩の頼みだもの。聞いてあげたいけど、ものによるわね。スリザリン生を全員殺してこいとかは無理よ?」
茶化したような態度を取るトンクスにニヒルな笑みを浮かべてルークスは笑った。
「そんな現実的じゃないこと頼みませんよ」
現実味があったら頼んでいたのだろうかそんな思考が掠めたがトンクスは考えなかったことにした。
「実は———————」
言語化される作戦内容。それはトンクスの好奇心と危機感をくすぐった。
「あんた中々ギャンブラーね」
「返答は?」
「いいわ。乗ってあげる!」
「ありがとうございます」
トンクスとの会話の5分後にダンブルドアは帰ってきた、そして例のごとく事件の概要を聞き始めた。
「…事情はあらかたわかった。まず、重大な事故につながった戦闘を止めたミス・トンクスを称えて50点をハッフルパフに与える。よくやってくれた」
トンクスは何も言わなかった。点数を貰っても嬉しそうにしていないのは後輩の危機に間に合わなかったからだろうか?ルークスには推測しきれない。
「そして、ルークスよ。わしは君に謝らなければならないようだ」
ルークスは何となく察しがついていた。彼が、対応を遅らせたのは自分を警戒したからだと。
「少々、事態を軽く見ておった。ここまで早く事態が動くとは思わなかったのじゃ…目を曇らせておった」
ダンブルドアはルークスが考えていたよりもはるかに警戒心を持っていた。それは彼の親友の面影をちらつかせるからだけでなく、スネイプ同様トム・リドルの面影も感じさせたからだ。その結果がこの現状だ。
「それについて後悔するのは間違いですよ。あなたの警戒心は正しい」
「しかし、それを言い訳にしてはいけないのじゃ。わしは間違えてはならぬ」
「………では、この事態の収束に力を貸していただけませんか?」
「もちろんじゃ」
ダンブルドアの青い眼がルークスの瞳と交錯する。ルークスに開心術はかけられなかった。しかし、その眼から警戒心が消えることはなかった。だからこそルークスは信用した。
「頼み事は三つあります。一つは、複数人の先生を集めて今から言うことをスネイプ先生の研究室の薬品棚で確認してきてほしいこと」
「いいじゃろう」
「二つ目は、大広間に全寮の生徒を集めてほしいこと」
「夕食の後に時間を作ろう」
「三つ目は、僕がこの事件を収束させた後純血派の人間のちょっかいをできる限り軽減させてほしいことです」
「………それは非常に難しいことじゃ」
「知っています。あなたは偉大故に動けない。でも今回に限れば可能なはずです。少なくとも当事者たちの家を黙らせることは」
「…いいじゃろう」
「では、夕食で会いましょう」
大広間での夕食の時間が終盤に差し掛かったあたりで、ダンブルドア先生が立ち上がると、それまで騒がしかった大広間が静かになった。
「諸君、今夜何故時間に指定を受けて一斉に集められたのかを疑問に思うものも多いじゃろう」
ダンブルドアは全体を一瞥した後に続ける。
「ここ1週間である事件が起きた。痛ましい事件じゃ。わしらはこの事件を放置するわけにはいなかった。じゃが…わしよりも適した者がおる。少しの間、どうか彼の言葉に耳を傾けてもらいたい」
大広間にざわめきが広がる。
青い眼がハッフルパフのテーブルから見えた。オスカーは一瞬だけ、ダンブルドア先生と目が合った。
ルークスは、席を立った。その瞬間、あれほどの喧騒が嘘のように収まり広間が静まり返った。ゆっくりとした足取りで椅子に向かう少年から、何故か誰もが目を離せない。全員がルークスの発する異様な雰囲気に呑まれてしまっている。それは組み分けの儀式の焼き増しのようだった。
「お時間をいただきありがとうございます」
ルークスはダンブルドアがいた場所で立ち止まる。そして、くるりと前を向きニコリと笑みを浮かべてこう言い放った。
「僕はルークス・クロックベル。ハッフルパフの1年生です。本日お時間をいただいたのはこの馬鹿げた騒動を終わらせるためです。今宵、ここで隠された真実を暴きかけられた嫌疑を晴らし、ハッフルパフと僕自身の誇りを取り戻すことを約束しましょう」
そのセリフはとても彼らしい中二チックな言い回しだったが、彼の持つ魔性ともいえる空気が影響して様になっていた。
「何が隠された嫌疑だ。お前が我が寮の仲間に怪しげな薬を飲ませて呪ったのは事実だろう?」
逸早く反論したのはルークスに嫌疑をかけた本人、マーカス・フリントだった。その場から立ち上がり、ルーク同様全員の前に歩き出た。
「ですからそれが間違っていると言っているのですよ。マーカス・フリント」
ルークスは余裕を崩さない。口に張り付けた笑みも大げさな手ぶりもいつもと同じだ。
「それに、お前が病室から走り去るのを見た生徒が何人もいるんだぞ!!!!!」
「ポリジュース薬ですよ」
フロントの強い言葉をルークスは静謐な静かな声で切り裂いた。
「………何?」
「ダンブルドア先生と他数名の先生に確認してきてもらいました。地下の薬品棚からあるものがなくなっていました。しかし、スネイプ先生は使用していないそうです」
ダンブルドアを元とした教師たちは頷きをもって返答する。ダンブルドアだけはそれに次いで言葉を放つ。
「彼のいうことは本当じゃ。わしら自らが確認を行った」
ざわめきが広がる。一部の生徒はわかっているのだ。流れの変わる前兆を。多くの生徒は驚いているのだ。教師を味方に引き入れたように見える彼の手腕に。
「なくなっていたものはクサカゲロウ、ヒル、満月草、ニワヤナギ、二角獣の角の粉末、毒ツルヘビの皮。もうお判りでしょう?これらはすべてポリジュース薬の原料です!さらにとある魔法薬を作るための材料も減っていた。ピンときました。誰が使ったのかを」
ルークスは静かにしかし力強い声で言葉を放ち続ける。彼のセリフには、自信と確信が込められていた。
「これは1ヶ月前に僕がスネイプ先生の目の前で作成しその場で渡した『新人薬』です。スネイプ先生はこれをずっと保管していたそうですね?」
ルークスはダンブルドアから試験管を受け取り全員に視えるように空高く掲げた。
「さよう」
「何も手を加えていませんね?」
「………当たり前だ」
ルークスの問いかけにスネイプは短く肯定の言葉を吐いた。
「『新人薬』は見た目は生ける屍の水薬と非常に類似しています。材料はアスフォデルの球根の粉末、ニガヨモギ、カノコソウの根、催眠豆。そして、なくなっていたものもこれらと同じでした。つまりこれは生ける屍の水薬であると考えられます。そしてここにある薬品は僕が作ったものではないんですよ。スリザリン生が作ったものだ」
「言いがかかりだ!!!!」
空気が変わっていくのを肌で感じたのか、フリントは声を荒げルークスの言葉を何とか否定しようと喚く。
「では実際に誰かに飲んでもらいましょう」
「なに?」
誰もが驚愕する中、ルークスだけは当たり前のように続ける。
「もし、これが僕の作った薬であれば服用者はその場でのたうち回ることになるでしょう。しかし、生ける屍の水薬であれば静かに眠りに落ちるでしょう」
「誰がそんなものを飲むか!!!!!」
「私が飲みます!」
風鈴のようなそれなのにとても熱のこもったそんな声が大広間に広がる。
「何?」
その声の主はルークスが助けたレイブンクローの生徒、レーセルだった。この発言に一番驚愕したのは誰でもないルークスだった。本来はこの役割はトンクスに頼んでいたからだ。しかし、ルークスにとっては誰が飲んでも結末は同じむしろ都合がよかった。
「ミス・レーセル。本当にいいのですか?僕が言い出しておいてなんですが水薬は非常に強力な睡眠薬です。実害はありませんが、僕や君のような成長しきっていない生徒には聞き過ぎてしまうでしょう」
「構いません」
前に進み出来る彼女の足はかすかに震えていた。顔色だってよくはない。声も震えていた。本来こんな目立つことはしたくないのだろう。そうルークスは考えた。しかし、だからこそルークスは彼女に飲ませるのが効果的だと思った。彼女の様子を見て、やらせだと思う人間はそう多くないと考えたからだ。自己嫌悪を抱きながらも今回は顔に出すことはない。覚悟を決めて、ルークスは試験管をレーセルに渡した。
大勢が固唾をのんで見守る中、意を決して試験管をあおるレーセル。瞬間、意識を手放し崩れ落ちる彼女をルークスは急いで支えた。試験管の液体はほとんどが残っていた。どうやらかなりいい出来だったらしい。
「どうやら僕の推測が正しかったようですね」
ざわめきが広がる中、レーセルを先生に渡してフリントの目を見る。
「お前の———」
「ちなみに僕ではここまで鮮やかな生ける屍の水薬を作成することはできません。先輩はいい腕をしていらっしゃる」
「ッ!」
『お前が作ってすり替えたに違いない』そんな思考を先読みし、言葉にされる前にルークスは先手を打つ。その結果、レーセルは発言を先読みされたことで言葉を詰まらせる。しかし、負けじとレーセルは反論を絞り出した。
「下らない!!!!お前がスネイプ先生に隠れて『新人薬』を作っていたんだろう!!!!こんなものは証拠にはならない」
「薬品棚にある必要な材料は減っていませんでした」
「フッ、『新人薬』の材料は水薬とは違いホグワーツ周辺でも採取できるものばかりだ。そんな言い訳は通用しないぞ!」
ルークスは笑いをこらえるのに必死だった。こうまで鮮やかに引っかかってくれるとは思わなかったのである。
「なるほど、では見方を変えますか」
レーセルの方に向いていた体をくるりと回転させ、聴衆に視線を向けた。
「誰も違和感に思わなかったのですか?いえ、そんなことはないでしょう?ホグワーツの先輩方は非常に聡明で理知的だ。朝早くから通る必要のない医務室の前にタイミングよく各寮の生徒がいることに違和感を覚えた方は少なくないでしょう」
フリントの顔色が目に見えて変わる。それはここから起こることを予測できてしまったからだろうか。
「だから、その真相を実際に聞いてみようと思います。ね?———先輩方」
ルークスの視線の先、スリザリンを除く各寮のテーブル。そこには計8人の生徒が立っていた。
「ぼ、僕はスリザリン生に脅されていた」
「逆らえば魔法省での立場が怪しくなると脅しをかけられた…」
「私は杖を向けらたわ…」
「お、俺は!スリザリンにいる妹を人質に取られていた!」
これがアイリスがシアにお願いしていた頼みごとの成果だった。シアは、レイブンクローではかなり可愛がられているらしく、シアが事情を話し上級生を何人か巻き込んで説得してもらったらしい。ハッフルパフではトンクスが担当したらしい。グリフィンドールは謎だった。ルークスは感心していた。後は、トンクスに上級生たちにタイミングを計る合図を伝えておいてもらい、一斉に畳みかけた。
「な、な…クソッ!」
流れが確実に変わった。全員が全員信じるわけではないだろう。ここは曲者がそろうホグワーツだ。しかし、自分の寮の人間の発言を疑う人間はそこまでいない。頭ごなしに否定する人間は少数派だろう。彼らの発言は数日前の大広間での発言よりも感情がこもっていた。涙ぐんでいるものさえいる。
「ごめんなさい………」
「すまない………」
そう繰り返す彼らを見てルークスは優しく笑う。
「いえ、ここで証言してくださった先輩たちの勇気を僕は尊敬します」
ルークスは演じることが得意だった。だから、笑顔を作ること、わずかに声を震わせて感情が揺れ動いるように見せかけることもプロ顔負けのレベルでできる自信があった。そして、それは通用したと大広間の様子と生徒を見れば分かるだろう。
ルークスはわざと深呼吸をして、呼吸を整える。そして、追い打ちをかけるように問いかける。
「僕は許せない!ここまで卑劣な手を使うマークスフリントという男が!彼らの叫びを聞いて何が正しいと皆さんは思いますか!?」
「き、貴様が彼らを脅したんだろう!!!!こんな証言は無効だ」
もはや憐れなほどに、錯乱しているのではないかと思えるほど、顔色を百面相させるフリントのその言葉をルークスは待っていた。
「なるほど、一理ありますね。ですが、それはそちらにも言えること。証人の証言を無効と言い張るのであれば、貴方が僕に賭けた嫌疑も無効になると思いますよ?」
この主張は必要な一手だったからだ。
「僕の主張にも先輩の主張にも決定的な証拠など今まではなかったのですから」
「い、今まで?」
「まだ気が付かないのですか?あなたは貴方の主張の中では絶対に知り得ない情報を口にしたのですよ」
「何を………」
「いったい
「ッ!!!!?」
フリントのは顔を引きつらせて言葉を失った。
「それは本来、スネイプ先生と僕しか知らない情報ですが、先生が教えたのですか?」
スネイプはなにも語らない。それは肯定しているのと何ら変わりはなかった。
「だ、そうですが。先輩」
「あ、ああ………ちがっ」
「違わない!貴方は僕に濡れ衣を着せ、僕とその仲間を侮辱し僕の寮の誇りと
ルークスの鬼気迫るその叫びを受け、ほとんどの人間が息をのんだ。それは、ルークスが威圧の呪文を使っていたからだけではない。彼の感情が叩きつけられるのを多くの人間が感じたからだ。その発言には熱があった。今までで一番ルークスの魔が込められていた。魔を帯びたその言葉は執念深くフリントに獲り付く。
ルークスの発言には矛盾や間違いがある。実際、アイリスを襲ったのは彼ではない寮で謹慎しているグリッドだが、そんなことは関係なかった。そしてこの瞬間、フリントはスリザリンの寮からも後ろ指を指される存在となった。
悪行が暴かれてしまった以上彼に居場所はない。その証拠に、彼らは異常なほどおとなしかった。
今回のケースは、スリザリンのためではなくフリント本人の個人的な事情で行われた。さらにそのために同じ寮生に危害を加え嘘で煽り、まるでスリザリンの総意の様に振舞っていた。ここまで行くと、彼を庇うものは身内に甘いスリザリンといえども数えるほどしかいない。
何故なら、彼を見捨てたほうが彼らにダメージが少ないからだ。スリザリンは狡猾で冷徹。それを顕著に表していた。
そしてこの結末を狙って行動していたルークスの年齢に釣り合わない思考と容赦の中にトンクスは引いていた。
勝敗は決した。
敵意の矛先が塗り替わる。
疑惑の矛先が塗り替わる。
流れが変わった。
そもそも1年生相手に高圧的に吠える3年生という絵面自体がフリントにとって痛いハンデだった。
見事にルークスの策にハマったと言えるだろう。
フリントは沈黙していた。癇癪玉が顔で不完全燃焼を起こしていた。
「僕からの主張は以上です。判断は皆さまに任せようと思います。貴重な時間をいただきありがとうございました」
胸に手を当て片足を後ろに引きお辞儀をするルークスは この戦いの勝者は自分であると主張するかのように余裕の笑みを浮かべた。
ルークスのその言葉を受けダンブルドアは、立ち上がり左右を見渡した。
「皆の者時間を取らせてすまなかったの。じゃが、いつまでもいらぬ混乱を皆に与えるわけにもいかぬのでな。おのおの、考えはあるじゃろう。じゃが、結論を出さぬわけにはいかぬのじゃ。処分は明日各寮に通達が行くじゃろう。では以上じゃ、皆、解散の時間じゃ!夕食が残っているものは、かっこめ!!」
ダンブルドアのその言葉と共にルークスとフリントの暗闘は幕を閉じた。