百合だらけの世界で私は京太郎くんに愛を叫びたい   作:うどんではない

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 評価感想お気に入り、どうもありがとうございます……しかし今回早くも番外編を挟んでしまいました!
 あまり行うつもりはありませんが、これからも●が付いたお話は番外編とする予定ですー。
 今回は咲さん視点で語るお話となりますね。

 僅かでも読んでびっくりして、楽しんでいただけると嬉しいです!


●宮永咲は輪っかを作りたい

 

 私、宮永咲には愛おしいほど大好きな人が二人いる。

 京ちゃんに、百合ちゃん。彼彼女は男の子と、女の子。色の異なった、でもとても大切な私の想いの両天秤。

 

 京ちゃんは、優しいし格好いい。百合ちゃんは、意地悪だけど可愛い。大好きだ。

 でも、どっちの好きが私の本当なのだろう。異性愛も同性愛もどっちも当たり前な世の中だけれど、流石に両方っていうのはあんまり聞かない。

 好きと好きで迷ってふらふらとしていた私は、しかし次第に考えるようになった。

 

 また――――大切なものを手放していいのかな、って。

 

 目を瞑れば燃え盛る炎の中で、車輪ばかりがくるくると回って、私の無力を教える。ああ、もうこんな思いをするのは嫌だ。

 

 

「京ちゃん、百合ちゃん!」

「うおっ」

「咲、今日は嫌に元気ねー」

 

 だから、私はためらわない。二人の手をしっかり握って、もう離さないのだ。

 

 

 

「はぁ……」

 

 ため息を吐いてから、私は本に視線を落とす。

 文字の羅列に目を這わせていけば、自然と思考はそっちに向かっていく。すると落ち込んだ気持ちだって、次第に紛れていくのだ。

 放課後、外の風すら届かない図書室の静けさの中。そんな風にして、私はつまらない今と酷い過去を忘れるのだった。

 

 私には辛い思い出があった。多分、話せば憐れまれてしまうくらいに悲しいことを私は経験していたのだと思う。

 後には、家族の別居に、連絡一つも取れない姉妹関係という事実が残骸として横たわるばかり。

 

 そんなこんながあったから、私は少しばかり捻くれた。昔から本は好きだったけれど、中学に進学してからはもっとのめり込んだ。

 忘れるために。そしてもうあんな思いはしたくないと、大切なものを作らないよう孤独になって。

 でも、そんなことばかりをしていて楽しいわけがなかった。

 

「ふぅ」

 

 いくらそっちに意識を割いても、最後のページに辿り着いてしまえば、現実に帰る他にない。逃避のための読書が終わり、私は一息。

 間違いなく、面白かった。心から、この本を読んでよかったと思う。でも。

 

「お姉ちゃんなら、どういう感想を持つのかな?」

 

 思わず私はそう、呟いてしまう。一人ぼっちの読書には慣れてきた。でも、二人で一冊の本を読みあった、あのあたたかな過去のことを忘れることなんて出来ない。

 

「……寂しいよ」

 

 一人では、温もりが足りない。どうしたって、心が凍えてしまう。耐えられず、あえぐように私は頭を上げて。

 

「ふぅん」

 

 そして、青と目があった。深い深い、黒に近い海の底の色。それが、私を見つめる二つの瞳であると気づいた時、私は慌てた。

 

「きゃっ」

 

 思わず、椅子と一緒に後ろに下がる私。私はそのままガタリと本棚に椅子の背をぶつけて停まった。

 そんな私の反応を見た青色の主、小瀬川百合ちゃんは。美形のままにこりともせずに、こう言ったの。

 

「ごめん。私、本読むの苦手なのよ」

「え?」

 

 私は、思わずきょとんとなった。そうしたら、今度こそ彼女は私に優しく微笑んで。

 

「でも、貴女と一緒に居ることくらいは出来るわ」

「あ」

 

 そう言って、私に手を差し伸べてくれたのだった。

 

 

 でも、私はその日。百合ちゃんの手を取らなかった。もう大切なものは作らない。そうあの日の私は決めていたから。

 

「宮永さん……ったくそんな逃げなくてもいいじゃない」

 

 けれど、百合ちゃんは顔を見たら逃げ出そうとする私を放っておいてはくれなかった。

 彼女は、背中を向ければその都度私を追いかけた。

 

「こら。私が来たからって嫌な顔しない! ……図書室では静かに、っていうのは確り覚えたわ」

 

 そして、私の逃げ場にだって、私の威嚇――後で聞いたらむしろ可愛らしかったて言ってたなぁ――にも怖じずに割り込んでくる。

 うざったかったのは間違いない。でも、彼女が隣で本を読み始めるとすぐに聞こえ出す寝息を、私はもう嫌わなかった。

 

「はぁ。あいつらやってくれたわね、後でぶっ飛ばしてやるわ! おっと……ったく。あんたはそんな顔しないの。……折角宮永ったら可愛らしい顔してるんだから」

 

 決定的だったのは、抜きん出て美人さんな百合ちゃんを袖にしている私が嫌われて、意地悪をされた時。

 庇ってくれた百合ちゃんが私が浴びる筈だったバケツの水を被ることになってしまった時、私にそう言ってくれたこと。

 自分のせいだと泣きそうになった私に、百合ちゃんはびしょ濡れの自分を気することなく慮ってくれた。

 濡れそぼった彼女の手のひらは、冷たくて、温かかった。

 

 こんなに優しくして貰って、好きにならないなんて、嘘だ。そして、その日から私は百合ちゃんが大好きになった。

 

 

「咲って、どんな男の子がタイプ? 私はね……」

「……そんなのないよ」

「咲?」

「知らない」

 

 でも、鈍感な百合ちゃんは知らずに私の心に意地悪をしてくる。ちくちく、彼女は私の胸をくすぐるのだ。

 百合ちゃんが異性愛者であることは、大好きらしくて時々してくる恋バナでよく分かった。ただ、私はそれを認められなかったけれど。

 だとしたら、彼女が変わってくれなければ、私が結ばれることがないということだから。

 

「……あの、少し練習見てていい?」

「えっ?」

「ああ、別にいーぞ」

 

 そして、私は一人の男の子に積極的になり始めた百合ちゃんに焦りを覚えた。

 相手は、須賀京太郎という男子。私としては一人で部活を始めるなんて暑苦しいことをしてる子だな、といった感想だったけれど、百合ちゃんは違ったみたいだ。

 彼の部活動ともいえない一人でする運動を、百合ちゃんは見守り始めた。

 

「どうも、須賀くん」

「うう……」

「また来たのか?」

 

 そんなことを言って驚く彼を、私は百合ちゃんの後ろから恨みを込めて見つめるばかり。

 私は一人ぼっちの時間が長すぎたために自らの対人技能が下がっているのをひしひしと感じるのだった。

 

 でもまあ、そんな風にして百合ちゃんに付いて行って、その練習ぶりを見ていれば彼、京ちゃんの頑張りに人柄も分かってくるものだ。

 次第にすっかり京ちゃんに気を許してしまった私は、毎日彼を見守る百合ちゃんにこう零すのだった。

 

「須賀君も最近高久田君が入部してくれたけど、ボール片付けとか二人でするの大変そうだよね」

「そう? 何時も私達が手伝ってるから、そうでもないと思うけど」

「……制服姿の部外の人間が毎日部活手伝いしてる姿、すっごく目立ってるみたいだから私嫌なんだけど……いっそのこと、私達マネージャーにでもなっちゃう?」

 

 思いつきの、すぐに否定されるだろうと思って発したそんな言葉。けれども百合ちゃんはしばらく考えてから。

 

「なるほど……そうね!」

「え」

「ありがとう、咲!」

 

 そう言って去っていった。百合ちゃんは、担任の先生を一日で丸め込んで、ハンドボール部の正式発足からマネージャーの役割の詳細の設定に至るまで、あっという間に片付けていく。

 それを口をあんぐりさせながら見ている内に、私は知らない間にマネージャーその2として登録されていた。そして、百合ちゃんは笑顔で一緒に頑張りましょう、と私に言う。

 この日から、私は小豆色のジャージに親しむことになるのだった。

 

 やがて。京ちゃんの頑張りに感化されたのか、それともずば抜けた美人さんな百合ちゃんが所属している効果か、ハンドボール部の部員が順調に増えてきた時。

 百合ちゃんが風邪をひいて休んだことがあった。ごめんね、と電話越しで伝えてきた彼女に、すっかり人見知りが治っていた私は任せてと胸を張って返せたのをよく覚えている。

 

「ふぅ。これくらいでいいかな?」

「お疲れ、咲」

「京太郎君」

 

 でも、流石に二人でやっていたマネージング作業を一人で、というのは大変。すっかり日が落ちた中で、帰り支度をしている私に、京ちゃんが声をかけてきた。

 恋仇。けれども、好感が持てる相手に私の想いは複雑。そんな中、彼を拒絶しなくなったのは成長だったのだろうか。

 

「咲、お前もこっちだったよな?」

「そういえば、そうだね」

 

 会話は三々五々。私と京ちゃんは、二人並んで帰り道を歩き出した。

 長野は山ばかり、というのは流石に偏見だろうけれど、そういえば中学校の周辺は勾配が急なところが多かったと思う。

 坂道に遅れる私を、しかし京ちゃんは苦にもせず合わせてくれた。よく急かしてくる百合ちゃんと違って気が利くな、って思う。まあ百合ちゃんは面白おかしく、私に構っているだけだけれど。

 

「そういえば、さ……」

「なに?」

 

 私がそんな風に、百合ちゃんのことを思い出しながら平らになった道路をゆっくり歩いていると、なんだか先まで気楽に話していた京ちゃんが言葉に詰まった。

 なんだろうと、私がそっと見上げると、頬を掻きながら彼は意外なことを口にする。

 

「なあ、咲。百合とお前って付き合ってるのか?」

「え?」

 

 問に思わず、ぽかんとする私。

 彼はからかっているのだろうか。そうあって欲しいけれど、実際そんなことはないのに。

 しかし、京ちゃんは真剣だ。私の前で、未だ整いきらない少年は悩みに複雑な表情をしていた。

 だからこそ、私は何含むことなく正直に返す。

 

「えっとそれは違うよ。百合ちゃん、私との詮索される度にそれは違うってよく言ってるけど……京太郎君は聞いたことなかった?」

「いや、聞いてるけどさー。それにしてもお前らの仲は……」

 

 首の後に手を当てながら、また、言いづらそうにする京ちゃん。仕方無しに、私は彼の口にしたいだろうことを予想して、継いだ。

 

「――友達同士にしては距離が近すぎるってことかな?」

「まあ、な」

 

 なるほど。京ちゃんがそこをおかしいと思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。

 確かに、百合ちゃんは嫌にボディタッチが多いし、そもそもプライベートスペースっていうものがないんじゃないかって思うくらいにべたべたしてくる。

 それは、まるで女の子同士に恋愛が存在しないと信じ切っているみたいで、私が百合ちゃんに邪な思いを抱く度、彼女のその純粋さに打ちのめされるのだった。

 思い出し、つい悶々としてしまう私に、尚も京ちゃんは言う。

 

「っていうか、あんな女子にモテそうなタイプの美人でフリーってことそもそもありえるのか? 性格も少し棘があるけど悪くないってのに」

「うーん……それは、多分……百合ちゃんの異性愛志向が強いからかな」

「……あんなに女子にモテるのに?」

「うん……あんなに女子にモテるのに」

 

 美人でどこか中性的なところもあって、モデル体型。女子が憧れる要素が百合ちゃんには揃っている。

 その女子人気の高さは、普通だったら相当にモテそうな京ちゃんが隠れてしまうくらい。もし、嫉妬で人が殺せるのなら、私は何度百合ちゃんのファンの嫉妬で死んでしまっていることだろう。

 小さくため息を吐いた私に、真実味を覚えたのか京ちゃんは顎に手を当ててしばし考える。そして、ぽつりと呟いた。

 

「……なら、俺も少し本気になってもいいのかもなぁ」

「え?」

「いやさ」

 

 そして、京ちゃんは。私をまっすぐ見つめて、言う。

 

 

「俺、咲のことが好きなんだよ」

 

 私は、頭の中が真っ白になった。

 

 

 

「咲」

「京ちゃん」

「むー……」

「えっと、百合ちゃんどうしたの?」

「どうしたもこうしたもないですー……」

 

 分かりやすくむくれる百合ちゃんに、私は苦笑。私達の周りをぐるぐる回っている矢印を知っているだけ、私は複雑だ。

 そう、京ちゃん。いつの間にか私は彼のことをそんな愛称で呼ぶようになっていた。

 それはつまり私と京ちゃんとの間に一つ壁が取れたということ。そして、近くで見れば、尚更京ちゃんの良さが見て取れた。

 

 偏見持たずに人のことを想える。京ちゃんは実に好ましい異性、だと思う。

 彼には手を伸ばそうと思えば届くという安心感もまた、魅力的。彼には胸痛むばかりの恋とはまた違う愛を感じるのだ。

 京ちゃんは、間違いなく優しくて格好いい。

 

 でも。

 

 

「あのね、私。……百合ちゃんのことが好きだよ。愛してる」

 

 つい告白してしまうくらいには百合ちゃんのことが私は大好き。

 

 

「あーあー……ダメだったかぁ」

 

 それは、ごめんねと言われてしまっても、同じ。胸の痛みも、彼女の微笑みの愛らしさの前ではないようなもの。

 悔しいけれど、百合ちゃんは意地悪だけれど可愛いのだ。

 

 しかし、傷心でとぼとぼと帰り道を往く中。以前彼女の手を取れなかった右手を見て、この前彼の手を取れなかった左手を見て。私はふと、気づく。

 

「あ。そっか……」

 

 そう、私の手は一つではないことに。そう、やろうと思えば私は全てを拾うことの出来るのだ。

 

「……いっそのこと、二人共手に入れちゃうってのもアリかな?」

 

 そして、私はそんな独り言を口にした。

 しばらくその場に立ちすくんだ私は朱に染まる。そして次第に暗く暗く。夜の帳が降りてくる。

 

「えへへ」

 

 そして気づけば私は、笑ってた。

 

 

 

「百合ちゃんも京ちゃんも、二人共、大好き!」

 

 私のもとに伸ばされた二つの手。それを結んで繋いで大きな輪っかに。そうしてもう失くさない。

 

 私は、そう心に決めたのだ。

 

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