百合だらけの世界で私は京太郎くんに愛を叫びたい 作:うどんではない
ランキングにも入れていただけたみたいで、嬉しかったですねー。
おかげさまで、こうして更新頑張れてます!
設定小出しと伏線ぽいぽい回。
色々と迷いましたが、この作品の和さんはこんな感じとなりますー。
『そうですか……百合さんも麻雀をはじめたんですね』
「まあね。でも初心者もいいところで、今は役を覚えてるとこ」
『分からないところがあったら、私に聞いてくださいね! 頑張って教えますから!』
「そうねー。困ったら頼むわ、ん……」
ストレッチをしつつ、話の途中に風呂上がりの水を一杯。
ついでに化粧水でちょっともちっとしたお肌を確認したりしながら、私はマブダチ――旧いけど前世のお父さんが仲のいい友達に言ってたからこの呼び方気に入っちゃった――の神代小蒔にスピーカー通話。
小さい頃の前世系のごたごたで神境のお世話になった私は、そこで同年代の子達――恐ろしいことに幼児という年代から皆巫女さんの格好してた。私もついでに着せられた――と仲良くなった。
その中で特に仲良くなったのは、今話してる――機械音痴らしくて携帯電話の操作を覚えるのが大変だったらしいけど――小蒔と同い年の春。
春とはメッセージアプリでしょっちゅう連絡を取ってるけど、小蒔は文字入力が苦手だからこうして電話でよく話をしてる。
小蒔が私の世話にやる気になってくれてるのは、嬉しい。しかし、麻雀を覚えたのが前世は居た弟にやらされた携帯アプリからである私には、正直なところ分からないところが多すぎた。
それこそ役どころか、点数計算も定石も、憧れるべき有名選手だって分からない。いや、最後は余計かもと思うかもしれないけど、憧れっていうかこうなりたいっていう存在って競技をするには大きいと思うの。
でも、ネットで調べたら石飛プロやら大沼プロやら、どっかのプロの名前ばかりが出てくるのよね。いや、動画で見たら間違いなくあの人達強かったけど、それだけに誰も彼も真似できそうになくって。
「あ、そうだ」
『何かありましたか?』
そこまで考えて、ぬいぐるみだらけの部屋に響く愛らしい声色を聞きながら、唐突に私は久部長から借りたWEEKLY麻雀TODAYという雑誌のバックナンバーをぺらぺら。
私はそうして、丁度去年のインハイの特集のページに映る――グラビア的とはいえこの写真、胸元強調しすぎじゃないかしら? にしても原村さんとまではいかなくても小蒔も大概巨乳よね――我がマブダチを確認してから口を開く。
「小蒔。実は、あんた結構凄かったのね」
『え、どうしたんですか、百合さん?』
「いや、あんた麻雀雑誌に載ってたわよ? 去年はインハイで一年ながら大活躍したらしいじゃない」
私も鼻が高いわ、と人の手柄を喜ぶ私。雑誌にはインターハイで荒れ狂った永水旋風、とか書かれてた。
まだ全部は読んでないけど――集中すると寝ちゃうし――普段のほほんとしている小蒔が実は凄かったてのは、なんだか燃えるわね。私も何時か勝負してみたくなっちゃった。
と、勝手に盛り上がる私と反して、小蒔はどうにも話題に乗り気じゃなかったらしいの。彼女は、こんな風に言ったわ。
『あ、それは……うう、恥ずかしいです』
「何を恥ずかしがる必要があるのよ。というか、東京まで来てたのならこっちにも顔出しなさいよ」
『いえ……去年私、神様の力をお借りしていたのに、負けちゃいましたから……とても百合さんにあわせる顔がなかったんです』
「ああ、なるほどね。チートしてたんだ」
『ちーと?』
「なんでもないわ」
聞いて、去年の小蒔の活躍ぶりに私もちょっと納得。
いや、神の力とか普通の人は何言ってんのってなると思うけど、オカルティックにも実は私の転生みたいに神って――降ろさないと存在できないくらいにぼやっとしてるみたいだけど――あるの。
そして神様の力ってのはチート――ずる――と呼ぶには充分。引力なんて私なんかと比べものにならないくらいあるでしょう。
そんなの、麻雀で使ったらもう大変なことになるでしょうね。圧倒的なアドバンテージ。それを使って負けたなら、自慢できないのも恥ずかしがるのもうなずける。
「って、神を降ろした小蒔が負けた?」
『……そう、ですね。やはり全国ではとても強い方が多くて……』
「へぇ……」
そんな事実には流石に私も驚く。すきあれば直ぐ寝ちゃうコンビとして、霧島神境では仲良くなった小蒔と私。
けれど、私と小蒔はその実
前世の自分を降ろしてくっついちゃった私に、幾柱もの神を降ろし放題――はらうのが面倒らしいけど――な小蒔。明らかに、私劣ってるわよね。
いや、そりゃ私だって巫女としてもそこそこやる方だから、弱い神を降ろすことくらい出来るわよ。まあ、神境の設備とか他の巫女の手とかを借りたりしないと中々、って辺りどうあがいても小蒔には勝てないのだけれどね。
不思議パワーでは、そりゃあ
まあ、とはいえ。土俵が小さければ相撲にはなる。
神が憑いた小蒔が普通の女の子たちに負けたのは、麻雀という全力を発揮するには狭すぎる場所だからっていう理由なのでしょうけれど。
『百合さん?』
いや、面白くなってきたわね。
小蒔にはどこかシンパシーを覚えてた私だけど、でも同時に負けたくない――特別扱いしたくない――とも思ってた。
そんな彼女に戦う機会が、このまま麻雀を続けていたら、もしかしたらあるかもしれない。
そして、小蒔を負かせたヤツ。つまりは、小蒔が胸を張って私と再会を果たすことが出来なくなった原因の相手を、この手でぶっ倒すことだって出来るのだ。
ああ。これは、楽しくなってきたわね。次第に私の頬は持ち上がり、勝手に笑みが形作られた。
「私、ちょっと本気になってみるわ」
そして私は八重歯を顕に、鏡写しなあの子、白望ではとても出来ないようなエネルギーに満ちた喜色を浮かべるのだった。
「ふわぁ……」
「大丈夫ですか?」
「うん。へーき」
「何だか眠そうだじぇ……」
「さっき充分寝たから大丈夫」
「うん? 百合ちゃんたら、休み時間に寝てたのかー?」
「まあ、そんなとこ」
優希から発される疑問の声に、力なく雑に返す私。そして、広げたばかりの原村さんが手に持つお弁当が放つ良い香りに勝手にお腹が鳴る。
なんとなく、膝下に置いた弁当箱に視線を置く。そして、私はため息を付いた。
「はぁ」
どうにも、ダメね。目の前のことに真剣になりきれてない。やりたいことをやれないって、こうもストレスになるものなのね。
小蒔に色々と聞いた私は、やる気を出してみた。けれど、本を読めば眠くなる自分のダメっぷりを忘れてたの。
大きく板書された文字を暗記するのは得意なんだけど、ちっちゃくて密な文章にはソーシャルディスタンスをお願いしたくなっちゃう。
そう、授業中に点数計算の勉強をしていた私は、耐えられなくなって授業中に眠っちゃったのよ。
麻雀の本に顔を埋めながら寝入った私は、数学の先生にカンカンに怒られたの。そして、どこからかその話を聞いた久部長に、授業には集中しなさいと釘を刺された。
そうしたら、後はやる気がから回るばかり。先生に買ったばかりの麻雀本を取り上げられちゃったからには、休み時間もそぞろに周りとコミュを取るだけ。
放課後が待ち遠しいわ、とかやってたら優希に原村さんからお昼のお誘いがかかったわ。そして、行ってきなよ、との咲の許可を得た私は京太郎くんに手を振って別れてから、今現在ビニールシートの上。
おなかの虫はお昼を摂れとうるさいけれど、気持ちは今ひとつ乗らない。でも、急く気持ちを落ち着けながら、私は弁当包みを取ってから、蓋を開けた。
「お、百合ちゃんの弁当、美味しそうだじぇ。ご飯の代わりにパスタってのもおしゃれだじぇ」
「ママが作ってくれたの。パスタ入ってるのは、私がご飯好きじゃないってだけ」
「そうですか……それにしても手の混んだ料理ばかりで、ゆーきの言う通り美味しそうです」
「そうね。ママ……専業主婦してる方のママは昔喫茶店で料理作ってたらしくて、弁当だろうが手を抜けないみたい」
「へぇ。百合ちゃんは母母家庭なのかー。うちと一緒だじょ」
「そうなんだ。原村さんは?」
「私の家は、父母家庭です……もっとも仕事の都合上、母は不在にしている期間が長いですけど……」
「ふーん。私の家もちょっと似てるかな。働いてる方のママ、結構出張が多いのよ」
「そうですか……」
そんなこんなをぺちゃくちゃしながら、ようやく食欲がお腹の主張に追いついてきた私は野菜をぐるぐるしてるお肉をぱくり。
繊細に味付けされたその美味しさに、ママの子供で良かったと再確認しながらもぐもぐとしていると、タコスをあむあむしてる優希の姿が目に入る。
とても美味しそうにしてるけど、そういえば出会った時にその膨らんだ頬にソースつけてたわね、とか考えてたら案の定一気に詰め込みすぎたために口の端にサルサソースの赤が残った。
仕方ないわね、と私が前のようにハンカチを取り出し、彼女の口元に向けると。
「あ」
「っ」
「じょ!」
私と同じことをしようとした原村さんの手と手がぴたりとくっついた。
なんか原村さん、ちょっと体温が低いのかしら。私が冷たくも心地いい感触を覚えたところ、手の甲は慌てて離された。
あ。よく考えたらこれあんまりよくないわよね。前世だと考えられないけど、免疫のない女子は接触するのを極度に恥ずかしがるきらいがあるから。
もっとも優希みたいに仲良しの女子が居る彼女がそうである可能性は低いけれど、でも私は直ぐ頭を下げたわ。
「ごめんね、原村さん。気を遣ったつもりで、貴女とぶつかっちゃって」
「い、いえ……」
「のどちゃん、恥ずかしがり屋だから……二人に気を遣わせちゃって、こっちこそごめんだじょ」
「あちゃあ。無遠慮だったわね……いや、そういえば優希に初めて会ったときも、ハンカチ越しとはいえ遠慮なく拭いちゃってちょっと失礼だったかしら?」
「……正直なところ、声かけた相手がとんだプレイガールだったと思って、ちょっとドキドキしてたじぇ」
「うわぁ」
顔を赤くして触れた方の手を抱きながら沈黙してしまった原村さんの前でプレイガールとまで呼ばれ、私はげっそり。
ところ変われば品変わる。世界が違えば貞操観念も違うもの。それを前世とごっちゃにしてしまうのが私の悪い癖。
またやらかした、と思って頭を抱えていたら。
「……ぷっ。ふふ」
唐突に、どうしてだか原村さんが笑ったの。驚くばかりの私に、先んじて優希が問いただしたわ。
「わ、のどちゃんどうしたんだじぇ?」
「い、いえ。ただ……おかしくって」
「私またなんかおかしなことしてた?」
おかしい。そんな言葉に慌てる私に、しかし原村さんは首を振るわ。
その度に、散らばり跳ねる桃色の長髪が綺麗。まあ、でもノーマルを気取ってる私が同性に見惚れることなんてない。
真っ直ぐ私が原村さんを見つめると、またどうしてか頬を赤色に染めて、彼女は言ったわ。
「実は正直なところ……私は役満を和了っても気にもとめた様子もない小瀬川さんに身構えていたんです。何を考えているのか分からなくてちょっと怖いな、って」
「あー……まあ、それは私初心者だから役満の確率とかよく分かんなかっただけだけど」
「そう、だったのでしょうね。今なら分かります」
くすくす。柔らかに笑う上品な子。原村さんのことをそう認識を上書きした私に、尚も綺麗に彼女は微笑んで。
「小瀬川さんは、とても素直な素敵な人でした」
そう、酷く愛らしく――まるで物語のヒロインみたいに――私に婀娜を見せたわ。
なんだか少し、時がとまったような気がした。
「……ありがと」
照れた私は、そう言うしかなかった。
で、それだけでお終いってことはない。
私の隣でごしごし袖で赤色ソースを拭き取った優希が、何を思ったか気勢を上げたの。
「むむ……強敵の予感だじぇ。百合ちゃん、先に言っとくじぇ。のどちゃんは、私の嫁だじょ!」
「ふぅん。そうなんだ」
「ち、違いますよ! 勝手なことを言わないで下さい、ゆーき!」
嫁宣言に、慌てる原村さん。初心な子ね。優希の子供みたいな純粋さといい、これじゃ私が汚いみたい。
「でもまあ、一緒に居て楽しいかな」
無垢に触れるのは、中々の面白みがあるもの。そう思い、誰知らず私はつぶやくの。
いつの間にか、私の顔は楽しみからではなく、楽しさに笑ってた。それはとてもありがたいこと。ようやく地に足がついた感覚がして、これから頑張れる気がした。
「え? ひょっとして、のどちゃんは私以外の嫁になりたいのかー?」
「そういう意味じゃなくてですね……」
「あはは……あーあ。二人共、最高」
「褒められたじぇ!」
「いえ、呆れられてるのですよ……」
私は本心から、笑う。そう、なんだか原村さんには揶揄したのだと誤解されたけれど、本当に最高なのかもしれない。
ようやく私は、ひょっとしたらこの子たちと一緒に部活出来るってとても運がいいことじゃないか、って思ったわ。
「いっそのこと、二人共私の嫁にしちゃおうかしら?」
だから、そんな冗談も口から転がり出た。これは、我ながらユニークなことを言えたと思ったのだけれど。
「ええっ!」
「百合ちゃん……な、なんて旺盛な人なんだじぇ……」
そんな言葉がこの世界だと冗談にならないこと、忘れてた。真っ赤な二人に、もう私はどうしていいか。
「えっと……ち、違うのよ!」
そうして、私はお昼休みの残りの大部分を失言の言い訳に使う羽目になるのだった。