百合だらけの世界で私は京太郎くんに愛を叫びたい   作:うどんではない

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 感想お気に入りに評価、どうもありがとうございますー。今回投稿遅くなって申し訳ありません!
 次は詰まらないように、頑張りますねー。

 今回は意外(?)にもあの方が出てきます!
 驚いていただけると嬉しいですねー。


女の人が好き

 

 ツツジの赤にピンクに彩られた路端に触れない程度に寄って、心だけは掠めさせていく。ああ、憎たらしくなるくらいに、綺麗ね。

 どこにだって花は咲いてるけど、だからって一つ一つに価値がないかと言われたらそんなことはないわ。ありきたりがあってくれることこそ大切。

 それに、私を愛して、って頑張った結果の綺麗なんてどうにも親近感湧いちゃうところだしね。見習って私も頑張らなくちゃ。

 

 そんな風につらつら考えながら、私は分かれ道でくるり。円かに動いたスカートは膝丈あたりで弧を描いた。

 そして、鞄を後ろ手に微笑んでから私は彼にエールを送ったの。

 

「京太郎くん、頑張ってね」

「ああ。百合も麻雀がんばれよ」

「うんっ!」

 

 そう、ここは旧校舎の屋根裏なんかにある麻雀部の部室と運動部部室棟との分かれ道。

 この場で手を振って、大好きな京太郎くんと一緒の幸せな時間は、お終い。でも、その後に待つのは楽しい楽しい、麻雀の時間。どう転んだって、私の心は弾んじゃう。

 良いばかりの日々。こんなに幸せでいいのかしら、って私は思うわ。

 

「……百合ちゃん、俺のことは無視かい?」

「高久田くんはむしろ頑張らなくていいでしょ。前に練習のし過ぎで膝やっちゃってるんだから、気をつけて」

「お、おう。ありがとうな」

 

 そうしてたら、なんだか頑張ってとは言わなかったことに高久田くんが少し口を尖らせてしまったけど、ごめんね別に無視してたわけじゃないのよ。

 数少ない高久田くんだって、私の幸せのカタチのひとひら。ただ、彼には頑張っては厳禁だからそう言わなかっただけ。

 

 頑張って、それに過ぎちゃうところのある高久田くんは、中学生の時――二年の春頃だったかしら――何時の間にか膝にサポーターを付けてくるようになったことがあったの。

 それが、マネージャーの私が気づかない間に頑張りすぎた彼が膝を患ったがためのこと、と知った時は悲しかったわ。

 どうして近くに居た私が気づかなかったのか、ってのとなんで私に言ってくれなかったのか、っていうのが辛くって、ごめんなさいって泣いちゃった。

 高久田くんは直ぐ許してくれたしその時京太郎くんが慰めてくれたのも嬉しかったな。みんな、優しいのよ。

 

 ま、そんなこともあって、中学ハンドボール部のほぼ初期メンな私達三人――なんでか咲は高久田くんのことを目の敵にしてるフシがあるから除外――はとっても仲がいいの。

 今もほら、にこにこしてる私の前で、京太郎くんが高久田くんの肩に手をおいてなんか言い出したわ。

 

「誠、何赤くなってんだー? でかくて赤いとか、お前停止標識かよ」

「今俺上手いこと言った、って顔してんじゃねえぞ京太郎! それに、キーパーの俺はどっちかというと進入禁止標識だ!」

「声まででかすぎだっての。悪かった。……にしても誠、嬉しそうだな」

「はぁ。まあ……お前のおまけ扱いされてないって知ったらそりゃ嬉しくもなるさ」

「良かったな」

「おう」

「ん?」

 

 なんだか二人の会話がよく分からなくて、私は首を傾げてしまう。

 京太郎くんも高久田くんも、価値ある私の中の花。そりゃあもう、京太郎くん大好きな私だけど、おまけにするには高久田くんだってでっかすぎる――身長192cmはすごいわ――存在。

 友達を好きなんて当たり前じゃない、と私は思うのだけど。この世界だと皆、それだけじゃないのかしら。それだけに、留めておけないのかしらね。

 

「ふぅ」

 

 でもまあ、いいかな。二人共なんかいちゃいちゃしちゃってるし、放っといて先に行こうかしらね。私はそっとため息を吐いてから手を振ったわ。

 

「二人共、じゃあね」

「おう」

「じゃあな」

 

 遠ざかる背中を見送ってからすっと前を向き、私は旧校舎の麻雀部室へと向かい出すわ。そして、ニ歩三歩。

 途端に駆け寄る足音を聞いた私は振り返ったの。

 

「百合」

「染谷先輩」

 

 すると、走ってきたのは染谷先輩だった。愛らしさの中に、理知が光るその顔立ちは間違いようもない。

 最近麻雀で私のことをやりにくい相手だと公言してはばからない彼女は、しかし面倒見が良くってはじめたての私を気遣ってくれる。この人も、優しい人よね。

 

「何時も早いですけど、今日はどうして?」

「いや、委員の集まりがあってのぉ」

「へぇ」

 

 ちょっと待って、隣り合ってから私達は共に歩き出したわ。なにせ、行き先は一緒だしね。

 清水の流れを見下ろして、空の高さを見上げて、しばらく。あまり散らばった桜の花びらを踏まないように私たちは歩んだの。

 そして、旧校舎まで後少し、といったところで染谷先輩は再び口を開いたわ。

 

「……実は先から見とったが、ひょっとしておんし、あのノッポの二人組の……ちょいと小さな方が好きなんか?」

「まあ、そうですね」

「ほぅ。すんなり頷いたのぅ」

「嘘をついても仕方ないですから」

 

 意外そうにする染谷先輩に、私は照れて誤魔化した方が良かったかしらと一瞬思うけれど、そんなことは出来ない相談。

 だって。

 

「それに、人が人を好きになるのは恥ずかしいことではない、ですから」

「……それもそうじゃな」

 

 目を瞑る染谷先輩の前で、私は胸元に手を置く。気持ち悪がって、彼女の好きの気持ちを否定した過去の私を今の私は否定したい。

 そう、拒絶されるのが怖くってまだ京太郎くんには伝えていないのだけれど、私は彼が好きだ。きっとそれは、恥ずかしい間違いなんかじゃない。他の人のだって、それは一緒。

 

 この胸のドキドキ。それだけは、嘘みたいな私の中で、本当のことだと思うのだ。

 

 

 

 麻雀楽しく打てれば幸せ。そう思っていた過去もあったわね。

 確かに、こんなんでも楽しく打つのは可能かもしれないわ。でも、私の望む幸せのカタチはこんなにひらひらしていなかったのだけれど。

 私は頭に載せられたフリルたっぷりのカチューシャ――確かホワイトブリムとか言ってたわね――の位置を確かめながら、独りごちたわ。

 

「あー、良いことばかりが続くもんじゃないって本当ね。どうして私がメイドなんてやんなきゃなんないのよ。ガラじゃない」

「……そうでしょうか? その格好もお似合いだと思うのですけれど」

「違うのよ……頭下げるのは大丈夫だけど、媚びるのってちょっと苦手で。メイドってこう、萌えって感じにしなきゃダメなんでしょ?」

「それは偏見だと思いますが……それに、下手に媚びなくても小瀬川さんは魅力的です」

「う、そう?」

 

 流石に、ここまでの美人さんに魅力的とか言ってもらえると嬉しいものね。私はメイド服も悪くないんじゃないかって少し血迷っちゃった。

 ただ、スカート丈はここまで際を攻めたものでなくても良かった気がするけど。どうしてかしら、原村さんが無造作に選んだ二人一組のセットはちょっと丈がアレだったのよね。

 なんとなく、彼女のせり上がった胸元とその太ももの眩さに、目を背けたの。やっぱりちょっと原村さんって、性徴凄すぎだわ。

 

 そう、私はなんでかメイド服を着込んで麻雀を打とうとしている。それも、雀荘で店員として。

 いや、メイド雀荘とかヤバいんじゃないのって正直ドン引きしたけど、この世界だとなんかとっくの昔に風俗営業に麻雀が外されてるとかなんとか力説されて渋々納得したわ。今更だけどもう、この世界なんもありってことなのね。

 ちなみに、このメイド雀荘――roof-topっていうそうね――は染谷先輩の両親が経営しているところ。

 なんか人手が足りないと電話で両親に呼び出されて部室に顔を出すなり帰ろうとした染谷先輩。

 去りゆく背中に、それなら貴女たちもヘルプに出てみたら、社会経験にもなるわよと私と原村さんは――後で理由を聞いたら優希は急なバイトとして派遣するには見目が稚すぎたからダメとかなんとか――久部長に追い出されてついていくこととなる。

 

 そして、お手伝いとして着替える羽目になって、結果がこんなメイド姿。

 このままむさ苦しいおっさん達の中に混じって覚えたての麻雀を打たなきゃいけないってのはちょっと気が重いわ。

 

「おー、よう似合っとるのぉ。かわいらしいもんじゃ」

 

 そんな風に思っていたら、なんか染谷先輩がメイド服姿――随分クラシカルな感じ。私もそっちが良かった――でやって来た。

 

「これがうちのルールじゃが……まあ、やりながらゆっくり覚えておけばええ。今日は突然のことだったしのぉ」

「分かりました。なになに……え、ちっちーは満貫? うむむ……覚えられるかしら?」

 

 私は染谷先輩から受け取った用紙に書かれた内容を見て、うわと思うわ。そもそも公式ルールが今ひとつな私には、違うところがよく分からない。

 これはどうしたものかしら、と思ってると私はちょいと肩を叩かれた。そっちの方を向いたら、原村さんが優しげに微笑んでいたわ。柔らかに、彼女は言ってくれるの。

 

「同じ卓に付きましょう。お手伝いしながら私が手取り足取り教えます。染谷先輩、それでも大丈夫ですか?」

「まあ、そうじゃな。初心者にあまり無理させるのも心苦しいしのぉ」

「ありがとう、原村さん」

「ふふ、和でいいですよ?」

「分かった。和さん。私も百合でいいから!」

「分かりました。百合さん」

 

 和さんは、麻雀の玄人。そんな人について貰えるなんて安心ね。向こうから名前呼びに変えてくれたことだってまた、嬉しい。

 でも、そんなことを思ってると、私気づいちゃったのよね。そして、気づいたからには無視なんて出来ないでしょ。

 

「あ」

 

 そっと、私は彼女の震えているその手に触れて、握る。冷たくて気持ちいいわね。そして言うわ。

 

「面倒かけちゃってごめんね。でも、一緒だからそんなに怖がらないでいいから」

「……はい」

 

 私の手のひらの中で、次第に震えは治まる。良かった、落ち着いたみたい。そっと、私は和さんから手を離したわ。

 

「スケコマシじゃのぉ……」

 

 安心しきったた私は、そんな染谷先輩の小声に、和さんの頬の赤さにも気づかなかった。

 

 

 

 さて、そうしてフロアに勇んで出てきた私は、予想以上の熱気にびっくりするわ。

 麻雀人口が多いこの世界だけれど、けれどもお金を出してでもやりたいという人の熱さに触れたことってなかったから。

 さて、どうしようかと私は同じようにぽかんとしている和さんに声をかけたわ。

 

「それにしても、結構な人数。立ってる人もいるわね。どうしてかしら?」

「なんだか、麻雀プロが()()いらっしゃったみたいですね。なんだか近くで試合があったとか」

「へぇ。どんな人かしら」

「このようなプロでは?」

「わ」

 

 そうして二人で現況の理由を話していると、元凶がぴょこりと顔を出してきたわ。びっくりした。

 プロ、かぁ。なんか綺麗というか可愛い感じの人で、まとまり損ねた髪型がぴょこぴょこしてちょっとおもしろい。

 しかし、どんな人かも分からないで接するのは難しいわね。やったことなかったけど接客って苦手かも。まじまじとこちらを見つめてくる彼女に、私は苦笑いをしてしまうわ。

 

「えっと……」

「久しぶりですね、百合。珍しいコインシデンスです」

「あ……え? ひょっとして……良子さん?」

「はい」

「知り合いでしたか?」

「うん……でも麻雀プロになってたって知らなかった……」

「ええ。百合にはティーチしていませんでしたから」

 

 そして私は思わぬ再会をしていたことにようやく――以前から変わらないその変な英語混じりの話し方のおかげで――気づいたの。

 この茶目っ気のある大人は戒能良子20歳。私の友達の滝見春とは従姉妹の関係で、つまりは鹿児島で幼い頃私と一緒に巫女さんしてた人。

 私にとって彼女はおっきな巫女さんってイメージで麻雀やってたなんて意外。それもプロとか。私ちょっとネットで調べてたんだけど、もっとよく調べておけばこんなに驚かなくて済んだのかしら。

 それに、こんなに可愛く成長してるとはね。思わず、私は彼女の胸元についた私の倍以上ある巨きなものをまじまじと見つめたわ。

 

「良子さん、原村さんに負けないくらいにでっかい……しばらく見てない間にびっくりだわ」

「百合さん……」

「おっと。百合がホットな視線を向けてきますが、私にはラヴァーがいますのであしからず」

「え。良子さん、いい人出来たの?」

「既に()()のマムには挨拶済みです」

「ワオ」

 

 彼女って。ああ、なるほど良子さんはそっちだったのね。

 人と人が結ばれることなんて、喜ばしいことでしかないけれど、しかし同性同士っていうのはどうにも慣れないわ。

 困惑してしまう私に、勘違いした彼女は尚も驚きの言葉を重ねるわ。

 

「それに、私でサプライズなら、きっと霞を見たらアストニッシュでしょうね」

「え、霞さんそんなにヤバいの?」

「はい、ベリーラージです」

「まじかー……」

「はぁ……」

 

 私の隣でため息を吐く和さんには悪いと思う。思うけど、私にはあのちっちゃかった霞さん――石戸の子だったっけ――が良子さん以上っていうのはどうしようなくびっくりよ。

 多分、身長伸びてると思うんだけど、ひょっとしたら和さんを超えるアンバランスになってる可能性もあるわ。

 

「そろそろ、いいかな?」

「あ、はい」

 

 内心恐々とする私に、そっと声がかけられたわ。あ、そうだった。考えたらプロって二人居るのよね、やらかしたわ。

 今度は恐縮する私。すると、ふっと、彼女は笑って返してくれた。この人もいい人っぽいわね。

 

「そんなに固くならなくていいよ。私は藤田靖子。君は戒能プロの知り合いか……強いのかい?」

「え? 私は麻雀はじめたてで……」

「強いですよ」

「良子さん?」

 

 事実を伝えた私に、え、一度も私あなたと麻雀やったことないのにどうしてそんなこと言うの、というような驚きの断言をする良子さん。

 プロに強いとされて困惑する私に、目を細めて―ああ、この人も目の奥に深いものを持っているのよね――言ったわ。

 

「私が持つモノが束になっても敵わないような()()()()を彼女は持っていますから」

 

 それは21グラム程度の薄っぺら。けれども他の嘘みたいなものたちよりも確かではあって。

 だから、間違いなく比べたら重くはある。あるけれど。

 

――――私の中の前世の私なんて、特に凄いものではないのだけれどなぁ。

 

 でも電波ちゃん扱いされたくなくて私はそう、口には出来なかった。

 

「へぇ……」

 

 でも、口を噤んでいたら、藤田さんに火が点いちゃったみたいで。

 

「それじゃあ、やろうか」

 

 問答無用、といった風に言われちゃったの。

 

 

 

 

「負けちゃったわね」

「そう、ですね……」

 

 二人ぼっちの帰り道。遠く橙色の太陽に向かって、私達は歩いていくわ。

 あ、流石にもうマニアックなメイド服姿じゃないわよ。ベーシックな制服姿。そんな当たり前の高校生な様子で、しかし私達はちょっと煤けてた。

 

 いやさ、良子さんと藤田プロと一緒に私達卓を囲んだんだけど、まあトばなかったのが奇跡ってくらいにやられちゃった。

 いい牌が来ても、あぶれたやつで当たり前のように和了られて、簡単な方で早く和了ろうとしたらそれを見越したように早く和了られる。

 インターミドルチャンピオンの和さんだって、その肩書何ってくらいに軽々と負かされちゃってた。強いとか言われてたのに私ったらドベ安置で、恥ずかしいもなんのって。

 

「まあ、でも最後には引き勝ちして一泡吹かせてやったから、まあ良かったかな」

 

 それでも、最後にちっちー、いいやここだと8000点を奪い返せたのは楽しかった。安心しきってた藤田さんの驚いた顔にしてやったりだったわ。

 まあ、なんだかんだ麻雀って面白いわよね。実力とか関係ない運ゲー的なところが特に。

 ちょっと、これは止められないなと私がそんな風に思っていたところ、和さんがどうにも暗い。ぼそりと、彼女は言ったわ。

 

「私は良いところなしでしたが……」

「んなことないわ。何回も、あの二人の当たり牌を引いてたのに、よくもまあ沢山逃げ切ってたじゃない」

「分かっていたのですか……でも」

「でももなにもないの! 和さんは私なんかよりよっぽど凄い! 格好いいわ!」

「あう……」

 

 和さんはなんでか恥ずかしがってるけど、私みたいな準チートも使わずによくもあそこまで当たり牌を察知できたものと感心するわ。

 頭いいのに違いはないけど、それだけじゃなく頑張りっぷりが感じられる。本当に凄いわ。格好いい。

 

「可愛い! あざとい! おっぱい大きい! 優しくしたいわ!」

「……うぅ」

「髪が綺麗だし、他には、えっと……」

 

 私はバカだから、本当のことを次々に囃し立てるわ。そして次第にバカだから褒め言葉も尽きていくの。さて、次にどんなことを言おうかと考える私に。

 途端に怜悧に私を見つめて、和さんは言ったの。

 

「でも――百合さんは男の人が好き、なんですよね?」

 

 私はなるほど、いたずらに同性を褒め称えるのも、ちょっとモーションかけてるように思えるものなのかと、そう学んでから。

 

「ん、そうよ?」

 

 あっけらかんと、返したわ。

 

 

 そうしたら。

 

「そう、ですか。私は――」

 

 はにかんで。女の人が好きなのですよ、と彼女は続けた。

 

 

「そ」

 

 私は特に意外には思わずに。ただ向けられた視線の熱を気の所為にして、そう返すのだった。

 

 

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