百合だらけの世界で私は京太郎くんに愛を叫びたい 作:うどんではない
そして衣さん、雀魂での出演おめでたいです!
諸々の想いを込めて書いてみましたー。
月と花。それが対するべきものか、或いは仲良くするべきものなのか、そんなの私には分からない。
まあ、花天月地のたとえもあれば、花鳥風月のことばもあるわ。
この子は競うの――花天月地――が好きみたいだけれど、でも私は断然後者――花鳥風月――ね。
だって、折角綺麗なのが二つ、喧嘩するなんてつまんない。どうせなら、一緒になって世界を華やかにしてしまえばいいのよ。
無理に一人ぼっちになることなんてないの。だって。
「あんたがいくら麻雀強くたって、一緒に遊ばない理由にはなんないでしょ」
「え?」
どうしてそこで首を傾げんのよ。
嫌になったら、別のことをすればいいじゃない。私、指相撲とかだったら絶対にあんたに負けないわ。それやったりして飽きてからまたあんたの得意な麻雀をすればいいのよ。そうしましょう。
「世界って、広いわよ」
それこそ、こんな小ちゃなハウスの……どれくらい倍々すればいいかわからないくらいに広大だから。
そんな中で、禁じられていることなんて殆どない。なら、一緒に色々しましょうよ。
だって、そもそも――――この世界って別に
「失礼しますわ。私は龍門渕透華。京太郎の隣にいらっしゃる貴女は……」
「私? 小瀬川百合だけど」
「なるほど、お綺麗なこと……でも、こうぞっとくるものはないのですね。残念ですわ」
「あの。初対面で問うのも悪いけど……どういうこと?」
「ふむ。この言い回しも通じませんか……残念ですわね。貴女は本当にプロと伍せる方ですか?」
「いや、言い方も何も……というか、プロがどうして急に出てきて……」
「あー……百合、すまん。こういう人なんだよ、透華さんって。ちょっと自己完結してるところがあるっていうか……」
「ええ。よく、分かったわ……しかし何、透華ってつまりこのひとが言ってた京太郎くんの……」
「ああ。ちょっと遠いが親戚のお姉さんだ」
「似てないわ……」
何やらふんぞり返っている透華さんとやらを他所に京太郎くんと語らう私――ちょっと二人の距離近いのがいい感じね――は、その自信の塊のような様子を見てそう断じた。
いや、よく見た目がそっくりだとか言われてた私と白望だって、中身は完全に別個極まりなかったところだし、血的に遠い彼と彼女が違うのは当たり前か。
まあ、それでもリムジン、っていうのかしらそんな感じの高そうな車から颯爽と出てきたこの透華さんは京太郎くんと親しいわけだし無視は出来ない。
なにせこうしてかなり立派な京太郎くん家の前にて中々突飛な彼女と出会うハメになったのも、私が彼の親戚と会って欲しいとの言葉に二つ返事で応じたせいでもあるわ。
とりあえず、京太郎くんも知らないという用向き、聞かないと、と私が口を開けようとしたその時。
「……トーカ。それが件の?」
「ええ。そのようですわ」
「衣からすると有象無象、それこそ張三李四な輩にしか見えないぞ?」
「……能ある鷹は爪を隠す、とも言いますわよ?」
「ふむ、大智は愚の如し、というならば衣も何も言うことはないが……」
でっかい車の扉がばんと空いて、中からちっちゃいのが出てきて私を舐め回すように見ながらなんかまた偉そうなよく分かんないことを言い出したの。
私は口を開けたまま、ぽかんとしてるとその子――中学生に上がるか上がらないかくらい? なんか瞳が厭世的――がはっとしてから言ったわ。
「ああ、失礼した。衣は衣。天江衣だ! 今日はよろしく頼むぞ!」
「えっと?」
「透華さん、そろそろ……」
「こほん。申し遅れましたわね。今日私が京太郎を介して小瀬川さん、貴女をお呼びしたのは……」
「衣の玩具になってもらうため、だな!」
「……衣! こほん。……正確に直しますと、貴女には衣、私の従姉妹と一緒に麻雀をして欲しいのですわ」
無遠慮に寄ってきてなんか一人できゃっきゃはしゃいでる衣って子を少しうざいなって思ってたら、彼女の言葉足らずを透華さんが訂正してくれた。
なるほどまったく、従姉妹に遊び相手を探されるなんて衣ちゃんも困った子ね。この
でも、この私をおもちゃ認定してくれてるうさぎカチューシャぴょこぴょこしてる子供の麻雀相手に、どうして私が選ばれたかは分からない。だから、正直に私は透華さんに問いただしたわ。
「いいけど……どうして私?」
「それはまあ、人づてに貴女が強いとお聞きしまして」
「そりゃ麻雀部に入ってるし、人よりは強いとは思うけど……それだけよ?」
「ふん。お前は
自分を客観的に評してみたところ、下から見上げながら見下げる、なんて地味に凄いことをしてる衣ちゃんが挑発的な視線を向けてきた。
でも、私はその意味がいまいち分からない。だって、普通仇する――害し合う――ってまで遊びで行いはしないでしょう。素直に、ちっちゃな子の勘違いを私は訂正するわ。
「は? 麻雀するだけでしょ、大げさねぇ。あんた、別にゴリラってわけでもないでしょ? 話通じて打てるんならべつに、相手するのは構わないわ」
「ふふ。衣を狒々と並べるか、これは片腹が捩れそうだ!」
私が諭しても、衣ちゃんは偉そうなまま固まっちゃってる。これは良くないわね、解さないと。
とりあえずは、と。私は柔らかそうなその脇腹に指を這わせたわ。そして。
「……こちょこちょ」
「わ、何を……ふふ、きゃははは! や、やめろぉ……きゃはは!」
「面白いわね、この子。こちょ……」
「はぁ……そこらへんにしておけよ、百合」
「はーい」
衣ちゃんの反応が想像していたよりも大きくて――触れられ慣れてないのかしらね――私が面白がってると、後頭部をぺちんと叩かれた。
叱咤とそれが京太郎くんのものであるからには、私は止まらざるを得ない。
くすぐりに暴れたためかはぁはぁ言ってる衣ちゃんは、大人しくなった私を前に、むしろ激したわ。
「は、破廉恥な真似を……百合と言ったな……お前は晩鐘すら忘却する程の、暗澹に落としてくれる!」
「怒っちゃった? ごめんねー」
「むっ、衣を撫でるな、この破廉恥漢!」
「あ、そうだったこういうの良くなかったんだった。改めてごめんごめん」
振り回された手を、ひょい。強い拒絶に、ようやく私はちょっと失礼なことをしてたことに気づいたわ。
なんか視野が狭まってる子に、そんなに怖がってちゃだめだよって触れたことが悪いとは思わないけど、この世界だと普通に同性同士でも脇腹弄るのはセクハラチック。
私はちょっと悪いことしたかしらと、謝ったわ。当然のように、衣ちゃんはぷんぷんしたままだけど。
「むうっ、なんなんだお前は!」
「ごめんねー。こんなのなのよ」
「また惚けてっ」
「京太郎……あなたのお友達は、その、随分とコミカルな方なのですわね」
「はは……それだけじゃ、ないんだけれどなぁ」
どうどうと、衣ちゃんをなでなでしながら、私は背中に二人のそんな会話を聞く。
衣ちゃん怒ってるけどまあ、後でたくさん麻雀で遊んであげればいいかと、そのときは思ったの。
そう、後の大変を知らずに、そんなことを思ってたのよね。
「あー、今日はどうにも運が悪いわ……」
「痴れ言を。愚昧の真似事は止すんだな!」
「はいはい。分かってますよ貧乏神さん。――――どうせ厄っぽい何かを押し付けてるのあんたの仕業なんでしょ?」
「理解した上で衣を黒闇天と呼ぶか……猪口才この上なし! 自摸!」
「はぁ。祓っても祓ってもきりがないって面倒ね……その上でこの打点の高さを相手しないといけないっていうのは酷だわ」
私は対面の小憎たらしい衣ちゃんが倒した牌のその綺麗さを羨ましく見つめる。自分の揃いが悪い牌たちと比べたらもう、残酷なくらい違う。
全く、このスキあれば私を水面下に引きずり込もうとしてくる手がうざいわね。いちいちその手を祓ってるのも面倒というか苦手。私はどっちかと言えば、降ろす方の巫女さんなんだから。
ホント、疲れる。でも、とはいえ
点を支払い、左右のメイドさんと執事さん――杉乃さんとハギヨシさん。なんと彼ら本職らしいわ。龍門渕さんの家とんでもない金持ちみたい――の重々しさを尻目に、私は顔を上げたわ。
「慣れてきた、かな」
「――――汚穢に親しんだ、とでも囀るつもりか? 挫衄にその身を慣らしたと?」
「んー。おわいもざじくってのもよく分からないけど……小蒔がミスった時に引き受けた神様と比べたら、まずまずってくらいの重さよこれ。思い出すわねー。あの時からだっけあの子と本格的に仲良くなったの」
「何を―――」
「見てなさい。こっからよ」
やっぱり怯えてばっかの彼女をまっすぐに見つて。そうして私は、水月の化身の前にて、本気を出す。
いやね、私も今まで別に弛んでたわけじゃないのよ。けど、今までのは一般人としての本気。
オカルト相手なんだから、巫女としての私で挑まないといけないじゃない。そう、チートしてくるヤツにはチートをぶつけないと、ということね。
「潮波にも水禍なんかにも、花は折れてらんないのよ」
そうして私は、私の中の
「突然変わった気配もそうだけど、凄いね、あの子。衣の支配を普通に破ってる……」
「聴牌は遅いままですし、打点も低い……とはいえ満月の日、夕の頃の衣とここまで相対せるなんて……」
「すごく大変だったけど……調べてみたら彼女、六女仙に連なってた……大変なオカルト持ち」
「祓うって言ってたし、巫女かなにかか? オカルトにはオカルトってことかよ」
「違う……」
「違うの?」
「六女仙は、巫女というよりそのように欺瞞しているだけの神仙らしい……つまり」
「――――あの子も、人の領域外の存在だと?」
「はぁ。そろそろ、止めない? ちょっと疲れてきちゃったわ」
「まだだ! まだ衣は……」
「駄々っ子ね」
多重存在。一つを一つに重ねて一つに。まるで花びらみたい、と言ったのは小蒔だったかしら。
まあ、私はそんなもの。でも昔を引っ張ってくるって、過去を思い出せない人が多いことからも分かるみたいに、けっこう大変なことなのよね。だから、本気で牌を
可愛く怒ってる子、衣ちゃんの力との引っ張り合いになっているのも大変なのよね。疲れすぎて、正直目、霞んできちゃった。半荘何回目かしら、そんなに時間やってるわけじゃないのに。
でも、まあ。衣ちゃんの気が済むまで遊んであげたいというのも本当のところ。
「仕方がない、か」
ぶっちゃけこんだけオカルトが強いと、衣ちゃんてこの世の棘と変わんないわよね。彼女が理解されないのも孤独そうなのも、そのせいか。
まあでも、痛いからって泣きべその乙女の無視をするなんてナシ。覚悟を決めて、私は衣ちゃんに尋ねる。
「聞くわ。どうして、衣ちゃんは麻雀で勝つのに拘ってるの?」
「それは……強くなければ衣が衣ではなくて……そうでなければ」
「誰も見てくれない?」
「そうだ! そうに決まって……」
「バカね」
聞き、私は心の底から、そう言えた。だって、性能だけで人を測るなんて、バカなことこの上ない。
皆違ってそれで良くて。それでも、もし突き抜けて誰かが孤独になってしまっていたら。
背比べを辞めて、ただ一緒にいればいい。そう、たとえば花はひとひらでは出来ない。そんな自然もあるってのに。
「あんたがいくら麻雀強くたって、一緒に遊ばない理由にはなんないでしょ」
だから微笑んで、私はそんなことを言ったの。
「ふぁ」
私は、寝て起きたわ。なんか疲れが過ぎちゃったみたい。夜更け過ぎね。寝床を貸してくれたのかしら、ふっかふかが身体を覆ってる。
これは直ぐお暇しないと。でも夜中だし、今帰るとろくろく衣ちゃんを撫でることも出来ず仕舞いになりそうね。そう思ってたら。
「むにゃ」
「衣ちゃん?」
可愛い寝言を聞いて、私の胸元に眠り姫の小さな頭がぽてりと乗っかってたことにようやく気づくの。
あらあら、こうしてみるとお人形さんみたいな容姿が本当に愛らしい。銀の私と対照的な金の髪が、どうしても目を惹くわ。
おもむろに彼女をそっと撫で付けてから、少し。名残惜しいとは思いながらも、私はそっと立ち上がろうとしたの。そうしたら。
「あ……この子、服の裾掴んじゃってる」
「衣を置いて……行かない……で」
「はぁ」
この寝言が彼女が難しい言葉で隠していた本心からのものだというのは、私だって分かった。
なら、置いていってなんてやるもんかっての。覚悟した私はそのまま、小さな小さな子どもを抱くわ。
「大丈夫。貴女は一人じゃないよ」
「うぅ……」
「はぁ」
青白かった衣ちゃんの顔色が戻っていくことに喜びを覚えながらも、私はため息。
こういうセラピー的なことをするのは、別に私じゃなくて良かったと思って。ぶっちゃけ、こんなの誰だって出来ること。怖がらずに本心を語って、寄り添うだけの簡単な作業。それを、どうしてしなかったのかしら。怖がりが、多かったのかな。
そんな疑問に答えてくれたのは、がらりと開いた扉の奥から来たる冷たい風。
凍えるような雰囲気を持ちながら、彼女は私を静かに見つめていた。私は、それに気取られることなく、尋ねる。
「透華さんは、どうしてこの子を救わなかったの?」
「――――救えなかったのですわ。私と衣は、近すぎた」
「同類相憐れむ的に思われちゃうってこと? そんなの……」
「ふふ――――私たちの鬼形を知って、そう言えるのはきっと、貴女だけですわ」
「ううん。京太郎くんも言えると思う」
「―――それは恋の欲目?」
「愛の真実、だったらいいかな。もう一度言うけど、世界は広いわよ」
「そうですわね――――そんなの、知っている筈でしたのに」
私の言葉に透華さんは、一度その凍った面を苦渋で歪ませた。そして。
「――――頼みますわ、小瀬川百合さん。貴女が、衣に世界を見せてあげて下さい」
彼女がそんなことを言うから私は。
「ヤダ」
「――え?」
むっとして、そう返したのだった。
「貴女がやるんだ。ただ好きって言って、抱きしめなよ。この世界だとそれも難しいのかもしれないけど……でも、恥ずかしがらずにやるべきだと、私は思うんだ」
「貴女は――――」
「大丈夫。人が人を好きになるって恥ずかしいことじゃないから」
以前失敗したからこそ再びそんなことを語る私に、透華さんはいつの間にか頬を赤く染めて。
「分かり、ましたわ」
そう、言う。
「良かった」
だから安心して、私は目を瞑るのだった。
「それにしても……あのまま最終局を中断しなかったとしたら、三倍満を直撃させて逆転でしたわね、彼女。満月の夜の衣相手に……」
「人が人を好きになる、と言っていましたが……果たして彼女は、ヒトなのでしょうか?」
後にどこかで呟かれたそんな独り言なんて、私は知らない。