百合だらけの世界で私は京太郎くんに愛を叫びたい 作:うどんではない
登場人物一杯、大変でしたー。掛け合いを楽しんでいただけると嬉しいですね!
「ふん、ふ~ん」
定期的な掃除のためにと私は部屋中をハンドモップをかけて回る。窓を開け放っているのはちょっと寒いけれど、私の周りで新鮮な空気が踊ってると考えるとなんだかいい気分。
それにしても、と私はそれを見つめる。どっちかといえばポップに統一してある私の部屋。そんな中異色を放っているのは壁に架かるテラコッタの色をした、でっかい複雑な仮面。
ボゼとかいうお祭りに使うものらしいけれど、ぶっちゃけ見た目はキモい感じ。でもこれ大切なものなのよね。丁寧に、埃を払いながら、私はつぶやくの。
「そういえば、はっちゃんが何度も誘ってくれたけれど、結局悪石島には一度も行かなかったわねー……」
思い出すのは私のマブダチである小蒔のお世話係みたいな六人の凄い巫女さんの一人――私が鹿児島に居た当時は継承者候補、だったらしいけれど――薄墨初美ことはっちゃんの健康的な肌とその笑顔。
鹿児島ではよくあの人とは海で遊んでた。一緒に居ると嫌でも焼けちゃうのが困りものだったけれど、それでもはっちゃんと一緒だと子供らしく笑えた。そういえば妹みたいだとも言われたっけ。
「あー。なんか、北にも似たような
最後にボゼ仮面を押し付けられて困惑していた私と反して、別れを惜しんでぼろぼろ泣いていたはっちゃん。
思い出してそれとなく、私もしんみり。不思議ね。普段は怒っているように見える仮面も、どうしてだか哭いているようにも見えてきちゃった。はっちゃん、元気してるかしら。
「ま、文面ではその元気ぶりは分かってるんだけど……実際はどんな感じに成長してるのかしらね、あの人。うう、私より出てるところ出てて引っ込んでるところ引っ込んでたりしたらなんか嫌ね……」
ホント、春を経由して、スマホアプリで繋がってよくやりとりはしてるんだけど、あの人どれくらい大っきくなってるだろう。
なんでか自撮りとか見せてくんないのよね。風景とかよく分かんない神職の品とかはクラスのみんなには秘密ですよー、って見せてくれるんだけど。
しかし私が居た当時既にちょっと身長高い方だったから、ひょっとしたら和さん以上と噂に名高い霞さんばりのおもち持ちになっているかもしれないのよね。
だとしたら霞さんと揃って、ダブル。和さんと揃ったらトリプル鏡もちね。意味分かんなくなってきたけどきっと視覚的な迫力はすごそうだわ。京太郎くんとか泣いて喜びそう。
「……っと、そんな妄想してる暇ないわね。掃除なんて直ぐに終わらせて、着替えないと」
時計を見てみたら、そろそろ早朝掃除なんて止めておいた方がいい時間になってた。私はモップを片付けて、クローゼットへと向かいながら独りごちるわ。
「うーん。家で遊ぶのが好きらしい衣ちゃんとはいえ子供と遊ぶんだから、運動しやすい格好がいいかしら?」
言いながらも私は、まあパンツルックを選べばいいでしょうね、と思う。とはいえ、変なのは着れないわね。何しろ。
「京太郎くんが来るんだもの……これは気合が入るわ!」
さて、衣ちゃんのリクエストで私のお友達と遊びたい、というのがあったから今日は都合が合った友達、京太郎くんに咲に和さん――高久田くんは家の用事、優希はタコス関係の大事があったみたいでダメ。残念ね――と遊ぶことになったのだけれど。
そのこと自体が嬉しいし、会わせたことのない友達たちが出会ってどんな反応をするのか、それもまた楽しみね。
思わず、私も微笑んじゃった。
――ああ鏡の向こうのあの子も今、笑ってると良いのだけれど。
「ハンドボール? むむ……名前から大凡予想は出来るが……実のところ衣は天日の元で行われる遊興に滅法弱くて……」
「簡単に言えばサッカーとバスケの間の子みたいなスポーツなんだけれどさ……っと流石にサッカーとバスケは分かるよな?」
「蹴球と籠球は衣も知っている。とはいえ、キョータローの言う球技も恐らくはまた花形なのだろうな……申し訳ない」
「気にするなって。それを言うなら俺だって百合に衣がやってるっていう麻雀のこと一つも分からないぞ? おあいこだって」
「そうだよ、衣ちゃん。それにお互いの全部が分からなくても、こうして一緒に遊べるんだから、そんなにくよくよすることはないと思うよ?」
「なるほど愚を守るとはあるが、交友に競争も何もないものか……あ、ユリ!」
「おっと。ふふ。皆来てるみたいね。皆、おはよう!」
「もはよう、だ」
「ふふふ」
私と和さんがえっちらおっちら来たら、既に待ち合わせ場所の清澄と衣ちゃん家の中間くらいにありでっかい公園の前に三人集まってた。
とび跳ねて私にそのちっちゃな全身を巻き付かせてきた衣ちゃんの、もごもごした挨拶と一緒に返ってくるおはようを聞きながら、私はにっこり。
あんまり良くはないことを知りながらも、あえて私は衣ちゃんの頭を撫で付けたわ。
そうしてから私は、後ろでちょっとおどおどしてる感じだった和さんを――胸元の衣ちゃんをそっと剥がしてから。力弱いから簡単だった――前に押し出してから、ふりっふりな彼女を紹介するの。
「皆既に結構仲良くしててるみたいだけれど、この子もよろしくね! 私の伝達ミスでまさかのフリルたっぷりドレッシーな姿で来て下さいました、原村和さんです!」
「はぁ……いえこの格好は、遊ぶというのをウィンドウショッピング程度のものだと思い込んでいた私の失敗ですが……本日は皆さん、よろしくお願いします」
「おおっ、見事な和魂洋才というか兎に角似合いだな! ハラムラノノカ、よろしく!」
「ありがとうございます、ええと……衣ちゃん?」
「そうだ、私は天江衣だ! ノノカも麻雀をすると聞き及んでいるぞ? 出来れば竜虎相搏つ戦いをを期待して……っと、どうしたのだ、ユリ?」
「はいはい。衣ちゃんも麻雀好きはいいけど、そこら辺にしとく。今日のあなたのやりたいことって?」
「そうだった……衣は衣の知らない世界を知りたいんだ! 今日は衣には不案内な昼日中の楽しみ方を教えて欲しい!」
なんか麻雀つながりを意識して意気を燃やし始めた衣ちゃん。どこか自分の強みに依存している危ういところを感じた私は、直様軌道修正。何時かの遊びじゃなくて、今何したいか訊いてみた。
すると、衣ちゃんは喜色満面な――年相応な――表情をして、ぴょんぴょんしながらそんなことを口にしたの。
私には、なるほど外で遊びたいのねとは分かる。けれども曖昧な言葉に内情を知らない皆は首を傾げたの。代表して、咲が訊いてきたわ。
「えっと、つまり?」
「さしあたっては、友達と公園で遊具とか使って遊んでみましょうってことね。なんせ、そんなことも衣ちゃんほぼやったことないっていうんだもの、びっくりよ」
「マジか? それはなんというか……大事に育てられ過ぎだな……」
「深窓の令嬢……衣ちゃんはこんなに可愛らしいですから、そう扱われてしまうのも仕方ないでしょうが……」
「深窓の令嬢? いやどちらかといえば衣は韜光晦迹、いや籠の鳥というか……」
「それは……」
「はい、皆そこまで。なんだか落ち込んできそうな過去のことなんてもういいでしょう? そんなことより今日を楽しまなくっちゃ!」
高まれば確率を越え現実にすら作用しかねないオカルト能力。それで人を傷つけてしまうのが嫌で、衣ちゃんはあまり外出をしなかったとは私も聞いてる。
そんなこんなを言動からなんとなく察して、皆が気を落としてしまうのも、私には分かる。理解できるわ。
出来るけれど、でもそれがなんだってのよ。そんな過去の悲しみで、今を楽しめないなんてバカげてる。
辛かったなら、それを忘れるくらいに幸せになればいい。それだけの簡単なことを忘れちゃダメじゃない。そのためには、ニコニコから始めないと。
私があくまで重くなりがちな空気を破ろうとしているのを一番に察して――ここらへん、やっぱり凄いわよね――京太郎くんもあえて笑顔を作ってから、言ったわ。
「そうだな……よし、衣。まずはどういうものか気になってるみたいだし、ハンドボールの楽しさってのをまず衣に教えようか。そういえば別に、衣は身体が弱いっていうのはないんだよな?」
「おおっ、それは楽しみだ! そして気にしなくていい、衣は元気一杯だぞ!」
「ふふ、それはいいですね。でも、運動する前には準備運動しなければいけませんよ?」
「むむ……どうやるんだ? こうか? いたっ!」
「わわっ、前屈はいいけど、そのまま転がっちゃダメだよ……大丈夫?」
「ぷぷっ……」
前に傾いでそのままころりと、私の足元に転がってきた衣。ユーモラスに前転した彼女の全身を、咲は大丈夫かつぶさに見てる。
私は一瞬きょとんとしたけど、でも明らかに大丈夫そうで笑顔な衣を見て、一安心とともに、ようやく笑みにエンジンがかかってきたのを感じたわ。
やっぱりちょっと草が付いちゃった彼女のおぐしをひと撫でしてから、私は思わず口にしたの。
「今日は一日、楽しくなりそうね!」
そして、それはその通りになる。そんなの、皆がそうしたから叶った、当たり前よね。
日が暮れるちょっと前。帰りの音楽が辺りに流れた頃合いに、遊びに疲れた子供たちは別れを惜しむわ。
私達の前で、今衣ちゃんは仲良くなったばかりの同い年くらい――そういえば衣ちゃんって正確には幾つだったっけ?――の女の子三人とでっかいハンドシェイクをしてる。
もう、皆すっかりお友達ね。にっこにこで衣ちゃんは言うわ。
「緋菜、菜沙、城菜。今日は楽しかったぞー!」
「こっちもたのしかったし」
「ころもちゃんおしろつくるのじょうずだったー」
「できればまたあそびたいし!」
「そうか、それは重畳だ!」
「ちょーじょー?」
「ころもちゃんのちょうじょうにはうさちゃんのおみみがあるし」
「とってもいいし?」
「あたしもつけてみたいし!」
「そ、それはダメだ……わわ、3対1は卑怯……わー」
そうして、最後の最後、もみくちゃになる衣ちゃんと池田ちゃんズ。うわ、砂場でごろごろはキツいわね。後で洗濯が大変そう。
何とかカチューシャを死守しながら逃げ出す衣ちゃんを尻目に、私はお隣の三人の妹を連れて公園に来てたお姉さんに話しかけるわ。
「ふふ……ありがとう、華菜さん。私達が一緒に遊ぶの許してくれて」
「こっちもチビたちが楽しそうでなによりだったし! むしろ助かったなー。流石に三人の相手は大変で……」
「そうですね……どこに行ってしまうか何をしたいのか気が気じゃなってしまいます」
「そうなんだし! 一人だと、見てやれないところがでちゃうから、実際……原村だったっけ? 達には助けられたし!」
「三つ子、ですよね……いや、俺体力には自信があったんですけど衣といい、子供の体力は無限かっていうくらいありますね。正直クタクタです」
「だよなー……そんなでも、家に帰ったらコテンと電気が落ちたみたいに寝たりしちゃうんだよな……子供って不思議だし」
「ふふ、私達もそんな子供だったんですけどね」
「そうだったし!」
咲の言に私も不思議生物だったのかー、とか天然ボケをかます元気な華菜さんに、私達もつい笑顔を引き出される。
この華菜さんって麻雀部――しかも名門の大将に内定してるらしい――だっていうのが嘘みたいに元気体力の塊だった。
運動が激しくなってから真っ先に木陰のベンチ行きになった和さんに、咲。彼女らが楽しそうに話しているのを尻目に、私と京太郎くんは結構必死だった。
いや、最初は衣ちゃん一人だからって安心してたのよ?
けれども、それは甘い目算だった。私達がハンドボールなんて珍しいことしてたら、子供が集まってくること。
そして、子供が興味を持ったそれをチャンスと見た奥様方が、自分たちに世話を任せて――それに京太郎くんったら二つ返事で了承しちゃって。人が良すぎるのもこまったものね――しまったの。
もう、途中で好き勝手してる子供たちにあわあわしてた私達を華菜さんが見かねて助けてくれなければ、本当に大変だった。
それでもキツかったけど、私達の衣服がどろんこになっただけで皆が無事ってのは良いことよね。
何より、皆楽しそうだった。これは満点ね。
と、うんうんしてる私を横目に見て、京太郎くんは言うの。その長身の整いから、真剣な眼差しが覗いたのを見て、私は思わず姿勢を正したわ。
「ありがとうな、百合。今日は、楽しかった」
「え? むしろこっちがありがとうよ。京太郎くんが居てくれて、私とっても楽しかった。そもそも居なかったらこんなに子供たちの面倒見ようとも思えなかったし、それが殊の外面白いなんて知れなかった」
「そっか。まあ……ただ今回楽しかったっていうだけが感謝の理由じゃなくてさ。何ていうか……そうだな、気が楽になった」
「……何かあったの?」
今は笑顔の京太郎くん。けれども、その言には含みがあった。勿論、今が良ければそれでいいと思う能天気は変わらないけれど、これからまた過去の悪い中に彼が戻ってしまうなら、それは見過ごせない。
心配した私が顔を寄せると、しかし何のてらいもなさそうな表情で真っ直ぐ空を見上げながら、京太郎くんは言った。
「いや、最近ハンドキツいばかりでさ。久しぶりに、ハンドが楽しいってのを思い出せて良かったなって」
「そっか……うん。それは本当に良かった」
「ああ。これからも頑張れそうだ」
その言は、ちょっと重そう。高校の部活動が大変だなんて私も知っていたけれど、それが競技の面白さを忘れさせてしまうくらいだなんて、知らなかった。
けれども、それでも今日の体験で京太郎くんはそれを思い出せたんだ。そして頑張るって言ってくれた。
ああちょっと、泣けてきちゃうわね。嬉しいわよ、こんな自分が役に立てたんだって実感できるのは。
「ふーん……ふふーん?」
そして照れから私がそっと彼から顔を背けると、なんだかチェシャ猫じみた顔が。私は思わず問うわ。
「華菜さん、ニヤニヤしてどうしたの?」
「いやなーに。お世話して貰ったお礼代わりにちょかいかけたくなっただけだし! さっき連絡先交換したとき、あまりしょっちゅうは連絡できないかも、って言ったけど、撤回するし!」
「えっと、それはどうして?」
「青春は応援したくなっちゃうもんだし! 何、安心してお姉さんに任せるのが大吉だしー」
「んん?」
よくわかんない。それでも楽しそう。ならいっかな、と思う私。
けれども、思わず見た京太郎くんの笑顔はどうにもちょっと苦そうで、私はどうにも不思議になるのだった。
「いや、正直和さん、咲と一緒に放っといちゃったけど……ごめんね」
「ふふ……私としては、何も問題はありませんでしたよ? 彼女と色々と……それこそ中学時代の百合さんのお話も出来ましたし」
「あちゃあ、こっ恥ずかしいわね。咲に口止めしとくんだったわ」
着替えた後に笑顔で皆と別れて、二人になった帰り道。私は和さんと会話する。
今日は服のミスではしゃげなくてつまんなかったかな、と思いきや意外と楽しめたみたいで、私もほっとした。
その代わりに、私の黒歴史――中学時代は結構やらかしてた――が知られちゃったみたいだけれど、まあそれはトレードオフだってしておきましょうか。
まあ、彼女の笑顔をまた見れたことは何より。と、思ってると和さんは続けたわ。
「後、これも聞いちゃいました。……百合さんは須賀君が好き、なのですね」
「ああ……咲ったらそんなことまでバラしたの? これは後でお尻ペンペンね」
「ふふ……それはちょっと見てみたいですが、違うんです。私が宮永さんに無理を言って訊いたんです」
だから、叱らないであげて下さいと柔らかく言う和さんに、私は口の軽い咲に対するお仕置きの手を緩めることにする。
まあほっぺムニョムニョぐらいで勘弁してもいいかな、と考えながら、私はしかしどうして無理をしてまで私の好きを訊いたのか、それを変だと思い、正直に言った。
「えー。私が誰が好きとか嫌いとか、どうでも良くない?」
「いえ、それは違います」
しかし、彼女は頭を振る。そして、確りと私を見つめて、和さんは頬を赤らめながら、言うのだった。
「好きな人の好き、なんてどうしたって気になるものです」
ああ、やっぱり。そう思う心もある。そして、彼女の恋を否定したくなる私の持ち前の常識も確かにあった。
だからつい、私の口は囀ってしまう。
「和さんのそれは、気の迷い、じゃないの?」
そんなことはない。同性愛は、あって当然のこの世の普遍。
けれども、それを認められない自分のアブノーマルを認められなくって、私は。
そんな無駄なあがきを全て認めて、優しく微笑んで。
「いいえ、これは
言って、そして
二人並んで、私達の歩みは揃っている。けれどもそれは本当に?
果たして百合さんの正体は?
実はこのイベントに京太郎くんを誘わなかった場合、彼がハンド部退部して麻雀部に入部する、という可能性もありましたー。