「もう6月になるのか…」
季節は5月も終わりを迎えるかという頃。
羽丘に入学しておよそ2ヶ月が経とうとしていた。
何だかんだで早いものですなぁ…この調子で夏休みまで一気に月日が経ってくれないものだろうか。
無事(?)中間テストも終わり(結果はさておき)残る大きなイベントは文化祭を残すのみとなった。
これを乗り切れば念願の夏休みなのだが…それがまだまだ遠い。
「すこやかゴーゴー祭り?」
そんな中もう一つの大きなイベントの話題があがっていた。
6月始めの土曜日に商店街で大規模な祭りをやるらしい。
何でも地域の商店街の活性化を目的とするお祭りだそうだ。
…名前には突っ込まんからな。
「うん!それでね、音楽発表会っていうのがあって、おねーちゃん達のバンドも演奏するんだー!」
「へー、Aftergrowが…」
「おねーちゃん、和太鼓も叩くんだよ!」
和太鼓…想像だけどめちゃめちゃ似合うな
あの人。
何となく祭り好きそうだし。
「そりゃまた、一大イベントだな…宇田川
お前絶対見に行くだろ?」
「うん!あすかと優も行こうよ!」
「ごめん、その日は塾あるんだ。」
「俺も予定ある。」
本当は何もないんだけど。
人混みは嫌いなんでな。
「そっかー…」
「朝日と行けばいいじゃん。」
「ろっかはGalaxyのスタッフだからダメなんだ。」
「Galaxy?」
「六花、ライブハウスのGalaxyっていうところでバイトしてるんだよ。」
「ライブハウス!?」
あいつ、そんなとこでバイトしてたのか…
「と、噂をすれば。」
その朝日が大量のプリントを抱え戻ってきた。
また先生にパシられたのだろう。
よくやるわ。
「あぁっ!」
「ごめんね!朝日さん!」
あーあ…やると思った。
「何しとんねん…ほら。」
「あ、ありがとう…」
「一体何のプリントだこれ…文化祭の出し物?」
うわぁ、めんどくせーのきた。
「うん、帰りのHRが終わった後に少し
時間を取るんやって。」
もうめんどくさい…早く帰りたいのに。
「で、先生…何で俺が文化祭の実行委員なんかやらないかんのですか?」
「イヤだった?」
「はい、もの凄くイヤです。」
「はっきり言うね~。」
「だって、完璧な人選ミスやないですか。仮にやるにしても最低あと一人はつけてくれないと。」
「それなら、やってくれるの?」
「まぁ…それなら…」
もし、断ったら後が怖いだろうし。
相方つけてくれればそいつに丸投げすれば
いいっていうね、ゲス思考ですよ。
「話が早くて助かるわー!星川君。」
「先生、最近キャラ崩壊してません?
最初の真面目系敬語キャラはどこいったんですか?」
「堅苦しいのは疲れるから…」
「なるほど、大変なんすね。」
至極どうでもいい。
「って相方は戸山かい。」
「私じゃダメだった?」
「丸投げできないじゃん。」
「…ダメに決まってるでしょ。」
畜生、嵌められた。
あの先公まじでふざけんなし。
「えーとじゃあ早速、文化祭の出し物決め始めていきたいと思いまーす。」
もうちゃっちゃと終わらせよう。
「はい、じゃあ何か案ある人挙手。」
「お化け屋敷かなー」
「プラネタリウムは?」
「迷路とか?」
「薫様のクラスは薫様カフェっていうのやるらしいよ。」
「えっ!薫様が給仕って絶対似合うよ!」
「楽しみー!」
君らさぁ、挙手って意味わかるかな?
それに俺、聖○太子じゃないからね?
そんないっぺんに言われてもわからんわ。
最後のほうとか話脱線してなかったか?
薫様って誰?
あと、戸山は何で全部列挙して書いてんの?
あれ全部聞こえたのかよ。
「じゃーもうめんどくさいからメイドカフェってことでいい?」
「何でそうなるのー?」
「メイドカフェって言ったら定番だろが…
もうお前らつべこべ言わずメイド服着ろよ。」
それで、ある程度の男性客は釣れるだろ。
「それじゃ星川も着るんだよ?」
「は?ちょまっ…何でそうなるんだよ!?」
何その道連れ理論。
「いいと思うよ、メイドカフェ!」
「賛成ー!」
「賛成の反対!お前らただ俺にメイド服
着せたいだけだろ!」
目的と手段が入れ替わってんじゃねーかよ!
「星川が言い出したんだよ?」
「それに関しては…すんません。」
謝るから勘弁してください、まじで。
「いいよ!メイドカフェやろ!」
「良い案出してくれたよー!」
「さすが実行委員!」
何なのお前らのその無駄な結束力。
「戸山、どうすればいいと思う?」
「諦めたほうがいいと思うよ。」
おいおい。
「宇田川!何か案ないか?」
「…ふっふっふ、よくぞ聞いてくれた…
魔界より舞い降りし…大魔姫あこが其方の「あーごめん却下で。」」
聞いた俺が間違ってたわ。
「えー!でも、あこもいいと思うよ!
メイドさん!」
お前こら。便乗すな!
くそっ…こうしてまた黒歴史が増えるのか…
仕方がない、元々は自分で蒔いた種だ。
ボルテージは下がる気配がないし、受け入れるしかないか…
「あ、あの…」
「ん?」
そんな中おずおずと手が挙がる。
朝日か?どうした?
まさかお前…救世主になりうるのか?
俺の。
「朝日、何かある?あるよな?いいぞ!
遠慮せず言え!」
頼むぞ!朝日!メイド服なんか着てられるか!お前の案にかかってるからな!
もうおたんちんとかバカにせんから!
「セ…セッションカフェっていうのは…どうかなって…」
「…セッションカフェ?セッションって
音楽やるってことか?」
田舎娘のわりに難しい言葉知ってるじゃねぇの。
「うん、お客さんと一緒に楽器弾けたら
楽しいかなって…」
「セッションカフェかー…面白そうだね!」
「ね!いいかも!」
朝日、よくやった!お前まじ救世主。
「でも、楽器やら機材やらどうすんだ?
自前の使うのか?それとも、音楽室の使ったりとか?」
「そっか…じゃあ音楽室の機材も使わせてもらおうよ!」
「星川、お願いね!借りられるか聞いてみて!」
「俺かよ…」
早く帰りたいんだってばよ。
「わかったよ、任しとけ…じゃあ会議終わりねー散会。」
放課後に音楽の先生に事情を説明し、無事許可を貰うことができた。
「ったくよー…何で俺が実行委員なんか…」
大体こんなつもりじゃなかったんだよ。
目立たず、誰とも関わらず、のらりくらりと立ち回るはずが…
「はぁ…らしくねぇ…」
どうしてこうなっちまったんだか。
「ん?」
あそこにおられるのは…救世主朝日様では?
「よう、どうしたんだ?」
「あ、優くん。」
「今許可貰ってきたぞ。機材貸してくれるってさ。」
「あ、ありがとう!」
「いいってことよ、お前があそこで案出さなかったらどうなってたことやら…」
「でも…本当に良かったんかな?
セッションカフェって…」
「好評だったじゃねーか。それに楽器弾けるやつらだって結構いるだろ?そこら辺はお前らに任せるけどさ…」
あとは勝手にやってくれ。
「そういや、Galaxyってライブハウスで
バイトしてるんだってな。」
「うん。一応機材とかは一通り扱えるから。」
「何だってそんな大変そうなところで
バイトしてんだ?」
「えっと…それは…」
「それは?」
「わ、私…バンドがやりたくて…」
バンド…こっちへ越してきてから一体何度聞いたかわからないその単語。
まさか、こいつもか…。
「バンド、やりたいのか?」
「うん…親に無理言って上京させてもらったんやけど…メンバーが全然集まらんくて…」
え?ちょっと待て?
「上京させてもらった?親の転勤とかじゃなくて?」
「うん…私、バンドがやりたくて…東京まで来たんや。」
そう言い切る朝日はいつもとは別人に見えて…
何だよお前…そんな顔もできるんじゃねぇか。
「親御さん反対しなかったのか?」
「最初はされたんやけど、東京に行っても絶対大丈夫って認めさせてやるんやって頑張ったら…何とか認めてもらえて…」
…自分の意志で来たってことかよ?
バンドをやるために?
たったそれだけのために
見知らぬ土地に足を踏み入れたってのかよ?
「それでわざわざ岐阜からね…で、肝心のメンバー集めがうまくいっとらんと…」
「そうなんよ…」
「ふーん…楽器は?何やるの?」
「私は、ギターやけど。」
…まじかよ。
お前、ギタリストだったのかよ。
「そうか…ギターか…」
「優くん?」
「いや、なんでもね…頑張れよ。」
「うん!」
少し、ほんの少し…お前と会うのが早ければ…また違った未来があったのかもしれない。
お前と…お前達ともっと音楽について語り合えた日が来ていたのかもしれない。
けど、ごめんな。
それはもう無理なんだ。