奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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欠けているもの

寝た時に見る夢ってのは罪作りなやつだと俺は思う。自分が見たくもないものを

わざわざ引っ張り出してきて強制的に観賞させるからだ。

夢なんだからもっとこう非現実的な

ファンタジックな夢を見せてくれてもいいと思う。

何故、現実にあったことをリアルに再現してくるものかと毒づいた。

 

「優、起きた?」

「あぁ、おはよう…じゃねぇな…悪い、晩飯作るよ。」

 

大抵夢ってのは起き抜けに忘れていて、思い出せないことが多いのだが、今回のは

格別に最悪だ。

まだ鮮明に残っている。おかげで気分は最悪。

 

「大丈夫?あんた顔色悪いよ?」

 

どうやら顔に出ていたらしい。

 

「大丈夫。ちょっと今日はバタバタして疲れてんだよきっと。」

「そう?それならいいけど…何か行事とか?」

「あぁ、今度、学園の文化祭があってね。」

「へー文化祭…懐かしいねぇ…。」

 

やはり、思い出に残るもんなんだろうか?

 

「母ちゃんは何か思い出とかあるの?」

「父さんがステージでギター弾いてね…その後すぐだったかねぇ…俺の歌どうだった?って。というか付き合ってくれ!ってどさくさ紛れに告白されたのよ。」

 

そうだったのかよ…。初めて知った。

あの親父ギターボーカルやってたのか。

告白の結果は推して知るべしか。

俺がいるんだから。

 

「あんたもギター弾けばいいじゃない。」

「何でさ、イヤだよ。」

「楽器のこととかはよくわからないけど、父さんより全然うまいと思うよ。」

「…いいんだよ。」

「そうかい、もったいない。」

 

もったいなくなんかないさ。

俺よりうまいやつなんかいくらでもいる。

いや、うまいヘタ以前の問題か。

 

「いつからだったっけね…あんたがギター弾かなくなったのは。」

「もういいだろ、その話は。」

 

さっき見た夢の内容がフラッシュバックする。

俺がギターを弾いていた頃の夢。

悪趣味な編集が施されたくそったれなリアルな夢。

 

「ごちそう様。」

「食器洗っとくから、今日はもうゆっくり寝なさいよ。」

「あぁ、ありがとさん。」

 

といっても、夢の続きを見せられそうで

寝るのも億劫だ。…いつから弾かなくなったか…去年の夏の終わりだよ、母ちゃん。その時に俺は大事なものを失ってしまった。

 

情熱を失ってしまった。

 

だから、俺は眩しく感じるのかもしれない。

俺に欠けているものを持っているあいつらが。

クラスの連中。

自分の好きなものに全力な宇田川。

明確な目標を持って、頑張っている戸山。

バンドがやりたくて数々の障害を乗り越え、未開の地に足を踏み入れた

…静かな情熱を内に秘めた朝日。

 

「どうしてだ?何でそんなに頑張れるんだ?」

 

疑問に答えてくれるものはいない。

呟きは虚しく虚空に消えるだけだった。

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