考えろ、思考をフル回転させろ俺。
いつだ?いつ、こんな美人さんとフラグをおっ立てた?
よくやったと思う反面、心当たりがない
もどかしさも感じていた。
「ごめんね?急に話しかけて…私のこと、覚えてるかな?」
覚えてない…と言ってしまえばそれまで
だが…それでは格好がつかない。
思い出せ。知り合いはそう多くないはずだ…自分で言ってて悲しくなるけど…。
ギターだろうか?それともベースだろうか?楽器を背負ってるところを見ると
バンドをやってる人なんだろう。
…もしかして、ミュージックスクールに
通ってた頃の知り合いか?
だとしたら…
「あー…あぁ!」
思い出した、思い出した。
そうだ、やっぱりミュージックスクール
時代の…いっつも俺の演奏を隅っこで
聞いていた子…名前は…
「もしかして、和奏レイ…さん?」
「うん、久しぶりだね、優君。」
こりゃ驚きだ。どえれーべっぴんさんに
なったもんだ。
「いやーびっくりした…どこぞのモデルさんかと思いましたよ…」
「ふふ、そんなことないよ。」
初見の人は大学生かなんかと間違うと
思う。
俺の一コ上とはとても思えん。
「優君、引っ越したって聞いたけど、また東京に?」
「えぇ、3月の中頃に。」
「そっか、私と同じだね。」
「レイさんも?」
「うん、私も親の転勤で離れてたんだけど…春先にこっちにきたんだ。」
「へぇ、そりゃまた偶然。」
この人とは専攻も違ったし、話したことも数えるほどしかなかったけど何故か印象には残っていた。
「私、好きだったな。」
「えっ!?」
ちょ、なんて!?
ここにきて何カミングアウトしとるんですか貴方は!?
「優君の弾くギター。」
「あぁ…」
びっくりしたわー。
まぁ、そうですよね。
勘違いですよね…すみません。
「今も続けてるの?」
「あー…今は…ちょっと…」
「そっか…」
レイさんは察してくれたのか、それ以上は聞いてくることもなかった。
そして、沈黙。
残念そうな顔を見ると少しばかり心苦しくなった。
「レイさんは?その背負ってるのって…」
話題を変えねば。
俺の話なんか聞いたところで何にもならんだろうし。
「ベース。始めたんだ。」
「映えますね、レイさんが背負うと。」
「そうかな?」
「えぇ…バンド、組んでるんですか?」
「…うん、最近スカウトされてね…。」
「スカウト?」
すごいな…スカウトなんて創作の中の話
だと思ってたけど…本当にそんなことあるんだな。
「じゃ、練習帰りだ。」
「今日は違うんだ。バンドのサポート。」
サポートまでやってんのか。
「いいっすね、充実してて…」
「充実か…そうかも。」
あの頃とは違うんだな、この人も。
いや、根っこは変わっていないのかな。
「優君は?何か悩んでいるの?」
「え?」
「ため息、ついてたから。」
「別に、大したことじゃないんですけど…周囲との温度差に戸惑ってるっていうか…」
「温度差?」
「俺の通ってる高校にもバンドやってるって人達が結構いて…詳しくは知らないんですけどね、みんなたぶん全力なんです…」
「……」
真剣に聞いてくれている。
そういえば、誰かに感情を吐露するのなんて久しぶりな気がする。
吐き出した感情はあまりに
女々しく、弱々しいものだった。
「それに比べて俺は…何やってんだろうなって…」
「…悩んでるってことは一生懸命な証拠だよ。」
「そんなもんですかね?」
「うん…優君にも一生懸命になれるものはあったでしょ?」
「一生懸命…ね。」
「ギター…嫌いになっちゃった?」
「それは…」
わからない。
俺は奏でるのをやめた。
奏でるのを忘れた…つもりだった。
嫌いに…なったのだろうか?
…答えはやはり出ない。
「…バンド、楽しいですか?」
「まだわからない…かな?でもね、見えてくる景色は確実に違うものになると思うんだ。」
「見えてくる景色…ですか。」
「うん、まだ探り探りだけど…バンドの
フロントとして頑張っていけたらなって…」
まったく…自己嫌悪が加速するだけだぜ…
そんな顔されちゃあさ…。
「いつか聞いてよ…私達のバンドの歌。」
「えぇ、機会があれば。」
「ごめんね?ちょっと語っちゃったかな…。」
「とんでもない…おかげでちょっと楽になりました。」
「私も…励まされたから…優君の演奏で。」
「えぇ…?あんなんでですか?」
「うん。」
「そう…ですか…。」
わからんもんだな。
ただ、あの時のあの拙い演奏が誰かの力になっていたことは嬉しくもある。
「好きなものはそんな簡単に
嫌いになれないものだよ?」
「えっ?」
「それじゃ。」
「え、えぇ…また。」
嫌いになれない…か。
俺にもくるのだろうか。
またあの頃のように。
ギターを奏でる…そんな日が。