泣いた。そんだけ。
「くっそー、あいつら…ここぞとばかりにこき使いやがって…」
文化祭の準備も本格的になり、今日も今日とて俺は肉体労働に励んでいた。
「頑張ってるねー!」
「ど、どうもです。」
花咲川の生徒も羽丘に出入りするようになり、度々声をかけられるようになった。
すんなり異性に話しかけられるコミュ力は羨ましくもある。
しかし、慣れねぇ。
他校の生徒さんがいるってのは。
せいぜいカオスな文化祭にならぬよう
祈るばかりである。
「俺は肉体派じゃないって何回言わせんだよ…ったく。」
「あ、ゆうー!」
「おー宇田川。」
「頑張ってるね!」
「まーなー。宇田川からも何とか言ってくれよ。あいつら、俺のことこき使いすぎなんだよ。」
よく見ると隣には花咲川の生徒さんが。
知り合いだろうか?
「こ、こんにちは…」
「こんにちは…えっと、宇田川の知り合い?」
「うん!りんりんだよ!」
あぁ、この人が。
しかし、思ってたより全然イメージと
違う。
どんなはっちゃけた人物かと思えば…
蓋を開けてみれば大人しそうな優等生タイプの人だ。
「あの、いつもこの子がお世話になってます。」
「いえ、そんな…あこちゃんにはいつも
助けてもらってますし…」
すごく礼儀正しいな…俺なんかにも敬語て。
良かったなー宇田川。
こんな人そうはいないぞ?
生徒会長ってタイプの人ではなさそうだけど。
日菜先輩には振り回されてんだろうなー
…御愁傷様です。
「じゃー俺行くな。」
「うん!またねー!」
もう夕暮れ時か。
あっちゅう間だな時間経つのって。
ちょっと休憩でもしようか。
座れる場所を探していると朝日を見かけた。
あいつ…俺がひーひー言ってる時に何を
やってんだ?
「んーと…なになに、バンドやりませんか?」
「あ、優君。」
「メンバー募集?」
「うん…」
まだやってたのか。
「仮に、集まったとして…文化祭には出るのか?」
「うん、そう思っとるんやけど…」
出る気なのか。
もう期間は一週間もないんだぞ?
と、そんな野暮なことを言うつもりはないが。
俺が口を出せることでもないしな。
「そういや、ギターは?いつから弾いてるんだ?」
「えっと、中学校の時から。」
中学からか、結構やってたんだな。
「バンド組んだこととかは?」
「一応、地元では組んでたんやけど…」
「へー、あるのか。」
意外や意外。バンド経験があったとは。
「六花じゃん。」
「ん?」
「あ、リサ先輩。」
リサ先輩って…もしかしてRoseliaの?
楽器を背負ってるところをみると間違いなさそうだ。たぶん、ベースだろう。
「どうも。」
「あ、もしかして…星川優君?」
「え、えぇ…そうです。」
あれ?何か認知されてるっぽい?
宇田川のやつが話したりしたのかな?
「あの…Roseliaの?」
「そ、アタシはRoseliaのベーシスト、今井リサ。よろしくね!」
「えぇ、よろしくです。」
見た感じギャルっぽい見た目の人だけど、不思議とイヤな感じはしない。どちらかというと面倒見のいいお姉さんといった印象を受けた。
しかし、最近よく会うなー…ベーシストとかギタリストとか。
「六花はバンドメンバーの募集?」
「はい…けど、全然集まらんくて…」
「そっかー…ずっと探してるよね。」
「リサ先輩は、文化祭バンドの練習ですか?」
「うん。」
文化祭バンドね。
そういえばあったな。
羽丘、花咲川合同でバンド組むって話。
じゃあ、Roseliaとしては出ないのかな?
「Roseliaの皆さんは出ないんですか?」
少しばかり気になり、聞いてみる。
「うーん、出たいんだけどね…友希那…
ウチのバンドのボーカルの子が真面目でさー…そういうのやらないんだ。」
「…なんていうか、ストイックっすね。」
「あはは、そうだねー。」
文化祭は絶好の機会だと思うんだが…。
それとも何か他に目指しているものとかがあったりするんだろうか?
「何か目標とかがあったりするんですか?」
いかんなぁ。
柄にもなくお喋りがすぎている気がする。
何故ここまで踏み込んだ質問をしたのだろうか。
リサ先輩は一瞬キョトンとした顔をしたが、すぐに表情は真剣なものへと変わる。
「うん、あるよ。」
そう、呟く様はどこか遠くを見ているようだった。
「FUTURE WORLD FES.(フューチャーワールドフェス)…っていう大きなフェスがあってね。」
「FUTURE WORLD FES.ですか。」
「うん、そのフェスにトップの成績で出場すること…それが、目標かな。対バン出るのも主催ライブも全部それのため。」
「なるほど…そのフェスのための通過点に過ぎないと…」
「まぁ、そうなるかな…最初は友希那だけの夢だったんだけど…今は5人の夢。」
5人の夢か…。
それぞれが同じ目標を共有していると。
力強い眼差しだった。
あぁ、この人は本気で夢を追いかけているんだなと…そう思わせるには十分だった。
「…何て語っちゃったかな?」
「いえ!素敵です!」
「即答かよ。」
そうか。
きっとたくさんしてきたんだろう。
挫折も…後悔も…葛藤も……努力も。
それらに裏打ちされて今のRoseliaがあるんだろう。
リサ先輩の言葉に触れて、なんとなくだが、それがわかった気がした。
『みんなー!文化祭バンドの公開リハやるよ!講堂までお・か・しだよー!押さない、駆けない、知らない人について行かない!』
押さないし、駆けないし、知らない人にもついて行かないからご安心を。どうやら、文化祭バンドの公開リハをやるらしい。
「日菜のやつ、リハとは聞いてたけど公開ってのは聞いてないぞー。」
「本当、自由っすよね…発想といいそれを実行する行動力といい。」
「あはは、ま、そっちのほうが面白そうだしいいじゃん?それじゃあねー!」
「は、はい!」
夢のためか。
まさか、そんな壮大な答えが返ってくるとは思わなかったなー。
「宇田川のやつがあれほど気に入る理由がわかった気がするわ。」
「うん…でらカッコいいわぁ。」
「朝日は?」
「え?」
「どうして、バンドやりたいんだ?」
「私は…憧れのバンドさんがおって…
ああいう風にキラキラしたいなって思ったの。」
キラキラねぇ…。
そう言うお前の目だけはキラキラしてっけどな。
バンドに憧れてか、それがこいつのバンドをやりたい理由。まったく…眩しいったらありゃしねぇや。
「そんじゃ、そのためにもバンドメンバー集め、頑張らんとな。」
「うん、頑張る!」
「お、おぉ…頑張れな。んじゃ。」
「え?リハは?」
「リハだろ?別に観なくてもええやんか…それに、頼まれごと終わっとらんしな。」
バンドなんて俺には縁のない世界だ。
音楽っていうのに人生の大半を尽くしたのは事実だが…何も残らなかった…
いや、残ったのは虚しさ…虚無感だけだった。
ひたむきで真っ直ぐなその姿は、捻じ曲がった俺には眩しすぎる。
「始まるってー合同リハ!」
「お前ははしゃぎすぎなんだよ!」
「えー、リハだよ!リハ!有咲だって楽しみでしょ?」
「そりゃ、楽しみだけど…」
ん?
今聞き覚えのある声が…それに、ありさって言ったか?
「いやいや、まさか…」
振り返るがもう誰もいない。
まさか…そんなことあり得るのか?
「まじで…?」
いるのか?
花咲川に?
あの『あーちゃん』が?
「ウソだろ?」
講堂に引き返すか?
いや、でも人違いだったら恥ずかしいし、大体世の中に何人ありさって名前の人間がいるって話だよ。
「偶然…だよな?」