思えば初めてのことだったのかもしれない。
他人のギターの演奏に魅せられたのは。
ぶっ飛んだ演奏をした
…それは俺が知るどんなに有名で、どんなに偉大なギタリストよりも輝いて見えた。
俺は、あの時のあの演奏を…
一生忘れることはないと思う。
合同文化祭も終盤。
羽丘・花咲川の合同バンドの演奏が
始まろうとしていた。
バンドメンバーは見知った顔が多かった。
つぐ先輩にリサ先輩、モカちゃん先輩。
あとは…ふえぇー!?って言ってた人。
名前は知らないが。
「みんなー?まだまだいけますかー?」
今、司会進行をしているボーカルであろう
ピンク髪の人もどっかで見たことは
あるんだよなぁ…どこだったっけ?
考えていると、演奏が始まった。
バイトする人への
ていうか、普通に上手い。
練習時間もそうはなかっただろうに
息もぴったりと合っている。
何よりも皆、楽しそうに演奏している。
「高校最後の文化祭で、最高の思い出が
作れました!皆さん!
ありがとうございました!」
もう終わりか、あっという間だったな。
最高の思い出ね…
良かったな、ピンク髪のボーカルさんよ。
あんたの歌もなかなかのもんだったよ。
「さて、次はいよいよこのバンド!
トリを務めるのは結成一周年の…」
きた。
市ヶ谷先輩の晴れ舞台。
何だかこっちが緊張してきた。
「え…」
どうした?
ボーカルの人、急にフリーズしたけど。
「えぇーっ!?」
どうしたんだよ。
急にテンパり始めたぞこの人。
「えと、一周年で…一周年はー365日で…
つまり、えーっと…」
それどころかバグり始めた!?
大丈夫か?
「頑張れー!彩ちゃーん!」
そうだ、頑張れよ。
彩ちゃんとやら。
高校最後の文化祭なんだろ?
グダグダで終わる気か?
「それじゃあ、一周年繋がりで綿菓子屋
さんの話をしようかなーと…」
「いや、何でだよ!?」
全然関係ねーじゃん。
思わずツッコんじまったわ。
「って、あれ?」
あそこにいるのって…朝日?
そうだ、間違いない。
いつの間にか壇上には朝日の姿があった。
あいつ…あんなところで何やってんだ?
「羽丘一年!朝日 六花です!」
「え?」
あ、朝日さん…?
ギターを持って何をする気?
まさか…演奏する気じゃ…?
「ギターを弾きます!」
「はぁ?」
そのまさかかよ!?
バンド組めなかったから悔しかったのか?
…どうなっても知らねーぞ?
しかし、そんな心配はすぐに吹き飛んだ。
いや……吹き飛ばされた。
朝日 六花の演奏に。
「…嘘だろ…!?」
思わず声が出た。
俺は、その姿から目が離せなかった。
あいつのギターを奏でる姿は
普段のあいつとはまるで別人で
俺はその演奏に
朝日 六花の演奏に━━
「すげぇ…」
━━心を奪われた。
歓声で我にかえった。
誰もが朝日の演奏を称賛していた。
これは…何だ?
沸き上がるこの得体の知れない感情は…
一体何なんだ?
すげぇよ…お前。
聞こえるだろ?
これ、全部お前に向けての歓声なんだぜ?
なぁ、朝日?
お前は今…どんな気分なんだ?
そこからは、どんな景色が見えているんだ?
「アンコール!アンコール!」
あ、パニックになって、目回してたわ。
いつものあいつだ。
何も見えてなかったな。
歓声の中、ドラムの音が鳴り響く。
「宇田川?」
お前までどうした?
ここぞとばかりにはっちゃけるつもりか?
それに、生徒会長のりんりんさんまでいる。
「もしかして、Roseliaが演奏するの!?」
「マジ!?ヤバくない!?」
Roseliaが!?
待て待て、一旦整理させてくれよ。
頭が状況についていってないからさ。
続いてリサ先輩が出てきた。
それから、紗夜先輩に…あの人は…湊さん?
…そういうことかよ。
ゆきなって湊さん…あんたのことだったのか。
それにしても、次は市ヶ谷先輩のバンドの番じゃなかったのか?
これは、サプライズ的な感じ?
サプライズライブ?
何か語呂いいな。
「誰か、ギターを!」
紗夜先輩、ギターを持ってないってことは
演奏する予定はなかったってことか?
てことはサプライズってわけでもないのか。
一体どういうことだ?
「おねーちゃん!使って!」
日菜先輩?
何でギターなんか持って来てんだよ。
「日菜先輩、これって…」
「おねーちゃん達、演奏するんだよ!
優君も一緒に観よ!」
「いや、あの…」
「少しだけ、私達にも付き合ってもらえる?」
湊さんがマイク越しにカッコいい口上を
述べる。
その瞬間、割れんばかりの歓声があがる。
人気すげぇな…!
改めてRoseliaの知名度の凄さを思い知る。
しかし、ちょうどいい機会だ。
Roseliaさんのお手並み拝見といきますか。
「友希那ー!」
「友希那さぁーん!!」
「カッコいいー!!」
どうでもいいけど、落ち着け君達。
「おねえちゃあぁぁん!!」
あんたも落ち着けな。
蒼いスポットライトに照らされ、それが
合図となり演奏が開始される。
そして、すぐに思い知る。
Roseliaの凄さを。
「…何コレ?」
開いた口が塞がらんのだけども。
いや、ヤバくない?
この人達プロの方々?
俺視点だとプロと遜色ない演奏なんですが。
Roseliaの奏でる演奏に、その一体感に俺は圧倒されていた。
宇田川ごめん。
お前にドラムは無理だと思ってた。
鼻で笑ってた。
めちゃくちゃ叩けてるやん。
めちゃくちゃ楽しそうやん。
白金さん…だっけ?
…俺、結構ピアノ関連にはうるさいんだけどね、満点をあげたいぐらい。
淀みない指づかいをしていらっしゃる。
リサ先輩。
イケイケって感じ。
ギャルにベースっていう新ジャンル。
当然ながら上手い。
で、湊友希那さん。
透き通るようで力強いその歌声はなるほど、Roseliaの知名度も頷けるほどの完成度。
さっきからコメントが良くわからない感じになってるのは申し訳ない。
そして、紗夜先輩。
恐ろしいほどに正確なストローク。
ストロークというのは常に一定の動作を
求められるものなのだが…
いや、それにしても正確すぎるだろ。
「たくさん、練習してきたんだろうな…」
わかった…わかってしまった。
何十回、それこそ何百回と…ギターを
弾かなきゃあんな演奏はできない。
そして、それは紗夜先輩に限った話ではないのだろう。
努力という言葉が霞むほどの研鑽を経て、今あの場所に立っている。
「これが…Roselia(ロゼリア)か…」
その凄さに、周囲の熱気に俺は圧倒されるばかりであった。
演奏が終わっても、熱は冷めることはなかった。
そして、羽丘・花咲川の合同文化祭は終わりを迎えた。
待ちに待ったバンドの演奏は…始まらぬまま。
評価を頂けて、嬉しい限りです。
執筆してて良かったと思える瞬間。