「はぁ…」
『羽丘一年!朝日 六花です!』
まだ、あの音が脳裏に焼きついていて
頭から離れない。
「朝日 六花…」
ったく、とんでもねーことしてくれやがって…
おかげで感情がごちゃ混ぜになってて
自分でも訳がわからなくなっている。
「あー!何なんだよもう…」
あてられたってのか?
あいつの演奏に?
同じギタリストとして。
あるわけがない。
大体、俺はもうギタリストじゃない。
「優?さっきから何騒いでんの?」
「あぁ、わりぃ母ちゃん。」
でも、いきなり入ってくんなな。
「何か悩み?もしかして、恋とか?」
「…かもしんねぇ。」
「えっ!?あんたが!?」
「冗談だよ。真に受けんなって。」
これが恋であってたまるか。
「びっくりしたぁ。」
そんなびっくりすることか?
あんたは、実の息子を何だと
思ってるんだよ。
悔しがっとけ、そこは。
「とりあえず風呂沸かしといたから、今日はさっぱりして寝なさい。」
「そうする。」
「皆さん、ありがとうございました!」
後夜祭。
白金生徒会長が締めの挨拶を行っていた。
「それでは…乾杯…!」
「「かんぱーい!!」」
色々あったけど、無事に終わって良かった。
一つだけ、心残りはあるが。
市ヶ谷先輩…いねーな。
やっぱ、ショック受けてんのかな。
ライブ…できなかったんだもんなぁ。
日菜先輩曰く、Poppin'Partyのギターの人が別の場所でライブをしていたらしく
それが押してこっちに来るのが遅れたらしい。
残念ではあったが、やはり今はそれ以上に先輩が心配だ。
「星川!乾杯の音頭とってよ。」
「は?今さっきしたろ。ていうか俺?」
「うん。一番頑張ってくれてたから。」
「ありがと。」
「星川のおかげだよ。」
お前らなぁ…
「ずるいよなぁ、女子ってやつはよ…」
これじゃ、こき使われたこと怒るに怒れないじゃねーかよ。
「ま、悪くはなかったかな。」
「そこは、楽しかったでいいじゃん。」
「ホント、ツンデレだよね。」
「ちげーよ!ほら、アホなこと言ってないで、乾杯すんぞ。」
…あぁ、確かにそれなりに楽しかったよ。
そこは認めるよ。
口には絶対出さねーけどな!
「そんじゃ、羽丘・花咲川合同文化祭の
成功を祝って━━かんぱーい。」
「「かんぱーい!」」
俺には思い出を作る資格なんかない。
でも今だけは浸らせてくれ。
この想いはなかったことにしたくはない。
終わるのが寂しいだなんて思ったのは…
これが初めてだから。
「はー染みるわぁ…」
良い湯だ。
このまま寝落ちしそう。
それにしても…元気なかったな、あいつ。
あんだけの演奏かましたってのに、朝日のやつどこか浮かない顔をしていた。
結局、声をかけることはできなかった。
って恋する乙女か…俺は。
「何であんなにあいつのことばっか気にしてんだ…」
…本当に恋してんのか?
いや、ないない。
ありえない。
そんなことは。
けど、今一番気になるのはPoppin'Partyよりも…あいつなんだよなぁ。
本当に、どうしちまったんだか。
今日はもう寝よう。
先輩は近々励ましにでも行ってやるとするか。
というか、連絡先聞き忘れてたな。
「はぁ…」
明日になれば、また普通の日常か。
『ギターを弾きます!』
いきなりステージに乱入して、弾いた曲がまさかの俺の好きなロックミュージシャンの曲とは…ホントにおもしれーな、あいつは。
「ごめんな…相棒。」
そんなところに閉じ込めて。
思えばお前は俺がランドセル背負う前からいたんだよな。
親父を抜かすためにがむしゃらに頑張ったよな。
幼馴染に褒められたくて一生懸命やったよな。
いつだって俺の傍にいてくれたよな。
「楽しかったよな。」
お前は悪くないんだよ。
悪いのは、俺だ。
「ごめんな。」
俺はもうお前とは一緒に演奏できないんだ。