奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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黄昏ブラックコーヒー

 

合同文化祭も無事に終わり、学校はいつも通りの日常を取り戻した。

 

「川君…星川君。」

 

「あ、はい。」

 

「聞いてなかったんですか?この問題の

答えは?」

 

「…聞いてなかったです、すみません。」

 

「期末試験も近づいてますから、気を抜かないように。」

 

「へーい。」

 

「返事はしっかりと。」

 

「はい。」

 

俺はというと、この有り様である。

どうにもエンジンがかからない。

文化祭で燃料を使いきっちまったのだろうか?

 

「来年はうちらも演奏しようよ!」

「そうだねー!」

 

もう、来年の話してるよ。

でも、来年はさすがに合同じゃないと思うけどな。

日菜先輩も卒業するし。

 

「朝日さん、ホントに凄かったよね!」

「あれ、何て曲なんだろ?」

 

凄かったなんてモンじゃねぇ。

明らかにあれは高校生のレベルを超越していた。

しかも、恐らく即興での演奏だろう。

あの影響で羽丘ひいては花咲川での注目度も高まったはずだ。

…しかしながら、当の本人は何か元気がない。

何かあったのか?

 

 

 

 

「苦っ…。」

 

カッコつけてブラックコーヒーをチョイスしたのが間違いだった。ベンチで優雅にブラックを飲み佇む大人な優君を演じてみたかったが、失敗に終わる。

くそダセェことこの上ない。

 

「どうしたのー?」

「あ、リサ先輩。」

「やっほー☆」

 

声をかけてきたのはリサ先輩。

相変わらずの安心と信頼のギャルっぷりである。

これ、褒め言葉な。

 

 

「優、何だか元気ないじゃん。」

「ちょっと…文化祭気分が抜けきらないっていうか…」

「あはは!わかるわかるー!だよねー…

アタシもだよ。」

 

まったくそうは見えないんですが…

 

「…凄かったです。Roseliaの演奏。」

「ん、ありがと。」

「想像以上だった…見事に圧倒されましたよ。」

「照れちゃうなー…そこまで褒められるとさ。」

 

主催ライブ、観に行けば良かったかもしれないと今さらながらに後悔する。

 

「優は?楽器とかやってたりしないの?」

「俺は…今はやってないです。」

「今はってことは…昔はやってたんだ?」

 

どーしてこう口を滑らせちゃうかなぁ…

俺は。

 

「…ギターを…一応。」

「へぇーそうなんだー!優、ギタリストだったんだ。」

「昔の話っすよ、昔の…今は違います。」

「…そっかー。」

 

…気を遣わせちまったかな。

何だか申し訳ない。

 

「でも、昨日のあいつの…朝日の演奏を

聞いてから何かおかしくって…」

「凄かったよねー!アタシもびっくりしちゃった。」

「自分でも訳がわかんなくって…ギターはやめたはずなのに…この感情は何なんだろうって…」

「…きっとさ、優はギターがやりたいんだよ。」

「俺が…ギターを?」

 

否定は…できない。

どこまでいっても、たとえ腐っても俺は

ギタリスト…ってことだろうか?

 

「アタシもさ、一回ベースやめてるんだ。」

「え…そうだったんですか?」

「うん、ブランクあるから…技術も経験もRoseliaで一番劣ってるのはアタシなんだよねー。」

「そんなことは…」

「…ありがと、優しいね優は。」

 

そうか。

挫折からか何が原因かはわからないがこの人も…

 

「…どうして、またベースを?」

「それは、友希那のため…かな?」

「湊さん?」

「うん。アタシと友希那って幼馴染でさ、昔からよく一緒に遊んでたんだけど…いつからか友希那、全然笑わなくなっちゃって…」

 

幼馴染のため…か。

 

「だから、アタシがRoseliaで演奏するのは友希那の笑顔をもう一度見るためでもあるんだよね。」

「なるほど。」

「ごめんね、また語っちゃったかな?」

「いえ、わかりますよ…俺も、幼馴染に

褒められたくってギターやってたクチですから。」

「そうなんだ。」

「今は花咲川でバンド組んでて、昨日も

演奏するはずだったんですけどね…残念ながらトラブったみたいで…」

「え、幼馴染ってポピパにいるの?」

 

ポピパって…Poppin'Partyの略称か…ようやくわかったわ。

 

「市ヶ谷 有咲って先輩なんですけど…」

「有咲?優と有咲って幼馴染だったんだ!」

「え、えぇ。もしかして、知ってます?」

「知ってるよー。アタシ達の主催ライブにも出てくれたんだ。」

「へ?」

 

主催ライブに出た!?

Poppin'Partyが!?

それ…それ…早く言ってくれよ…。

 

「うわぁ…じゃあ尚更行けば良かった…」

「あはは、残念だったねー。でも、近い内にポピパも主催ライブやるって言ってたよ。」

「え、まじですか!?」

「うん、アタシ達も呼ばれたんだよねー

ゲストとしてさ。」

 

あの人…何でそんな大事なこと言わなかったんだよ。

主催ライブだなんて。

一大ビッグイベントじゃねーか。

 

「じゃあ今はその主催ライブに向けて練習してるんですか?」

「うん、セトリとか衣装とかあと新曲も作ってるんだ♪」

「新曲か、良いですね。」

「でも、ちょっと心配なんだよね…」

「心配?」

「主催ライブがあった日にさ、友希那が

ポピパのみんなに言ったんだよね…

『主催ライブをする覚悟が足りていない』ってさ…」

 

そりゃまた、手厳しいなぁ…湊さん。

Poppin'Partyの皆さんも、あの演奏の

クオリティを見せつけられただろうから

何とも言えんわな。

 

「覚悟か。」

 

耳が痛い話だな。

結局、俺は未練たらたらだったってことか。

断ち切る覚悟が足りていなかった。

だから、揺らいでいるんだ。

心のどこかで燻りがあったんだ。

 

「強いですね。湊さんは…リサ先輩も。」

「アタシ?そんなことないよー。」

「ありますよ。また立ち上がったじゃないですか…先輩は。」

「優は?もう一度やってみればイイじゃん。」

「俺は、そんな資格ないんです。」

「資格?」

「何より、あいつに申し訳がたたないんで…」

「…ごめん、何か無神経だったね、

アタシ。」

「いやいや!悪いのは俺の方ですよ。何かすんません、湿っぽくしちゃって。」

 

罪悪感が半端ねぇ。

誰もこんな女々しい野郎の言うことなんか聞きたくねぇっつうんだよな。

 

「可愛い後輩の悩みを聞くのも先輩の役目じゃん?」

「可愛い後輩なんですか?俺も。」

「あはは!そうに決まってんじゃーん!」

「そうですか…じゃあ、また相談してもいいですか?」

「もちろん☆」

 

優しいですね、リサ先輩は。

下手したら惚れてんぞ。

 

「それじゃあ、またね!」

「練習、頑張ってください。」

 

俺も帰るかね。

立ち上がり、残ったブラックを飲み干す。

 

「やっぱり、苦い…」

 

やっぱり、人間背伸びなんてするもんじゃねーな。

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