奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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幼馴染の不安

 

文化祭も終わり、何だかんだで一週間。

落ち着くかと思いきや、期末試験まで

あと二週間ちょいっていうね…

本当に退屈しない所だな、ここは。

 

中間試験は慈悲深き戸山様のおかげで

赤点は免れたが(ギリギリ)今回はさすがに自力で何とかしないといけない。

夏休み補習とかさすがにやってられないんでな。

 

それもあるが、そろそろ市ヶ谷先輩の所にも顔を出さないとな。あん時はバタバタしてて話も全然できなかったし…主催ライブとやらのことも聞きたい。

夕飯の買い物がてらちょいと遠出して行ってみるとするか。

 

 

 

「久々だなーここに来るのも。」

 

てなわけで、やって来ました市ヶ谷家。

一体何年振りだろうかね?

 

「いらっしゃい…おや?」

「どうもー…」

 

祖母の万実さん、全然変わってないなー。

何だか安心する。

この人の作る卵焼きがこれまた美味いんだ。

 

「もしかして、優君かい?」

「はい、ご無沙汰してます。」

「大きくなったね、有咲に用かい?」

「えぇ、まぁ…そんなとこです。」

「ごめんね、有咲、今来客中で…」

「ありゃ、そうですか。」

 

なるほど…じゃあ仕方がないか。

後日、出直すとするかな。

 

「買い物がてら寄っただけなので、出直しますね。」

「ごめんね。」

「いえいえ、連絡もせずに来たんで、お構い無く。」

 

友達とでも遊んでんのかな?

でも、来客って言い方はしないか…

まぁいいや。

 

 

 

「…ったく、何でいつも低脂肪牛乳だよ…

たまには普通のも飲みたいっての…」

 

我が家の母親の謎のこだわりである。

別にどっちでも変わらないと思うけど。

 

「うーん、迷うな…」

 

肉じゃがにすっか、カレーにするか。

どちらも捨てがたい…

 

「家にカレー粉あったっけか…いや、待てよ…ここはあえて…」

「優。」

「っ!?」

 

い、市ヶ谷先輩か…びっくりしたなぁ。

ってあれ?どうして?

 

「婆ちゃんからお前が来てたって聞いたからさ、待ってりゃ会えると思って…

って買い物帰りか?」

 

え、律儀に待っててくれたの?

何て良い子。

 

「来客中って聞いたんで、後日出直そうとしてたんですけど…もう用は済んだんですか?」

「…あぁ。」

「じゃあ、ちょっと話でもしませんか?」

「でもお前、買い物帰りじゃ…」

「大丈夫っすよ。母親が腹すかせるだけなんで。」

「いや、大丈夫じゃねーだろ。」

「先輩と話す時間のほうが大事だし。」

「ったく、相変わらずだなお前は。」

 

再会した時は大して話せなかったからな。

主に俺のせいだけど。

 

「…悪かったな。」

「どうして謝るんです?」

「いや、バンドの演奏するからってお前に言ったのに、できなかったわけだし…」

「別に、誰が悪いって話でもないんでしょ?仕方ないことじゃないですか。」

「…まぁ」

「それよりも、近い内に主催ライブってのやるんでしょ?どうして言ってくれなかったんですか?」

「あぁ…悪ぃ、言い忘れてた。」

 

何だろ?

さっきからどうにも歯切れが悪いな。

 

「…何かあったんですか?」

「え?」

「どうにも、元気がないように見えるから…」

「そうか?そんなことは…ねーけど…」

 

相変わらずはあなたもだよ。

隠すのが下手だ。

そんなんじゃバレバレだよ。

離れてたとはいえ伊達に幼馴染やってねーよ先輩。

 

「バンドの人達とケンカしちゃったりとか?」

「…ケンカってわけじゃねーけど…」

 

()()はあったということか。

 

「良かったら話してくださいよ。少しは楽になるかもですよ?」

「………」

「第一、幼馴染がヘコんでんのは見過ごせねーし。」

「幼馴染か…お前、和奏レイって覚えてるか?」

 

レイさん?

同じスクールには通ってたけど、この二人って接点あったっけ?

 

「レイさんなら、この前会いましたよ。

めちゃくちゃ美人になってて初見じゃわかんなかったんですけどね。」

「や、そこまでは聞いてねーよ…」

「そういや、バンドにスカウトされたって言ってたな。」

「…その、和奏レイがウチらのバンドのギターのやつと幼馴染でさ、それでその和奏レイのバンドのサポートに入ってたんだよ。」

 

なるほど…それで文化祭には間に合わなかったのか。

しかし、幼馴染ねぇ…何かイヤな予感がするな。

 

「先輩、さっきの来客って…もしかして?」

「…バンドのプロデューサーが来たんだよ。ポピパのみんなにも集まってもらってさっきまで話してた。」

「プロデューサー?」

 

プロデューサーって…

何か胡散臭(うさんくせ)ーな。

 

「おたえ…ウチのバンドのギターをくださいって…」

「はぁ?スカウトってことすか?」

「…うん。」

 

プロデューサーか何か知らんが、滅茶苦茶なヤツもいたもんだな。要は引き抜きってことじゃねーか。

 

「で、先輩方は何て返事を?」

「とりあえず、主催ライブが終わるまでは向こうが待つって話になったんだよ。」

 

おいおいおい。

俺が予想してたよりもずっと重い話

じゃねーかよ。

てか、これ…俺じゃどうにもならんくね?

プロデューサー引き摺り回して諦めさせるしか手段ねーぞ?

 

「ライブも観に行ったけど、すげーレベル高かった。」

「ライブ、あったんですか?」

「あぁ、ウチらのギターのやつもまるで別人みてーでさ…」

 

サポートで呼ばれるくらいだから、相応の腕はあるんだろう。ギターってのはバンドの花形とも言われているから…腕が良いとなれば尚更需要も高まる。

 

「そっちで演奏するほうが、そいつの為にもなるんじゃねーかって…」

 

きっとそのギターの人も揺れているんだろう。

過去の幼馴染か、今か。

気持ちはわからないでもない。

同じ立場だったら、俺も迷うと思うし。

それぐらい幼馴染って存在は大きいもんだ。

 

「先輩自身の気持ちは?その人にいなくなってほしいんですか?」

「そんなわけねーだろ!」

「だったらもう答えは決まってるじゃないですか。引き留めるべきですよ。」

「そんな簡単な話じゃ…」

「居てほしいんでしょ?なら、言うべきですよ。本人に直接。」

「…そういう…もんか?」

「えぇ、でないと後悔しますよ。言えるうちに言っとかないと…言いたくても言えなくなっちまう。」

「…優。」

「バンド楽しいんでしょ?もうちょっと

素直になんなさいよ。」

「は、何だそりゃ…」

 

良かった、ちょっと笑ってくれた。

やっぱりこの人には笑っててくれないと。

沈んでるのは似合わねーよ。

 

「そうだよな…」

「偉そうなこと言いましたが、俺自身バンド組んだ経験ないんでこれ以上言えることはないんですが…」

「そういうお前は?」

「え?」

「ギター、やってんのか?」

 

あー、やっぱり来ちゃうか…その質問。

できれば聞かれたくはなかったが…

 

「…やめました…ギターは。」

 

「そうか、あんなに好きだったのにな…」

「…俺にはもう…弾く資格がないんですよ。」

「はぁ?弾く資格がないって…何があったんだよ?」

「…つまらない話ですよ。ごくごくつまらない話。」

 

聞かせる話でもない。

それに、聞いたらきっと幻滅する。

 

「主催ライブっていつやるんですか?」

「今月の最後の土曜日だ。」

「今月ですか、じゃあもうすぐだ。」

「…観に来てくれんのか?」

「えぇ、先輩にそこまで言わせるPoppin'Partyの皆さんのことも知りたくなったんで。」

「そっか…優…ありがとな。」

「え、デレた?」

 

破壊力がやべぇ。

 

「バッ…デレてねーよ!」

「またまた、照れちゃって…」

「照れてもいねー!さっさと帰れ!」

「ちょ、いきなり酷くないすか!?」

 

でもま、元気出たみたいだから良しとするか。

 

「そうだ、連絡先教えてくださいよ。」

「あぁ、そういや交換してなかったな。」

 

これで、いつでも連絡が取れるようになったわけだ。

 

「何かあったらまた、連絡くださいね。ていうかします。」

「あぁ。」

「じゃ、また。」

「…あぁ、またな。」

 

しかし、この人にここまで言わせるとは。

ちょっと嫉妬しちまうな。

他のメンバーの人のことは知らないが、この人達なら大丈夫だろう。どんなことがあっても乗り越えられる。

根拠はないが、何故かそんな確信めいた

予感があった。

主催ライブ、行くか。

そこで何かが…見つかると信じて。

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