奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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ここから過去編に入ります。
所謂導入回。どうぞ。



Reminiscence

 

中学三年生の春。

それなりの時間を過ごした静岡を離れ、

新たな学校へと通うことになった。

あの親父は本当に急だから困る。

仕事の都合だから仕方ないのはわかるが。

とはいえ、別に親しかった人間がいたわけでもないので、そこはどうでもいいのだが。

 

「星川優です。よろしくです。」

 

素っ気ない自己紹介。

感じ悪いな。

何だアイツ。

そう思うんなら勝手に思え。

どうせお前らとなんて一年も経たずに

お別れなんだ。

関わるつもりもない。

何もしないから、ほっといてくれ。

 

「ほ、星川君。」

 

休み時間、早速クラスの女子の一人に話しかけられた。

 

「…何?」

 

「先生に学校を案内してくれって頼まれたんだけど…」

 

そういうのを異性にやらせるかね。

どっちもイヤだけど。

 

「あぁ、別にいいよ。」

 

手を振って否定の意を示す。

 

「でも…」

 

「いいって。」

 

「……」

 

「何?その言い方。」

 

また一人何か女子が現れたよ。

こいつは何かめんどくさそう。

 

「あんた、自己紹介の時から思ってたけど感じ悪いよ。」

 

「そりゃ、どうも。」

 

「褒めてないし。」

 

鬱陶しいことこの上ない。

突っかかってくるんじゃねーよ。

 

「はぁ…だる。」

 

「は?」

 

「ちょ、やめようよ…里美ちゃん。」

 

「祥子、あんたお人好しすぎ。こういうのには一回言ってやんないとダメなんだって。」

 

「あの、行っていい?」

 

「あんたね…」

 

「ご、ごめんね!星川君…」

 

謝るくらいならこれからは話しかけないでほしいものだ。

 

もう、友達だのなんだのそういう時期じゃねーだろ。

そういう仲間意識みたいなものに

俺を巻き込むな。

孤独?

上等だよそんなもん。

プライドなんか何もない。

スクールカーストとかステータスなんか

くだらねーってことにお前らはいい加減気づけ。

 

おかげで一週間も経たずに俺は誰からも

話しかけられることはなくなった。

たまに、あの祥子だっけ?

小柄な眼鏡の女子が心配そうな顔してチラチラと見てくるのがうざったいが。

概ね、望んだ結果になった。

あとは教師に睨まれないように最低限のことをこなすだけだ。

 

こんなもんだろ、学生生活なんて。

何も起きない。

退屈な日常と生産性のない会話を繰り返すだけ。

それのループ。

 

俺にはギターさえあればいい。

それ以外はいらない。

あーあ、早く帰って弾きてーな。

 

「あ、そういえば…」

 

この学校、吹奏楽部ってものがないらしい。

そのわりに、音楽室にはたくさんの楽器があった。

もちろん、ギターも。

…ワンチャン弾いてもバレないんじゃね?

音楽室に行くやつなんてそうそういないだろうし。

最悪、音楽担当の教師に言えば楽器ぐらい使わせてくれんだろ。珍しい種類のギターもあったし、帰りに寄ってみるか。

 

 

 

 

 

「失礼しますよーっと。」

 

鍵はかかってないみたいだ。

おぉ、あるある。ちゃっかりエレキも置いてんじゃんかよ。もったいないなー置いてるだけなんて。

ちょっくら弾いてみっか?

と、そこへ…

 

「おぉ、人がいたのか!」

 

やべ。

早速バレた。

見たところ音楽担当の教師だろう。

30代後半ってところだろうか?

しかし…頭頂部が残念なことになってんな…御愁傷様です。

 

「新入生?」

 

「あ、いえ…3年です。」

 

「見ない顔だな…もしかして、転校生か?」

 

「はい…何かすんません、勝手に入っちゃって。」

 

「いやいや、全然構わんよ。あ、俺は音楽担当の山田、よろしく。」

 

「星川です。」

 

「そうか、星川君。唐突だが楽器に興味はないか?いや…ギターを弾こうとしてたな…経験者かい?」

 

「えぇ、一応。」

 

「そうか!じゃあ軽音楽部に入ってみる気はないか?」

 

「はい?」

 

急になんだ…このハ…おっさん。

この前ウチに来てた訪問販売の人と同じテンションなんだが…一言で言うと暑苦しい。

 

「軽音楽部の顧問もしとるんだが、いかんせん部員がいない。それじゃ、寂しい!

というわけでどうだ?」

 

何がというわけでだ?

部活とかだるいんですけど。

断ろ。

 

「来たい時にくればいいし、別に強制はしない!もちろん楽器とかその他諸々は好きに使ってくれて構わない!破格の条件だろ?」

 

あんた、教師より営業のほうが向いてるよ。

でも、まぁ…確かに、ちょっと魅力的ではあるかな。

機材も揃ってるし…。使いたい放題か。

 

「来ても来なくても構わないんすね?」

 

「あぁ、さっきも言ったが強制はしない!」

 

「音楽室に誰か来ることは?」

 

「基本ないな。」

 

それなら…良い環境じゃないか。

 

「先生も基本は干渉しない。自主性を重んじる。」

 

なんだ、この先生良い人じゃん。

 

「じゃあ、入ってもいいですよ。」

 

「本当か!じゃあ、先生は入部届けの用紙持ってくるから…ちょっと待っててくれ。」

 

「お願いします。」

 

どんだけ必死なんだよ。

別に俺一人入ったぐらいで…そんな変わらんだろうに。

暇だし、さっきのギターでも弾かせてもらいますか。

 

やっぱいいわ、こいつ。

俺の相棒もカッコいいけど。

フィーリングって大事だね。

どうせなら、見た目良いの使いたいじゃんよ。

ギタリストの性ってヤツかね?

 

いい!いい!

素晴らしい!この重厚なサウンド!

家では出せない。

でかいアンプがあると違うね、やっぱ。

久々にテンション上がるわ。

騒音とかも気にする必要ねーもん、ここなら。

しかし、人間そうなると視界は狭くなるもので…

 

 

「良い音出すね。」

 

「まーな、何せ設備が段違い…」

 

ん?

 

「!?」

 

今、女子の声しなかった?

 

恐る恐る目を開ける。

 

「…えっと、どちら様?」

 

「それはこっちの台詞だよ?キミは新入生かな?」

 

これが、出会い。

 

俺と彼女のファーストコンタクト。

 

淡い思い出の序章。




この頃の優君はちょっと性格が荒んでますが特に、過去に何かあったわけではありません。
背伸びした子供だなぁと温かい目で見守ってやってください。
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