奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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逢沢優歌

 

「あ!もしかして、入部希望の人!?」

 

「違います。」

 

つい、反射で答えてしまった。

誰だよ、この女。

 

「違うの?」

 

「違います。失礼しました。」

 

そう言い、退室しようとするが、腕を掴まれる。

 

「待って!」

 

あぁ、うるさいな。何だよ?

睨み付けてやるが、まったく効果はないみたいだ。

 

「ギター、教えてよ!」

 

「はぁ?」

 

「じゃなかった…まず自己紹介だよね。」

 

いや、意味わからん。

そもそも何なんだよお前は。

もしかして、部員の人じゃないよな?

 

コホン、と咳払いをするとその女は勝手に自己紹介をし始めた。

 

「私、逢沢 優歌(あいざわ ゆうか)っていうの。キミは?」

 

「名乗るほどの者じゃありません。用事あるんで、これで帰ります。」

 

「いやー待たせたね、星川君!」

 

今度こそ帰ろうとするが、最悪のタイミングで先生が戻ってきた。

あんた、タイミング悪すぎだろ!

しかも、騙しやがったな!

 

「あ、せんせー!こんにちは。」

 

「おぉ、逢沢。喜べ、新入部員だぞ。転校生の星川君だ。」

 

「ホントに!?」

 

勝手に決めんなよ。

俺は帰る。

 

「唯一の部員の逢沢だ。星川君、仲良くしてやってくれよ。」

 

いや、だから勝手に…

 

「よろしく!星川…何ていうの?」

 

「はぁ…優、星川 優だ。」

 

「ゆうってどういう字書くの?」

 

別にいいだろ、そんなの。

かったるいわ。

 

「優秀とか優勝の優。」

 

「そっかー…優しいの優か…私と一緒だ。」

 

どうでもいい。

 

「良い名前だね。」

 

「そうか?」

 

女の子みたいとかよく言われたけどな。

どうせなら勇ましいの方の勇が良かったわ。

 

「改めて、よろしくね!優!」

 

早速下の名前呼びかよ。

しかし、名前褒められたのは初めてか。

何だろう…悪い気はしない。

 

結局断りきれずに俺は軽音楽部(部員二名)に半ば強引に入部させられてしまった。

 

転校早々災難だ。

しかも、部員が女子一人かよ。

おまけに俺の一番苦手なグイグイ来るタイプだ。

この逢沢 優歌ってやつは。

 

 

 

 

「ね、ギター教えてよ。」

 

「断る。」

 

「何でー?」

 

「教えんのが絶望的に下手だし、ぶっちゃけめんどくさい。」

 

「ぶっちゃけたね。」

 

「てわけだ。弾きたきゃ自分で頑張れ。」

 

「じゃー何か弾いてよ!それならいいでしょ?」

 

「はぁー…リクエストは?」

 

「何でもいいよ!」

 

「りょうかーい。」

 

他人に演奏聞かせるのは数年振りだ。

幼馴染とのお別れ以来か。

そういえば、元気にしてるのかな。

今となっては懐かしい…あーちゃん。

 

「うん!やっぱり良い音…」

 

「わかるのか?」

 

「んー…なんとなく…でも、ちょっと悲しそうだったな。」

 

「あぁ…ちょっと昔を思い出してな。」

 

感情が表に出ちまったか。

 

「ノスタルジーってやつ?」

 

案外、難しい言葉知ってるんだな。

 

「たぶん、それだ。」

 

「転校してきたんだっけ…友達と別れて

寂しいでしょ?」

 

「別に…そんなのいなかったし。」

 

「ふーん…寂しいね。」

 

「ほっとけ。」

 

「ギターは?昔から?」

 

「かれこれ7、8年くらいはやってるかな。」

 

「そんなに!?」

 

月日が経つのなんてあっという間だよ。

十代も折り返し地点。

あっという間に二十歳になって、あっという間にオッサンになってくんだろうな。

 

「ね、やっぱりギター教えてよ!」

 

「断っただろ。」

 

「いいじゃん!一緒に弾いたらもっと面白くなるよ!」

 

「つーか、今までの活動は何してたんだ?」

 

「んー…歌ったり、ピアノ弾いたり?」

 

「一人でかよ?」

 

「んーん、もう一人いたんだけど…転校しちゃった。」

 

「なるほど。」

 

まぁ、暇だしな。

俺の音を褒めてくれたし、悪いやつではなさそうだし…多少騒がしいけど。

いいかもしれないな。

こいつの口車に乗るわけじゃないけど。

チョロいとか言うな。

 

 

「…本当に下手だぞ?」

 

「え?教えてくれるの!?」

 

「それでいいんなら。」

 

「やった!ありがと!優!」

 

「お、おぉっ…わかったから揺らすな。」

 

「師匠って呼ぶね。」

 

「呼ぶな。」

 

俺は、無意識の内に求めていたのかもしれない。

誰とも関わりたくないと思いながらも…

同時に誰かといたいという相反する感情も

抱いていたのかもしれない。

とにもかくにも、これが始まり。

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