「はぁー…」
「いつにも増して不機嫌だね、アンタ。」
…えっと、誰だっけかこいつ。
ていうか何で絡んでくるんだよ。
「白鳥 里美。いい加減覚えなよ。」
すみませんね、他人に興味が薄いもので。
「で、あっちは?」
ちっこい眼鏡の女子。隠れてるつもりかは知らないが、バレバレだからな?
「佐々木 祥子。アンタのこと気にしてんだよ、色々とさ。」
「ちょ、里美ちゃん!」
「ふーん…で、何で懲りずに俺と関わろうとするわけ?」
「別に、あたしらの勝手じゃん。」
「哀れみとか、同情の類ならいらねーぞ。自業自得なんだからな。」
「アンタ、一匹狼気取ってるだけでそんな悪いヤツじゃないみたいだしさ。」
なんだよ、それ。
俺のことをわかった気になるなってんだ。
「それで?ため息の理由は?」
「…お前らさ、逢沢 優歌ってやつ知ってるか?」
「あぁ…E組の。」
「逢沢さんと…何かあったの?」
「いや、それがよ…山田って先生に騙されて軽音部に入部しちまったんだけど…その逢沢ってのがテンションあり余ってんのか…元気すぎて手に負えねーんだよ。」
「へー、良かったじゃん。」
どこをどう聞いたらそういう感想が出るのかな?
愚痴ってんだけども。
「逢沢さん…元気なかったから。」
「え、あいつが?」
「うん…あんなことがあって…」
「ちょっと!」
何か言いかけた佐々木を白鳥が強い口調で止める。
「何かあったのか?」
「ご、ごめん!何でもないよ!」
「ふーん…ま、いいけど。」
さては、あいつ何かやらかしたな?
まったく困ったもんだ。
果たして俺に制御できるかどうか。
「星川…ちゃんと仲良くするんだよ。」
「お、おう。」
何なんだその妙なコメントは。
ちなみにそのコメントに対する返答は無理だ。
ほんっとに…何で引き受けちまったかね。
誰かに何かを教えるなんてガラでもないし。
誰にも邪魔されずに至福の放課後を過ごす計画が台無しだぜ、まったく。
「ねぇ、星川先生!」
「はいはい、何かね?」
逢沢はやかましかったが、吸収力はあった。
教えたことは大抵すぐにこなした。
挫折ポイントと呼ばれるFコードも難なくこなしやがった。
すぐに飽きてやめるかと思っていたが
予想に反してあいつはやめなかった。それどころか、下校時間ギリギリまで練習しているほどだ。
「だいぶ、様になったな。大したもんだ。」
「そう?」
「あぁ、正直すぐやめるかと思ってたけど。」
「やめるわけないじゃん。すごく楽しいよ!」
「そりゃ良かったな。」
「誰かと何かするのって久しぶりだったからさ…」
「ま、俺でよければいつでも…は無理だけど、暇な時は付き合ってやるよ。」
「ありがと…優が来てくれて本当に良かった。」
はぁ…そういう台詞を面と向かって言うかね。
「いきなり何だよ…」
「あはは、なんとなくそう思ったから言っただけ。恥ずかしがってるの?」
「がってねぇ。」
「本当に?」
「本当に。」
「よっ!青春してるとこ邪魔するぞ。」
いやいや、むしろナイスタイミングだよ
先生。ノリは腹立つが。
「どうだ?逢沢は。」
「悔しいですけど、俺なんかよりよっぽど才能ありますね。簡単な曲なら弾けるんじゃないですかね。」
「そうか、星川の指導の賜物だな。」
「別に…俺は何もやってないっすよ。」
「はは、謙遜するなって。何なら文化祭に出てみるのもいいかもしれないな。」
「文化祭ですか?」
「あぁ、9月にあるんだ。」
文化祭とか良い思い出がねぇ。
リア充限定だろ、楽しいなんてのは。
付き合わされるこっちの身にもなれってな。
「優もギター弾けば?」
「は?イヤだよ。」
「だって、せっかくの文化祭だよ?
私も歌うからさ!」
「何故にそうなる。」
「ギターも弾くよ!弾いて歌う!」
「そうか、頑張れな。」
「えー!」
人前に出るのとかマジで無理。
緊張して縮みあがるから。
クソザコメンタルに定評あるから俺。
「ていうか、まだまだ先だろうが。」
「あっという間だよ。こういん何とかって言うでしょ?」
「光陰矢の如しな。」
「そうだ、失った時間は戻っては来ない。無為に生きるべきではないっていう戒めの言葉でもあるんだぞ。」
「じゃあ、先生の若かりし頃も…髪の毛も…もう戻ってはこないんですね。」
「…言うな。最近、娘にも言われ始めてな…」
「娘さんいたんですか…」
「優、ダメだよ?せんせー薄いの気にしてるんだから。」
「お前フォローしてるつもりだろうが、追撃かましてるからな?」
オブラートに包みなさい。
…そもそもオブラートって何だ?
翌日の放課後、あいつはいなかった。
風邪でもひいたか?
まぁいい…おかげで思う存分、暴れられるぜ。
「いやぁ、上手いもんだな。」
「あぁ、先生こんにちは。」
「逢沢は?」
「あいつ、今日は来てないみたいで。風邪でもひいたんすかね。」
らしくねーけど。
普段からあのテンションだろうから時には休息も必要だろ。
「寂しいだろ?」
「そうでもないですよ。」
「けど、良かったよ…星川。お前が来てくれてさ。」
「どしたんすか?急に。」
「最近の逢沢は楽しそうだよ。ここだけの話、お前のことばかり話すんだ。」
「へぇ、そうなんですか。」
なんかむず痒い。
「河合…前にもう一人部員がいたんだが、転校してな…それ以来すっかり元気がなくなってたんだ。」
あの、元気娘が信じられねーな。
無理もないか、一人じゃあな。
俺は好きだけど…きっとあいつにとっては退屈で寂しかったんだろう。
「…これからは、もうちょい優しくしてやりますか。」
「助かるよ。お前を強引に引き入れた甲斐があったってもんだ。」
「いいですよ、それはもう。」
むしろ、感謝してる部分もある。
何もかも新鮮な時間は、そんなに悪くはない。
逢沢のノリとテンションは非常に絡みづらいが…それも最近は悪くはないと思っている。
充実している…のかもしれない。
大切かと言われればそうなのかもしれないと答えられるくらいには…俺はこの時間を気に入っていた。