奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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涙の理由は

 

「おーす…ってどした?」

 

「はぁー…」

 

何だかものすごいダメージ受けてるっぽいんだが…普段のこいつからは考えられないほどの意気消沈っぷりである。

 

もはや答える気力もないのか逢沢は机に

突っ伏しながら一冊の雑誌の記事を指差す。

 

 

なになに?アイドルバンド、デビューライブにて口パク&当てフリがバレる…?

 

あちゃー…やっちまったな、こりゃ。

 

要するに、楽器は弾いてないうえに歌は歌ってないってことだろ?

 

致命的すぎる。

それは一番やっちゃいけないことだろ。

 

アイドルバンドだかなんだかは知らないが…アイドルはアイドルらしくやってりゃいいってのに。

話題づくりかなんか知らんが失敗して本業にまで影響出てるようなら世話ねぇって話だな。

 

「あー、その…御愁傷様…ファンなのか?」

 

「…うん、ボーカルの子が好きで…ライブには行けなかったんだけど…」

 

「元気出せよ…もうバンドやるのは無理だろうけどな。」

 

あ、やべ…言葉のチョイスミスったか。

 

「でもよ、良い教訓にはなったろ?楽器は演奏してナンボなんだよ。フリなんてのは音楽に対しての侮辱も良いトコだ。」

 

「うぅ…そうだけど…そうだけどぉ…」

 

よよよと効果音が聞こえてきそうだな。

すぐに立ち直れってのは無理な話か。

 

「お前は頑張れよ。」

 

才能も気持ちもあるんだからな。

 

 

 

 

 

「優はなんでギターを始めたの?」

 

「何だよ急に。」

 

「聞いてなかったなーっと思って。」

 

「別に、大した理由じゃねーさ。

親父がギター好きでよ、俺にもやらせようとして買ってくれたんだ。」

 

「そうなんだ、良いお父さんだね。」

 

「そんなことないけどな。」

 

「動機はともかくさ、ここまで続けてきたんでしょ?その想いは本物ってことじゃん。なら、感謝しなくちゃ。」

 

「そんなもんか。」

 

「そんなもんだよ。」

 

まぁ、俺からギターを取ったら何も残らないってくらいには大事なものにいつの間にかなってはいたけど。

 

「お前は?」

 

「んー?」

 

「バンドとか組みたいと思ったりしないのか?」

 

「んー…どうだろ。優とならいいかも。」

 

「じゃあ、一生無理だな。」

 

「なんでー?一緒にやろうよ!」

 

「やだ。」

 

俺はバンドなんて柄じゃない。

そういうのは陽キャの特権だろうが。

勝手にやってくれ。

 

「組んだところですぐ受験シーズンだろ。そんなこんなであっという間に俺とお前もお別れだ。」

 

「そっかー…そうだよね…」

 

「組むんなら高校入ってからにしろよ。

そんくらいにならある程度上達もしてるだろうし。」

 

「じゃあ、大事にしようよ…この瞬間をさ!」

 

「なんだよ…やっすい青春ドラマみてーな台詞はきやがって。」

 

「いいの!安くても。」

 

「なんじゃそりゃ。」

 

ったく、バカ話してたと思ったら急に真理をつくようなことを言うからなこいつは。

 

最初は鬱陶しかったけど、最近は悪くないとも思い始めている。これって末期かな?末期かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンタってさ、逢沢と付き合ってんの?」

 

「んぐっ!?」

 

ちょ、こいつ今何つった?

 

「おまっ…お前ね…人が飲み物飲んでる時にそんな爆弾発言すんなよ。」

 

ていうか誰だよお前…ミサトだっけ?

 

「里美。二ヶ月経っても名前覚えらんないのは初めて。」

 

心を読むな心を。

 

「ていうか後ろのちっこい眼鏡。

お前はお前で何なんだよ。言いたいことあるならはっきり言えよ。」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

いや、謝ってほしいんじゃなくてだな…

 

「つーか、どこをどう見たらそう見えるんだよ。」

 

誰か噂流したりしてんのか?

もしそうだったらソイツ締め上げてやんよ。

 

「祥子が気にしててさ、気になるのはあたしもだけど。」

 

「ちょ、ちょっと里美ちゃん!」

 

「答えは、そんなわけねーだろ…だ。」

 

「そっか…良かったね祥子。」

 

「はぁ?」

 

何でそこで良かったねなんだ?

 

「でも最近の星川、楽しそう。」

 

「そうか?」

 

「うん、最初の頃より良い顔になった。」

 

「ふーん。」

 

自分じゃわからんけど、そうなのか。

 

「星川君のおかげで…逢沢さんも元気が出たみたいだし。」

 

「そりゃ買い被りすぎだ。何にも特別なことはしてねーよ。」

 

「と、特別じゃなくても…星川君がいるだけで逢沢さんは救われてるんだと思うよ?」

 

「どうでもいいけど…何でお前俺から目を逸らして話すんだ?恥ずかしがり屋さん?」

 

「アンタにだけね。」

 

「もう!里美ちゃん!」

 

何か顔真っ赤にしてるし。

女子ってのはよくわからん。

わかりたくもないが。

 

 

 

救われてるねぇ…それは俺も同じだよ。

 

強がっても平気なフリしてもやっぱり独りは嫌なんだ。

人間ってのはコミュニティの形成を前提として成り立っている生き物だから…きっと誰もそれからは逃れられない。

 

だから、俺は感謝してる。

 

あいつに…逢沢優歌に。

 

絶対に口には出さないけど。

 

 

 

 

 

「…遅い。」

 

何をやっとんだあいつは。

ちょっと褒めたとたんにコレか。

今日チラっと見かけたからいるはずなんだが…サボりってのはあいつに限ってないだろうし。

 

顧問の山田先生も何も聞いてないみたいだし…どうしたもんか。

 

「帰るか。」

 

何だか気分が乗らないし、今日は帰ろう。

 

帰る途中で逢沢を見かけた。

やっぱりいるんじゃないかよ。

油売りやがって、まったく。

 

 

「おーい、こんなとこで何やってん…」

 

そこまで言いかけて思わず止まる。

 

「優…?」

 

泣いていたから。

 

何で…

 

何でだよ?

 

「ご、ごめんね…お腹痛くてさ…いやー

やばかったー!」

 

そんなんじゃねぇだろ、その涙は。

 

何で泣いてるんだよ?

 

「明日はちゃんと行くからさ…じゃあね!」

 

「お、おい!」

 

下手なウソつきやがって…ただ事じゃねぇだろ。

何で俺に何も言わねぇんだよ。

 

とりあえず、明日あいつに会って話そう。

 

同じ部員の…それも女の涙を見て見ぬフリするほど俺も落ちぶれてはいないつもりだ。

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