翌日、あいつの姿は学校にはなかった。
クラスの奴に聞いてみたところ休みらしい。
「ちっ…あいつ…」
なんかモヤモヤするな…くそっ。
何かあったんなら何で俺に相談しないんだよ。バレバレのウソなんかつきやがって…
「さっきさぁ、逢沢のこと聞かれたよ。」
「あー、あの星川君って人でしょ?」
「そうそう、でもかわいそうにねー。
あいつに目をつけられてさ…転校してきたから何も知らないのは当然なんだけどさ。」
「…は?」
あいつら何を言ってんだ?
「でも、バカだよねー逢沢もさ…河合のことを庇ったせいで今度は自分が標的に
なるんだもん…結局河合も
転校しちゃったしさー…大損じゃん?」
「あはは、言えてるー!」
何を笑ってんだ?お前らは。
頭お花畑かよ?
「ちょっといいか?」
「え!?」
「あ、ほ、星川君…」
「詳しく聞かせてくれよ…今の話。」
「え、あ、えっと…」
「いいからさっさと話せ。」
「ひっ…!」
俺の自制心が働いてる内にさっさと言え。
こいつらが女じゃなかったらとっくにぶん殴ってるけどな。
「………」
「だ、だからさ、関わらないほうがいいんだよ!あいつとは…」
そうかよ。
そういうことかよ。
全部わかった。
何もかも。
あいつの涙の理由も…全部。
「くそっ!!」
怒りを押さえきれずに壁を殴りつける。
怒り…それは、誰に向けてのモノだ?
逢沢か?
逢沢を苦しめてる連中か?
…違うな。
自分に対しての怒りだ。
何も知らずに過ごしていた俺への怒り。
「ちょ…やばいって…この人。」
「も、もういい?星川君。」
「あぁ、とっとと失せろ。」
あいつは苦しんでいた。
独りで。
理解者もいなくなった中…ずっと。
だからこそ何でなんだよ。
「気にいらねぇ…」
何もなさそうに振る舞いやがって。
泣くぐらいだったら相談しろよ。
何も知らなかった俺がバカみたいじゃねぇか。
とにかくあいつに会わなきゃ始まらない。
イライラしてもしょうがないのはわかりきってはいるが、どうにも感情の整理がつかない。
俺は携帯なんかも持ってないから連絡を
取ろうにも取れないし…できることは待つしかない。
翌日もあいつの姿はなかった。
風邪…らしい。
「お前ら知ってたのか?逢沢に何があったのか。」
「…聞いたの?」
「あぁ。」
同じクラスの白鳥と佐々木を問い詰める。
その様子だと知ってたんだな。
「ご、ごめん…」
罪悪感からか、佐々木が謝罪する。
見て見ぬ振りをしてるって捉えられても
おかしくはないからな…実際そうなんだろうが。
「何で謝んだよ…別に責める気はねぇよ。」
それに、謝る相手が違う。
「で、でも…」
「バカだよな…あいつも…くだらない正義感なんか出すから自分が損しちまう。」
平坂 由姫。
こいつが首謀者らしい。
成績優秀・容姿端麗・実家が金持ちと
お嬢様のテンプレ要素をどこまでも詰め込んだような奴だ。
気にいらない奴がいると取り巻きを使って徹底的に攻撃する。
その標的になったのが河合 美月って奴らしい。
あいつは、逢沢は見て見ぬ振りができなかった。
その結果がこれだ。
結局河合って生徒もいなくなり、あいつは見事に四面楚歌ってわけだ。
こいつらみたいに心配してるやつらはいるみたいだけど…
「…バカなこと考えてない?」
「俺の勝手だろ。」
手っ取り早いのは平坂って奴をシメることだが…さすがに女に手をあげるわけにはいかない。
やっぱりあいつと会って話すことが最優先だ。
何なら山田の先生も事情を話せば味方になってくれるだろうし。
どうせ、あいつのことだ。
心配かけさせたくないって心理が働いているんだろう。
ふざけろってんだ。
「…久しぶり。」
「おう、やっと来たか。」
「…優、ごめんね…風邪引いちゃってさ。」
そのまた翌日の放課後。
逢沢は姿を現した。
「…もういいよ。」
「…え?」
「全部話せ。何かあんだったら俺に相談しろよ。下手なウソなんかつくんじゃねぇ。」
「…何言ってんの…何にもないって。」
「ないわけねぇだろ…!!」
「…!!」
「いい加減にしろよ…そんなに俺が信用できないのかよ?」
ダメだ。
冷静になれ。
そう思ってもブレーキが効かない。
溢れだす言葉は止まらない。
「悲劇のヒロイン気取りかよ…お前にとって俺はその程度だったのか?ふざけんなよ…そんないらねぇ気遣いされて…俺が喜ぶとでも思ったのか?」
「ち、違う…違うよ。」
そうだ、違う。
俺はこんなことを言いたいんじゃない。
何を言ってんだよ。
他に言うことがあるだろ。
「…優は関係ないでしょ?ダメだよ、私なんかのために…」
「はっ、そうかよ…」
関係ない…か。
堪えるな、こりゃ。
「よーくわかったよ。」
「…え?」
「だったらもう勝手にしろよ。」
「…優?」
弱々しい声。
そして、縋るような眼。
「もういいよ。心配した俺がバカだった。」
苛立ちは言葉を加速させていく。
良くない方向へと。
「俺とお前は他人だ。ズカズカと踏み込んで悪かったな。」
言いたいこととは裏腹に突き放すような言葉ばかりを紡いでしまう。
もう…それは止められない。
「勝手にしろよ。どこへなりとも行っちまえ。」
「……」
その言葉が引き金だった。
「ごめん、ごめんね…優。」
そう言ってあいつは走り去って行った。
俺は今まで心の底から怒ったことはない。
そういうふうに生きてきたから。
だから、抑制が効かなかった。
感情のコントロールができなかった。
「…言い訳してんじゃねぇよ…最低だな…俺は。」
今すぐに追いかけろよ。
追いかけて…
追いかけて…どうする?
今さっき怒りの感情のままに突き放す言動を投げ掛けた俺に…あいつを励ます資格があるのか?
一度出した言葉は引っ込められない。
俺はあいつを傷つけてしまった。
泣いていた…かもしれない。
いや、今も泣いているかもしれない。
どこへ行ったのか、帰ったのか、逢沢の姿はなかった。
違うんだよ…俺はあんなことが言いたかったんじゃないんだ。短い付き合いだけど…それなりに大切だって思えるような存在なんだよ。だから、関係ないって言われた時は…いや、もうやめよう。
これは正当化できるものじゃない。
俺があいつを傷つけた。
ただ、それだけだ。
そして俺は女を傷つけ、泣かせてしまった最低野郎だってことだ。