あいつは学校に姿を現さなくなった。
理由はわかっている。
謝らなければならない。
もう、無理かもしれないけど…取り戻すんだ。
あの時間を。
ただそれだけを思って学校に通い続けた。
「ねぇ、星川君って君?」
「…誰だお前?」
「私、平坂 由姫っていうんだけどさ。」
あぁ、こいつが…いかにもお嬢様って雰囲気だな。
世界で一番自分がかわいいって思ってそうだ。
「で、俺に何の用だ?」
「ね、ね、逢沢に何したのー?全然学校来なくなっちゃったけど…あたしらが散々やっても耐えてたのにさー…すごいねー。」
それを堂々と言うのかよ。
いい性格してやがるなこの女。
「何の用だって聞いてんだ。俺を笑いにでも来たのかよ?」
「あはは!そんなんじゃないってば。」
「だったら消えろ。こっちはお前になんか用はねぇんだよ。」
「はぁ?何その態度。あたしに逆らったらどうなるか…」
「別に…どうにでもしろよ。」
「は、何それ。悔しくないの?」
「どうでもいいんだよ…何もかも。」
「つまんな…とんだ腑抜けちゃんだね。」
「そうかもな。」
どうでもいい。
お前らのことも。
俺のことも。
仮にこいつをぶん殴ったところで何も変わらないだろうし。ただ虚しいだけだ。
ただ意味もなく学校へ行き、無意味な
日々を過ごす。その繰り返し。
部活にもずいぶんと顔を出していない。
先生にも事情を聞かれたが、俺のせい…とだけ伝えた。
「そうか…星川、あまり自分を責めるなよ。」
俺には、そんな言葉をかけてもらう資格もない。
責めるなと言われても無理な話だ。
俺も加害者なんだから。
あの平坂ってやつと何ら変わらない。
いっそのこと責めてくれ。
お前のせいだと糾弾してくれよ。
そうすれば少しは楽になるかもしれないから。
いや、楽になる資格すらないか。
「星川、アンタ逢沢と何かあったの?」
「関係ねぇだろ…お前らには。」
「で、でも…最近の星川君…見てられないよ。」
「白鳥、佐々木。お前らももう俺には関わるな。」
「はぁ?」
「もうほっといてくれ。」
「そ、そんな…。」
「アンタはそれでいいわけ?」
「あぁ。」
一人になりたいんだ。
頼むから関わらないでくれ。
結局あいつが来ないまま夏休みを迎えた。
何もする気が起きず、ただただ部屋に引き籠っていた。
ギターすら…弾くことが億劫だった。
俺があんなことを言わなければ…まだあの時間は続いていたのかな?
たとえ、その時は辛くとも。
乗り越えることができたのかな?
今となってはたらればばかりが浮かんでしまう。
いくつものあったはずの未来。
それを壊したのは他でもない俺だ。
「けど、行かなきゃな。」
今さらだけど。
謝ろう。
あいつに。
最低男の最高に見苦しい謝罪だとしても。
夏休み中の学校。
野球部やらサッカー部、陸上部が部活動に精を出している。
よくやるな、あいつらも。
それらをスルーしつつ音楽室へと向かう。
山田先生はいるだろうか。
「失礼します。」
「あぁ、星川。」
いなかったらどうしようかと思ったが杞憂だったようだ。
「…ちょうどよかった。」
何の話だ?
「すんません、部活にも顔を出さずに。」
「あぁ…それはいいんだ。」
「あいつは…来ましたか?一度でも…」
「…いや、来ていない。」
「そうですか…あいつの家の連絡先とか知りませんか?一言話がしたくて…」
「星川、それなんだが…」
「?」
「逢沢は転校した。」
「…は?」
転校?
じゃあ…あいつはもう…
「星川…すまない…!!」
なんで…なんで先生が謝るんだよ。
「顔をあげてくださいよ。先生。」
「何も気づけなかった…教師失格だよ…俺は。」
「もう…全部知ってるんすね。」
「あぁ、聞いたよ。彼女の家にも行った。顔は見れなかったが声は聞けた。」
「…何て言ってました?」
「…お前に…会わせる顔がないと言っていた…。」
…バカ野郎。
あいつはどこまでバカなんだよ。
俺への恨み言でも言えよ。
そうすりゃ少しは気が晴れるだろうが。
苦しんだって叫べば少しは救われるだろ?
なんで…なんでなんだよ…!
どこまでお人好しなんだよお前は。
少しは自分のことも考えろよ…!
「お前にも連絡するべきだった。本当にすまない…星川。」
「先生に言われたこと、そっくりそのまま返します。自分を責めないでください。責められるべきは俺なんです…言うなれば一番の加害者ですよ…俺は。」
「…お前がそんな人間じゃないってことは俺が知っているさ…だからそう気負うな。お前といる逢沢は本当に楽しそうだった。」
そうか。
もう二度と、あの時間は戻っては来ないのか。
謝ることも…言葉をかわすことすらかなわないのか。
「先生も今月いっぱいだ。」
「え?」
なんで…まさか…。
「先生が責任を感じることは…」
「もう決めたことだ。」
決意は揺るがない。
そう目が言っていた。
「すまない…私が誘っておいて。」
「いえ、感謝してますよ。あいつに会わせてくれて。」
「星川…」
帰宅した俺は久々にギターを弾いた。
「ごめんな…しばらくほったらかしにして。」
この時だけは忘れられるはずだから。
イヤなことも何もかも全部。
そうだ…いつだってそうだったはずだ。
どんなにイヤなことがあってもギターを弾けば忘れられたんだ。
だから今度も…
「なら…なんなんだよ…これは。」
この虚しさは。
この息苦しさは。
今の俺には…負の感情を吹き飛ばす力すらないのか?
だとしたら、なんて無力だよ。
また今度も乗り越えられると思っていた。
けど、思ったよりもキズは深かったようだ。
当たり前か。
人を傷つけたんだ。
自分も傷ついて然るべきだろう。
未来を奪ったんだ。
なら俺も失うべきだ。
好きなものを。
やめよう…忘れよう。
奏でることを。