奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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もうやめだ

 

すべてを拒絶して…また一人になった。

 

これでいいんだ。

 

そもそも最初から誰とも関わるつもりはなかったんだ。

 

これで…よかったはずだ。

 

「星川、どうしたんだ?成績もどんどんあがっていってるし…これなら上位の高校も視野に入れて狙えるぞ!」

 

「…受験すから。勉強しないと。」

 

 

 

「優、アンタ本当にどうしたの?」

 

「母ちゃん…学生の本分は勉強だろ?なんで心配そうな顔してんだよ?」

 

「だって、ずっと勉強してるじゃない。それに

アンタ、ギターは?」

 

「あぁ、もういいんだ。」

 

「いいって?」

 

「やめた。受験生だしさ…まぁとにかく心配すんなって…こうなりゃ上の高校でも狙いにいくからよ。」

 

「………」

 

なんだよ母ちゃん。

まだ心配なのか?

普段は口酸っぱく勉強しろ言うくせによ。

いざやると心配そうな顔しやがって。

 

わかってんだよ。

自分でもおかしいって。

 

代償行為っていうんだろ?

こういうの。

 

何もしたくてしてるわけじゃないんだよ。

どこへ向かっていいかわからないだけなんだ。

 

空っぽだ。

 

今の俺は。

 

 

 

コンコンとドアをノックする音がする。

 

「開いてるよ。」

 

「よっ!」

 

「…何だ、親父か。」

 

「ちょ、もうちょっとリアクションしてくれよ。久しぶりなんだから。」

 

「会えて嬉しいよ。」

 

「棒読み!?」

 

「そんで?どうしたんだよ。」

 

「いやぁ、久しぶりに息子の顔でも見にな。」

 

「…母ちゃんから何か言われたのか?」

 

「まぁな。」

 

ったく…余計なことを。

 

「母さん、心配してたぞ。人が変わったかのようだって。」

 

「別に、普通だよ。」

 

「ギターはどうしたんだ?いつも置いてあったはずなんだが…久々に弾いてみせてくれよ。」

 

「弾かねぇ。」

 

「懐かしいな…思い出すよ。」

 

「やめたんだ。もう二度と弾くことはないよ。」

 

「…何かあったのか?」

 

「別に。受験だから勉強するのはあたり前だろ?」

 

「無理しなくていいんだぞ?」

 

「何もないって…しつこいな。」

 

「無理にとはいわないさ。何もないんだったらそれでいい…ただ、どうしても辛かったら俺や母さんに言ってくれ。」

 

「…わかったよ。わかったから出てってくれ。」

 

「優…お前は優しい子だ。きっと今も他人のために悩んでいるんだろ?」

 

「優しい…ね。女を傷つけるやつが優しいか。

初めて知ったぜ。」

 

的外れな言動についつい噛みついてしまう。

 

「…そうか。」

 

もう、本当に出てってくれよ。

何が言いたいんだよ。

 

「他人に寄り添える優しい人間になってほしい…そう願ってお前に優って名前をつけたんだ。」

 

だったらそれは失敗だよ、親父。

俺はそんな人間なんかじゃない。

 

「お前は…他人のために涙を流せる優しい子だ。そんなふうに育ってくれて俺は嬉しいよ。」

 

「涙なんか…流してねぇよ。」

 

「お前は優しい子だよ。誰が何と言おうと俺が保証する。」

 

「…用件はそれだけじゃないんだろ。」

 

「はは、参ったな。お見通しか。」

 

「親父が顔見せる時は大抵何かあるからな。」

 

「東京の営業所の課長がな…戻ってこないかって。」

 

「…東京。」

 

「いつもいつも急ですまないな。」

 

「いいよ、別に。早くここから消えたいし。」

 

「…優、俺は信じているからな。優しいだけじゃない…お前は強い子だ。転んでも立ち上がる強さを持っている。」

 

そりゃ買い被りすぎだよ親父。

 

「信じているぞ…お前がいつの日かまたギターを弾く日が来るのを俺は待っている。」

 

「親父…」

 

「いいってことよ!」

 

 

「鼻毛出てる。」

 

「ありがとな…じゃないんだ!?」

 

「はっ…おかげでちょっとは元気出たよ。」

 

「…頑張れよ、お前はまだ若い。」

 

「親父のほうは今年でよんじゅう…」

 

「待って!それ以上はやめて!」

 

まったく、しまらないなこのおっさんは。

 

 

 

 

「こんなところかな…東京の高校っていったら。」

 

「ありがとうございます。」

 

「まぁ、星川の学力ならば問題ないだろう。」

 

「色々とあるんですね。」

 

「まぁ、焦らずゆっくりと考えればいいさ。」

 

「…じゃあ、ここで。」

 

「え?もう決めたのか?」

 

「えぇ、この羽丘ってとこで。」

 

「羽丘か…しかし、そこは…」

 

「何か問題でもあるんですか?」

 

「いや、問題はないんだが…とにかくもう一度

ゆっくりと考えてみるといい。」

 

どこでもいいよ、高校なんて。

 

家から近けりゃいいんだ。

 

どこ選んだって同じだろ。

そんなもん結局のところ本人次第なんだから。

 

 

 

俺は高校生活になんて何も期待していない。

するだけ無駄だ。

 

ただ無駄な日々を無意味に過ごす。

それだけでいいんだ。

 

そうすれば何も傷つかないから。

 

退屈でいい。

 

変化なんていらない。

 

安い青春ドラマをやるならば勝手にやってくれ。

 

 

 

 

「優、早くしなさいよ!入学式から遅刻する気?」

 

「わかってるって!くそっ…なんでネクタイってこんな面倒なんだよ。」

 

入学式当日。

 

新たに始まる日々に中には胸を踊らせる者もいるだろう。

 

「優の写真、たくさん撮るからね!」

 

「別にいいよ…撮らなくたって。」

 

どうせ入学式なんて、校長のくそ長い

何のありがたみもない話を聞いて終わりなんだ。

晴れ舞台でも何でもない。

 

「…じゃ、行ってくる。」

 

「いってらっしゃい!」

 

さて、くだらない冗長なだけの高校生活の始まりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふぁ?」

 

「あ、やっと起きたー!」

 

「…あれ?宇田川?」

 

「もう下校時刻だよ。家に帰ってから寝ればいいのに。」

 

「あぁ…」

 

また、寝てたのか俺。

 

「いや、戸山。これは準備運動みたいなもんでな…」

 

「まだ寝る気?」

 

「まぁな。」

 

 

 

「…優君、泣いとるん?」

 

朝日が心配そうに訊ねてくる。

 

「え?あぁ…別に。」

 

気づかぬうちに目から雫が出ていた。

 

「悪い夢でも見た?」

 

宇田川も心配そうに聞いてくる。

 

「そんな気もするけど…忘れちまった。」

 

悪い夢…か。

 

「…帰ろうぜ。明日はライブだろ?」

 

「うん!あこ、頑張る!」

 

「朝日も頑張れな。」

 

「うん!」

 

過去は変えられない。

だからといって今あるものまで蔑ろにするわけにはいかないんだ。

 

こんな風に俺なんかを気にかけてくれる連中にも出会えた。何もないわけじゃなかったんだ。

 

失ったものもある。

けれど得たものも確かにある。

 

「救われてるんだな…俺。」

 

「え?何か言った?」

 

「…なんも言ってねーよ。」

 

 

 

逢沢、お前は今どうしてる?

 

人間って案外独りにはなれないもんだぜ?

 

願わくば、俺のことなんかは忘れて新しい仲間と楽しくやっていてくれ。

 

俺も進むことにするよ。

 

過去を忘れることはしない。

 

けど、それに縛られるのはもうやめだ。

 

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