「よし、こんなもんかな。」
万が一…いや、かなりの確率で知り合いに
会うだろうから軽く変装していかねばならない。
帽子と眼鏡(親父の)にマスクなんかしてたら
さすがにバレないだろ。
あとは不審人物に間違われないよう祈るしかない。
「もう行くの?」
「あぁ、早めに行っておかないとな。」
「まさか、優がライブに行くなんてねぇ…」
「あーちゃんが出るんだ…それに個人的に興味もあるしな。」
「そうかい。」
「何か言いたそうだな、母ちゃん。」
「最近の優は楽しそうだな…って思っただけ。」
「そう見えるか?」
「うん…一年ぐらい前のアンタは見てられなかったからね…」
「いつの話してんだよ。」
「でも、良かった。優がそんな顔をするようになってさ。」
「まぁ、最近はそれなりに楽しい…かな。」
日常はなんやかんやで俺を音楽へと引き寄せる。
今日という日は踏ん切りをつけるのには良い日なのかもしれない。
「それじゃ、行ってくるよ。」
「気をつけてね。」
「やっべー…緊張する。」
ライブハウスGALAXY。
その建物の前で俺は立ちつくしていた。
中に入ってチケットを買うんだよな?
なにぶん初めてだからわからないことだらけである。
もう少し事前に調べるべきだったな。
「当日券、一枚でお願いします。」
「はい!一枚ですね、1200円です。」
中に入り、チケットを買う。
とりあえず第一関門はクリア。
開場まで時間があるので少しばかりライブハウス内を散策することにした。
「これって…」
色々と飾られている写真の中にPoppin'Partyという文字を見つけた。
「へぇ…前に一回ここでライブしてたんだな。」
写真には二ヶ月ほど前に行ったであろうライブの様子が写し出されていた。
「なんか、みんな楽しそうだな。」
「ですよね!」
「うぉっ!?」
不意打ちはやめろよな。
一体誰だよ。
「って朝日…」
しまった。
「えっ?」
くそ、やはりいたか。
だが俺が誰かまでは気づいていないようだ。
「あ、いや…今日は朝日が綺麗でしたねって…ハハハ…」
「え、えっと…」
なんか気の利いたリアクションせぇや。
俺がスベったみたいだろうが。
「楽しみすぎて早く来すぎちゃいましたよ。」
「私も今から凄く楽しみです!」
お前はスタッフだろうに。
仕事そっちのけにするなよ?
さてと、ボロを出す前にテキトーに話合わせて
退散するとしよう。
「スタッフさんは何か楽器とかやってたりするんですか?」
「は、はい…ギターを一応…」
何が一応だ。
ストランドバーグなんてモンを引っ提げて、とんでもねー演奏するモンスターだろうがお前は。
「そうなんですか…バンドとかは組んでたりしないんですか?」
「組みたいとは…思ってるんですけど、なかなか集まらなくて…」
合わせられる奴がいないんだよ。
とんでもなさすぎて。
外部に目を向ければ可能性もあるだろうが…都合よくギターが空いている高いレベルのバンドが
はたしてあるかどうか。
「頑張ってくださいね。応援しますよ。」
「はい!楽しんでいってくださいね。」
いつまでも燻ってんなよ?
あの日のお前のギターは無駄なんかじゃ
なかったんだ。
確かに俺の心を動かしたんだ。
だからもう一度聴かせてくれよ。
お前の演奏を。
「ポピパパピポパーティーにようこそ!」
「「「Poppin'Partyです!」」」
すげぇ…ポピパパピポパーティーを噛まずに
言ってのけた…さすがは主催バンドの人な
だけはあるな。
ていうかあれ…変形ギターじゃね?
すげぇの使ってんな…ビジュアルもバッチリってか。
しかし、ボディが赤色とはわかっているじゃないか。
「あれが、ポピパさんとやらね。」
ギターボーカルにリードギター、ベースにドラム…そんでキーボードか。
思ったよりも普通のバンドだな。
「聴いてください…Returns。」
ちょ、待って…もう始まんの?
まだ心の準備ができていないんですが。
開幕はリードギターのギターソロから始まり
ボーカルが歌い始める。
なんつーか、静かな立ち上がりだな。
会場全体もシーンとしている。
もっとこう、盛り上がるもんかと思っていたが。
続いて聴こえてくるのはキーボードの旋律。
うん…久しぶりに聴いたがいつ聴いても綺麗だな先輩の音は。ピアノの発表会以来だったっけか。
ドラムの音が加わり演奏は激しさを増す…が
どちらかというと哀しい曲調なのは拭えない。
観客の中には涙を流している人さえいる。
一発目から泣かせにくるとは…
しかし、そんな観客とは裏腹にバンドの人達は楽しそうに演奏していた。
Returns…たぶん、原点にたち帰るとかそんな感じの意味なのだろう。それは俺が忘れていたものでもあった。
ステージが暗転し、曲の終わりを告げる。
良い曲だった。
観客は一様に感動し、涙を流している人もいたがこれはこれで良かったのだろう。
けど、まだまだこんなんじゃ足りない。
もっと聴かせてくれ、ポピパさんよ。
あと100曲くらいはやってくれ。