奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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次もその次も何度だって

 

「えー、次の曲で最後です!」

 

「マジかよ。」

 

もう最後か…本当にあっという間のライブだった。周りからもちらほらと終了を惜しむ声が

あがる。

 

ハローハッピーワールドにパスパレ、AftergrowにRoselia…それぞれに個性があり、それを存分に

生かしきっていた。

 

けど最後はやはりポピパさんに締めていただかないとな。

 

「やれて良かったなって思います!」

 

そりゃ良かった。

彼女達がどのような経緯でこの主催ライブを企画したのかはわからないが…そう思えたのならそれはもう成功したも同じだと思う。

 

「みんなとポピパで良かった!」

 

そんな中、ギターボーカルの人だろうか。

もの凄くこっ恥ずかしいセリフを言いよった…。

市ヶ谷先輩顔真っ赤だけど…どうやらプチサプライズだったようだ。

 

あんなセリフを面と向かって言われりゃあな…

思っていてもそうそう口には出せないぞ。

 

けど、良かったね…先輩。

それは愛されている証拠だよ。

そのセリフが聞けただけでも今日ライブに来た

甲斐があったというものだ。

 

次の曲はそのギターボーカルの人が作曲した曲らしい。

ポピパさんのすべてが入ってる曲…だそうだ。

 

「Dreamers Go!」

 

軽快な音楽をバックに曲が始まる。

声だけではなく身振り、手振り、足踏みと

身体全体を使っての演奏だった。

 

気づいたら、俺自身もリズムに乗っていた。

…なんだか恥ずかしいな。

 

でも、音楽って凄いよな。

魔力みたいなものがあるっていうか…気づいたら乗せられちまってるんだもん。

 

「イキイキしてんなぁ…みんな。」

 

終わってほしくない。

ずっと観ていたい。

願わくば、終わらないでくれ。

きっと喪失感がエグいことになる。

 

そんな願いも虚しく曲は終わりを迎える。

あぁ…終わってしまった。

 

「ありがとうございました!」

 

寂しいけど、しょうがないか。

 

「アンコール!」「アンコール!」

 

数人の客がアンコールを口にする。

すかさずそれは周囲へと伝播した。

 

アンコール…まだそれがあったか!

ってことはもう一曲聴けるってことか!

 

「それじゃあ、もう一曲──」

 

ポピパさんもそれに応える。

さすが、わかってらっしゃる。

 

「──キズナミュージック!」

 

ポピパさん、本当にありがとう。

市ヶ谷先輩の…あーちゃんの居場所になってくれて。あなた達には感謝してもしきれませんよ。

 

「敵わないな…こりゃ。」

 

改めて、そう思った。

だって、先輩のあんな楽しそうな顔…

初めて見るもん。

 

俺もすっかり彼女達の虜になってしまった。

朝日…お前がポピパさんを好きな理由、ちょっとだけどわかった気がするよ。

何かこう、勇気を貰えるよな。

 

最後の曲。キズナミュージックだったか。

曲名の通りの全員の絆が感じられる…そんな曲だった。

 

また機会があればライブをやってほしい。

次もその次も何度だって──行きますよ。

あなた達のライブに。

 

「Poppin'Partyでした!ありがとうございました!」

 

案の定とてつもない喪失感に襲われる。

でも、来て良かった。

そう思えるライブだった。

 

「優君?」

 

あれ、何でバレた?

…そうだった、暑苦しくてマスクと帽子はずしたんだった。

 

「って、レイさん?」

 

まさかこんなところで会うとは。

 

「ライブ、観に来てたんだ?」

 

「えぇ、レイさんも?」

 

「…うん。」

 

そういや、ポピパさんの中に幼馴染がいるって

話だったっけ。

 

「何だ、レイの知り合いか?」

 

「うん。」

 

「え?」

 

えぇっと…誰だこの人?

金髪だしスカジャンだし目つきも怖いし…完全に見た目がアレな人なんですが。

 

「佐藤 ますき…コイツと同じバンドのドラマーやってんだ。」

 

なるほど、同じバンドの人か。

ドラマーなのかよこの人。

 

「星川 優です。」

 

「優っていうのか。よろしくな。」

 

「は、はぁ…」

 

できればよろしくしたくはない。

 

「よ、良かったですね…ライブ。」

 

「うん…花ちゃん、とても楽しそうだった。」

 

「ハナちゃん?」

 

「リードギターの花園たえってやつ。ウチらの

バンドのサポートやってたんだ。」

 

「あぁ…やってたってことは…」

 

「…うん。」

 

「…良かったんですか?そうそういないですよ…

あんな腕の良い人は。」

 

「うん、いいんだ…一緒に弾けただけでも十分。」

 

大人だなぁ…この人は。

 

「お前、わかるのか?」

 

「一応、ギターを弾いてたクチなんで。」

 

「へぇ…そうなのか。」

 

「えぇ、過去形ですけどね。」

 

「何だよ、やめちまったのか?」

 

「まぁ、色々とありまして。」

 

「そっか…一緒にやれたらって思ったんだけどな。」

 

「でも…今はすげぇ弾きたくてしょうがないんです。」

 

「そりゃ、ライブの熱にあてられたんだろ。」

 

熱か…そうだな。きっとそうだ。

それにしてもいつ以来だろう…こんな気持ちは。

とてつもなく晴れやかな気分だ。

 

「今度機会があったら、一緒にやろうぜ。大抵ここでドラム叩いてるからさ。いつでも来いよ。」

 

「…考えときます。」

 

誰かとやるなんて考えたこともなかった。

だけどそれも悪くはないのかな。

 

「いつか、私達のライブも来いよ。すっげー音

聴かせてやるからさ!」

 

「楽しみにしておきますよ。」

 

 

 

レイさん達と別れ帰ろうかという矢先、朝日の姿を見かけた。せっかくだし、声でもかけてくか。

 

「お疲れ…ってうぉい!」

 

めっちゃボロ泣きしてんだけどこいつ。

お前、スタッフだよな?

 

「優ぐん…」

 

「あぁ、なんだ、感動しちゃったのか?確かに良いライブだったよな。」

 

「うん…ボビバざん…良いライブやっだ~…」

 

「あーだから泣くなって…な?」

 

ボビバざんってなんだよ。

 

「ほら、ハンカチ使えよ。」

 

「あ、ありがとう…」

 

「ったく、スタッフだろ?仕事残ってるんだろ?気持ちはわかるけどさ…」

 

「うん…でも、でも…ボビバざ~ん!」

 

え、何?無限ループ?

 

ていうか、色んな人に見られてるんだけど…何か俺が泣かせてるって誤解されてそうで怖いわ。

違うからね?フォローしてる側だからね?

 

「もう、いい加減泣き止めな?何か俺が泣かせてるみたいじゃん。」

 

「二人とも…何してるの?」

 

「あ、いや!違うんですこれは…って、何だ…戸山か…びっくりした。」

 

「六花…大丈夫?」

 

「うん…」

 

「ほら、機材の片付けやらなんちゃらあるんだろ?行ったほうがいいんじゃね?」

 

「うん、これ…ハンカチ」

 

「いや…お前の涙と鼻水まみれじゃねーか!そんな趣味はねーよ…いいよ、やるよそれ。」

 

「あ、ありがとう。それじゃ!二人ともまたね!」

 

「あぁ、またな。」

 

いつかはお前もだぞ。

今度はスタッフとしてじゃなくてさ…バンドの

メンバーとしてステージに立てよ。

 

その時は行くからさ。

あまり待たせるなよ?

 

「…優ってなんだかんだで六花の心配してるよね?」

 

「え、そうか?」

 

「うん。」

 

「なんかさ、ほっとけないんだよ…あいつ。

せっかくあんなすげぇ演奏できんのに…バンド組めないなんて勿体ないじゃん。」

 

「メンバー…集まるといいね。」

 

「だな。」

 

「優は?ギターやってたんでしょ?バンド組みたいとは思わないの?」

 

おいおい、誰だよバラしたやつ。

まぁ、いずれはバレただろうけど。

早いか遅いかなだけの話か。

 

「俺は…いいかな。周りと合わせるとか無理だと思うし。」

 

ソロでやるほうが性にあってるとは思う。

 

「でもさ、良いライブだったよな。」

 

「うん…そうだね。」

 

「またやらねーかなぁ…ライブ。」

 

「そのうちまたやると思うよ。お姉ちゃん…また突然ライブやりたいとか言い出しそうだし。」

 

「そうか…そのうちか。」

 

バイト、探さないとな。

俺の小遣いじゃ明らかに足りないし。

そのためには勉強も頑張らないと。

さすがに母ちゃんも許してはくれないだろうし。

 

…ていうかイヤなこと思い出した。

もうすぐ期末試験あるんだった。

まずはそれを乗りきらないとな。

 

 

「戸山。今度勉強教えてくれ。」

 

「どうしたの?急に。」

 

「いや、何か俺も頑張ろうかなーって思ってさ。」

 

立ち止まるのはもうやめたからな。

 

 

 

…ん?

 

ちょっと待って。

 

「…お姉ちゃん?」

 

今お姉ちゃんって言わなかった?

戸山に姉ちゃんいるのは知ってるけどさ…まさか…

 

「お姉ちゃんって…もしかして、ポピパさんの人?」

 

「そうだよ。あれ?言ってなかったっけ?」

 

「…初耳っすよ、戸山さん。」

 

 

 

…そうだったのかよ。

そういうことは早く言えい。

 

「あーっと…あの香澄さんって人?ギターボーカルの。」

 

「うん。」

 

言われてみりゃ、ちょっと似てるかもしれない。

性格はなんか正反対っぽいけど。

 

「そっか…感謝しねーとな。」

 

「え?」

 

「いや、なんでもね。」

 

いつかはお礼を言わないとな。

市ヶ谷先輩のこともだけど。

俺自身の背中も押してくれた彼女達に。

これで漸く、最後の一歩が踏み出せる。

 

 

 

 

「おかえり。」

 

「ただいま…あぁ、母ちゃん。」

 

「何?」

 

「ちょっとうるさくなるかもだけどさ…今日だけは見逃してくんね?」

 

「…わかったよ。あんまり遅くまでやるんじゃないよ。」

 

「わかってる。」

 

 

思えばずいぶんと長い間回り道をしていた気がする。

 

「ごめんな…。」

 

身勝手な理由でお前を遠ざけて。

これで許してくれとは言わないけれど…

 

「久しぶりに思う存分暴れさせてやるよ。」

 

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