主催ライブから数週間。
念願の夏休み。俺は変わらぬ日々を過ごしていた。
いや、変わったことが一つだけある…。
日々を構成するルーティンの中にギターを弾くことが加わったことだ。
しかし、ブランク明けなこともあってかなかなか勘は戻らない。
こればっかりは少しずつやっていくしかないか。
「けど、どうせやるならアンプに繋いで解放感のあるところでやりたいよなー。」
ググってみるか。
近くになんかスタジオでもあればそこで…っていっても金欠だしなー。
タダで弾き放題なんて場所なんかあるわけないし…やっぱりバイト探すっきゃねーよな。
と、外に出てきてみたはいいものの…
バイトなんてしたことないし。
接客業はまぁ…無理だな。
どうしたもんか…
このジャンルがつぶれた時点でほぼ詰みくさいんだが。
ていうか、そもそも選んでる場合じゃないか。
バイト求人誌とか募集中の張り紙してるとことか見て、受けるしかないだろう。
「星川 優さん…ですね?」
「ん?」
一瞬、知り合いかと思ったが…誰だこいつ?
ネコ耳を模した黒いヘッドフォンをした…
小学生の女の子…いや、制服着てるから中学生か?
「でも、小学生にしか見えねーな…」
「失礼ね!小学生じゃないわよ!」
「あ、ごめん…地の文が口に出てたわ。」
で、何か用?と質問すると急に改まった感じになり、コホンと一つ咳払いをした。
「…失礼しました。
そう言い、何かを手渡してきた。
名刺か何かだろうか。
見ると名刺のようだった。
綴りが英語と数字だけだったので読みづらいことこの上ない。
「PRO…DUCER…?」
プロデューサーか?
…このちびっ子が?
名前はCHU²…?読み方がわからん。
「その顔は…信じていませんね?」
「え、いや、そういうわけじゃねーけど…これ、何て読むの?」
「チュチュ…私のプロデューサーネームです。」
「そのプロデューサーさんが俺なんかに何のご用で?」
「レイヤ…和奏 レイはご存知ですね?」
「あぁ、知ってるけど。」
「彼女からあなたのことをお伺いしたものですから…個人的に興味が湧いてこうしてあなたに会いに来たというわけです。」
「てことは、お嬢ちゃんはレイさんが所属してるバンドのプロデューサーってことか。」
「YES!」
何で急に英語?
でも、ウソをついてるようには見えないな。
本当にプロデューサーなのか。
このちびっ子が。
「
「RAS…まさか、俺をスカウトしに来たとかじゃないよな?」
「えぇ、話が早くて助かるわ。」
そうなんかい…急展開すぎるだろ。
スカウト?マジで言ってんのか?
「いやいや、ちょっと待て。俺にそんな腕はねーよ。」
「もちろんタダでとは言いません。あなたの
ギター
ギターぢから?何を言ってんだ?
勝手に話を進めるし…プロデューサーか何か知らんが付き合ってられんな。
「ま、待って!」
「悪いけどさ、スカウトなら他をあたってくれよ。だいたいお嬢ちゃんのバンドってガールズバンドだろ?男の俺が出る幕なんかないやんか。」
「そんなの関係ない!」
その叫びに思わず足をとめる。
なんなんだ?その必死さはどこから来る?
お前もなのか?
俺が見てきたガールズバンドの人達と同じ…本気の眼だ。
「ひとまず聴いて!」
「これは…?」
「聴けばわかる!」
有無を言わせぬという感じだった。
渡されたのは音楽プレーヤーか?
…とりあえず聴けと?
「はぁ…わかったよ。」
イヤホンを差して眼を閉じる。
聴けばわかる…その言葉の意味はすぐにわかった。
「…おいおい。」
なんだよ、こりゃ。
言葉では説明できない。
すごいとかヤバいとか…そんなお粗末な感想はとてもじゃないが抱けない。
それは失礼な気がしたから。
唯一つ言えるのは…聴く者…観る者を魅了する
圧倒的なサウンドパワー…それがこの曲にはある。
あの合同文化祭以来の衝撃を受けた。
最後まで聴くまでもない。
「…どうでした?」
「…この曲、お前が作曲したのか?」
「Of Course!」
わからないもんだな…世の中ってのは。
普段は気弱な地味なメガネっ子が…
ステージに立つと豹変してすげぇギタープレイを魅せたりするし…。
かたや、どう見ても小学生にしか見えないこんなちびっ子が、こんなとんでもない曲を作曲したりもする。
「…曲名は
「暴動…ね。」
「私は、私のバンドが奏でる音で大ガールズバンド時代と呼ばれるこの時代を終わらせる!」
「いや、終わらせちゃダメだろ。」
でも本気だ。
本気で言ってるんだ…こいつは。
少しばかり興味が湧いた。
聴くだけでこれだからな。
実物は一体どんなものなのか。
「ガールズバンド時代にお前の奏でる音楽で
暴動でも起こそうっていうのか?」
「そうよ!そのためにはピースが一つ足りないの。」
「ギター…か。」
考えもしなかった。
俺がバンドで演奏するなんてことは。
「あなた自身の気持ちをまだ聞いていませんでしたね?あなたは一体どうしたいの?」
俺自身の気持ち?どうしたいか?
そりゃ、決まってんだろ。
俺だってギタリストだぜ?
こんな曲聴かされて何も感じないわけないだろうが。
「…でも、ブランクあるぞ?」
「ブランク?そんなものどうにでもなるじゃない。」
「言うじゃねぇの…ちびっ子。」
「チュチュ…もし、あなたにその気があるのならこれからは私のことをそう呼びなさい。」
どうやら、のんびりはさせてくれないみたいだな。
止まっていた時は動き出したかと思えばものすごい速度で加速していく。
「ほのぼの日常パートも悪くはねーけど…こっちはこっちで面白そうだな。」
「何の話よ?」
「いや、何でもねぇ…俺も乗らせてくれよ…その
暴動ってヤツにさ。」
「…決まりね!」
「あぁ、よろしくな…
優がまさかのRAS入り?
そうなると、彼女は一体どうなるんでしょうか…。