「らっしゃい!おう、お嬢。久しぶりだね!」
「大将、久しぶり。」
「こ、こんばんは。」
練習帰りに俺はますきさんに誘われ、ラーメン屋のラーメン銀河へと来ていた。
やり取りから察するに常連さんなのかな?
お嬢ってのは?
「お嬢の連れかい?」
「まぁ、そんなようなもんです。」
「大将、こいつギタリストなんだ。今同じバンドでやってんだよ。」
つい最近まで廃業してましたけどね。
「へぇ、そうなのかい。」
「優。お前バイト探してるって言ってたよな?」
「はい。」
「大将、こいつここで雇ってやってよ。」
「えっ!?」
「いいよ。」
「えぇっ!?」
待て待て待て。
そんなあっさりと!?
秒で決まったんだけど…いいのか?
色々過程すっ飛ばしてっけど。
履歴書とか面接とか。
「お嬢が連れてきた子だ。丁度人手も欲しかったところだし。」
…いいのか。
ただラーメン食いにきただけのはずが…バイトする流れになっちまったよ。
「あの、履歴書とかないんですけど…」
「今度で大丈夫だよ。名前は?」
「星川 優です。」
「優君、お嬢とバンドやるの大変じゃないかい?」
「え?いや、そんなことは…」
なくはないな。
この人隙あらばガンガン音を捩じ込んでくるんだもん。ギタリスト泣かせってやつだよ。
今まで何人泣かされてきたことやら。
「お前が良い音出すからつい引っ張られてノッてきちまうんだよ。」
そうなるとこちらも負けじと…ってなっちゃうわけで。
「最終的には揃ってチュチュに怒られちまうんですよね。」
「でも、やっぱりギターがいると違うな。花の
やつが抜けてからはずっと打ち込みだったからさ。」
そう言ってくれるのはありがたいですけども。
「昔は狂犬…なんて言われてたのにねぇ…」
大将が感慨深げに呟く。
「狂犬って…ピッタリじゃ…あ、いや失礼なことを言う輩がいるもんっすね。」
「そんなウデで何で今までバンド組まなかったんだよ?」
「バンドってのに興味がなかったもんで。」
というか純粋に友達がいなかっただけなんだけど。
「私はさ、ずっと待ってたんだ。一緒にやれるやつ。全力を出してもついてきてくれるやつらをさ。」
それが今のRASってわけだ。
「恥ずかしながら、つい最近までガールズバンドってのがこんな本格的なものだとは思ってなかったんですよ。」
最初はバカにさえしていた。
女子が演奏なんかできんのか?って。
でも違ったんだ。
「ましてや、自分よりもすげぇギタリストがいるだなんてのも思っていなかったし。」
まぁ、それは自惚れってやつだったけど。
「お前よりもすげぇギタリスト?」
「えぇ…衝撃を受けたっつーか…ソイツは俺の中にある常識をブッ壊すには十分なくらいとんでもない演奏をしやがったんですよ…。」
「…そんなやつがいんのか。」
まだメンバー集めてんのかな。
あいつの演奏こそ陽の目をみるべきなんだ。
このまま終わるだなんて勿体なさすぎる。
「ラーメンお待ち!」
おっ美味そうだ。
インスタントじゃないラーメンなんて久しぶりだな。
「食うか。」
「そうっすね。いただきます。」
しかし、人生何が起こるかはわからないな。
何も期待していなかった高校生活。
この数ヶ月の間に色々なことがあったものだ。
数ヶ月前の俺に言っても信じちゃくれないだろうな。
「ここの大将もさ、ギタリストだったんだよ。」
「え、そうなんですか?」
「デスギャラクシーってバンド。ウチの親父も
ドラマーでさ、大将と一緒にバンド組んでたんだ。」
ますきさんの親父さんもドラマーだったのか。
ていうか名前…攻めすぎだろ。
「頑張りなよ!優君。」
「はい、もちろん。」
今はまだ怒られて修正ばっかくらってますが…そのうち必ずあの口の減らぬお子様を唸らせてやりますよ。
「ごちそうさまでした。」
食った食った。
「あいよ!これからもよろしく!スタッフとしてもね!」
「何か採用って流れになってるんですけど…」
「嫌だったかい?」
「とんでもないです!バイト探してたのは事実ですし…でもこんなあっさり決まっちゃっていいのかなって…」
「そりゃ、後日形式的な面接はするけどね…一生懸命頑張れる子ってのは話してみてわかったからさ。」
「普段は冴えねーけど、演奏になると別人みてーになるんだよな。」
「…よろしくお願いします。」
幼馴染と再会して、朝日 六花っていうとんでもないギタリストに出会って、ガールズバンドというものを知って…過去にも一応踏ん切りをつけて、やめてたギターをやり始めて、初めてバンドにも参加して、バイトもやることになって……うん。
数ヶ月前の俺。
とんでもねーことになるから覚悟しとけな。