「お邪魔しまーす。」
「おー来たか。」
「へぇ…」
久しぶりに蔵の地下にあるこの部屋に入ったけど、やっぱり広いな。
このアンプとかも懐かしい。
忍びこんでギター弾いてたら先輩のじいちゃんにクッソほど怒られた記憶あるわ。
「去年から許可貰ってな、この部屋使わせて
もらってんだよ。」
「なるほど。」
よく見るとドラムやキーボードなどの機材も
見受けられた。
「ここでいつも練習してるんですね。」
「あぁ。今日は練習もないから、たまにはお前にも構ってやらないとなって思ってさ。」
「…お心遣い痛み入ります。」
「…何で泣きそうなんだよ。」
『久しぶりにウチ来るか?』
市ヶ谷先輩から急にこんなメッセージが来た時はびっくりした。こんなん秒でOKするに決まってるだろ。
この、素っ気ない文章も実は寂しさの裏返しか。
なるほど、本当はきてほしいのか。
素直に言ってくれりゃあいいのに。
「ライブ、良かったですよ先輩。」
「やっぱり来てたのか。」
「もちろんですよ。それにしても先輩…あんなに楽しそうな顔するんですね。」
「そ、そうか?」
「良い人達に出会えたみたいで…本当に良かったですよ。」
「ま、まぁ…な。」
満更でもなさそうだもんなぁ…もう。
「で、先輩はどういう風の吹き回しでバンドに入ったんですか?」
「それは…香澄のやつに…」
「香澄さんって…戸山 明日香の姉ちゃんでしょ?」
あの変形ギター使いの人。
「あぁ…そうか。お前も明日香ちゃんと同じ
羽丘だったっけな。」
「えぇ、同じクラスです。」
「じゃあ、ロックとも同じクラスか。」
「ロック?」
「朝日 六花って子だよ。」
「あぁ。」
ロックとか呼ばれてんのか。
ロックと六花をかけてるのか?
「あいつ、ポピパさんの大ファンらしくてね…
ライブでも感動してボロ泣きしてましたよ。」
「ロックのおかげだったからな…ウチらが
主催ライブやれたのも。」
へぇ…頑張ってたんだな、あいつ。
皆さんに感謝されるぐらいには。
伝えたら泣いて喜びそうだな。
「あいつ、バンドやりたいらしいんですけどね…
なかなかメンバーが集まらないみたいなんすよ。」
「みたいだな…あんなすげー演奏できんのに。
もったいねーよな…」
ほんとそれな。
どっかにいないもんかね…マジで。
まさか、俺が先にバンドに入ることになるとは
思ってもみなかったよ。
「お前は?またギター弾こうとは思わないのかよ?」
「俺ですか?まぁ、最近はちょこちょこ
弾いてますが。」
「…やめたんじゃなかったのかよ?」
「だったんですけどね…先輩達のライブに
触発されたというかなんというか…」
「何があったんだよ?」
「え?」
「お前、前に言ってただろ?弾く資格がないとか何とか…好きだったギターをやめるよっぽどの何かがあったんじゃねーのかよ?」
はぐらかしてきたけど…やっぱり聞かれるよな。
「それは…」
「話してみろよ。別に無理にとは言わねーけどさ…少しは楽になるかもしれないだろ?」
「せ、先輩…あんたって人は…」
「だから何で泣きそうなんだよ!?」
あんたが幼馴染で本当に良かったよ。
心からそう思った。
「…なるほどな…だいたいはわかった。」
はぁ…と先輩は一つため息をつく。
「最低だな。」
「うぐっ…」
断腸の思いで話したのに…俺の精神に容赦なく
ダイレクトアタックかましてきおったこの子。
まぁ、 当然の報いなんだけどさ。
「そうですよね…女の子を傷つけるなんて…」
「それもあるけど…ギターは何も関係ないだろ。
勝手に巻き込んでんじゃねーよ。」
「う…」
「それに、お前がギターをやめるのをその子が望んでるとでも思うか?」
「お、思いません…」
気づくと俺は正座していた。
椅子のうえで正座したのなんて初めて。
あ、どうでもいいですよね…すいません。
「やり続けろよ…その子のためにもさ。」
「…そのつもりです。」
今何してんだろ…あいつ。
ギターは…まだやってんのかな。
俺は大丈夫だぞって伝えてやりてぇな。
それから…せめて一言だけでもいいから謝りたい。
「まぁ、お前はお前で大変だっただろうし…
乗り越えたみたいだからこれ以上は何も言わねーよ。」
てっきりもっと詰られるのかと思ったが。
俺のフォローもしてくれるあたりやっぱり
優しいんだよな先輩は。
「先輩、今俺…」
と、まだ言うべきじゃないか。
RASについてのことは。
知ったらどういうリアクションするのかは楽しみではあるけど…その楽しみは後に取っておくことにしよう。
「何だよ?」
「いや、何かあったら俺も頼ってくださいよって。」
「ん、考えとく。」
それから、色々な話を聞いた。
戸山 香澄さんに出会ったこと。
ギター『ランダムスター』を譲ったこと。
他のメンバーの人達との出会いのこと。
文化祭で初めて『Poppin'Party』として5人で演奏したこと。
SPACEというライブハウスで演奏するまでの
波瀾万丈。
…そして、あまり学校には登校していなかったこと。
「色々とあったんですね…先輩も。」
「あぁ…色々とな。」
俺が懸念していた最悪の事態もありえたわけだ。
けど、そうはならなかった。
「はっ…」
「何笑ってんだよ?」
「いえ、別に。すげー人がいるもんだなー…と
思っただけですよ。」
Poppin'Partyは戸山 香澄さんと先輩が出会ったことで始まったわけか。
あの人が…先輩を変えてくれたんだな。
「本当に感謝しかないな。」
「さっきから何言ってんだよ?」
これからも先輩のことをよろしくお願いします。
…変わり者ですが根は良い人なので。
「…何か失礼なこと考えてんな。」
「いや…先輩のツンデレ具合だけは変わらねーなと。」
「お前はどんだけ私をツンデレ認定したいんだよ?」
「いや、事実だし?十人いたら十人がそう答えると思いますよ?」
「全員じゃねーか!」
「先輩…」
「今度は何だよ?」
「話したらすっきりしました。ありがとうございます。」
「ギター…続けるんだな。」
「もちろん。」
「じゃあさ、今度聴かせろよ。
久々にお前のギター…聴いてみたいし。」
「…覚えてます?引っ越す前に俺が言ったこと。」
「あぁ…また一緒に弾こうってやつだろ?
イヤだけどな。」
「イヤなの!?」
「冗談だよ。」
「…それはまたいずれってことで。
今はまだ感覚取り戻してる最中なので。」
だが、近いうちに取り戻せるっていう
確信はある。
スタートラインに再び立つ日は近いはずだ。
もう迷わない。逸れたりしない。
あとはまっすぐに進むだけだ。