奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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ライブ前夜

きっかけはあの演奏だった。

朝日 六花のギターは凍りついた俺の心に火をつけた。称賛と同時に、自分もあんな風に弾いてみたいと不覚にも思わされてしまった。

 

Poppin'Partyの主催ライブ。

あの人達は本当に楽しそうだった。

勿論、彼女達だけでなく他のゲストバンドの人達も同様だった。幼馴染とのいつも通りの時間を

過ごすため…アイドル活動のため…笑顔のため

…高みを目指すため…それぞれ目指すものがあり

それを実現するために切磋琢磨する。もし、ギターをやめていなかったら…俺にも一歩を踏み出す勇気があったのなら…バンドに対する憧憬と同時にいくつものもしも…が頭の中を駆け巡った。

 

そして…

 

「ユウ。明日は最高の音を奏でなさい。あなたならそれができる…私が保証するわ。」

 

「わかってんよ。」

 

ボロクソ言われた日々も今や懐かしい。

早いもんだな。

 

チュチュ…こいつのおかげでまた一つ俺は殻を破ることができる。こいつのことに関してはまだまだわからないことが多いが…音楽に関する熱意や姿勢は本物だ。それだけはわかる。

 

「優、本当に抜けちまうのかよ…お前とはもっとやりたかったのにな。」とはますきさん。

 

「ま、音合わせならいつでも付き合いますよ。」

 

「…誘っても全部断りやがって。」

 

「いや、GALAXYでしょ?あいつに会う確率が

ほぼ確だったんで行きたくなかったんですよ。」

 

「頑張ろうね、優君。」

 

「えぇ。レイさんも思いっきりやっちゃってくださいね。」

 

おそらくこれが最初で最後の機会。

いよいよ、明日か。

 

「何か言うことは?」

 

チュチュが聞いてくる。

 

「別に…何もねーよ。」

 

やるだけのことはやった。

あとはそれを出すだけだ。

 

明日のRASのワンマンライブは

dub Music Experiment

通称dubと呼ばれるライブハウスで行われる。

キャパは千人を越える大型のライブハウスである。

そんな客が来るところなんてのは聞いてなかったけどな。

 

「もしかして怖じ気づいた?」

 

「はぁ?怖じ気づいてねーし!」

 

こいつ、今ちょっとバカにしただろ。

生意気な。

 

「見とけよ?明日のライブ…感動して

涙ちょちょぎれても知らねーからな?」

 

「期待してるわよ。」

 

いや、ぶっちゃけ怖じ気づいてるけどね。

ライブなんてやるのは初めてだもん。

人前で弾いたことはあったけど、それとこれとはレベルが違いすぎる。

 

「しかし、明日で四回目なんだな…ワンマンライブ。」

 

バンド結成してから日も浅いだろうに…

すごいことだよな。

 

「そうよ…だから今まで以上の演奏を

オーディエンスに魅せつける必要があるわ!」

 

かけるねぇ…プレッシャー。

 

「あなたはタエ・ハナゾノにも負けないギター(ぢから)を持ってる…できないとは言わせないわよ?」

 

「俺はあの人ほど器用じゃねーよ。」

 

以前やったというライブの映像を見たけど半端じゃなかった。特にレイさんとの息はピッタリだった。あの人といい、Roseliaの紗夜先輩といいレベル高すぎひんか?

 

「けど、お前がいるから大丈夫だろ。プロデューサーさんよ。」

 

「…………」

 

あれ?いつもなら自信満々に答えるはずなんだが…どうした?さすがのこいつも不安なのか?

 

「…そして、そこでロッカ・アサヒをスカウトする!」

 

「え、あいつ来るの?」

 

「はい!パレオがチケットをお渡ししました。

六花様も来るはずですよ!」

 

「六花か…あいつ、そんなにすげーのか?」

 

「えぇ、すげーんですよ…ますきさん。」

 

スカウトにしちゃ随分と大掛かりだが、ようやくあいつの念願が叶うわけだ。

 

「レイヤ、マスキング、パレオ。私のために最強で最高の音を奏でなさい!RASが頂点だということを認めさせるのよ!」

 

やたらと頂点(てっぺん)に拘るよな…こいつ。

承認欲求ってのは誰にでもあるものだけど。

こいつのは執着っつーレベルじゃない。

執念のような何かを感じる。

 

実際カリスマ性みたいなものもあるし、作曲から何までこいつの才能は計り知れない。

 

「ユウ!あなたも!RASの一員として恥ずかしくない演奏をするのよ!」

 

「おう。」

 

けれど、どこか危うさもある。

それが何かはわからないが、何となくそんな風に思った。何事もなければいいが。

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