奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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闇の中から

 

『あの…』

 

『ん、何?』

 

『先生が職員室に来てくれって…』

 

『えぇー…何かの間違いじゃないの?』

 

『星川君って言ってたので…間違いない…と思います。』

 

『人違いだよ。俺、星川君じゃないし。』

 

『えっ…星川 優君じゃ…』

 

『…ちっ、バレたか…そうです。星川 優君です。気軽に優君とでも呼んでくれ。』

 

『え、あ、はいっ!』

 

『つーか、何でそんなかしこまってるわけ?別に取って食おうってわけじゃないんだしさ…タメ口でいいじゃん…えーと、わり…名前なんつったっけ…』

 

『あ、朝日 六花です。』

 

『あぁ、そうそう出席番号1番の…岐阜から来たんだったっけ。』

 

『は、はい。』

 

『そっか、そっか。どーもな。』

 

『あ!あの!』

 

『ん?』

 

『職員室…そっちじゃないん…だけど。』

 

『ちっ、バレたか…』

 

最初は冴えない奴…ぐらいの印象だった。

 

それがまさかあんな…

 

 

 

『羽丘一年…朝日 六花です!』

 

 

 

あんな演奏をするなんて思いもしなかった。

 

あれが…俺の運命を変えたのかもしれない。

 

あれがなければ、俺は…ギターをやることもなかっただろう。

 

過去に囚われ続けたまま…チュチュの誘いだって

断っていたはずだ。

 

 

 

ポピパさんがお前を救ったというのなら…

お前は俺を救ったんだよ。

 

 

 

 

「はぁ…」

 

「朝っぱらからため息とはよろしくないな。」

 

「あ、おはよう。」

 

「聞いたぜ…不合格って言われたんだってな。」

 

「…うん。他人の顔色を伺うような演奏はいらないって言われちゃった…。」

 

「いきなり連れてかれて、ハイ不合格!ってのも

酷い話だよな。」

 

「………」

 

「朝日…放課後、時間あるか?」

 

「え?今日は大丈夫だけど…あ、でも銭湯の番台が…」

 

「番台?バイトかけ持ちしてんのか?」

 

「うぅん…叔母さんのところで住み込みでやらせてもらってるの。」

 

「あぁ、上京してきたんだもんな…そう考えたらすげーな…学校来て、バイトして、番台やって、メンバー集めにギターの練習だろ?考えただけで頭痛くなってきたわ。」

 

こいつこう見えて特待生だしな。

ほんにようやっとるわ。

 

「でも、好きでやってるから。」

 

「そっか…憂さ晴らしぐらいなら付き合ってやろうかなーっと思ったんだけどな…」

 

「それなら、旭湯に来る?」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

「何もないけど…」

 

「お、お邪魔しまーす…」

 

おいおいおい、マジか。

 

旭湯に行く←

 

朝日の叔母さんが気を利かせてくれて

番台を代わってくれる←

 

じゃあ部屋に来る?←今ここね

 

 

ど、どうしよう…女子の部屋に入るなんてのは

初めてのことだぞ?

 

市ヶ谷先輩?あれはノーカウントだ。

 

戸山や宇田川はともかく俺は男だぞ?

少しは警戒心とかないのか?

 

まぁ、こいつなら臆病(チキン)だし別にいっか…的な?

 

それはそれで悲しいなオイ。

 

「何言ってんだ…ギターがあれば充分だろ。」

 

「ギター…好きなんやね。」

 

「…あたりまえだろ。」

 

つい最近までガチ放置してたやつの言う

台詞じゃないけどな。

 

「いつから始めたの?」

 

「小学校あがるくらいかな…親父にさ、欲しい

モンないかって言われてゲーム買って欲しいって

言ったんだよ…そしたら何をトチ狂ったのか

ギターを買ってきやがってさ…それが始まりかな。」

 

「そうやったんや…」

 

「最初はしぶしぶだったけど、やっていくうちに楽しくなってってさ…なんつーか、不思議な

ことにギターだけは一生懸命頑張れたんだよな。」

 

「私も…勉強も運動も…全然ダメやったけど…

ギターだけは頑張れたんだ。」

 

「そっか…俺らって、案外似た者同士なのかもな。」

 

「うん。優君…ライブの時すごく楽しそうやったよ。」

 

「楽しそう?俺がか?」

 

それは意識していなかったな。

自分の表情なんてわかんねーし。

 

でも…そうか…楽しそうだったか。

 

「お前も味わってみろよ…あれは忘れたくても

忘れられなくなるぞ?」

 

あの歓声…あの熱狂。

できるならもう一度戻りたいとさえ思う。

 

…でも、その場所にいるべきなのは俺じゃない。

 

「…もう一度チャンスもらってこいよ。」

 

「でも、不合格って言われちゃったし…」

 

「なら、何回でもやればいい。それこそあいつが根負けするぐらいにな。」

 

確かに、Poppin'Partyの花さんやRoseliaの

紗夜先輩には技術では劣るかもしれない。

 

けど、瞬間の爆発力みたいなもの?それならば

朝日は負けていないと思う。

 

「お前と一緒にバンドを組んでた子達だってさ…それを望んでいるんじゃねーか?」

 

「そうや…そうやった。皆と約束したんや…頑張るって…」

 

「だろ?送り出してくれた親御さんやその子達に見せてやれよ。お前がギターを弾く姿をさ。」

 

「…うん。」

 

「そんでよ…武道館に立て。」

 

「えっ!?ぶ、武道館!?」

 

「不可能じゃねぇさ…あのメンバーならな。」

 

それに…お前は不可能を可能にしたギタリストなんだ。俺に…きっかけを与えてくれた。

 

「ありがとう…もう一度頑張ってみる!」

 

「あぁ、頑張れよ。」

 

これで少しは借りが返せたかな?

…いや、返しても返しきれるもんじゃないか。

 

 

何せお前は…俺を闇の中から救いだしてくれたんだからな。

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