奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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ちゆという少女

「やっぱり出ませんか…」

 

「…あぁ、どうしちまったんだ…パレオのやつ…」

 

ますきさんの電話にも出ないようだ。こうなるといよいよパレオの身に何かあったと考えるほかはない。

 

チュチュはさっさと帰っちまうし…

でも、あいつのあの表情は…心当たりがあるって感じがしたな。

 

絶対に何か知っている。

やっぱり直接問い詰めるしか方法はないか。

 

そもそもパレオがライブを欠席すること自体

例え天地がひっくり返ろうともあり得ない話なのだ。

 

チュチュ様>天地がひっくり返ること

…そんなような子だからな。

 

だから、そんな彼女が何も告げずに姿を消す

なんてのは繰り返し言うがあり得ない話なのだ。

 

あるとすれば…

 

「…まさか。」

 

浮かんでしまった。

とある一つの可能性。

 

「ちょっと待て…」

 

しかし、それはとても残酷な可能性…

 

「…おいおい、マジか。」

 

そんなことがあっていいのか?

 

「優君?」

 

「ちょっくら、プロデューサーんとこお邪魔してきます。」

 

俺の様子を不思議に思ったのか、呼びかける

レイヤさんにそう言い残し、スタジオを飛び出す。

 

「くそっ…!」

 

ふざけんなよ。

もし今考えたことが真実だとしたら…

パレオは…

 

 

パレオはもう戻ってこないかもしれない。

 

 

ふざけんなよ。

 

間違いであってくれ。

 

杞憂であってくれ。

 

『ご心配をおかけしました!パレオは大丈夫ですよ♪』

 

早く折り返し電話をかけてきて、そう言ってくれよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…意気消沈って感じだな。」

 

「…ユウ。」

 

いや、意気消沈というよりも疲労困憊って感じか。

 

まぁ、それはどっちでもいい…

 

 

 

 

「…パレオに何て言ったんだ?」

 

「…!!」

 

 

 

チュチュの顔が驚きで染まる。

 

…やっぱりか。

 

できれば、当たってほしくはなかった。

 

どうしてわかったと…チュチュの目がそう言っていた。

 

 

「…はぁ。やっぱり…そうなんだな…」

 

そう…冷静に考えればすぐわかる話ではあるのだ。

 

パレオはチュチュのことを第一に考えている。

 

そのパレオがチュチュを裏切るような真似をするはずがない。

 

では、何故姿を消したのか。

 

…それは、チュチュから必要とされなくなったから…拒絶、もしくはそれに近い言葉を投げ掛けられたのではないか?という結論に至る。

 

あの二人がどのように出会ったのかはわからない。けれど、パレオの並々ならぬ忠誠心は見ていればわかる。

 

…そんなあいつにとってはこれ以上ない仕打ちだろう。

 

身を切られるような思いのはずだ。

 

「…別に責めにきたわけじゃねぇよ…俺も人のこと言えた義理じゃないしな。」

 

「………」

 

「だがな、一つだけ言っとくぞ?」

 

 

 

 

「このままだとお前は絶対に後悔することになるぞ。」

 

「………」

 

「パレオに…どんなことを言ったのかは知らないけどな…ふとした瞬間に…それ(後悔)は襲ってくる。どんなに忘れようとしても、そいつからは逃げられねぇんだよ。」

 

チュチュは黙って聞いている。

 

「…どこ行くんだよ。」

 

と、思ったら階段を降りて下に行ってしまった。

 

 

 

 

 

初めて見る部屋だ。

 

こんな部屋があったのか。

 

飾られた数々の楽器。

 

これ…いくらぐらいするんだろな…というそんな

場合じゃないだろ…というような感想しか浮かばない。

 

「…ちゆ?」

 

『ちゆ 8才』

 

プレートにはそう描かれていた。

 

どうやら、それはちゆという少女への誕生日

プレゼントのようだった。

 

ご丁寧に年齢ごとに分けられており、両親から

惜しみ無い愛情を注がれているということが

伺い知れた。

 

 

 

「…ちゆっていうのか。」

 

 

 

 

今さらながら初めて知った。

こいつの()()()()()

 

「…毎年こんな誕生日プレゼントくれるなんて…

良い親御さん達じゃんか。」

 

「…何も判ってない。」

 

…だ、そうだ。

 

惜しみ無い愛情を注がれているだろうに…何が

不服なのだろうか。反抗期?

 

「…確かに、Mum(母親)dad(父親)も私のことを褒めてくれるわ…例え私が()()()()()()()()をしたとしても…」

 

…そうか。

 

チュチュには才能がなかったんだ。

 

そっち方面の才能と呼ぶべきだろうか。

 

こいつのことだ。

たくさん努力はしたのだろう。

けれど、満足の行く結果は得られなかった。

 

にも関わらず両親はそんな自分を褒める。

 

 

 

それは、どれほど惨めなことだろうか?

 

 

 

俺には想像もつかない。

 

そんな及ばない想像のなか、チュチュ…

いや、()()は生きてきたのか。

 

…少しはわかった気がする。

 

こいつの根源(ルーツ)ってのが。

 

 

 

「お前は両親のために音楽やってんのかよ?」

 

「…何が、言いたいのよ?」

 

 

 

 

「…お前を見ているようで見ていない両親よりも…お前を本当に見てくれる人間を蔑ろにすんのかって言ってんだよ。」

 

「…!!」

 

「パレオは今も苦しんでる…きっとな。」

 

「…パレオ。」

 

「そんなあいつの苦しみをどうにかできんのは…他でもない…お前の言葉だけなんだよ。」

 

瞳が揺らいでいる。

…苦しんでいるのはこいつも同じだ。

 

 

 

「…千葉の鴨川だってな…パレオの住んでるとこ。」

 

こうなったら…最後の手段を取るか。

 

「…俺は一人でもパレオを探すぜ。このまま

はいそうですか…なんて納得できるかよ。」

 

引きずってでもこの場に連れてきてやる。

 

パレオ…待っとけよ。

 


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