奏でることを忘れた少年   作:TAKACHANKUN

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出会い、始まり

小学校の入学祝い。

 

何が欲しいかと聞かれた俺は最新のゲーム機とソフトが欲しいと言ったのを記憶している。

 

数日後、何を間違ったのか俺の部屋に置かれていたのは一つのギターであった。

 

騙されたと思ってやってみろとは父親の弁。

 

何でも昔ギターを弾いていたらしく、その楽しさを俺にもわかってほしかったらしい。

 

飽きたらまた欲しいものを買ってやるからと俺は渋々、父親に教えられながらギターをやり始めた。

 

最悪だった。血は出るわ…マメはできるわ…

 

かつての相棒に対する最初の印象はとにかく最悪だった。

 

本当に騙されたのだと思い、やめてやろうと思った。

 

そうか、やめるか…という父親の顔が心底ムカついたのでコイツだけは抜いてやろうと必死に必死に練習した。

 

いつしか、欲しかったものに興味がなくなっていることに気づいた。

 

本当の意味で父親に騙されたのだというのは間違いではなかった。

 

気づくとその父親よりも上手くなっていた。

 

元々俺なんか大したことないという父親のしてやったり顔がこれまたムカついた。

 

結局俺は掌で踊らされていたに過ぎなかったのだ。

 

そんな俺を幼馴染みも褒めてくれた。

 

ギターを弾いている俺をカッコいいと

言ってくれた。

 

その子もピアノを習っていたから一緒に

合わせて弾いたりもした。

 

『将来はミュージシャンになったりするの?』

 

『うん!なるよ!』

 

その質問にも自信を持って答えられた。

 

まだまだ世の中を知らないガキだったけれど、その頃の俺は本当にそう信じていた。

 

勉強もできなかったし、運動も散々だったが両親はそんな俺に特に何も言わなかった。

 

ギターを取り上げることもせず、

それどころか幼馴染みの通うミュージックスクールなるところに無理やりブチ込まれた。

 

個人レッスンであり、今さら教わることでもないようなことばかり教えられたので

講義は非常に退屈なものではあったが…。

 

例えるならば小学校の高学年でたし算や

ひき算をやるようなものだった。

 

その退屈だった鬱憤を晴らすかのように

他の専攻のやつらを呼びつけてソロライブを行ったりもした。

 

一種の名物にもなってたりしてたっけか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

『引っ越すなんて聞いてない!何で何も

言わなかったんだよ!優!』

 

だが、そんな日々も長くは続かなかった。

 

父親の転勤で引っ越さざるを得なくなったのだ。

 

『優!行くなよ…!』

 

心配をかけまいと直前まで言わなかったがどうやら逆効果だったらしい。

 

幼馴染みはわんわん泣いていた。

 

顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃだったのが

おかしくて笑っていたら怒られてしまった。

 

俺はただ一言だけ言い残した。

 

 

 

 

『また一緒に弾こうね。あーちゃん。』

 

 

 

 

あの頃の幼馴染みは今元気にしているのだろうか…。

 

物凄く人見知りだったから周囲から浮いてしまったりはしていないだろうか。

 

正直怖い。

 

あの人に会いにいくのが。

 

事実、俺は越してきてから会いにいけないでいる。

 

怖いから。あの人の今を知るのが。

 

…俺の今を知られるのが。

 

俺が弱くなかったら…胸を張って会いにいけたのかな?

 

いや、弱くないんなら…そもそもここに

逃げてきたりなんかはしていないか。

 

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