ホテルの一室。そこには司、伏黒、五条の3人が居た。司は伏黒の手当を、五条はソファに腰掛けて何処かへと連絡を取っていた。
「それで、虎杖の事どうするんです?」
司は伏黒の傷口に絆創膏を貼りながら、五条に問いかける。
「まぁそこは任せといてよ、この僕にさ」
「春夏秋冬が心配するのも分かるが、一応こんなのでも特級術師だ。何とかしてくれるさ」
「こんなのって、恵いっつも酷いな〜」
伏黒は肩をすくめる。司は安堵した表情で2人のやり取りを眺めていた。傷の手当が終わり、出口へと歩を進める。
「それじゃ、2人は先に東京に戻っておいて。僕は手続きをしてから悠二と一緒にそっち行くから」
「「分かりました」」
五条は2人の後ろ姿を見送った。
「なんだか楽しくなってきたね」
そんな独り言を思わず呟いた。
******
久々に学校の寮に戻ってきた司は部屋が少し埃っぽい事に顔をしかめる。そんなに開けていたつもりは無かったが、1週間も戻っていなかったのだ。当然と言えば当然だった。
部屋を片付け始めてだいたい30分後。コンコンと誰かが部屋の戸を叩く。
「春夏秋冬、メモ帳か何か貸してくれないか?」
寝起きっぽい伏黒がドアを開けて立っていた。司は髪がボサボサになって目に涙を浮かべた姿にいつもとのギャップで思わず笑ってしまった。
「な、なんだよ。何処か変だったか?」
「いや、伏黒っていつもしっかりしてるじゃん。なんか今の伏黒は、そうだな。隙だらけってとこかな?」
「俺は別にしっかりさんって訳じゃないぞ」
伏黒が少しだけ照れくさそうに髪を整える。
「ごめんごめん、メモ帳は無いけど使ってないノートがあるから。はい、これ使って」
司は机から1冊ノートを取り出して、伏黒に渡す。
「助かる」
ノートを受け取り、自分の部屋へと戻ろうとした伏黒がくるっと振り返って廊下の方へと指さす。司は何事かと思い、部屋から出てみると五条と虎杖が話しながらこちらへと歩いてきていた。
「お、伏黒に春夏秋冬!やっほー」
2人に気付いた虎杖は声を弾ませて手を振る。どうやら無事に学校に入れたようだ。2人もあの試験やったの?と虎杖が聞いて伏黒が頷く。司はなんのこと?とこぼす。なんか人形にボコられたよと虎杖が答えるが、それじゃ語弊かあるだろと伏黒は突っ込んだ。
「じゃあ、悠二の部屋は司の隣だからそこに荷物置いて来て。あ、そうだ。明日は記念すべき4人目を皆で迎えに行くからね」
「「4人目?」」
司と虎杖が同時に声を上げる。伏黒はそういえばと思い出した。
「俺達も行くんですか?」
司がどうしてと声を上げる。五条はニコッと笑顔を顔に浮かべて答えた。
「うん、顔合わせは早いほうが良いかなってね」
「なるほど」
「それじゃ、寝坊しないようね」
それぞれが適当に返事した。
******
東京、原宿。五条プラス1年ズは街中をぶらついていた。
「それにしても1年生全員で4人なんて少ないな。もし、俺と虎杖が入らなかったら伏黒と今日来る人だけなんだろう?」
司が虎杖と一緒に買ったクレープを頬張る。虎杖も同意するようにウンウンと頷く。
「呪術師は
確かに〜と虎杖は納得がいったようでポンと手を叩いた。
「しっかし原宿ね〜。五条先生もこんなとこ待ち合わせ場所にしなくていいのに」
「僕じゃなくて向こうからの頼みだよ」
五条が3人の後ろからにゅっと現れる。その手には今歩いてきた通りの甘味の全てが収められていた。見てるだけで胃もたれすると伏黒がこぼす。
「アマネなんかだったら僕と並んで甘党だから今日は楽しかったろうなぁ。あ、なんか欲しいのある?ちょっとだけなら分けたげる」
はいはーいと五条からスイーツをたかる虎杖と司。伏黒はそろそろ約束の場所に着くだろうと次官の確認をしていた。
「⋯⋯ゎたしは?」
「おん?」
高専一行の行先に何やら揉め事。呪術高専の制服を着た女の子が、スカウトマンらしき者に絡んでわいわいがやがやしている。話を聞いていると、どうやら『私の事をスカウトしろ!!』と女の子が騒いでいるようだ。
「えー、あれに声かけるの?ちょっと恥ずかしいな」
「いやいや、虎杖も大概だよ」
右手にクレープ、左手に五条からせびったスイーツ群。2018!!と象られたサングラス。司のツッコミ通り虎杖も人の事は言えなかった。伏黒は声には出してなかったが顔に如実に出てた。
*****
「そんじゃ、改めて。釘崎野薔薇。喜べ男子、紅一点よ」
図々しいにも程がある自己紹介。しかし彼女の生き様がそうさせたのかなかなかしっかりとした雰囲気だった。だが、図々しいものは図々しい。虎杖は内心ウザ⋯⋯と思い、司はゲームのキャラクターみたいな人だと感じ(遠回しのキャラ濃すぎ宣言)、伏黒は呪術師ってこんなんばっかとため息をついた。
「俺、虎杖悠仁。仙台から」
「えっと、春夏秋冬司。広島から⋯⋯て、これいる?」
「伏黒恵」
男子達の各々の自己紹介。釘崎視点から見ると、虎杖はイモ臭い。ガキの頃は鼻くそ食ってたタイプ。春夏秋冬は多少話せるけど多分陰キャ。3次元より2次元優先タイプ。伏黒は誰よりも自分優先の偉そうな雰囲気。恐らくきっと重油まみれのカモメに火をつけてる(大偏見)。結論。
「私ってつくづく環境に恵まれないわね」
人の顔を見てため息をつくなよ、と小さく虎杖が呟いた。
「これからどっか行くんですか?」
伏黒が五条に予定を聞く。
「フッフッフ。せっかく1年が今のところ全員揃ったんだ。しかもその内3人はおのぼりさんと来ている⋯⋯なら、行くでしょ。東 京 観 光」
その鶴の一声を聞いた瞬間、虎杖と釘崎の顔がパァァァァと輝く。司は広島ってそんなに田舎かな⋯⋯一応政令指定都市なんだけどなぁとボケっとしてた。
「ディズニー!!ディズニー行きたい!!!」
「ディズニーランドは千葉だろ!!!中華街にしよ!!先生!!!」
「中華街だって横浜だろ!!」
「東京じゃん!!」
釘崎and虎杖が五条の周りでやいやい騒ぐ。司はちょっと前まで引きこもってたのになぁとこの状況を楽しく眺める。伏黒はこいつらは⋯⋯と内心呆れる。もちろん出来る男なので口には出さない。
「それでは行き先を発表します」
童心ズが
「六本木」
童心ズが顔を付き合わせ、心をときめかせる。
電車に乗って十数分後。ズズズ⋯⋯と陰気なオーラを発する建物の前に着く一行。
「いますね、呪い」
伏黒の無慈悲な宣告。童心ズは『嘘つきーー!!!』と天に向かって吠える。てかまず六本木でも無くね?と虎杖は絶望した。
「地方民を弄びやがって!!」
「でかい霊園があってさ。ハイビルとのダブルパンチで呪いが湧いたって訳」
「やっぱ墓とか出やすいんすね」
釘崎はまだちょっと引きずっていたが、虎杖はもう切り替えていた。
「てかちょっと待ってよ。墓に出やすいってそんな事当たり前じゃん。人間の感情坩堝ってやつよ。なんで知らないのよ」
呪術高専は素人来る場所ではない。基礎知識はあって当然なのが当たり前なのだ。釘崎が虎杖に対して抱いた疑問は当然だろう。
「実は⋯⋯」
かくかくしかじか。
「特級呪物を飲み込んだぁあぁ??」
一連の話を聞いた釘崎は虎杖に対してえんがちょえんがちょを繰り返した。虎杖は反論したそうだったが、残念ながら満場一致で虎杖が敗訴だ。
パン、と手を叩いて五条が全員の注目を引く。
「ここに来たのは悠二と野薔薇がどこまで出来るのか知りたいからだ。実地試験だよ、それが早いからね。という訳で2人で建物内の呪いを祓ってきてくれ」
釘崎はあからさま嫌そうな顔をするがキャリーバッグから道具を取り出してやる気だ。虎杖は五条に呪具を借りて釘崎の後を追う。
「あ、悠二。宿儺は出しちゃダメだからね。呪いは瞬殺だろうけど───周りの人も巻き込まれるからね」
「わかった!」
五条、伏黒、司は2人の背を見送った。
「やっぱり、俺が春夏秋冬どっちは行った方がいいですよ」
「まぁまぁ、2人とも病み上がりなんだから」
「でも虎杖は監視してなきゃダメなんですよね?」
原宿に来る前に軽く虎杖に対しての措置を五条から聞いていた司は質問を投げる。
「まぁね、でも今回試されてるのは野薔薇の方だよ」
五条は廃ビルを黒布越しにワクワクした子供のような顔つきで眺める。
ここまで読んできた人なら分かると思いますけど僕は伏黒推しです。