戦慄していた。目の前にいる化け物に。自分から全てを奪っていったものに。フラッシュバックする情景、血を流し、倒れている両親。失われた左足。持ち掛けられた
「殺す⋯⋯」
圧倒的殺意。自らの内にこんな感情が燻っていたなんて、司自身思いもしなかった。感情を認識した司は素早く
ほぉ、と部屋の隅でその様子を見守る黒装束の男。素直に感心していた。呪力をしっかりと認識している、が。雑にも程がある。振り幅が0か100しか無さそうだ。
「消えろッ!!」
司は叫び声と共に手を振り降ろす。すると、化け物の上に黒い雲が現れ、そこから一筋の雷が凄まじい勢いで落ちる。粉塵と轟音で五感の殆どが機能しなかった。
「'ハイハイ、お疲れ様でした。いや〜凄かったね。呪術師の家系でもないのに立派な術式だよ、ホント」
「説明してくれ!!どうして
声を荒らげる司。当然だ。因縁とも言える相手が目の前に用意されていたのだ。聞かざるを得ない。
「あー、ちょっと面倒臭いんだけど。君が経った今、祓った呪霊はなんて事はない普通のもんさ」
黒装束はどうしよっかな〜と言いつつ、悩んでいる。司にはそれが腹立たしく思えた。
「ふざけるな!説明してくれッ!!納得のいく説、めいを⋯⋯」
違う。力を使って殺した化け物に目を向けると、先程とは全く違う姿になっていた。よく考えれば、あの化け物から感じた存在感の圧の様な物も全く感じなかった。
「ど、どういう事なんだ⋯⋯」
「まぁまぁ、ともかく大丈夫だから、ね?」
司はただただ呆然とした。
「いや、ホントにゴメンね?でも、コレやっとかないと、いざ呪霊とかと戦う時にビビっちゃったら死ぬのは君だから。素質の確認、今回のテストで最も重要視される点だから」
テストがどうだのこうだのと男は続けているが、何も響かない。結局、俺は逃れられないんだ。あの夜から。
「あ、えっーと。とにかく試験は合格も合格だから〜、くるっと回って建物出ていいですよ。うんうん、君の等級は2級にしとくから。いよっ!天才っ!⋯⋯てもう居ないや」
黒装束はグズグズと崩れていく呪霊に目を向ける。先程の術式の威力。並の術師じゃ太刀打ち出来るもんじゃない。それに、彼からは何か隠しているような雰囲気を感じた。
「やれやれ、この業界はろくなもんじゃねえ。新しい就職先探そっかなぁ」
独り言は虚しく呑まれた。
******
ドアを開けると、少し先に自分をここに連れてきた2人が待っていた。この2人に対しても、今は少し憎しみを感じる。閉じこもっていれば、こんな思いせずに済んだのに。
「ハイハイ、おつかれぇ〜。顔が暗いねぇ、なんか嫌な事でもあったぁ?」
「如月先輩、試験内容知ってますよね。流石にちょっと配慮してあげてください」
恵から注意を受けた如月は、おっと、それもそうだと自分の頭を小突く。その様子から反省している様子は全く見られない。恵は思わずため息をついた。
「その、ほぼ説明無しに送り込んですまん。でも、そういう試験だったんだ。割り切った方が楽だぞ」
恵は司を気遣い、そう声を投げる。だが、司にはその気遣いすら
「んじゃ、テストも無事に終わったことだしぃ。戻りましょか」
如月がそう切り出す。恵もそうですねと答える。司は何も考えたくはなかった。一行は車に乗り込んだ。