3人で走り出して数分が経過。学校の全貌がちょうど見える位置に着く。
「なぁ、封印ってそんな簡単に解けんの?」
虎杖が併走している司に聞く。
「えっと〜、どうなの?伏黒」
分からずに隣を走る伏黒へ流す。
「普通は呪力がない人間には解けない!!だが、今回は中の物が強すぎる!封印も年代物。紙切れ同然だっ!」
伏黒は頬に汗を浮かべてそう答える。司はそういう大事なことは授業で教えてくれなきゃ困る、と五条先生に念を送っておく。虎杖は先輩の危機だと聞いて走り出したが、呪いなんてイメージ付かないし、もしイタイ人達だったらどうしようと考えていた。
ずぁぁぁあ、と3人の全身を駆け抜ける不気味な圧。虎杖は呪いなんてものは分からない。しかし、肌でこれはマズいと理解した。
「虎杖、オマエはここにいろ。部室はどこだ?」
「!!待てよ!俺も行く!」
虎杖は伏黒へと真っ直ぐ伝える。決して、これは偽りの善では無いと。
「二月やそこらの付き合いだけど、友達なんだ!ほっとけねぇって」
しかし、力を持たないものは舞台に立つ資格がない。
「ここにいろ」
伏黒は鋭く、冷たい目つきで虎杖に宣告する。
「行くぞ、春夏秋冬」
「⋯⋯あぁ」
2人の背が見えなくなるまで、虎杖はその場で立ち竦んだ。
******
「急ぐぞ、春夏秋冬!」
虎杖から聞いた部室を目指して階段を駆け登る2人。そんな最中、女子の悲鳴が校内を反響する。
「もう部室を出たのか!」
「近いよ!!」
悲鳴の音源へと向かう為、連絡橋の扉を開ける。連絡橋の中心に黒い不気味な呪霊。祓わねば、進めない。
「俺がやる。伏黒は助けに行ってくれ」
「大丈夫なんだな?」
「任せろ」
その声を聞いて、決して強がりや無理をしようとしている訳では無いと判断した伏黒は、急いで呪霊の横を抜けて隣の校舎へと行く。それを邪魔しようとした呪霊に蹴りを入れる司。倒れた呪霊の全身に張り巡らされた目は司を敵だと認識している。
「さて、お前には少し実験に付き合って貰おうか」
呪霊に人差し指を向ける。呪力を体内で循環させて指へと持っていく。雷、これは雷なのだ。雷は必ず
「幻雷呪法、
司の指先から白い雷が飛び出し、呪霊の体へと着弾、炸裂。呪霊はグズグズと黒いホコリの塊になって消え去った。
やはり、成功した。病院で目覚めた時、力を制御出来ただけで無く、
ガラスが割れた音で思考の渦から現実へと戻ってきた。とにかく、呪霊は片付いた。伏黒の援護に行かなくては。
******
虎杖悠仁の独白。
俺は何にビビってる?
死。
そうだな、学校からは死の予感がする。死ぬのは、怖い。爺ちゃんも死ぬのは怖かったかな。俺は怖くは無かった、寂しかった。
今目の前にある『死』と、爺ちゃんの『死』は何が違う?
『お前は強いから、人を助けろ』
決意が、漲る。
******
目の前に現れた雑魚呪霊を素早く祓い、目的地を目指す伏黒。呪いの数の増加、それが意味するのは目的の物が近い事を示している。廊下を曲がると突き当たりに大きな呪霊。その腹には虎杖の先輩達。呪物ごと取り込もうとしている。
「くっ!」
呼び出した玉犬を向かわせるが、間に合わない。取り込まれる方が先だ。
『頑固で友達なんていねぇ、俺みたいになるな?確かにね、でもさ』
窓を突き破り、虎杖が廊下に現れる。その勢いのまま、呪霊に取り込まれかけていた2人を引き剥がす。
「虎杖!?」
まさかの人物の登場に驚きを発する伏黒。小声で4階であるここにどうやって、とこぼす。
『爺ちゃんは正しく死ねたと思うよ』
鋭く、呪霊を睨みつけ断言する。こっちは間違った『死』だ!!
呪霊は突如現れた虎杖に興味は無いようで、先輩2人を相変わらず見つめ続けている。
「これが呪いか!思ってたのと違うな!」
呪霊が虎杖達に集中している隙に呪力を込めた拳で呪霊を祓う伏黒。
「なんで来たと言いたいが、よくやった」
「なんで偉そうなの」
「というかお前、呪い見えてるのに怖くないのか?」
伏黒の率直な疑問。今まで呪いと無縁に生きてきた人間が呪いを初めて見て、取り乱さないのが不思議だった。
「いや、まぁ怖かったけどさ」
一息ついて、抱き抱えた2人へと視線を落とす虎杖。
「知ってる人には正しく死んで欲しいんだ、俺」
まぁ、自分でもよく分からんと付け足す。伏黒は、その言葉が自分の中心に存在する物と似通っていると感じた。
虎杖が先輩を抱えて立ち上がると、その手から枯れた指の様な物が落ちる。
「これが?」
「あぁ、特級呪物『両面宿儺』。その一部だ」
「りょうめ⋯⋯?」
「言っても分からん。危ねぇからさっさと渡せ」
はいはいと、指を渡そうとした虎杖の真上から手が現れ、掴もうとする。伏黒は素早く虎杖を跳ね除け、玉犬に虎杖達を援護させる。
「逃げろ」
「伏黒!!!」
真上から現れた手はそのまま地面を廊下を抉り、粉塵をあげる。その中から現れたのは、虫と人と四足獣を混ぜ合わせたようなおぞましい呪い。伏黒は大きな呪いの手に掴まれていた。
「『鵺』」
鵺を呼び出そうとした伏黒だったが、呪霊がそれより早く壁へと叩きつける。体の中の空気が全て吐き出され、その衝撃で玉犬も解除去れる。
「おい!!」
虎杖の制止も、ものともせず呪霊は伏黒を追撃する。壁が砕け散り、宙を舞う伏黒。連絡橋の上へと落ちる。何とか呪力で受けた為致命傷では無いがどう考えても動ける状態ではなかった。
何とか立ち上がり、術式を回そうとするが上手くいかない。目の前の呪霊はゆっくりとだが、確実に近付いて来ていた。
だごんっ!!と鈍い音が鳴り響く。上から降ってきた虎杖が呪霊の頭を殴りつけた音だ。凄まじい膂力、呪霊が少し怯んでいた。
「大丈夫か?」
「逃げろっつたろ」
言ってる場合かと伏黒の盾となるべく前に立つ虎杖。
「今帰ったら夢見悪ぃだろ。それにな、こっちはこっちで、面倒くせぇ呪いにかかってんだわ」
呪霊が虎杖に飛びかかる。それをいなし、鋭い蹴りを入れる。だが、呪霊はそれをものともせず反撃する。
「呪いは呪いでしか祓えない」
吹き飛ばされた虎杖が伏黒の横へと転がる。頭から血を流しながら伏黒へと抗議の目を向ける虎杖。
「早く言ってくんない?」
「何度も逃げろっつたろ。今、あの2人抱えて逃げれるのはお前か春夏秋冬だ。さっさとあの2人連れてアイツと合流してここを離れろ。死ぬぞ」
虎杖はどうしても納得行かないといった顔。伏黒は春夏秋冬へと連絡が取れないか試してみるが、電波がない。
(この騒ぎだ。直ぐに来てくれると思うが、春夏秋冬にアレをどうにか出来るもんか分からん)
とにかく、虎杖を逃がす事へと尽力する事にした。
「呪力のねぇオマエがいても意味ねーんだよ」
それを聞いた虎杖が何かを思いつく。
「なぁ、なんで呪いはあの指狙ってんだ?」
「喰って呪力を得る為だ」
その返答を得て、虎杖は確信する。
「なんだ、あるじゃん。全員助かる方法」
「あ?」
「俺にジュリョクがあればいいんだろ」
聞き返す暇は無かった。虎杖は持っていた両面宿儺の指を丸呑みしようとする。
「馬鹿!!!!やめろ!!!」
警告虚しく、そのまま指は消える。
特級呪物、それは猛毒である。ただの人間が取り込めば確実に死ぬ。だが、万が一、万が一の可能性。
呪霊が吹き飛ぶ。虎杖が軽く右腕を振ったのだ。
「ケヒッヒヒッ」
気味の悪い引きつった笑い声。
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラ!!!!」
聞くもの全てに不安を与える様な笑いの洪水。
最悪の万が一、この日。特級呪物、両面宿儺が受肉した。