「じゃあ彼処のファミレスで待ってるから」
「あ、うん。わかった」
そう言って俺は癖っ毛の彼に手を振って教室を出た。
ことの始まりは中国 軽慶市、“発行する赤子“が生まれたというニュースだった。馬鹿馬鹿しいと思うだろう
だが、以降 各地で『超常』は発見され、原因も漠然としないまま時は流れる。ーー『架空』は『現実』にーー
世界総人口の約八割が何らかの“特異体質“である超人社会となった現在、混乱渦巻く世の中でかつて誰もが空想し憧れた一つの職種が脚光を浴びていた。
“超常”に伴い爆発的に増加した犯罪係数。法の抜本的改正国がもたつく中、勇気ある人々がコミックさながらにヒーロー活動を始めた。“超常”への警備、悪意からの防衛。たちまち市民権を得たヒーローは世論に押される形で公的職務に定められる。故に彼らは活躍に応じて与えられるーーー国から収入を、人々から名声を
俺は
前世の記憶はほとんど頭にモヤがかかったかの様に思い出せない。けど、死ぬ間際の場面は何となく思い出せる。赤みがかった視界の端で、誰かが倒れている自分の名前を必死に叫んでいた。場所が道路だったのでおそらく交通事故だったんだろう。
何故この天使君の身体に転生したのかはわからない。朝、目が覚めたらこの身体だったのだ。小説なんかでよくある赤子から転生するならまだしも、起きたら他人になっているため、生活に慣れるのには苦労した。さらには、この世界には『個性』なる物が存在するらしい。なんでも、やれ火を起こしたりだの、巨大化したりだの、様々な事が出来る者が沢山居るとか。
俺の能力....いや、個性は『はんてん』簡単に言うとあらゆる事象、概念を反転させる事が出来るらしい。いやぁ、天使君が日記を毎日書く子で助かった。実はこうなる事を予知していたのだろうか.......。日記には「個性の詳細は別紙に書いておく」と書いてあったため、まるで誰かに読ませるために書いてあるかの様だったから、可能性は高いだろう。ならば日記の最後に何かメッセージがあるのかと思ったがそんなことはなかった。
日記を読んでいて思ったが、どうやら同級生にいじめられっ子が居るらしい。名を緑谷 出久という、緑がかった癖毛とそばかすが特徴な子でいつも自分の意見を相手に伝えることが苦手な子の様だ。どうやら天使君はこの子のそういうところが気に食わないらしく、虐められているところを見てもシカトを決め込んでるらしい。いや、天使君だけでなくクラスの子全員が彼を好ましく思っていない様だ。
この世界のいじめの原因の殆どが所謂“個性事情”だと言う。個性がパッとしない、弱個性と呼ばれる個性を持つ子がよくいじめの対象になっているとか。彼の場合、個性がない。所謂“無個性”と呼ばれるグループらしい。世界総人口の約八割が何らかの特異体質であるこの世界の思春期の子達における無個性と呼ばれる人々は自分達より劣っている、虐めやすい存在なのだろう。個性が当たり前の世界ではそうかも知れないが、少なくとも俺の持っている少ない記憶の中にはこの様な超人的な力は無いし、天使君だって個性がどうのではなく性格に対して負の感情を持っているわけだし。
まぁ、そう思っていた俺は彼に話しかける様心がけた。そこで知ったのだが、彼はヒーローオタクだった。『将来の為のヒーロー分析』なる物を書いていたくらいには。このノートを見せてもらった時に俺の個性の事を聞かれたから、少しだけ答えた。すまんな緑谷君、俺もまだ自身の個性メモに書いてあった事の内半分くらいしか試してないんだわ。それに、多少ミステリアスな方がカッコイイだろ?
ともあれ、自分の個性の事について調べたりしながら今日まで過ごしてきた。今日はこれから緑谷と会う予定だ。今日は進路希望のプリントを配られた。まぁ、分かる通り俺らは今中学3年である。そろそろ将来を見据えないとな。
先生が進路希望のプリントを配る際に言っていたが、この世界の青春真っ盛りな青年たちにとってはこれしか無いと言っても過言ではないほどの人気職がある。それはヒーローだ。ヒーローは超常が当たり前の世界では空想や妄想などではなく、手にする事が可能な夢の職業なのだろう。生徒もそれに応える様に満面の笑みを浮かべていて、教室の中の空気はまさに最高潮と言った所だろう。感情の昂りに任せて個性を使っている人たちも居るが、先生はそれを咎めようとはしない。今日くらいは良いと思っているのだろう。
そんな中一人、まさに自尊心の塊とでも言っても過言ではない、爆発した様な髪に紅い目の青年が声を荒げていた。なんでも、彼はあの雄英高校志望らしい。彼は言葉づかいや態度さえアレだが、運動神経や個性はピカイチだ。彼がヒーローになれば必ず名を挙げるだろうことは間違いないだろう。
他の生徒達が驚きざわついている中、先生が爆弾を投下した。なんと緑谷も雄英高校志望らしいのだ。無茶だ。反射的にそう言いそうになった。ヒーローは無個性が成れる程簡単じゃないと思う。なにせヒーローが相対する相手は無個性では無い可能性が高い。いや、この世界で起きる犯罪の99%は個性を使った犯罪なのだ。
雄英高校は名門である。当然倍率も高い。同じ様な事を言うが無個性が入れるほど簡単ではないのだ。
まぁ、他のみんなもそう思っていた様で緑谷の事を馬鹿にしていた。そんな時も俺は窓の外を眺めていた。友人が馬鹿にされていると言うのに、全く薄情な奴だな。
俺は緑谷の為に何か出来ないかを考えていた。雄英高校に受かるには筆記は勿論、実技も結果を残さなければいけない。彼は見る感じ筋肉があまりついていない様に見える。大多数の人が使う個性という壁を無個性な彼は己の肉体で補わなければいけない。今の彼の身体では到底無理だろう。試験まであと10ヶ月、この10ヶ月で彼は筋肉モリモリマッチョメンにならなければいけないのだ。
「取り敢えず今日はその事を緑谷に話してプランを組み立てないとな」
俺は待ち合わせ場所で色々プランを考えながら緑谷を待っていた。
すると突然ズンと何かが爆発する音が聞こえてきた。
音の位置からして商店街の方だろうか.....。俺は急いで商店街へと向かった。
商店街へ行くと深緑色のヘドロが爆発していた。野次馬に話を聞くと敵が中学生を襲っているらしい。おそらく爆豪が捕まっているのだろう、間違いない。あの爆発は爆豪のものだ。助けに行きたいがどうしよう、気持ち悪すぎて正直近寄りたくない。それにプロ居るしな。
そうして俺が迷っていると一人の青年が駆け出した。緑谷である。彼は無個性なのにも関わらず勇敢にも一人で敵へと向かっていった。
「馬鹿野郎っ!」
それを見た俺は急いで緑谷の後を追った。
結果的に言えばそのすぐ後オールマイトが来て二人を救った。
オールマイトが地面に向けて拳を振り、起こした風でヘドロ野郎を吹き飛ばしたのだ。おまけでここら一帯に雨が降り注いだ。これが“平和の象徴”なのか
ちなみにあの後、緑谷と俺は他のヒーロー達にものすごく怒られた。まぁ、返す言葉も無い。
俺は個性の関係上、現場の修復を手伝う事になった為緑谷と別れた。結局マッチョプランのこと言えなかったな。連休開けたら言ってみるか
「緑谷、お前最近何かやってる?」
「へ?....あ!いや!何もやってないよ!?」
「やってますねコレは。で、何やってんの?ここのところ毎日寝不足っぽいけど」
「ほんとに.....何でもないよ、うん」
そう言って彼は笑った。緑谷はここ最近毎日、寝不足状態で学校に来ている。最初はプランの事は元気良い時にするかと後回しにしていたがずっとこうなので言うことにした。
「緑谷が何で毎日寝不足なのか知らないけど、一応友達として心配してるんだからな.....。それはそれとして、緑谷に言いたい事があるんだ。」
「ん?どうしたの?」
「実は、このままじゃお前実技ヤバそうだから身体鍛えさせないとなって思ってて...。素人だからあれだけど、色々調べてメニュー立ててみたんだ.....。今言うのもアレだが、どう?」
「え....?これ、僕の為に?」
「その、なんだ。一応俺も雄英受けるし、友人だからな。」
「ありがとう‼︎でも、その、実は......」
なんと、緑谷は既に筋トレを始めていた様だ。とある人がメニューを組んでくれたらしく、それを実行しているらしい。毎日寝不足な様だからそんなにキツイのかと思ってメニューを聞くと寝れないほどではなかった。緑谷の性格からしてこれは....
「オーバーワークか?」
「その....うん。」
「あまり良くはないと聞くが、睡眠時間を削るのはどうなんだ?」
「いやぁ....ハハハ。」
まぁ、言っても聞かないだろう。なんだかんだ言ってやり続ける気がする。
「緑谷、手を出して」
「え?うん。」
そう言って差し出された緑谷の手を叩いた。俺の個性は反転。あらゆる事象、概念を反転させる事ができる。この個性で緑谷の疲労状態を反転させた。本来、校内で個性発動は原則禁止なのだが、あの爆豪だって馬鹿スカ個性を使ってるしかまへんやろ。この個性で緑谷の肉体を改造する事も考えたが、それじゃ緑谷の為にならないだろう。やるとしても最終手段だ
「これくらいしか出来ないけど、応援してるぜ」
「ありがとう!頑張るよ!」
こうしてたまに個性で緑谷の身体を癒やしつつ、10ヶ月過ぎた。