虹の花咲くその日まで   作:T oga

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今回はいつもより少し長めになりました。

前半は菜々目線、後半は輝助目線で書いてます。



9話 全力で(さら)け出せ! ~CHASE!~

「それじゃ、行ってこい!なかg……いや、せつ菜!」

 

 内村先輩がそのように私の名前を呼んで下さいました。

 

 そう。今の私は『中川菜々』じゃない……スクールアイドルの『優木せつ菜』なんです……!

 

 やっと皆に私の大好きを(さら)け出せるんです! 緊張なんてもったいない!このステージを楽しまなくちゃ!!

 

「……はい!!行ってきます!!」

 

 

 

 ──優木せつ菜初ライブの二時間前──

 

 

「中川さん!こっちはいいから、生徒会のお仕事行ってきなよ!」

 

 私のクラスの出し物であるお化け屋敷の受付をしている途中、クラスメイトの一人がそう声を掛けてくれました。

 

「いいんですか? まだお客さんいらっしゃいますよ?」

「大丈夫! あとはこっちにまかせて!」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます! ありがとうございます!」

「いいって、生徒会のお仕事頑張ってね~」

「はい!」

 

 4月に入学して、もう今は11月……半年以上も経ち、さすがにクラスにも慣れましたね。

 

 生徒会長になってからはクラスメイトの方々も良く声を掛けてくれるようになりまして……そのおかげか友達も増えました!

 

 『充実した学園生活だ』と自信を持ってそう言わせて頂いてもいいのではないでしょうか。

 

 小学生や中学生の頃は本当に充実した学校生活だとは言い難いものでした。

 親の言う事をすべて聞いて、勉強第一で過ごしてきたからかクラスメイトに「ガリ勉メガネ」なんて呼ばれたりもして……

 

 と、そんな事を考えていて、しっかり前を見ていませんでした……

 

 私は前から来ていた同学年と思われる女子生徒とぶつかってしまったのです……

 

「あっ、ごめんなさい!」

「ううん、私は大丈夫。あなたは?」

「はい!大丈夫です」

「そっか、よかった~」

 

 そう言って立ち上がった女子生徒は私に手を差しのべて下さったので、私は彼女の手を取って立ち上がります。

 

「ありがとうございます」

「お互い気をつけようね!」

 

 そして、彼女はそのまま少し先を歩いていた友達の方へと駆け寄って行きました。

 

「もう、侑ちゃん。前見て歩かないからだよ~ パンフレットばっか見て……」

「ごめんって、歩夢~」

「ケガとかはしてない?」

「大丈夫だよ。それで次はどこ行く?」

「侑ちゃんはどこがいいの?」

「う~ん、じゃあこれ!トリックアート展だって!面白そうじゃない!」

「そうだね。じゃあ行ってみよっか」

 

 どうやら、この文化祭は楽しんで貰えているようです。あの生徒達の笑顔が生徒会長としての自信にもなります。

 

 ……でも今ふと思ったのですが、生徒会長としてならちゃんと全校生徒の名前も覚えた方が良いのでは……?

 

 内村先輩には「そんな事しなくていいだろ」って言われそうな気がしますけど……やっぱり覚えた方がいいと思います!

 

 中学の時は全校生徒の顔と名前を覚えられましたし、明日からはニジガクの全校生徒の顔と名前も暗記出来るように頑張りましょう!!

 

 

 生徒会長として文化祭の見回りをしながら色々なクラスの展示を見ている途中、とあるクラスから出てきた内村先輩とばったり遭遇しました。

 

「あっ、内村先輩!」

「おっ、中川。クラスの方はもういいのか?」

「はい。なので講堂のライブの時間まで生徒会長として見回りをしてました」

「真面目だなぁ……」

「それが私の取り柄ですから。でも内村先輩はてっきりもう講堂の方に行ってると思ってました」

「えっと……まだ時間はあるし、他のクラスも見とこうと思ってな」

 

 少しだけ歯切れが悪かったような気もしますが、多分私の気のせいなんだと思います。

 

 内村先輩が先ほどまでいたクラスはファッションショーをやっているようでした。

 

「内村先輩、ファッションとか興味あるんですね。少し意外です」

「それなりにな。あとこのクラスに在籍してる現役モデルの朝香果林を見に来たってのが本音かな?」

「あぁ……」

 

 そう言えば聞いた事があります。ニジガクには有名な現役高校生モデルの生徒がいるって話……

 

 まだ高校二年生なのに、妙に大人びていてクールでカッコいい人らしいです。

 

「……内村先輩、ああいう方がタイプなんですか?」

「うーん。まぁ……やっぱモデルだし、スタイルは抜群だなって思うけど」

 

 そうなんですか……ってなんで私、こんな質問しているんでしょう……?

 

 ふと、我に返った私は廊下の壁にかけられた時計を確認します。

 

 時間は14時20分……

 

 生徒会の見回りを始めたのが13時過ぎでしたので、一時間以上は経っていたんですね。

 文化祭が楽しくて時間が経つのが早く感じてしまいます!

 

「講堂のライブまであと40分くらいですけど、そろそろ講堂向かいますか?」

 

 私が聞くと、内村先輩はそれを否定しました。

 

「いや、グラウンドと体育館も少し見てこよう。あっちはまだお前も見てないだろ?」

「そういえば……そうでした」

 

 ニジガクは文化祭と体育祭を同時に行う事になっていて、文化祭中も運動部や運動好きな生徒がグラウンドと体育館で色々な種目の競技をやっています。

 

 私達は講堂へ向かう前に体育祭の様子も伺いに行く事にしました。

 

 

「お願い!愛ちゃん!!」

「りょーかい!任された!!」

 

 グラウンドの方でやっていたソフトボールとサッカーの様子を見に行った後、体育館へ向かうと、そこでは卓球とバスケットボールが行われていました。

 

 特にバスケットボールの方は白熱しているようで、私と同い年らしい情報処理学科一年の宮下愛さんという金髪の生徒が……今、シュートを決めました。

 

「さすが、今年入学してから色んな部活の助っ人として活躍して『部室棟のヒーロー』なんて呼ばれるようになっただけあるな」

 

 どうやら、内村先輩の目的は彼女を見に来る事だったようです。

 

「そろそろ時間だな。じゃあ、行くか」

「……わかりました」

「ん? なんで怒ってるんだ?」

「怒ってなんかいませんよ」

 

 本当に、怒る理由もありませんから……。

 

 


 

 

 講堂で行われている演劇部の舞台の時間を潰す目的で、俺は以前から気になっていた虹ヶ咲学園で特に有名な二人の生徒を見に行った。

 

 『現役高校生モデル』である朝香果林

 『部室棟のヒーロー』である宮下愛

 

 二人とも人気者特有のオーラのようなものが溢れているように感じた。このオーラ……カリスマ性を優木せつ菜が醸し出せるか否かで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会は明暗を分けるだろう。

 

 まずは今日のせつ菜のライブでスクールアイドルに興味を持つ生徒を集めなければ始まるものも始まらないのだが……

 

 

 とにかく、俺に出来る事はすべてやった。あとは中川に……せつ菜に全てが掛かっている。

 

 

 少し緊張しながらも、俺と中川は講堂へと足を踏み入れた。

 

 

 そして、ついに彼女の……優木せつ菜のステージが始まる……

 

「中川は緊張してないか?」

「緊張していないといえば嘘になります。でもそれ以上に楽しみな気持ちのが強いです!」

「そうか……」

 

 良く見ると中川の腕や足は少し震えていた。

 けれど、彼女の言葉はおそらく事実なのだろう。強いな、中川は……

 

「それじゃ、行ってこい!中g……」

 

 「中川」と言い掛けて……やめた。

 今の彼女は生徒会長の『中川菜々』ではない。スクールアイドルの『優木せつ菜』だ。

 

「いや、せつ菜!」

 

 俺がそう呼ぶとせつ菜は少し驚いた顔を一瞬見せた後、笑顔でこう言った。

 

「はい!!行ってきます!!」

 

 頑張れよ、せつ菜……!

 

 

 

 ──そうして、幕は開かれた──

 

 

 

「はじめまして!虹ヶ咲学園のスクールアイドル『優木せつ菜』です! あっ、今「穂乃果さんじゃないんだ……」とか思いましたね! 安心して下さい! 彼女のライブはちゃんとありますよ!!」

 

 舞台袖から彼女を見送った俺は客席へ戻る。

 彼女の初舞台をしっかりと客席から見届けたかったからだ。

 

「あっ、輝助さん!こっちです!」

「おーい、こーちゃーん!」

 

 客席に行くと、すぐに俺を見つけてくれた近江姉妹が小さな声で手を振って呼んでくれる。

 

「ありがとな、席取っておいてくれて」

「おやすいごよ~だよ~」

「彼女が輝助さんが夏休みに言っていた虹ヶ咲のスクールアイドルですか」

「あぁ、まあ一曲だけ聞いてみてくれ」

 

「まずは高坂穂乃果さんのライブにお越し頂きありがとうございます!彼女のステージの前座として、私から一曲だけ歌をお届けさせて頂きます!!4分ほど私にお時間を下さい! では、歌います!……『CHASE!』」

 

 

 はし~りだした~ 思いは強くす~るよ~♪

 な~やんだら~ 君の手をに~ぎろ~♪

 

 

 彼女が現れた時のざわめきが、彼女の歌と同時に静寂に変わる。

 

 

 ────♪

 

 

 夢はいつか~ ほら輝きだす~んだ~♪

 

 

 そして、歌が終わる頃には、客席は赤一色に染まっていた。

 

 

 パチパチパチパチ

 

 

 沸き上がる歓声と拍手。どうやら予想以上に上手くいったようで何よりだ。

 

 

「すごい!すごいです!!」

「うわぁ~本当にすごいね~!」

 

 遥も他の客と同じように惜しみ無い拍手を贈っていた。隣の彼方も今まで見た事もないような感動している顔を浮かべ、目を輝かせている。

 

「ねぇ、見た……しず子……?」

「うん、すごかったね……」

「すごかった……! ……かすみん……ニジガク受けようかな……」

 

 前の席にいた中学生らしき少女達もそのように話している。

 

 音乃木坂学院がμ's(ミューズ)のライブで入学希望者を募って廃校をまぬがれたとかいう突拍子のない噂ももしかしたら本当なんじゃないかと思えてくる。

 

 それと……「しず子」と呼ばれた黒髪の中学生はどこかで見た事があるような気もするが……いや、気のせいだな。おそらく他人の空似だろう。

 

 

「優木せつ菜でした! ありがとうございました!!」

 

 そう言って彼女は舞台袖へと()けていった。

 スクールアイドル『優木せつ菜』の初舞台は幸先の良いスタートを切れた。そんな気がした。

 

 

「皆さん、こんにちは~!高坂穂乃果です!! 優木せつ菜ちゃん、すごかったね!最高だったね!私も自分がスクールアイドルだった頃の事を思い出しちゃった!私もせつ菜ちゃんに負けないように会場の皆を盛り上げていくよ~! では、さっそく最初の一曲……」

 

 

 そして、主役へと舞台を明け渡し、ここからは彼女のステージ……

 

 

 こうして今日の虹ヶ咲学園文化祭は大成功でその幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、虹ヶ咲学園のスクールアイドルを見られるとは思ってなかったけど……どうだった、エマ?」

Bravo(ブラーヴォ)E() stato(スタト) un() live(ライブ) molto(モルト) spettacolare(スペッタコラーレ)(すごく見応えのあるライブだったよ)!」

「そっか、じゃあ決まりかな? その前にまずは日本語を完璧にしないとね」

「あっ……ついコーフンしちゃって……。うん!日本語もっと教えてね。アカリちゃん!」

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます!

りなりー以外は今回で全員出せましたね!
りなりーはこの時間軸だと虹ヶ咲学園中等部に所属しているんですが、おそらくクラスに馴染めず、部活にも所属してないと思うので、自由登校の文化祭に好んでくるようなタイプじゃないかなって思って出しませんでした。

それと侑ちゃんと歩夢は講堂のライブ時にクラス展示の喫茶店で働いていて、果林さんもクラス展示のファッションショーに駆り出され、愛さんはバスケに夢中で、せつ菜のライブは見ていなかったって設定です。

最後にエマと話していた「アカリちゃん」に関しては12話あたりで出てくる予定です。
(実は6話でもアカリの名前が出ています。7話でも輝助が彼女の事を「あの人」って心の中で呼んでます)

次回は閑話としてかすみんとしずくの出会いを書こうと思ってます。
実はしずかすの出会いもこの文化祭なのです……!

次回もお楽しみに!!

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