虹の花咲くその日まで   作:T oga

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12話 過去の亡霊

 母が死んだ。自殺した。

 

 何故、死んだ?

 

 母は精神的に弱っていた。俺は母の為と言い訳をして、自分の好きな事だけをして……母から逃げていたんじゃないか?

 

 もし、俺が演劇祭に行かずに家にいれば、こんな事にはならなかったはずだ。

 

 母が弱った時、俺がすべき事は歌でもダンスでも演劇でもなかった。

 

 俺がすべき事は『母に寄り添う事』だったんだ……!

 

 俺が愚かだった……もう間違えない。

 

 歌も、ダンスも、演劇も……すべてやめてやる!

 

 

 そう決意した俺は演劇部を退部したが、部長はなんとか引き留めようと必死だった。

 

「待って、輝助くん!」

「すみません、部長。でもやっぱり……俺はもう演劇部にはいられません」

「でも……輝助くんみたいに才能のある子がいてくれたら、うちの部はもっと……」

「やめましょう。部長」

 

 そんな俺と部長のやり取りを見かねてか、同級生の演劇部員が口を挟む。

 

「いくら実力があっても、やる気がないなら、この部にいる価値がありません」

「それはそうかもしれないけど……」

 

 部長はまだ未練があるらしいが、そんな部長は目にも止めず、彼女は俺にこう挑発した。

 

「あなたがやめたら、将来の演劇部の部長は私になるでしょうね。それを悔しいと思わないようなあなたならもう用はないわ。勝手に辞めなさい」

「ふん、良かったじゃないか、ライバルがいなくなって。じゃあな! ……部長もありがとうございました」

 

 そう言って演劇部の部室から出ていった俺はその時の彼女達の顔を見ようともしなかった。

 

 後から聞かされた話だが、部長は泣いて悲しんだらしい。

 

 

 本当は音楽科もやめたかった。だが、俺は音楽推薦で入学した身だ。転科については思うだけで行動に移す事はなかった。

 

 

 そして、最悪の夏休みが来た。

 

 家の前にはマスコミがおり、夏休み中は一歩も外に出られなかった。

 

 幼馴染である彼方達、近江家の家族がマスコミに激怒したという事も後から聞いた話だ。

 

 なんだかんだで彼方には迷惑を掛けていると……そう思うよ。

 

 照れ臭くて感謝なんて伝えられないけれど……

 

 

 夏休みの後、一度は学校を休もうともしたけれど、結局登校した。

 中間、期末と音楽科一年でトップの成績を納めていたし、やはり音楽科特待生というプライドもある。他人から見たら俺は真面目なんだろうな。

 

 

「聞いた?内村君のお母さんの話……」

「うん。なんか自殺したんだってね」

 

 登校した俺を見てそのような噂話をする生徒が多くいた。

 

「……大丈夫、こーちゃん?」

「注目されるのには慣れてるよ」

「う~ん……彼方ちゃんは~こういう注目のされ方は嫌いだよ~」

 

 一緒に登校してくれた彼方は優しかった。

 

 彼女がいなかったら、もしかしたら登校出来なかったかもしれない……

 

 

 始業式の途中も、終わってからも、俺に対しての噂話はそこかしこから聞こえた。

 

 クラスでも暗い雰囲気が教室内を包み込み、誰も俺に話し掛けてこなかった。

 おそらく、「なんて声を掛ければいいのかわからない」という心中なんだろう。俺も逆の立場だったら、そう思うはずだ。

 

 そのあまり良くない雰囲気は次の日も続いた。

 

 このままは嫌なので、「俺の事は心配しないでくれ」と教室で一言口にはしたのだが、それで雰囲気が変わるはずもなかった。

 

 

 次の日も、また次の日も……

 

 

 その暗い雰囲気はあの日までずっと続いた。

 

 

「音楽科一年、内村輝助君。生徒会室まで来て下さい」

 

 とある日の昼休み中、突然響いた校内放送を聞き、食堂で昼食を食べ終わった俺は(いぶかし)みながらも生徒会室へと向かった。

 

 

 コンコンコン

 

「内村です」

「来たね。開いてるから入って」

 

 俺が生徒会室の扉をノックすると扉の向こうからそんな声が聞こえてきた。

 一応、朝礼などで耳にした事のある声──生徒会長の声だ。

 

「失礼します」

 

 生徒会室に入ると、会長席に彼女はいた。

 

「はじめまして、かな? 内村輝助君。国際交流学科三年、山崎明莉(あかり)だよ。よろしく」

 

 扇子を片手に持ちながら、会長席で足を組み、偉そうに座っている黒髪ショートの彼女はそう名乗る。

 

「……一応、知ってますよ。この学園の生徒会長として全校生徒の前で何度か挨拶してるじゃないですか」

「あっ、全体朝礼なんか聞いてる人いるんだ? 私が一年生の頃は、聞いた話も右から左だったから、他の一年も皆、そんなもんだと思ってた」

 

 扇子を開いて、口を隠しながら「ワハハハ」と笑う彼女に対し、俺は本題を問い詰める。

 

「それで、僕はなんで呼び出されたんでしょう?」

「あぁ、そうだった。そうだったね。忘れていたよ」

 

 そう笑う彼女だが、その言葉は嘘だと思う。

 絶対、忘れてなどいないだろう。

 

 

 ひとしきり笑った後、会長は急に笑顔を殺し、怖いくらいの真顔でそう言った。

 

「今の学園の雰囲気、察してるよね?」

 

 ……っ!?

 

「二学期に入ってから、学園内では君の話題で持ちきりだよ。君、人気者だね!」

 

 …………

 

「お母さんが自殺って、そんな経験を同じ学園の生徒がしたなんて、驚きだよね! そりゃ噂にもなるか~!」

 

 …………何が……

 

「それにそのお母さんがあの有名な竹中y……」

「何が言いたいんですか!?」

 

 見え透いた挑発なのは分かっていたが、今の俺にはそれを無視出来る心の余裕もなかった。

 

「あんた、何が言いたいんだ!? いくら先輩で生徒会長だからって、言って良い事と悪い事があるでしょう!?」

「その通りだ。言い過ぎたよ、ごめん」

 

 言葉では謝っているが、心から謝罪しているようには感じない。心のこもっていない言葉だ。

 

「もういいです。 ……それで、僕を呼び出した用件はなんですか?」

「私が目指しているのは毎日楽しく過ごせる学園なんだ。でもこのままだと学園生活が楽しくないのさ、君のせいでね」

「知りませんよ。皆が勝手に噂してるだけです。気にするなって言っても聞かない奴らばかりですし」

「君はなんとかしようとする気はないのかい?」

「……言いましたよ。クラスメイトには「俺の事は心配しないでくれ」って……それでも変わらないんだから仕方ないでしょう?」

 

 俺だって、最近の学園内の雰囲気が暗く重いまま変わらないのは嫌だ……

 

「じゃあ、話を変えようか。君は演劇部をやめたらしいね。あっ、なんで知っているかって? 私が演劇部の部長と友達だからさ。と、そんな事は置いといて……」

 

 すぐに質問をせず、周りくどく話すのが会長の癖のようだ。

 

「なんで、君は演劇部をやめたんだい? 調べたところによると、今までやっていた習い事もすべてやめているみたいだけれど?」

 

 「なんであなたに答えなきゃいけないんだ。俺の自由だろ」とそう言おうとしたが……やめた。

 話さなければ、おそらくこの状況から解放されない。

 

「……母が死んだのは、俺のせいなんです。俺が演劇祭に行っていなければ、母は自殺しなかったんですよ……」

「母に寄り添えば良かったって、そう思ってるってこと?」

 

 妙に察しがいい。そのとおりだ。

 

「……はい」

 

 俺がそう頷くと、会長はニヤリと笑った。

 

「ふーん、そっか……。寄り添えなかったから……ね。じゃあ、君にリベンジの機会を与えてあげる」

「は?」

 

 ……リベンジの機会? 何を言っているんだ?

 

 そう俺が疑問に思っていると、会長は俺を指さし、この言い放った。

 

「内村輝助君。君を後期生徒会の会長に任命します!」

 

 ……はぁ?

 

 

 




読んで頂いてありがとうございます!!

あともう少しだけ過去編続きますが、お付き合い下さい。

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