原案ではエマが輝助の家にホームステイしてくるみたいな話も予定していたのですが……ただでさえ遅れているアニガサキ本編開始がさらに遅くなると思ったのでやめました。
今回はいつも以上に会話劇みたいな感じになってます。
「え……なんで、先輩が?」
理事長に呼ばれて理事長室に入ると、そこには元生徒会長の山崎明莉がいた。
「内村先輩?彼女は……?」
驚く俺の顔を見て、隣にいる中川がそう聞いてくる。「あぁ、彼女は……」と説明する前にこの人は自己紹介をした。
「私は山崎明莉。ニジガクのOGで元生徒会長だよ。そこにいる輝助君の前任さ。今はスイス大使館の職員として働かせてもらっているよ」
就職したとは聞いていたが、まさかスイス大使館の職員だとは……
彼女の母が江東区長だから、彼女も政治家になったんだと勝手に思っていたが、どうやら違ったらしい。
「内村先輩の前の生徒会長さんでしたか! お初にお目にかかります。現在の2020年度後期生徒会会長を務めさせてもらっております普通科一年、中川菜々です」
「ふーん。「な」が多いね」
「たまに言われます」
彼女は中川をジーっと見つめる。
「……なんでしょう?」
「……いや、何でもないよ?」
この人のする事は良くわからない。
「それで? なんで先輩がここにいるんですか?」
俺がそう聞くと、先輩ではなく理事長がこう答えた。
「私があなた達を呼んだ理由とも繋がるんだけど、明莉ちゃんの働いているスイス大使館で保護してる娘が居てね。その娘を来年からニジガクに入学させようと思うのよ。入学……いや、編入かしら?」
「編入……ってことは今はもう高校生にあたる年齢なんですね?」
「えぇ、君と同じよ」
来年編入しても三年からか……。一年だけ通わせる意味がわからない。
そう思っていたのは俺だけではなかったようで、中川が理事長にこう質問する。
「なんで、その方を編入させるんですか?」
「あぁ、それはね……」
理事長が理由を説明しようとした時……
「……あっ!? 分かった! 君、優木せつ菜でしょ?」
「「……っ!?」」
先輩がいきなり声をあげて、中川を指差した。
その言葉の内容に俺と中川は驚愕する。
「えっ……!? いや、あの……わ、私はせせせ……せつ菜さんでは、ないですよ?」
中川が誤魔化そうとするが……無理そうだ。
俺はため息をついた後、大人しくこう答えた。
「……そうです。彼女が優木せつ菜です。中川、もう無理だ。諦めろ」
「うう……バレてしまいました……」
「やっぱりそうだと思ったよ!一目見た時からどっかで見た顔だなって思ってたんだ。君を見たのは文化祭のライブだったんだね」
どうやら先輩はせつ菜のライブを見にきていたらしい。
「あら? あなたがニジガクのスクールアイドルの優木せつ菜さんだったの? 眼鏡だし、髪型も違うし、全然分からなかったわ」
理事長の反応が一般的な反応だろうが、先輩のように注意深く観察すれば、やっぱりバレる可能性はあるんだな。
「あぁ、話の腰を折ってごめんね? エマを編入させる理由だっけ?」
「……エマ?」
聞きなれない単語で思わず首を傾げた俺に理事長がこう答えた。
「さっき言った編入生の名前よ。エマ・ヴェルデちゃんって言うの」
「ヴェルデさんと言うのですね? スイスの方なんですか?」
「勿論、スイス人だよ」
そりゃそうだ。スイス大使館で保護しているなら、そのヴェルデさんはスイスから来たのだろう。大使館に拾われた理由は深く詮索しない方が良さそうだ。気にはなるがな……
先輩は中川の質問に答えた後、こう続ける。
「今、私がエマに日本語を教えているんだ。もうそろそろほぼ完璧に日本語が話せるようになる」
さすがは先輩だ。「話せるようになる」と自信満々に言いきった。
先輩の兄は中学校の国語教師をしていると聞いた事がある。妹である先輩もやはり教えるのが上手いのだろう。俺も生徒会長の引き継ぎの時、とても分かりやすく教えてもらった覚えがある。
……と、ここまで話して今度は俺が話の腰を折っていた事に気付いた。
「すいません。今度は俺が話の腰を折りましたね。それで、そのヴェルデさんを編入させる理由は? たった一年だけ虹ヶ咲に通わせるメリットがわからないんですけど……」
俺がそう聞くと、先輩が中川を指差してこう言った。
「その理由は君だよ。優木せつ菜」
「はい?」
「あぁ……なるほど」
中川が首を傾げる。だが、俺はピンと来た。
「エマちゃんわね……」
「日本のスクールアイドルに憧れているんですね?」
理事長には悪いがここで答え合わせをさせて欲しいので、俺はそう口を開いた。
「さすがは輝助君。私の弟子だね」
「先輩の弟子になった覚えはないですよ」
どうやら、俺の仮説は当たりのようだ。
以前、中川ボッチ説を外してしまった経験もあるため、ほんの少しだけ不安もあったが、やはり正解だった。
まぁ、理事長の言葉を遮ってまで検討違いのことを口にしたら、ただの恥ずかしい男でしかないのは分かっているし、今回はほぼ合っているだろうと確信しての言葉だった。
「……と、いう事なの」
「分かってもらえたかな?」
詳しい話を先輩と理事長から聞いたが、ヴェルデさんはスイスにいた時に日本のスクールアイドルの動画を見て、それからスクールアイドルに憧れを抱いたらしい。
それで自分も高校生になって日本の高校に通えばスクールアイドルになれると思い、何も考えずに日本までやってきて……そんな彼女をスイス大使館は保護したのだそうだ。
「……すごい行動力ですね!」
「本当に行動力の化身だな……それとも馬鹿か、天然か……」
「強いていうなら、天然……かな?」
なるほど、先輩に好かれる訳だ。
先輩は個性の強い人物を好む。俺も先輩からしてみたら個性の強い男らしい。後、せつ菜の事も気にいっている様子だしな……
「虹ヶ咲の国際交流学科なら、編入留学生としてヴェルデさんを迎え入れる事が出来る。ただ、虹ヶ咲には今までスクールアイドルはいなかった。そんな時に現れたのが……こいつってことですね」
俺はそう確認しながら中川を指差す。
「そういうこと。君が文化祭でライブをしたおかげで、私もエマのニジガク編入を押し進められたよ。ありがとう」
「君」と呼んだ相手を指差すのは先輩の癖だ。
「……あの、さっきから山崎先輩も内村先輩も、私を指差すのやめてもらっていいですか……?」
「ん? 俺はさっきの一回しかしてないぞ?」
「私も三回しかしてないが?」
「そういうことではなくてですね……」
まぁ、とりあえず……
俺と先輩、中川のやり取りに笑顔を見せていた理事長に対して、俺はこう言う。
「話は分かりました。ヴェルデさんの四月からの編入。生徒会でも出来る限りサポートします」
「うん。よろしくね」
「会長は内村先輩ではなくて、私なんですけど……」
中川は全く別の意味で不満らしい。
読んで頂いてありがとうございます!
次回はもう一人のオリキャラが帰ってきます!お楽しみに!!