それでは、お楽しみ下さい!!
「内村先輩!今日は踊りの練習付き合ってもらえますか!?」
理事長や先輩と編入生迎え入れについての話を進めていた二学期の終わり頃、生徒会の仕事を終えた中川が同じく仕事を終えた俺にこう言った。
勿論、生徒会室に俺と中川以外誰もいないタイミングを狙っての発言だ。
「あぁ……ダンス練習なぁ……見てやりたいのはやまやまなんだが……」
俺は生徒会室の窓から外を眺める。
「屋上……ぜってぇ寒いだろ……」
今までは屋上で踊りの練習をしていたのだが、冬になってからはあまり練習出来ていない。
いや、嘘を言った。中川は屋上で自主練をしているし、歌の練習については俺も一緒に録音室へ行って、彼女の歌を聞いている。でもCHASEに関しては正直もう練習する必要もないくらい完璧なんだよな……アドバイスのしようがない。
こういう時、部室があると便利なのかもしれないが、まだスクールアイドル同好会のメンバーは集まる気配もないので部室など分け与えられるはずもない。
一応、来年からは一人、編入生のエマ・ヴェルデさんが入部する事になってはいるが、そもそもが彼女達以外のメンバーがいないと同好会自体設立出来ない。
俺を含めてもせめてあと二人……どうしたものか……
「私は寒くても問題ありませんよ?」
「俺がいやなんだよ……」
俺は寒がりなのだ。外での練習だけはなんとしても避けたい。
「じゃあ、また一人で自主練ですか? 内村先輩が見て下さらないと、どこを変えれば良くなるかとか分かりづらいんですけど……」
一応、中川が動画に取った踊りを確認したりはしているが、やはり後でもらうアドバイスよりもその場でもらえるアドバイスのが修正もしやすいし、彼女の言い分も良く分かる。
本当にどうしたものか……
「うーん……」
俺が悩んでいると、一人の女性が生徒会室の扉を開き、こう声を掛けてきた。
「それでは
「「……!?」」
その声の主は俺も中川も良く知る人物だ。
「「神枝先輩!?」」
神枝元副会長。彼女は二学期の途中まで神枝家の都合で海外──中国へと行っており、帰ってきたのは文化祭の数日後くらいの事だ。
今は東大合格へ向けての受験勉強で忙しかったはずだが……
「受験勉強は大丈夫なんですか?」
「たまには息抜きも必要ですわ」
「その大事な息抜きのお時間を私に使ってもらうのは……」
中川はそう言うが、神枝先輩はどうやら張り切っているようで……
「
自信満々にそう言った。
ちなみに
「そういう事なら……お願いします!!」
「はい。では屋上へ参りましょうか? 生徒会のお仕事は終わったのですよね?」
「はい!早速準備してきます!」
そう言って中川は先に屋上へ向かっていった。
「すみません神枝先輩」
「可愛い後輩の為なんですから、会長……ではなかったですね。内村副会長も彼女を困らせてはいけませんよ?」
「まぁ、見てて飽きないやつですけどね。寒いのは勘弁です」
「ふふふ、変わりませんね。内村副会長も」
「そう簡単に人は変わりませんよ。……それでは今日は中川の事をお願いします」
「生徒会室の戸締まりもお任せ下さい」
「ありがとうございます」
俺はそう言って、生徒会室の鍵を神枝先輩に渡した後、家へと帰る事にした。
先ほども言ったが、俺は寒がりだ。なので冬は自転車にも乗りたくない。風が冷たいからな。
その為、俺の冬の通学手段は電車になる。
虹ヶ咲学園駅から一駅だけ電車に乗って東雲駅で降車。ニット帽とマフラー、イヤーマフ、手袋など十分な寒さ対策をしてから駅構内を出て、少し歩くと、耳馴染みのある二つの声が背中から聞こえてきた。
「あれ?こーちゃんもう帰り?」
「輝助さん、おかえりなさい!」
「おう、彼方と遥も今帰りか…………さむっ」
二人も帰宅途中、ばったり会ったらしい。
俺達はそのまま家へと向かう。
「そっか~せつ菜ちゃん。頑張ってるんだね~」
「でも、輝助さん。マネージャーならちゃんと見てあげないとダメじゃないですか!?」
「部室でもあればいいんだけどな。この時期に屋上で練習はきついだろ……」
「一番きついのはせつ菜さん本人なんですよ!」
「まぁ、そうだが……」
珍しく早く帰宅しているため、理由を問われた俺は二人に先ほどの
すると、遥に怒られてしまった。まぁ遥の言う事が正しいから、何の反論も出来ない。
「でも、こーちゃんの寒がりも筋金入りだから仕方ないよね~」
「そうだよな。さすが彼方」
「えへへ~もっと褒めていいんだよ~」
「はいはい。彼方はいつも綺麗で可愛いよ」
「えへへへ~」
そんなやり取りをしながら歩いていると、すぐに家に辿り着いた。
「じゃあ、彼方ちゃん着替えたらすぐバイト行っちゃうから。遥ちゃんお留守番よろしくね」
「うん。任せて、お姉ちゃん!」
「彼方バイト頑張れよ。遥もまたな」
「うん。頑張るよ~」
「あっ、輝助さん!ちょっといいですか?」
家の中に入ろうとした俺を遥が止める。
彼方はそのまま家へと入っていった。
「どうしたんだ、遥?」
「あの、最近のお姉ちゃんで気になる事とかありますか?」
「ん?うーん……」
少し考えて見るが、思い当たる節はない。
「特にないぞ。いつも通りじゃないか?」
「……最近のお姉ちゃん。たまにボーッとしてる事があるんです。今朝も朝御飯作ってる時に少し玉子焼きを焦がしちゃって……」
「あの彼方が……珍しいな」
彼方が料理で失敗するなんて……これはただ事ではなさそうだ。
「お姉ちゃんがバイトに行った後、少しお話出来ませんか?」
「わかった。じゃあ30分後くらいに家に行くよ」
「ありがとうございます!」
そうして一度家に戻り、制服から私服に着替えた後、パパっと宿題を終わらせた俺は彼方と遥の家に上がった。
「お邪魔しまーす。久しぶりだな、この家に上がるの。おばさんは仕事か?」
「はい。今は私一人です」
「一人の時に男を家に上げるのはやめた方がいいと思うぞ」
「輝助さんはそんな人じゃないでしょう? まぁ私じゃなくてお姉ちゃんと二人きりだったら少し心配になりますけど……」
あー、確かに彼方と部屋で二人きりは色々緊張しそうだ。
あと遥は俺の事を信頼しているようだから、その信頼を壊すのはやめた方がいいな。
……ん? 中川? ……あいつと部屋で二人きりになったとしても俺は多分一切緊張しないだろうな。
生徒会室で二人きりでいる事は多いが、そういう事は考えた事もない。
中川はなんていうか……遥よりも幼いイメージすらある。本人に言ったら怒られそうだけどな。
「それで? 彼方の様子がおかしくなったのはいつ頃か、とか分かるか?」
居間に上がった俺は遥が出してくれたあったかい緑茶をすすりながらそう質問する。
「えっと……多分、ですけど虹ヶ咲の文化祭に行った後からだったと思います」
文化祭か。だとするとそこで何かを見てから迷ってる事がある。とかだろうか?
文化祭での彼方を思い出し、もしかしたら……と予想をつけた俺は遥にこう聞いてみた。
「じゃあ遥は文化祭で何か気に入った催しとかあったか?」
「なんで、私の話なんですか?」
「姉妹だから考えが似るかもって思ってな」
「私とお姉ちゃんってあんまり似てないですよ」
「似てるよ。家族だから気付かないだけじゃないか?」
特に自分で全部なんとかしなきゃいけないと思い込んでるところとかな。
「そうなんですかね?」
「そうだよ」
遥は少し考えた後、こう答えた。
「うーん。私はやっぱり穂乃果さんのライブですかね!それとせつ菜さんのライブも良かったです!……あっ!?」
予想通りの答えの後、どうやら遥は気付いたようだ。
「そういえばお姉ちゃん。せつ菜さんのライブ見てすごく驚いてた気がします!」
「俺もあの時、そう思ったんだ。今までの彼方じゃ想像も出来ないくらい目が輝いてた」
「もしかして、お姉ちゃん……」
「あぁ……」
俺と遥の意見は一致したらしい。
そう。おそらく彼方はスクールアイドルをやりたがってる。
次回は彼方ちゃん回です!お楽しみに!!